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Amen/Novel by 妹尾アキラ

Amen

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UBW某エンドの弓兵

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今更ながら言い訳がましいが、山門を横から掠め通り、小僧の前に降り立ったときも、助ける気などさらさらなかった。


この身が顕現し、あの子どもの姿を目にした瞬間から、自身に沸き起こる殺意や怨念を身の裡から漏らさぬよう抑えきれた試しがない。けれども生憎ながら単なる感情では行動に至るような動機にならず、サーヴァントという立場上、不満しかなくとも共闘とやらに助力する義務がある。
常日頃、殺せる機会を今か今かと待ち望んではいたが、常に放つだけの状態に引き絞った弓弦から、いざ指を離す瞬間というのは如何様なものなのだろう。


この時代のこの地に顕れたというだけで、正しく生前の未練と言える心残りは、もう既に果たされた後だった。

ーー彼女にかえせて良かった。
悔悟とともにチリと胸を焼く愛おしさのようなものを、自身の浅ましさに苦笑しつつも奥の方にしまい込む。
記憶も出来ぬような一分霊のこんな感傷、まさしく彼女の言うところの『心の贅肉』なのだろう。
苦さと甘さが同居する、その感情を名残惜しげにひと撫ですると、正体不明の英霊としての仮面を纏い直した。

もとより。
もとよりこの身に、聖杯にかける望みはない。
己にあるのはただの薄汚い願望だけだ。


状況として己が出向く必要があっただけで、そうでもなければわざわざこの男の救援になど向かうものか。
神殿じみた敵の本拠地で策も無しにやり合うなど愚かの極みであるし、そもそも相手や敵地の情報が不足している。柳洞寺に二騎のサーヴァント ーーそのうちの一騎はキャスターのサーヴァントの手駒だーー が陣を構えていて、地脈を利用して力を蓄えている。それが発覚しただけでも情報収集の成果としては重畳と言えよう。
頭に血が上った小僧には、そんな事すらわからないようであったけれど。

キャスターに襲われたという危機において、命は助けた。
その時はそれが最善だったからだ。
せっかく最優と言われるセイバーが、たとえこの男の所為で戦力にはならずとも我々と敵対しないというのだ、それを利用しない手はない。

だが今ここで、憤りと視野狭窄のままにキャスターを追おうとしているこの男を看過すれば、むざむざキャスターの陣営に無傷でセイバーを与えるようなものだ。
この男が感情で「そんなことは許せない」と思ってしまえば、こいつは自身が死ぬまで間違いに気付かず、止まるようなことはないのだから。


指を掛けていた引き金に力を込めるような、張り詰めた弦から指を離すような、そんな感情的な空白。
その時になったら何を思うか、なんて、ずっと考えてはいたけれど。
いざその時になってみても、想像したような歓喜や嫌悪の感情が、腹の底から湧き上がってきたりはしなかった。
いつもと変わらぬ平坦で諦めたような心持ちで、剣を持った手を振り仰ぐ。


ーーーそうで、あるのならば。


唐突に下りた執行許可とともに、使い慣れた短刀を勢いよく振り下ろした。


……………なんだ、存外に呆気ない。




バサリと一太刀に斬り落とした男に、何の感慨も思い浮かばなかった。
切願するほどまでに、崩れゆく己の心の拠り所にするまでに、殺したかった相手であるはずなのに。

それもそうか。
これはただの敗残処理で、助からない自分を何の感情もなく切り捨てるなんてこと、生前死後と幾度繰り返したかわからない。

切望した奇跡なんてものは、果たしてみれば結局はいつも通りの殺戮や殲滅と同じことだったらしい。
笑い話だ。死ぬまで諦めることをしなかったことだけがすべてだった男は、その傲慢の代償に、死んでからずっと諦め続けている。


あと数秒で事切れる死体が仰向けに曇天を見上げる姿を一瞥し、興味を失ったかのようにくるりと踵を返した。

こんなところで拘ってはいられない。
自ら契約を破棄した主人である少女の、その最期をほんの少しでもながらえさせるために、死にに行かねば。
地下の断罪場へと足を踏み出す前に、ふと思い付き、瞑目して小さく独り言つ。


「ーーーかくあれかし」

己は信者ではないけれど。
ここが教会であるのなら、今この言葉こそ相応だろう。

灰は灰に、塵は塵に。
不可能を可能には出来ないが、せめて。己が為した罪の分だけの贖いを、慈悲を、彼女に。


ーーーまことに、そうでありますように。


この地に残るだろう二人分の屍のために祈りを捧げ、身にまとわりつく監視を振り払うように地面を蹴った。

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