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魔法使いに会った話/Novel by yosihito

魔法使いに会った話

3,202 character(s)6 mins

4/10で主従の日ということで士弓主従のお話。老人になった士郎と弓主従。

前にツイートした水戸黄門ネタ士弓です。
https://twitter.com/yosihito/status/716289073099345920

オリキャラ視点なのでそういうの苦手な方はご注意ください。

表紙イラストはミサキ姫さん(novel/bookmark.php?id=2115944)が書いてくださいました。
ありがとうございます!

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『危ない!』
掛けられた声に前を向いた時には、目の前に大きな車輪が迫ってきていた。
走ってきた勢いのままそれにぶつかりそうになり、反射的に固く目をつむる。
けれど、いつまでたっても衝撃も痛みも感じず、おそるおそる開いた目には、私を庇うように抱きとめた褐色の太い腕が映った。
『大丈夫か?』
掛けられた言葉は外国の言葉のようで意味は分からなかったけれど、私への気づかいが感じられて、ぎこちなくだけれど笑顔を作って頷いた。
けれど私の顔を見たその人の顔が強張り、眉を寄せた厳しい表情を作るのを見てしまい、思わず殴られるかもしれないと首をすくめてしまう。
そして、自分の今の姿を思い浮かべて、こんな小汚い子供に縋られていて良い気持ちはしないだろうと慌てて体を離した。

ははは、と笑い声がして、そちらを見ると先ほどぶつかりかけた車輪の付いた椅子――後で車いすというものだと教えてもらった――に座っている人が楽しそうにさっきの男性に話しかけていた。
『お前、めちゃくちゃ怖がられてるじゃないか、アーチャー』
『黙れ』
親しげにやり取りする様子から、この二人が連れ同士なのだとすぐに分かった。
と、車いすの老人がこちらに目を向けると笑いかけてきた。
「怖がらせちゃってごめんね。でも、俺たちは君に危害を加えたりしないから安心して。
あと、こいつ顔は怖いけど悪いやつじゃないから」
「おい!」
今度は私にも分かる言葉で話しかけてくれたので、少しほっとする。
でも、私の顔を見たおじいさんの顔がかすかに強張るのを見て、やっぱりこんなみすぼらしい子供を見るのはあまり楽しくないんだな、と少しだけ悲しくなった。

変わった二人組だった。
片方は車いすに座った白髪交じりの赤毛のおじいさんで、その横に立っているのは白い髪と褐色の肌をした男の人だった。
肌も髪の色も違うけれど、顔立ちや眉毛の形がよく似ていたので、きっとおじいさんとその孫なんだろうと思う。

と、そのおじいさんが手招きして私を呼んだ。
「ねぇ、さっきも言ったように俺たちは君に危害を加えるつもりはないんだ。良かったら、もう少しこちらに来てくれないかな?」
困ったように笑うおじいさんは本当に優しそうで、近づいても怒られないと思ったので、私はゆっくりと寄って行った。
「うん、もう少し、こっちへ」
そして、私の顔におじいさんはそっと触ると、泣きそうな顔で言った。
「――こんなに腫れて…、唇も切れてるね」
ちょっと待ってね、というと私の顔を両手でそっと包み込むように覆った。
皺だらけのその手は、傷だらけで手のひらもゴツゴツとしていたけれど、とても温かかった。
「はい、もういいよ」
心地いいぬくもりにいつの間にか目を閉じていたみたいで、かけられた声に慌てて目を開けた。
焦って離れようとする私の肩をそっと押さえると、大丈夫、と笑ってくれた。
「後は、服だな」
言われて自分の服がぼろきれのようになっているのに今ごろ気付いた。
必死で抵抗して逃げ出してきたので服の様子まで気が回らなかった。
「あ、あの、ごめんなさい!」
思わずこぼれた謝罪の言葉におじいさんはびっくりした顔をした。
「君は何も悪くない。だから謝らなくていいんだよ。もう少しだけじっとしていてくれる?」
『投影・開始』
おじいさんは口の中で何かをつぶやいた。
すると、次の瞬間、その手の中に破れたシャツと同じものが現れた。
「え!これ…?」
肩からそれを掛けてくれながら、おじいさんはこっそりと、
「俺たちね、魔法使いなんだ」
内緒だよ、と片目をつむりながら悪戯っぽく笑うのにつられて私もつい笑ってしまった。
「あ、笑ったね」
おじいさんが嬉しそうになので、私もなぜか嬉しくなった。
今日は良い日だと思った。怖い目にもあったけどおもしろい人たちに会えたから。
魔法使いだなんて!

その時、隣に立っていたもう一人の男の人が大きく咳払いをした。
はっと顔を上げたおじいさんの表情が変わる。
つられて振り返ろうとした私を止めると、そのままで、と小さく囁かれた。

「おい、いたぞ!」
聞き覚えのある大きな声にびくりとする。おじいさんは私の手を握ると「大丈夫だから」と笑いかけてくれた。
「探したぞこのガキ。大人しくしてれば小遣い稼ぎさせてやろうっていうのにちょこまかと。まずはきついお仕置きが必要みたいだな」
「おい、お前たちは旅行者か?怪我したくなければ、大人しくそのガキを置いてどっか行きな」
「いや待て、ただ見逃す手はないんじゃないか?見たところ金持ってそうだぞ」
私たちを取り囲みながら口々に勝手な事を言っているのは最近この辺りで見かけるようになった柄の悪い集団だった。
さっき、この人たちに襲われそうになって逃げ出した所をおじいさんたちに出会ったのだ。

「聞いたか、アーチャー?こういう時の台詞ってほんと万国共通なんだな?」
「面白がってる場合か?それでどうする?」
私とおじいさんをかばうように、アーチャーと呼ばれた男の人が一歩踏み出しながら尋ねた。
『そりゃ、決まってるだろ?助さん!懲らしめてやりなさい!!』
『誰が助さんだ、このたわけ!だがまあ、徹底的に懲らしめるというのには同意する』
『でも、殺すなよ』
『善処する』
言ってることは分からないけれど、緊張感のない二人のやり取りに不安が消えていくのを不思議に思った。
そして、アーチャーさんは飛び出していった。

その後のことは、本当に魔法を見てるようだった。
あっという間に悪い人たちを全員倒したアーチャーさんは、彼らと何かの話をした後に息も乱さずに戻ってくると、
「話はついた。彼らはもうここには来ないから安心して良いぞ」
と言った。

結局、家まで送ってくれるという二人に甘えることにした。
並んで歩く家までの道は整備されてなくて荒れたままだったけれど、アーチャーさんの押す車いすは不思議なくらい静かに進んでいた。
よくよく見ていると、砂利や道のでこぼこをとても器用に避けているらしい。
そして今になって気づいたけれど、おじいさんには片足が無かった。
迷ったけれど思い切って聞いてみた。
「あの、その足もしかして地雷、ですか?」
この近くの地面に戦争の時に埋められた地雷がまだ沢山ある事は、お父さんに聞かされて知っていた。そのせいで使えない畑が多くて困るとぼやいていたからだ。
それに、間違って地雷を踏んで足を失ったり、死んでしまったりする人がもう何人も出ていた。
「ああ、これ?これはオレがただドジっちゃっただけ。
ねぇ、それよりその地雷の事をもっと教えてくれる?具体的な場所とか分かるかい?」
私がお父さんや村の大人の人に聞いた事を教えると、おじいさんは強く頷いて言った。
「そうか、その地雷に君たちは困っている、と。分かった、なんとかしてみるよ。
何と言っても、俺は「魔法使い」だからね!」
と、にっこりと笑った。
その後ろでは、アーチャーさんがなぜか天を仰いでいた。

家の近くでお別れを言う時に、おじいさんの名前を聞いてみた。
おじいさんは嬉しそうに、
「名乗るほどのものじゃないけど。そうだな…。じゃあ、俺のことは『ご隠居』と、いたっ」
名乗ろうとしたおじいさんの頭をアーチャーさんが思い切りはたいた。


そして、それからすぐ、この辺りの地雷がいつの間にか全て無くなっていたのだと聞いた。
もしかして私は、本当に魔法使いに会ったのかもしれないと、その時になって思ったのだった。

(End)

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