インタビュー

「働く当事者の声が無視されている」 買春処罰に私が反対する理由

聞き手・田中聡子

 「売る側」だけが処罰対象となっている売春防止法の見直しをめぐり、当事者の声が置き去りにされていると感じている人がいる。風俗業界で働く村上薫さん(32)は「買う側を処罰することで、私たちの労働環境を悪化させる危険がある」と指摘する。その背景には何があるのか、話を聞いた。

業界そのものをなくすべき?

 ――「買う側」を処罰すべきだという議論の何が問題なのでしょうか。

 政府が規制強化を検討する「立ちんぼ」など路上での問題をきっかけに、性産業全体をなくすべきだという方向にまで話が広がっているように感じます。性的なサービスを提供している女性すべてを「被害者」とみなし、性風俗業界そのものをなくすべきだという声が出ているのです。

 そしてその過程で、現場で働いている人たちの実態や声が十分に考慮されていません。買う側を処罰すれば、法律を守ろうとする人が離れていく一方で、「捕まっても失うものはない」「悪いことをしてもバレないだろう」と思っている「リスクを顧みない人」が残ります。そうした状況では、無理な行為の強要や過度な値下げ圧力が強まり、結果として安全も収入も損なわれます。

 性風俗産業そのものが「犯罪」と強く結びつけられることで、そこで働く人たちへの偏見や差別もいっそう強まります。これは、私たちの生活基盤そのものを不安定にする問題です。

 売る側が罰される現状は変えるべきです。しかし、なぜかわりに買う側を罰さなくてはならないのでしょうか。私はどちらも罰するべきではないと考えます。

 ――実際に、意に反する形で働かされたり、仕事中に性暴力に遭ったりする被害者もいます。

 もちろん、そうした被害の声は非常に重要ですし、軽視されるべきではありません。ただ、その被害は「セックスワークをしていたから」生じたのではなく、加害を許してしまう条件があるからです。セックスワークには、働く人が守られにくく、被害を訴えにくい構造があります。だからこそ必要なのは、業界を潰すことや買う側の処罰ではなく、働く人の安全と権利が守られるよう労働環境を改善していくことだと考えています。

 例えば訪問介護のヘルパーが性被害に遭うことは社会問題として議論され、介護業界を潰そうという話にはなりません。そういったことからも風俗業への差別を感じます。安全に働ける仕組みや、被害に遭ったときにきちんと救済される制度を整えることが優先されるべきだと思います。

剝奪される当事者性

 ――タイ国籍の12歳の少女が東京都内の「マッサージ店」で性的サービスを強制されていた事件など、深刻な被害もあります。

 未成年に対する性的搾取や人身売買は、明確に別の問題です。タイの少女のケースは、人身売買であり、児童福祉法違反にも該当する犯罪です。一方でセックスワークとは、成人間の合意に基づく契約です。犯罪と労働を混同して議論するべきではありません。

 本来議論すべきは、セックスワークの現場で何が起き、どうすれば被害を防げるのかという具体的な対策のはずです。それにもかかわらず、「業界をなくすべきかどうか」という抽象的な議論にすり替わっている点に飛躍があります。

 ――なぜ、飛躍が起きるのでしょうか。

 当事者の声が無視されているからだと思います。本来、最も直接的に影響を受ける「当事者」は、いま現場で働いている私たちです。にもかかわらず、セックスワーカーであると名乗ること自体が大きなリスクを伴い、そのうえで勇気を出して発言しても、「誰かに操られているのではないか」「本当は被害者なのに気づいていないのではないか」といったかたちで、発言の信頼性そのものを疑われてしまうことが少なくありません。こうして当事者の語りは、容易に無効化されてしまいます。

 私自身も例外ではありません。「性風俗業者や男性に都合のよいことを言わされている」「実際には搾取されているのに、自分で選んでいると思い込まされている」といった見方を向けられ、判断力のない存在であるかのように扱われることがあります。「あなたはたまたま被害に遭わなかっただけだ」「被害に遭った女性たちの存在が見えていない」とされ、当事者性を剝奪(はくだつ)される場面もあります。

 背景には、「性をお金でやり取りすることは望ましくない」という社会的な規範があります。そのため、その価値観に沿うものかどうかで、当事者の声が取捨選択されがちです。結果として、当事者の多様な現実や意見が十分に反映されないまま、議論が進んでしまっていると感じています。

 ――性風俗業界には嫌々働いている人が多いというイメージがあります。

 それは否定できない現実です。セックスワークをやりたくない人がやらざるを得ない社会は変えるべきです。ただ、その問題の根本はセックスワークそのものではなく、貧困や劣悪な労働環境といった社会構造にあります。仕事を奪うのではなく、広がる格差や貧困といった問題に向き合うべきです。

 私自身、「嫌々」働いています。接客業は苦手ですが、他の仕事はもっと嫌だから、セックスワークを選びました。高卒で資格もない私でも同じように稼げる昼の仕事があればすぐにやめます。

 他の職業でも、嫌々だけどできる仕事の中から選択して働いている人はたくさんいますよね。それなのにセックスワークの話になると、それが「個人の選択による労働」であり、「一人の労働者である」と理解されません。

 これまでにも、いま私が話したようなことを、批判や攻撃をされながら訴え続けてきた当事者たちがいます。今度は私の番だという覚悟で、先人たちの活動を引き継いでいきたい。

 当事者抜きで決めないでほしい。私たちの声を聞いてください。

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