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優しく髪を撫でながら/Novel by yosihito

優しく髪を撫でながら

1,523 character(s)3 mins

士弓。主従契約を結んでいる士郎とアーチャーの小話。

診断メーカーのBLお題「優しく髪を撫でながら」から。
元ツイ→https://twitter.com/yosihito/status/754279747828457472
べったーにあげていたものを修正してアップしました。

アーチャーが珍しく優しいです(当社比)

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――また人が死んだ。
爆音と銃声と人の悲鳴と泣き声が辺りに溢れ返っている。
火薬の匂いと何かが焦げる匂いと濃密な血の匂いが混ざり合い、鼻の奥に纏わりついたまま消えそうにない。
助けなければ、と思うのに体は言うことを聞かない。
血を流し過ぎた、これ以上の戦闘は無理だと判断する冷静な自分と、生きているならまだ何かできることがあるはずだと納得しない自分がせめぎ合っている。
動かない身体を身の裡から突き上げる想いが責めたてる。
誰か、誰か一人でも助けなければ、でなければオレは――


唐突に目が覚めた。
そして、ようやく今までのあれが夢なのだと知った。
はぁはぁと荒い呼吸が耳に届き、それが自分のものだとようやく気付く。
全身が嫌な汗にまみれている。
固く瞑っていた目をゆっくりと開けた。
ぼやけた視界が徐々に晴れ、クリアになったその先に鋼色を認めてギクリとする。
「アー」
「あれはただの夢だ。ここでは誰も死んでない。お前は誰も助けなくて良いんだ」
名前を呼ぼうとした俺を低い声が遮る。
「テロは起きてないし爆発も銃撃もない。誰も泣いていない」
物騒な内容にそぐわない、俺を諭すように低い落ち着いた声が耳に届き、それに合わせるように激しい鼓動が収まっていくのが分かった。
汗で張り付いた額の髪をかき上げる手は、らしくないほど優しい。
それが妙に悲しかった。
あれはきっとこいつの体験したことなのだろう。
多く人が死ぬような凄惨な現場で、それでも誰かを助けなければとああやって足掻いていたんだ。

昼間、海外で起こったという痛ましいテロのニュースを奴と見た。
「こんな事はよくあることだ。いちいち気にするだけ無駄だ」
と何でもないような顔でのたまった奴を、少し腹立たしく思った。
何のことはない、奴だって同じように思っていただけの話だった。
だからこそ、あのニュースをきっかけに、自分自身ももう忘れていた記憶がこうして鮮明に蘇ったのだろう。
そして、パスを通じて俺もそれを見てしまったのだ。

俺の呼吸が落ち着いたのを見て奴の手が額から離れていく。
魔力供給のため、昨夜同衾した俺たちは行為の後そのまま並んで眠りについた。
それもあの夢の一因なのかもしれない。
上半身を起こし、俺の様子を見ているアーチャーについ聞いてしまう。
「お前、あそこにいたのか?」
問いを発してから、聞くべきではなかったとすぐに悔やんだ。
何より聞いても奴が素直に答える訳がない。
だが、アーチャーは俺の問いに少し戸惑うような表情を浮かべた。
「覚えてない、というか、覚えがあり過ぎて、それがあれかどうかは分からん」
「なっ?!」
絶句する俺の顔を見て、奴は目を伏せると口の端をわずかに歪ませた。
「言っただろう?よくあることだ、と」

かける言葉がない。
だから手を伸ばして奴の頭を抱き込んだ。
「なにを?」
「うるさい。お前のせいで眠れなくなったんだから、責任取れ」
「なんだ、またするのか?」
「す、するか、馬鹿!」
と返す言葉は少し上擦っていた。
「なんだ。じゃあ何だ?抱き枕を所望か、マスター?」
「…そ、そうだよ、悪いか?」
「いや」
返事に混ざる笑いの音に珍しく棘を感じなくて、腕の中に視線を落とした。
上目遣いに俺の顔を見ている奴はどこか眩しげに目を細めた。
「アーチャー?」
「あれはオレの記憶であって、お前の記憶ではない。そして"お前の記憶"にはオレがさせまいよ。それを忘れるな、士郎」
そう言って小さく笑った。


End

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