mistake(後篇)
何年か振りに東京に行きました。
久々のスパーク参加は楽しかったですv
スペース覗いてくださった皆様、ありがとうございます。
さて、今回コピーで先に出したmistakeの後篇を上げさせて頂きました。
楽しんでもらえたら嬉しいです。
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目を覚ました時は、もう部屋の中は明るい陽に照らされていた。
枕元に置いた時計をチラリと見れば、もう朝を通り越して昼になっていた。
初めから学校には行く気はなかったが、こんなに眠ったのは久しぶりだ。
が、これだけ寝たというのに、まだ眠気は残っていて、身体が重く怠い。
ま、しょーがないか。それだけ魔力を使ったのだ。
だいたい、いつ意識をなくしたのかさえも覚えていない。
急激に魔力を持っていかれ、そのまま地下室で眠ってしまったのなら、このベッドまで運んでくれたのはアーチャーしかいない。
さすがに着替えまではできなかったのか、昨日着ていた服のままだが。
着替えなんかされてたら、勿論殴る。
『起きたか凛?食事を持っていくからそのままベッドにいろ』
言われなくてもそうする。
もう身体から力が抜けまくって動くのも面倒なほどだ。
凛は、はあ~と息を吐き出して枕に埋もれる。
しばらくしてドアが開き、アーチャーが食事をのせたワゴンを押して入ってきた。
その姿は召喚してからずっと見慣れたもので。
「なによ。もう戻ったの?それとも戻したの?」
「戻った」
「あっそ。時間はどのくらい?」
「一時間弱というところか」
たったそれだけ!?
凛は不満の色を浮かべた。
起き上るのもおっくうなくらい魔力を失ったのに、たったそれだけしか大人の身体になれないとは。
アーチャーは苦笑した。
「ガッカリすることはない。言っただろう。昨夜の君は魔力が万全ではなかった。そのせいで一気に力を消耗し意識を失ったのだ」
「じゃあ、魔力が万全だったらもっと長く大きなままでいられるってことね」
「それでも半日持つかどうかというぐらいだがね」
「それで十分よ。要はバーサーカーを倒す時間さえあればいいんだから」
しかし…と凛はベッド上で食事ができるように準備してくれる小さなサーヴァントを見つめた。
いきなり魔力を奪われ朦朧としかけたが、大人の姿になったアーチャーを凛はしっかりと記憶している。
陣の中に立つアーチャーの身体が徐々に成長していく様子は圧巻だった。
まさか、あんなに背が高くなるとは思わなかった。
自分を基準にしてみれば、おそらく百八十五──いや、もう二~三センチは高いか。
幸いというか、着てるものも身体にあわせて伸びてというか大きくなってくれたので、途中心配した裸体を目前にするということはなかった。
それにしても、あんなに変わるなんて詐欺じゃないかと凛は思う。
小さく華奢だった身体が、鍛え上げられた筋肉がはっきり見て取れる身体に変わったのだから。
バランスのとれた美しい身体だったと思う。
あんなの見たことがない。
アスリートの身体とも違う。
今は幼い顔立ちだが、成長するとあんなに格好よくイケメンになるんだと、凛はちょっと嬉しくなる。
力のあるサーヴァントは欲しいが、それが顔もいいなら文句はない。
けど、やっぱりあの顔はどこか見覚えがある気がする。誰だろうか。
う~ん?と首を傾げかけた凛だったが、空腹には勝てず、まずは考えるより目の前の料理を平らげようとフォークとナイフを手に取った。
朝食兼用の昼食ということで、目玉焼きと照り焼きチキン、和風サラダにコンソメスープ、ロールパンが目の前の台にのせられていた。
いつもの紅茶もちゃんと用意されている。
召喚に失敗したと一時落ち込みはしたが、これはこれで当たりを引いたかも、と凛は思う。
とはいえ、本来サーヴァントは戦って聖杯を勝ち取るための存在なので何か違うと思わないでもないが。
金髪の小柄な少女が、ふと視線を上げ振り返った。
まるでその視線の先に何かがあるとでも言うように眉根を寄せる。
だが、彼女は今マスターである少年の側を離れるつもりはないのか、はたまた相手に攻撃の意志を感じなかったのか、つっと視線を外し小柄な少年の後に続いて家の門をくぐっていった。
セイバーが感じ取れたのはこちらを見る相手の気配であるが、そこから影すら見えない遠いタワーマンションの屋上に立つ白髪の男は、彼女の表情すらはっきりとその目に捉えていた。
「よお」
ふいに、屋上の縁に立つ男の背後に青い人影が姿を現した。
「わかりやすく気配だけで呼んでくれたが、てめえ誰だ?」
白髪の男は、フッと笑って振り返った。
「のこのこやってくるのはおまえくらいだろうとは思ったが」
ほんとに行動がわかりやすいな、と男はククッと喉で笑った。
「んだと、こら!?」
馬鹿にされたと感じた男の赤い瞳が相手を睨みつける。
白髪に鋼色の瞳と赤い外套は同じであるのに、その姿が前に見た相手と全く違った。
いったいなんだ?
「てめえ、あん時戦ったアーチャーだな?気配は一緒だが、なんで、でかくなってやがる?」
「答える必要はないな。小さかろうが、大きくなろうが、やることは同じだろう。違うか、ランサー」
ランサーは赤い瞳を大きく見開き、だよなと笑った。
その手には既に赤い槍が握られている。
そしてアーチャーの両の手には白と黒の剣が現れた。
「ほんと、変わったアーチャーだぜ。接近戦を好むか」
アーチャーはフッと笑う。
「嫌いではないな。だが、弓を使わないわけでもない。戦い方にはいろいろ理由というものがある」
「ほお?その理由ってやつを聞かせてもらいてえもんだな」
「ならば頭を使え、ランサー」
「ああ?」
音もなくアーチャーの姿は赤い残像を残して移動した。
ガキッと金属同士がぶち当たる音と白い光が空間を切り裂く。
誰もいない高層マンションの屋上──人の目ではとらえきれない速さで赤と青の光が離れては交わる動きを繰り返す。
ランサーの赤い槍がアーチャーの剣を破壊するが、すぐに同じ剣が再生されるのは以前の戦いと同じ。
「てめえ、マジでどこの英霊だ!弓兵でてめえのような奴ぁ、記憶にねえぞ!」
「私の正体なんぞ、知ってどうする?こうして戦うことが貴様の望みだろう」
ランサーは目を瞬かせるとニヤリと笑った。
「違いねえ」
召喚されても、ランサー自身に聖杯などなんの興味もなかった。
あるのは、より強い相手と戦うこと。
勝敗にも興味はない。
負けるより勝った方がいいが、負けてもまた次に召喚される時を待てばいい。
とはいえ、今の自分は今だけなので、早々に楽しみを奪われるのは御免こうむりたいが。
楽しみは長ければ長いほどいい。
相手は弓兵だが、こいつの戦い方は嫌いではない。
どっちかといえば好みだ。
令呪のせいで本気は出せないが、それでも気を抜く隙を与えないこいつの戦い方は面白い。
──アーチャー、もういいわよ!おびき出したから来て!
了解した、と凛に応えるとアーチャーは、ランサーの攻撃を避けるように見せて屋上の縁から下へ飛び降りた。
「逃がすかよ!」
ランサーは屋上の縁から消えたアーチャーの後を追う。
アーチャーは隣のビルの屋上に足がつくと同時に軽く蹴って別のビルに飛び移り、そして前面がガラス張りのビジネスビルの屋上に着地。そのまま屋上を駆け抜け、霊体化して扉を通り抜けた。
「何してんだ、てめえ!」
アーチャーの赤い姿を追ってきたランサーは振り上げた槍で扉をぶち壊しビル内へ飛び込んだ。
「うおっ!」
階段を降り切ってすぐにランサーはいきなり何かに飛びかかられ声を上げるが、すぐさま槍で叩きのめす。
破壊された人より大きな黒い影が霧散するのを見てランサーは眉をひそめた。
「なんだあ??」
薄暗い廊下にぎっしりといった異形の影の集団にランサーは赤い目を吊り上げる。
「てめえら、俺の行く手を邪魔しようってか」
上等だ!みんなまとめて塵になりやがれ!
ランサーは赤い槍を振り上げると、目の前の異形を片っ端からなぎ倒していった。
そして最後の邪魔者を消し去ったランサーは、前方の開いたドアからヒョイと覗いた顔に、ああ~~!と声を上げた。
「てめえ!弓兵!何またちっこくなってやがんだあ!?」
「………」
少年の姿に戻っていたアーチャーは、怒るランサーを見てフンと鼻を鳴らす。
「さすがねえ。あれだけいたのに、ほんとあっという間に片付けちゃったんだ」
アーチャーの後から廊下に出てきた凛は感心したというように二回手を叩いた。
「あの程度なら、私も片づけられたがな、凛」
「わかってるわよ。でも、無駄に魔力使いたくないのよ、わたしは。明日、体力測定があるのよねえ。一応体力は温存しときたいわけ」
「おまえら、何言ってやがる。さっきのはキャスターがよく使う使い魔だよな。いつのまにキャスターと手を組んでやがった」
「はあ?キャスターなんかと手を組むわけないじゃない。それどころか、今すぐにでも居所を掴んで始末しちゃいたいくらいよ」
可愛い顔をして言うことはキツイ。
話には聞いていたが、赤い悪魔とはよく言ったものだ。
「でも、あんたとは手を組んでもいいかな」
「は?」
「勿論あくまで聖杯を巡っては敵同士だけど、強敵は早めに潰しておきたいじゃない」
「強敵…ねえ。それは俺のことってわけじゃないんだ」
「あんたも強敵よ。クー・フーリンは、わたしでも最強の英霊としてトップにくる名ですもの」
「そりゃどうも」
ランサーは苦笑する。
「で?嬢ちゃんのサーヴァントはどの位置に来るのかな?」
「ああ、それはそっちで判断して」
凛は右手を上げてヒラヒラと上下に振った。
「どうしても自分のサーヴァントには甘くしがちだもの。あ、でもこれだけは言っておくわ。アーチャーは誰にも渡さないから」
ランサーは目をパチクリさせた。
何言ってんだこの嬢ちゃんは。
「もともとわたしはセイバーが欲しかったのよね。だって、三騎士の中で一番強いじゃない。けど、現状見ると、適材適所だったって思えるのよね」
「はあぁぁ?嬢ちゃん、マジで言ってんのかよ」
「あら、ランサー。あんたは自分のマスターが不満?」
ランサーの眉が寄る。
「そうよねえ。なんか思いっきり戦わせてもらえないようだし。ストレス溜まってるって感じよね」
ランサーはムッとなる。
「手を組もうって言いながら、俺に喧嘩売ってるか?」
凛はニッと笑うと、ビシッと右手を伸ばし人差し指をまっすぐランサーに向けた。
「アーチャーと戦わせてあげる!それも、ちゃんと大人の身体をもったアーチャーと!」
どう?と凛は小首をかしげ、そして傍らに立つアーチャーに視線を向けた。
「アーチャーは文句ないわよね?」
「私はマスターの命令に従うだけだ」
「ほお?偉そうに条件付きつけてきたな、嬢ちゃん。弓兵ごときが俺のエサになるとでも思ってんのかよ」
「あ~ら、アーチャーの尻を追っかけてきたあんたが、そんなこと言うわけ?」
なっ!
「おい!嬢ちゃん、言うことが下品だぞ!」
「今更気取ってもしょーがないでしょ。聖杯のために殺し合いをしようってんだから。それとも、あんたのマスターはお上品で戦いはお嫌いなのかしら。全然顔を見せないわよね」
「………」
「アーチャーの真名が知りたいってんなら、そっちのマスターの名前を教えなさいよ」
いやいや、それは…とランサーは困ったように槍を持たない手で後頭部を撫でる。
「なんか嫌な感じなのよね。あんたがって言うよりあんたの後ろにいるマスターが。誰だか知らないけど、イライラするのよ」
「おいおい。ちょっとそれは理不尽じゃないか、嬢ちゃん」
「女の勘よ」
それはそれは、とランサーは苦笑を漏らす。
いや、それは当たってっかも。教えられないが。
「とにかく、あんたのマスターも同意するはずよ。一番面倒なのはどのサーヴァントかわかってるはずだし」
「バーサーカーか。ま、確かにやっかいな奴だけどな。けど、セイバーだって目障りなんだぜ」
「先にセイバーと戦うのは愚かだってのは、あんたにもわかってんでしょ」
フンとランサーは鼻を鳴らす。
「すぐに答えを出せとは言わないわよ。わたしもね。そっちのマスターにも思惑があるだろうし」
「ふ~ん──嬢ちゃん。あんた、面白いな。ま、考えとくぜ」
ランサーはそう答えると、霊体化してその場から立ち去った。
◇◇◇
「あれ、遠坂?」
日が落ちて、あたりが暗くなりかけた頃、衛宮邸に凛が訪れた。
「今晩は、衛宮くん」
「あ、ああ。どうしたんだ?遠坂一人か?」
士郎は、門の前に立っている凛の背後を覗き込んだ。
「さっきまでアーチャーがいたけど、帰らせたわ」
「そうか」
士郎は、何故か知らないが自分がアーチャーに嫌われてるらしいことはわかっている。
特に凛が士郎と共闘しようと言いだしてから眉間のしわが増えたことも。
自分が何かしたってことではなく、アーチャーにとって士郎は出会った時から気に入らない相手なのだろう。
アーチャーが士郎に敵意を見せるたびに凛に怒られるのだから一緒にいない方がいいのかもしれない。
「ちょっと話があるの。いいかしら?」
「あ、うん。どうぞ、入って」
士郎は凛を家の中へ招いた。
玄関の前には金髪の少女が立っていた。
訪問者が凛だということはわかっていたのだろう。
完全に警戒は解いてはいないが、一応マスターである士郎を害する者ではないと認識はしているらしい。
とりあえず今は、だろうが。
士郎は凛を友人と見ているが、セイバーにとっては、凛はアーチャーのマスター。聖杯を巡る敵の一人なのだ。
「あら、セイバー。サイズは合ってたみたいね。似合うわよ」
セイバーが今着てる服は、霊体化できない彼女のために凛が用意した服だ。
士郎が、自分の服でもいいかな、などと言いだしたので凛が、女の子にそれはないでしょっと反対し家から持ってきたのだ。
白いブラウスにフレアスカート。
金色の髪の美少女は、いったいどこのお姫様かと思うほどだ。
「遠坂、晩飯は?まだなら用意するけど」
「そのつもりだったけど?今晩はなに?」
士郎の料理が美味いことは既に認知済み。
特に和食が得意だと言うことは、桜から聞いていた。
「今夜はから揚げにした。あとは、野菜の煮物とサラダ、味噌汁くらいだけど」
「あら楽しみ。じゃ、これはデザートね」
凛は持っていた紙袋を士郎に手渡す。
「アップルパイよ」
「え?もしかして遠坂の手作り?」
「残念。作ったのはアーチャー」
えっ?!と思わず士郎は紙袋の中を覗き込んだ。
「アーチャーって料理するのか?」
「料理どころか、家事全般得意よ。いったいどこで得たスキルなんだか」
ま、わたしは助かってるけど、と凛は言った。
「アップルパイですか。それは食べてみたいですね」
凛は、セイバーに向けニッコリ笑った。
「あいつ、お菓子作りも本格的だから、絶対気に入るわよセイバー。楽しみにしてて」
凛は居間で夕食の準備が整うまで、セイバーと雑談しながらゆったりと食卓に座っていた。
藤村大河が衛宮邸の居間に飛び込んできてようやく夕食となった。
桜は今日は用事があるので、と早めに学校から家に帰ったらしい。
「うわ!このアップルパイ美味しい~~どこで買ってきたの?」
今夜も士郎のご飯は美味しい!と大満足の大河は、食後のデザートに出されたアップルパイを一口食べて大絶賛した。
「これは遠坂の手土産。ちなみに手作り」
「えっそうなの!いやあ、お菓子作りの才能があるのね!プロ並みよ、これ」
驚いたという顔の大河に、凛は苦笑する。
「作ったのはわたしじゃないですけど」
「え?じゃ誰?」
「知り合いです。たまにご飯作ってくれたりするんですけど」
「あ、そうだったんだ」
大河は凛が一人暮らしだということを知っている。
料理上手の家政婦がいるのだろうと思ったようだ。
「もし頼めたら、また作ってもらって持ってきてもらえないかなあ」
「藤ねえ!それ、図々しすぎ!」
怒る士郎だが、凛はニッコリ微笑んだ。
「いいですよ藤村先生。何がいいですか?和菓子も作ってくれるんですよねえ。芋羊羹とか」
「あ、いい!それ大好き!」
大河は嬉しそうに座卓を叩いた。
その夜、凛は衛宮邸に泊まった。
初めから泊るつもりで来ていたので問題はないが、士郎には寝耳に水だったろう。
「衛宮くんのお父さんが魔術師で、息子を魔術師にしたくはなかったっていうのはわかったわ。ほんとに何も知らないんですものね。けど、セイバーのマスターとなった以上知らないままではいられないのよ」
うん、と頷いて士郎は、あっと小さく声を上げた。
「もしかして、遠坂。それを教えてくれるために来てくれた?」
「当然でしょ。これから共闘する相手が何も知らないってんじゃ、わたしも困るのよね。とりあえず、聞きたいことは聞いて。答えられることは答えるから」
「サンキュ、遠坂。助かる」
実際、あの神父から聞いたことだけでは、理解したとは言えなかったのだ。
ほんとに驚くことばかりだったし、まさか殺されかけるとは思ってもみなかった。
それも、人ではないという相手に。
さすがに夜遅くまで遠坂を拘束するわけにもいかず、適当なところで彼女との話を終えた。
一度、一人で考えたいとも思ったし、そこでまた疑問があれば明日また聞けばいいとそれぞれの部屋に戻った。
明かりを消し、布団に潜り込む。
隣の部屋にはセイバーが眠っていた。
遠坂の話では過去実在していた英雄がサーヴァントとして召喚されるという。
二度自分を殺そうとしたランサーは、かつてアイルランドにいた半神半人の英雄だという。
では、セイバーはどこの、なんという英雄だったのだろう。
セイバーが剣を見せないのは、正体をわからせないためだというが。
マスターである士郎が聞けば答えてくれるはずだと遠坂は言うが。
過去の英雄に関して無知に近い自分がそれを知っても何もならない気もする。
士郎は大きく息を吐き出すと目を閉じた。
疲れていたこともあり、士郎はすぐに眠った。
どれくらいたったのか、ふと名前を呼ばれた気がして目を開けると、目の前に白い小さな少女がにこやかな笑みを見せながら立っていた。
「……イリア…スフィール?」
「今晩は、お兄ちゃん。どこ行くの?」
「どこって──」
士郎はハッと目を見開いた。
自分は確かに布団の中にいた筈なのに、何故かパジャマのまま外に立っていたのだ。
まるで夢遊病のように、布団の中を抜け出し家の外に出ていたというのか。
周りを見回すと、見知った公園の灯りが見えた。
着ているものはパジャマだが、靴はちゃんと履いている。
なんで……
「丁度いいから、お兄ちゃん、お城に来てくれる」
え?
天使のようにニッコリと愛らしい笑みを浮かべた少女に、一瞬気を抜いた士郎の身体がいきなり持ち上がった。
「えっ!?」
自分を抱えたのがあのバーサーカーだと知り、士郎は声を失う。
ちょ…ちょっと待てえぇぇぇ!
我に返って声を上げたがすでに遅く、信じられない速さでバーサーカー移動した。
声を上げようにも、身体にかかる風圧で口を開けることすらできなかった。
廊下を走る音で目を覚ました凛は、ベッドから出て戸を開けた。
「セイバー?どうしたの?」
「凛!士郎がいない!」
「は?いないって、まさか外に出て行ったってこと?」
「そうだ!家の中に士郎の気配がない!それに」
ついさっき、自分を呼ぶ士郎を感じたという。
「ちょっと待って」
凛は今にも飛び出そうとするセイバーを引き留めると自宅にいるアーチャーを呼んだ。
「アーチャー、衛宮くんがいなくなったんだけど」
『知っている。今後を追っている』
「一人?」
『いや。イリヤスフィールとバーサーカーと一緒だ』
「なんですって!どういうことよ!?」
『あのバカがキャスターの術で呼び出された所をイリヤスフィールが横から掻っ攫ったってところかな』
ああ…と凛は頭を抱えた。
「いったいなんなのよ。あの子、衛宮くんのいったい何?」
当の士郎は全くわからないようだが、あのイリヤスフィールという少女は最初から彼のことを知っていた。
で、キャスターね。油断したわ。
「それで──向かっているのはアインツベルンの城?」
『間違いないな。どうする、凛?あのバカを取り戻すか?』
「待って。いくらなんでもあんた一人では無理よ。セイバーと追いかけるから、あんたはそのまま追って」
『了解した。では、時間稼ぎだけはしておこう』
「ちょ…!アーチャー!無茶しないでよ!」
「凛?」
「ごめん、セイバー。すぐに着替えるから」
バーサーカーの後を追っていたアーチャーは、フッと息をついた。
その姿は小さいままで、かなり距離をあけて追ってはいるが、イリアスフィールには気づかれているだろう。
このままアインツベルンの城まで行けば、途中結界に阻まれることは必至だ。
城の持ち主である少女がアーチャーの訪問を許せば入れるだろうが、さすがに敵の懐に入るのは御免こうむりたい。
アーチャーは森に入る前に身体を成長させると、その手に弓を取り矢をつがえた。
そして、遥か先にいるバーサーカーを狙って矢を放った。
矢は狙い違わず背後からバーサーカーの心臓を貫いた。
とっさに少女の身体は庇われたが、抱えられていた士郎の身体は森の中へ落ちて行く。
たいした高さではなかったから死にはしないだろうが、多少の怪我は自業自得と思ってもらおう。
「さて。何回奴を殺せるかな」
アーチャーは弓を消すと、バーサーカーがいる森に向かって飛んだ。
アインツベルンの城に向かっていたセイバーと凛だが、激しい戦闘を察知したセイバーが先に森へと向かった。
一人走る凛は、令呪が浮かぶ手を握りしめていた。
アーチャーがバーサーカーと戦っているのがわかる。
バーサーカーは神の呪いによって、十二回殺さなければ死がこない。
アーチャー一人ではとても無理だ。
たとえセイバーが間に合っても、彼女が得られる魔力ではどれくらい戦えるものか。
アーチャー!
呼びかけても返事はない。
戦闘中なら当然だが。
「よお、嬢ちゃん。先行くぜ!」
いきなり凛は背後から呼びかけられたかと思うと星明りに浮かび上がった青い影が瞬く間に森の奥へと消えて行くのを見た。
「ランサー?」
バーサーカーがいるだろう場所に向かう途中でランサーは、先に森の奥へと向かっていた筈のセイバーを見つけた。
セイバーは傷を負っている自分のマスターに手を貸しながら森の出口へと向かっていた。
「ランサーか」
自分の前に現れた青い男にセイバーは眉をしかめたが、攻撃はしない。
凛からランサーとはバーサーカーに関して一時共闘を結んでいることを聞いていたからだが。
しかし、二度士郎を襲った相手であるから警戒は解かない。
「あいつ一人で足止めしてるってわけだな」
「ランサー!すまない!アーチャーを……!」
「ああ?何勘違いしてんだ、小僧が。俺はバーサーカーを殺りにきたんだよ」
「ランサー。おそらくアーチャーはもう限界だ。トドメはあなたがやってくれ」
言われるまでもない、とランサーは己の槍を手の中に実体化させた。
「嬢ちゃんがそこまで来てるぜ。おまえらはさっさと離脱しろ」
ようやく凄まじい力のやり取りが行われている場所に辿り着いたランサーが目にしたのは、何種類もの刃物を身体に受けたバーサーカーが倒れるところだった。
なんだ?と首を捻るランサーの前でバーサーカーがゆっくりと立ち上がる。
「あの野郎、マジで不死身か」
しかし、永遠に生き返るわけではない。
「んじゃま──次、いくぜえぇぇ!」
ランサーは持っていた槍を振りかぶり、バーサーカーに向けて投げつけた。
……………
……………
よお、と声をかけると、倒れないよう木に背をもたせかけていたアーチャーがフッと笑った。
鋼色の瞳がランサーを見つめる。
「……悪いな、ランサー。おまえとはもう戦えない」
「そのようだな。ったく、初めからこうなる予定だったんじゃねえだろうな」
「ふ…そこまで先は読めはせんよ」
それだけ言うとアーチャーは静かに瞳を閉じた。
もたれていた背が木をこするように落ち、同時に身体がどんどん小さくなり、やがて子供の姿になると赤い弓兵は光の粒となって大気にかえっていった。