蝉がうるさい。
照りつける太陽に生温い風ときては、八つ時とはいえお茶を煎れる気にもならなかった。ただでさえ小言の減らない大男が屋敷内にいるので、いくら未来の己自身とはいえ暑苦しいことには変わりがないのだ。
涼を求めて冷凍庫を開けると、買った覚えのない氷菓の数々が詰まっていた。食材の冷凍保存パックの隙間にみっちりと。こんなことをするのは決まって食客である姉貴分である。
氷を入れて麦茶でもと思っていたが、ありがたく頂戴しよう。適当に馴染みのものをひとつを引っ張り出した。
ほぼ一人のようなものだとエアコンは休止中。せめてと風通りのいい場所を求め、縁側に落ち着いた。手にひやりと冷たかった袋の端も、がさがさと持ち歩く間にすっかり人肌だ。
待ってましたと開封すると違和感にぶち当たった。国民的ガリガリ食感の棒アイスソーダ味を掴んできたはずなのだが、持ち手が二本ある。パッケージを見直せばダブルなんちゃらという。思い返せば幼い頃に大事なひとたちと一緒に食べたような気もする。なによりこのままでは食べづらいこと甚だしい。
そこでふと思い付いた。昼から姿は見えないが、敷地内にはいるはずだ。
大きく息を吸い込んだ。
「アーチャー! おーい、アーチャー!!」
しばらくする前に、ドスドスと廊下に足音を派手に響かせてサーヴァントがやってきた。そんなに踏みつけたら床板が抜けそうだ。抜けたところできれいに直すのだろうから関知しないことにする。
「ひとを軽々しく呼びつけるとは偉くなったものだな衛宮士郎。そのお粗末な頭はついに中身まで乾上がったのかそのまま枯れ果てろ。ご近所のご迷惑になる前にパスだってあっただろうが」
立て板に水のそれ一息かというご挨拶には慣れたものだが、確かに念話という手があったか。しかして高い気温は思考を鈍らせるものだし、その役割ともいえる名を自分が呼べるのは嫌いではなかった。我慢してもらおう。
「すぐに呼びたかったんだ。ほら、これ」
パッケージから取り出したアイスを認めて、アーチャーは目を見開いた。
またこんなことで云々、と追加がくる前に、ぽこりと割って半分を差し出す。眉間にシワを増やしながらも屈んで素直に受け取ってくれた。ポタリと溶け出した滴が褐色の指を伝う。床に落ちると面倒だ。
「あぃたっ」
思わず手首をとって砂糖水を舐めたら上から平手が落ちてきた。足が飛んでこなかっただけましかもしれない。それにしても舌を噛んだらどうしてくれるのか。
「悪かったよ。溶ける前に来てくれてよかった」
「ふん。……これは先日、藤ねえが持ち込んだものだろう。大丈夫なんだろうな」
氷が緩み始めているとはいえ、てっぺんを口に含んでから言うことだろうか。虎の威を借るなんとやらというよりは虎の威は英霊になり果てても恐ろしいということか。
「あー……夕飯に冷凍してある桃でなんか作るさ。……っとと」
温い風に身を崩す、薄青い氷をあわててかじりとった。シャリシャリした食感と行き過ぎた冷たさがキュッ、と喉の奥を占めていく。追って甘さと親しんだ香料が舌にかえってきた。ごくりと飲み込んで隣を見上げると、大きな手には平たい棒が一本あるきりだった。
手の中の同じそれをぎゅっと握って、しゃくしゃくと残りをたいらげる。
太陽の照り返しがじりじりと肌を焼くから、このあとは庭で打ち水にでも興じようか。
英霊だろうと、やっぱり夏は暑いものなのだから。