にちか「ぽっよーん!!」
席を立って次案件の書類に目を通していると、脇腹を急襲される。
P「うわっ!......にちかか」
にちか「にちかか...ってなんですか?なんか残念そうにされても不服なんですけどー!」
P「ははっ、ごめんごめん」
にちか「次今みたいなリアクションしたら、パンチなんで!」
そういってぽす、とお腹に拳を当ててくる。
最近のにちかの流行りなのだろうか、隙を見せるとよく俺の脇腹を摘まんでくるようになった。
まだベルトに肉が乗るほどではないのでにちかの指は脇腹を撫でるだけで済んでいるが、運動不足から筋肉は衰えてきていると感じているし、これが摘まめるほどになった時のにちかの反応を想像するだけで恐ろしい。
P「流石にそろそろ何か運動した方がいいよな......」
にちか「えー?そうですねー、私的には全然いいんですけど、このままだと結構やばめなんじゃないですー?」
P「う......何かオススメのトレーニングとかあるか?」
にちか「それ、前にも聞きましたけど......前教えたトレーニングはまだ続けてる感じです?」
前教えたトレーニング......?
うわ、まずい!何か教えてもらった気がするけど、内容は完全に忘れてて思い出せない......。
P「あ、あはは......」
にちか「まさか、忘れてるとかそんなわけ無いですよねー?」
完全に図星だ。
訝しげにこちらを見るにちかに対して、泳ぐ目を合わせることができない。
にちかの顔がどんどん近くなり、ついに白状せざるを得ない状況になってしまう。
P「......すみません。...何か教えてもらったところまでは覚えてるんだけど......」
にちか「あ、もう大丈夫ですー。どうせ忘れてるんだろうなーって思ってたんで」
う...にちかの冷めた目が体中に突き刺さる。
P「すまん!本っ当に申し訳ないんだけど、もう一回教えてもらえないか......?」
手を合わせて頼み込むが、肝心のにちかの反応は薄い。
にちか「うーん、それでもいいんですけどー、もう一回教えてもな~、忘れちゃうからな~?」
挑発するような声で、それも若干嬉しそうに言う。
完全に優位に立っている時のにちかだ。
P「つ、次はちゃんとメモしておくから......!」
にちか「あ!ちょっと待っててください!いいこと思いついたので!」
P「え?お、おう......」
事務所を飛び出したにちかを待つこと数分、ドタドタという音を立てながら再び事務所のドアが開いた。
P「お帰りにちか。どこ行ってたんだ......って、はづきさん?」
満面の笑みのにちかの隣には、頭の上に?を浮かべたはづきさんが連れてこられている。
はづきさんは俺の顔を見た途端、にちかが何か企んでいるのに気付いたようで、にちかをジト目でにらみつけた。
はづき「プロデューサーさん?も~...にちか~?」
にちか「違うから!プロデューサーさんのダイエットのためだから!」
はづき「ダイエット......?」
P「に、にちか?どうしてはづきさんを連れてきたんだ?」
にちか「い・い・こ・と思いついたんで!いいから着いてきてください!」
────────
P「すまんにちか。説明してくれるか?......どうして俺はダンスレッスン室に連れてこられたんだ?」
場所はいつもアイドルのみんなが使っているダンスレッスン室。
思っていたよりも具体的な案があるようだ。......ヨガとかか?
にちか「私、わかったんです。このままだと、プロデューサーさんは何教えても続かないんだろうなーって」
P「そ、そんなことは......」
はづき「にちかもそうだもんね~」
にちか「い、今はいいから!......そこで、誰かが見てたら三日坊主にならずに済むんじゃないかって思ったんです!」
P「なるほど、それではづきさんか。...でも、はづきさんにご迷惑じゃ......」
にちか「お姉ちゃんなら大丈夫です!それに、相手がお姉ちゃんなのもちゃーんと!理由ありますから!」
そう胸を叩いて自信満々さをアピールするにちか。
勝手に「大丈夫」と言われて少し不満がありそうなはづきさんが横に立っていることは言わないでおこう......。
P「そうなのか?」
にちか「そうなんです!何せ、今回のダイエットに欠かせない人なので!」
P「なるほど......?それで、本題に移るんだけどその...今回は何を教えてくれるんだ?」
にちか「それは────」
にちか「────踊りましょう!プロデューサーさん!」
P「────え?」
────────
にちか「ほらほらー、手足余ってますよー!」
P「そんなこといったって────!
はづき「プロデューサーさーん、ズレてきてますよ~。はい、1、2、3、4」
P「す、すみません!1、2、3、4、1、2、3────」
ある程度ストレッチをしてから、とりあえずは基礎のステップからということで
今は基礎中の基礎、ボックスステップに取り組んでいる。
アイドルのみんなが入所直後はよく見ていたそれだが、自分でやるとなると中々難しい。
にちか「出す足逆になってますよー!あはは!」
P「あれ?こっちだったか?いやこっちか?」
はづき「そろそろ小休憩にしましょうか~」
頭がこんがらがってきていたところではづきさんからストップの声がかかる。
P「────」
「はい、お水」
P「ああ、ありが──って、美琴!」
にちか「美琴さん!?」
P「美琴、確か今日は仕事じゃ......」
美琴「うん。もう終わったから練習しようと思って」
時計を見ると、確かにもう終わっていてもおかしくない時間だった。
今日はかなり順調だったんだろう。
美琴「それで......プロデューサー、どうしてダンスをしてたの?」
P「え?ああ、実は────」
美琴「──なるほど。これからもここを使うの?」
P「そうだな......今日はお試しでを使ってみたけど、誰か使うときはそっちを優先してもらうよ。邪魔になっちゃうしな」
美琴「あ、ううん。そう言うことでは無いの」
美琴「もしよかったら、はづきさんの代わりに私が見てもいい?」
「「えっ!!?」」
俺と、それまで横で美琴を見ていたにちかが同時に口を開いた。
にちか「み、美琴さん!!本気ですか!?」
P「い、いやいや流石にそれは美琴に悪いよ」
美琴「だって、プロデューサーは私たちが使ってたら使えないでしょ?レッスン室には多分私が一番居ると思うから、その間は一緒に使ってもいいよ」
P「うーん...美琴がそれでいいならいてててっ!!」
にちかに脇腹を抓られた。
にちか「すみません美琴さん!ちょっとプロデューサーさんとお話してきます!!」
美琴「?うん」
そうして、手を引かれながらレッスン室のドアを出ると、にちかはすぐに立ち止まりこちらに振り返ってくる。
P「いてて......どうしたんだ」
にちか「いいですか!絶対断ってください!絶対ですからね......!!」
P「そ、そうだよな。やっぱり邪魔になるよな」
にちか「あったりまえです!それに美琴さんにダンスを見てもらえるのは私だけでじゅうぶ......とにかく!お姉ちゃんが忙しかったら私が見るので!美琴さんのお誘いはぜーったい!断ってください!」
P「あ、ああ。わかった」
要件はそれだけだったようで、美琴とはづきさんの待つ部屋の中に入る。
美琴は何も気づいていないようだったが、はづきさんはやれやれと言いたげな顔で待っていた。
P「すまん美琴、さっきの話なんだが──」
美琴「うん、はづきさんもそれで大丈夫だって」
はづき「二人で事務所を開けられることって少ないですし、お邪魔にならない程度に見ていただければ~」
P「え」
美琴「これからよろしくね、プロデューサー」
少し微笑む美琴。横にはあんぐりと口をあけたにちか。
どうしようか、ここまで言ってくれたのに断る訳にも......。
困った末ににちかのほうに目配せすると、にちかも歯を食いしばりながらこちらを見ていた。
にちか「よ、よろしく、おねがい、します......!!」
P「(にちか、すまん......!)」
それから少し瘦せるまでの間、事務所内外でにちかから刺さるような視線をもらうことになった......。
ちなみに、ダンスは少し上達した。