ファンに勘違いされる話
頭をからっぽにして読むと良い感じです。
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「あの......樋口円香さんですか......!?」
円香「......?」
円香と街を歩いていると、不意に後ろから声をかけられる。
振り返ると立っていたのは女性二人組だった。
小さな声で本物......!?だとか顔ちっちゃ......!だとか言っている様子から察するに、円香のファンなのだろう。
ファン1「私たち円香ちゃんのファンで......!」
円香「──どうも、ありがとうございます」
いつもの営業スマイルで応対する。
円香はこうして声をかけられることも少なくなく、こうして街中でのファン対応にもずいぶんと慣れたようだ。
ファン2「あの、握手とか......!」
女性ファンの言葉に円香がこちらを見る。
もちろん断る理由もなく頷くと、ファンの方に向いて手を差し出した。
円香「ええ、大丈夫ですよ」
ファン1「きゃーっ!ありがとうございます......!!」
ファン2「やばいやばい......触っちゃった......!!あ、握手会も絶対行きます!」
円香「───ふっ、ありがとうございます」
ファン応対も上手になったな、なんて考えているとファンの女性の一人が、おずおずとプロデューサーの方を向いた。
ファン1「あ、あの......すみません......」
P「え?あ、はい。どうされました?」
まさか声を掛けられると思っていなかった。
話しかけた女性は、少し話しづらそうに上目遣いでプロデューサーを見ている。
ファン1「ええと......その、私あんまり男性向け雑誌とか見ないんですけど、モデルさん......ですか?」
予想だにしない質問にプロデューサーと円香の身体が固まる。
円香「────ふ、ふふっ......」
P「ああいや......」
ファン2「えっ!モデルさんなんですか!?すみません気付かなくて!」
もう一人のファンも寄ってきて謝罪するが、そもそも彼は裏方の人間なのだから知らなくて当然だった。
人二人の勢いに押されたプロデューサーが狼狽していると、見ていられなかったのか円香が助け舟を出した。
円香「その人はモデルとかでは無くて、弊事務所のプロデューサーです」
円香の言葉に一瞬固まる二人。
ファン1「え!?そうだったんですか!じゃあ、円香ちゃんのプロデューサーさんってこと......!」
ファン2「うっそ......!?こんなに身長も高くて顔もメロ......って、すみません!勘違いして......」
P「いやぁ、ははは......ありがとうございます」
円香「......あの、すみません。私たちそろそろ......」
P「え?もうそんな───」
ファン1「ああっ、ごめんなさい!」
ファン2「今日はホンットありがとうございました!急に引き留めて、その上ファンサもしてくれて......!」
ファン1「あ、あの!絶対ライブも行くんで!これからも応援してます!」
円香「ありがとうございます。では、失礼します」
ファンにお辞儀をして別れると、円香はプロデューサーの袖を掴んで引っ張るように歩き出す。
ファン1「行っちゃった......」
ファン2「ねー......。え、てかさ......」
ファン1「うん......」
ファン2「あの、プロデューサーさん......!めっちゃメロくなかった!?なんかカッコよさの中にかわいさがあるっていうか......!」
ファン1「それね。やー......顔の良い人間ってどうして集まっちゃうんかなぁ......」
ファン2「マジでそれな!うわー、マジで283プロの事務員とかなったら美男美女パラダイスなんだろなぁ......!」
ファン1「夢見んのやめときなって、多分事務員もレベチよ」
ファン2「ひん......!」
────────
先ほどの二人が見えなくなるくらいまで離れると、やっと掴んでいた袖を離した。
P「ま、待ってくれ......!」
この声掛けでやっと円香が足を止める。
P「そんなに急がなくたって......まだ時間には余裕あるぞ?」
円香「そんなこと知っています」
P「じゃあどうしてあんな......急いでたのか?」
確かにあのままだと少し話しが長引きそうな気がしていたが、それでも予定に遅れることは無かっただろう。
それとも、何か別の急ぐような用事があったのだろうか。
円香「いえ。......あのままだと彼女たちがあなたの毒牙にかかりそうだったので」
P「毒牙って......俺は何もしてないぞ......!」
円香「無自覚とは恐ろしいですね。ミスター・プレイボーイ」
P「プレイボーイって......円香、横でやりとり見てただろ?」
円香「ええ、見てました。あなたがモデルと勘違いされてにやにやとだらしなく口元を緩めている姿を」
厳しく、釘を刺すように言う円香。
その声色には少しばかり、怒気が含まれているような気がした。
P「円香......もしかして、怒ってるのか......?」
円香「は?」
P「いやすまん!なんとなくそんな気がしただけなんだけど......違ったか?」
円香「違います。自惚れないでください」
そもそも怒っている原因も分かっていなかったプロデューサーにヒントを与えてしまった。
彼女にしては珍しいミス。表情にこそでていないが、一瞬の焦りを見せていた。
P「う、自惚れ......!?一体何の話だ......?」
プロデューサーの反応でほっと一息つく。
そういえばこの鈍感な男には口を滑らせて焦る必要なんてなかったんだ、と円香は改めて思い出した。
円香「いえ、今の話は忘れてください。───それと、そろそろ行かないと本当に遅刻しますよ」
すでに怒気は消えていた。
それ以上に、どこか余裕さを取り戻した円香を見て、プロデューサーはますます訳がわからなくなっていた。