前略
衛宮 切嗣 様
あなたにちゃんとした手紙を書いた覚えがないので、おそらく最初で最後の便りをいたします。
何を書いたら良いかも分からないので、取り急ぎ前文ご容赦願います。
あと、文体がおかしいのも、ご容赦ください。
届ける先もアテもないのだけれど、何かやり残したことがある気がして筆をとっています。
届かなくてもいいから、いや届かないと分かっているからこそ謝っておきたかった。
あなたが眠る場所に、ついぞ訪れることがなくてごめんなさい。
不義理な息子でごめんなさい。
あなたとあなたの夢を追い続けて無我夢中でここまで来たのだけれど、そういえばオレは何故あなたがあの夢を志すようになったのか、聞いたことがなかった。それどころか、あなた自身のことを驚くほど何も知らなかった。
あの頃は大きく感じていたあなたの背中も、自分が成長してから遺された浴衣を見て本当はずいぶんと華奢な人だったのだと知ったし、あなたの真似事をするようになってからは、あなたが遺した「エミヤ」の異名に触れる機会も増えた。
なあ、じいさん。
オレが、届くはずのない叶うはずのない理想を、あなたとは別の方法で形にしてしまったと知ったらあなたはオレを叱るだろうか?
思えばオレは、あなたがあの日オレに言ったことをそのまま踏襲していったに過ぎないのかもしれない。
あなたが期間限定の夢だと、オトナになればそんなことは言えなくなってしまうと告げたことが、幼いオレにはどうしても受け入れられなかったけれど。オトナに近づくにつれて現実はその通りでしかないことを骨身に染みて実感しながら、それでもただひたすら意地と虚勢を張り続けることで今までやってきた。
今となってはもう、あなたの言葉を否定したくて意地を張り続けたのか、あなたの言葉をそのままなぞるだけの過程だったのかすらも分からない。
じいさん。
叶うことならオレは、もう一度だけで良い。あなたと話がしたかった。
あなたの夢とあなたの人生を、あなたの口から聞いてみたかった。
自分の歳が、 あなたの年齢に近づいていけばいくほど、そんな感傷を抱くようになった。
オレもあなたと同じように、大事なものや大切な人ばかり傷つけて、数多くのものを取りこぼしてきた。理想だけでは誰をも救えず、間違いや失敗ばかりを積み重ねてきたけれど。
唯一、あなたとの約束だけは守って来れたのだと信じたい。
…そんな、ろくでもないお互いの人生の話を、普通の父子みたいに酒を飲みながらあなたと語らってみたかったんだ。
きっとアンタなら、オレがやってきたことに後悔はしていないと強がりを言ったって、笑わないでいてくれるだろう?
…あがないきれない罪を抱えた身で、なおも人の情にすがろうだなんてあまりにも厚顔過ぎるんだが、便宜上誰かしらに手紙を書かないと聖職者や刑務官達が困るらしいんだ。
本当なら、生きている人も亡くなった人も詫びなければいけない人は大勢いるのだけれど。オレは産んでくれた人達のことをもう覚えていないから。オレの原点といったら切嗣になってしまった。
こんな手紙を送られても迷惑でしかないと重々承知しているが、まあ、貧乏くじだと思って諦めてくれると助かる。
すまない、オレの最期のワガママだ。
ああ、取り止めのないことを書き連ねてしまったな。紙面も尽きてきたし、もうこのくらいにしておこうと思う。日本語を書くのは久しぶりだから、文章が読みにくかったり字が間違っていたりしたら申し訳ない。いつかの国語の宿題のように、ここが間違っていると赤ペンで訂正しておいてくれ。…あの時は二人して間違えていて、藤ねえに思いっきりバカにされたけどな。
最後になるが、あの地獄から助けてくれて、あの家に引き取ってくれてありがとう。
何もない子供に生きる指針をくれて、夢を任せてくれてありがとう。
全てが、感謝してもしきれない。
ここだけの話、いつかあなたのことをちゃんと父と呼べたら良いと思っていたんだ。思春期で気恥ずかしく思っている間に、永遠に機会を失ってしまったけれど。
では、さようなら、父さん。
今までどうもありがとう。
あなたの魂が安らかであることをいつまでも祈っているよ。
草々
エミヤシロウ
20XX.xx.xx ◼︎◼︎の仮拘置所にて
辛くて悲しいけれど、好きです。