【FGO士弓企画】terminus
FGO士弓webアンソロジー企画参加作品。
企画の詳細は企画用記事をご参照ください。
<illust/58791814>
リミテッド/ゼロオーバーのフレーバーテキストと彼が手にするあの刀に妄想ぐるぐるして書いたお話です。
いつもより電波度高いですがおつきあいいただけますと幸いです。
こんな素敵な企画に参加でき、そして何より士弓が沢山拝見できるの本当に嬉しいです。
ちくわぶさん、企画いただきありがとうございます!!
- 108
- 90
- 2,357
「無限の剣製(アンリミテッド・ブレード・ワークス)!」
世界を塗り替えるワードを口にする。
展開された固有結界はまさに自身の心象の発露だ。
そこに蓄積された数多の剣たちの記憶を辿り、象り、現象として形を成していく。
具現化した剣を掴もうと伸ばした手に背後から伸びた手がかさなる。
――もっとだ!
赤い籠手をつけた手のひらから、言語化されない想念が伝わってきて、その強烈さにアーチャーは一瞬眉を顰めた。
――もっと強く、もっと硬く、もっと鍛えろ、もっと、もっと、もっと、
「うるさい…」
思わず零れた言葉とは裏腹に、促す『声なき声』に引き摺られるように投影した剣の精度と強度が上がっていく。
いや、引き上げられていく。
――基本骨子、更新。
――構成材質、更に強化。
――全工程、投影完了!
アーチャーの振り下ろす手に合わせ、剣の雨が敵に降り注ぎ、着弾と同時に魔力を放出して爆散していく。
やがて爆炎が晴れると、わずかな残骸のみを残してエネミーと呼ばれる敵性生物は全て消失しているのが確認できた。
だが、限界に近い投影魔術の行使で急激に魔力を消費したアーチャーは激しく消耗していた。
がくりと膝の力が抜けた彼を、背後のソレが手を伸ばして支える。
顔を上げ、支えの手の主を確認したアーチャーは間近で見たその顔に思わず息を飲んだ。
――本当によく似ている…!
赤い髪、強い光を放つ琥珀の瞳、目を引く真紅の籠手に白い着物、そして鍛えられた身体。
逞しい青年の姿をしたソレは概念が人の形を象った物なのだと、芸術家であり科学者でもある彼(彼女)はアーチャーにそう説明した。
それがなぜ自分のよく見知った姿をしているのかという質問に対しては、肩を竦めて断定はできないけど、と前置きし、
「この概念と言えば『彼』だとイコールで括られるような、そんな境地にまで至った人が原型なのかも知れないね」
とのたまった。
名状しがたい表情を浮かべるアーチャーに、ダ・ヴィンチちゃんはウィンクを一つ投げてよこすと楽しそうに笑った。
アーチャーを支えているソレは人の姿をした概念礼装、その名をリミテッド/ゼロオーバーといった。
そしてその姿は、アーチャーこと英霊エミヤのかつての姿、即ち衛宮士郎と呼ばれた人間の姿をしているのだった。
硬い表情で自分を見ているアーチャーに気づいたリミテッド/ゼロオーバーは、彼にニコッと笑いかけた。
それに笑い返すなどできるはずもなく、強張ったままの顔をアーチャーはふいと逸らした。
かつての自分の姿をしながら、自分とはまた違う果てに到達したらしい彼に対して抱く複雑な感情をアーチャーは持て余していた。
概念礼装には人としての人格や意思はないらしく、直接意思や会話を交わす事は通常できなかったが、ソレは時折このようにアーチャーに対して笑いかけたり、何かを言いたげに見つめてきたりする事があった。
そのことについては、ダ・ヴィンチちゃんにもドクター・ロマンにもハッキリとした理由は分からないようだった。
「まあ、あの子は君と深い関わりがあるみたいだし、そういうものなのかもね。もしかしたら、そのうちきちんと会話もできるようになるかもしれないよ?それはそれで楽しみだ。そうなったら真っ先に教えてくれよ?」
無責任にからからと笑うダ・ヴィンチちゃんと思わずジト目になるアーチャーを、ドクター・ロマンは生温かい笑みで一歩離れて眺めていた。
「凄かった!あんなにエミヤの宝具の威力がアップするなんて…!」
アーチャーとリミテッド/ゼロオーバーの組み合わせを実戦で試してみようと、素材収集を兼ねたレイシフトを行った帰路。
アーチャーの消耗の様子からこれ以上の戦闘続行は不可と判断したマスターはカルデアへの帰還を即決した。
しかし彼とこの概念礼装の組み合わせの成果は想定以上で、マスターは興奮気味にその感想をマシュにまくし立てていた。
申し訳無さそうな表情を向けるマシュに、曖昧に笑い返してみせるアーチャーは、カルデアへ帰還完了する頃には自力で立てるくらいには回復していた。
そのカルデアの廊下、トレーニングルームから出てきた一団に自分と同じように色の褪せた白髪を見つけてギクリとアーチャーは足を止めた。
それは先の特異点での戦闘後に召喚されたアサシンのサーヴァントだった。
同じエミヤの名を持つ彼に対し、何らかのわだかまりを持っているらしいアーチャーを慮り、マスターは二人が極力接しないよう気を使ってくれていた。
だからこの時も先の一団に道を譲り、通り過ぎるのを傍に避けて待っていた。
その時、
「あ、切嗣だ」
ぽつりと聞こえた言葉に、ギョッとしてアーチャーは隣に立つリミテッド/ゼロオーバーを見た。
「こんなとこで何してるんだろ?おーい、じいさ」
手を上げて呼び掛けようとするのを慌てて口を塞いで止める。
「やめんか!」
「もがもが?」
口を塞がれているため視線で尋ねてくるのに、アーチャーには説明すべき言葉が見つからず、それ以上にソレが喋った事にほとんどパニックに陥りかけていた。
だが、振り返ったマスターの怪訝そうな顔に我に帰ると、暇を告げてその場を早足で立ち去る。
もちろん、リミテッド/ゼロオーバーも引きずるように連れて行く。
後に残されたマスターとマシュはきょとんとした顔で二人を見送ると顔を見合わせた。
「――というわけで、あれは聖杯戦争に参加しなかった世界線の衛宮切嗣が、限定的な状況で守護者として召し上げられたものだ。お前の知っている衛宮切嗣とは全くの別人と思っていい」
「そうなんだ…。そんなことってあるんだな…」
一応の疑問は解消したらしいリミテッド/ゼロオーバーは、だが、まだどこか完全に納得できないようで首をひねっている。
かくいうアーチャー自身、アサシンエミヤの存在するこの状況も自分の複雑な感情もきちんと整理できている訳ではなかったが、ここは自分のあれそれには見ないふりで蓋をした。
代わりに、その説明の間にアーチャーはこの状況を幾分かは冷静に考えられるようになっていた。
その分析の末に出た仮定は自分でも認め難いものだったが、それを確認する為に彼はソレへと問いかけた。
「それでお前はなんだ?概念礼装が喋るなんて初耳だぞ。それともまさか、自分は『衛宮士郎だ』とでもいうんじゃないだろうな?」
「…お前、顔が怖いぞ」
「茶化すな」
ピシャリと返されるのに小さく肩をすくめると、リミテッド/ゼロオーバーはアーチャーに向き直った。
「俺は、リミテッド/ゼロオーバーとお前たちが呼んでいるものだよ。概念礼装というんだったか」
けど、と続けるその顔は強い意思を持ってアーチャーを見る。
「お前の言った通り、今はその元になった『衛宮士郎』の人格と記憶もあるみたいだ。なぜかは分からないけど」
「!」
にわかには信じ難い話だった。
だが、彼の姿形は確かに衛宮士郎のもので、自分に至らなかったあの男の、また一つの可能性なのだろうとどこかで納得していたのも事実だった。
それでも、ヒトガタとはいえ概念が形を取ったというだけの礼装が、まさかオリジナルの人格や記憶を持つなんて事があるのだろうかと疑わしげに彼を見てしまう。
そのアーチャーに彼は柔らかく笑いかけた。
向けられる笑顔に強い既視感を覚え、同時に湧き上がってくる奇妙な感情にアーチャーは戸惑った。
しかしすぐに、
「衛宮士郎、だと…?」
その顔が嫌そうに顰められた。
「わぁ…その反応!?それ、めっちゃ、へこむんですけど…?」
リミテッド/ゼロオーバーはぼやきながらもどこか楽しげだ。
再びアーチャーを強い既視感が襲う。
――オレはいつかもこいつとこんな掛け合いをした事が…?
考えに沈みかけたアーチャーは、触れる手の感触にはっとして顔を上げた。
すぐ目の前にリミテッド/ゼロオーバーが立ち、自分の頬に手を触れている。
さらに覗き込むように顔を寄せると、片方の手も反対側の頬に触れてきた。
そのてのひらがアーチャーの顔を包み込むように柔らかく固定した。
強い力ではない。簡単に振り払えそうなそれにアーチャーは一瞬迷う。
だが、真っ直ぐにこちらを見つめるその目と静かな表情に、ふ、とアーチャーはその肩の力を抜いた。
その様子に目元を和らげると、自称衛宮士郎だという概念礼装はぽつりと言った。
「ああ、アーチャー、だ」
その声も顔もあまりに嬉しそうで、それをアーチャーは不思議に思う。
なぜ、衛宮士郎(を自称する概念礼装)が自分をこんな顔で見るのだろう。
大切なものに対するように触れるのだろうか。
ただ一方的に見つめ続けられる状況に、アーチャーが落ち着かなさを覚え始めた頃、ようやくその頬から手が離れる。
「アーチャー、お前、衛宮士郎の事を覚えてるか?」
少しだけ距離をとったリミテッド/ゼロオーバーがアーチャーに問いかける。
今更だが、アーチャーは彼が自分とそんなに身長が違わないことに気がついた。
だが、それよりもその質問の内容に僅かに眉を寄せた。
「――覚えてるも何もないと思うが?」
呆れたような声に、だよなと笑う。
「悪い、言い方変えるよ。お前、冬木に現界した時に衛宮士郎と接した記憶って何かあるか?」
「いや。そもそも、サーヴァントには現界時の記憶は残らないものだ」
「ああ、まぁ、そうなんだけど。じゃあ、えっと、俺が覚えていることを話すな」
あっさりと否定するアーチャーの姿に苦笑すると、リミテッド/ゼロオーバーは部屋を横切りベッドに座り込んだ。
ぽんぽんと横に座るようにアーチャーを促す。
その気安い感じに一瞬むっとするアーチャーだったが、じっと自分を待つ彼に小さく息をつくとその隣に腰を下ろした。
隣に座る仏頂面に嬉しそうに少しだけ笑いかけると、リミテッド/ゼロオーバーは話し始めた。
「さっきお前が言った、違う世界線の話だと思ってくれて良いから」
「聖杯戦争が終わって、座に帰ろうとするお前を留めようと俺はお前と契約した。
――最初は、色々と大変だった、それはもう、本当に、ものすごく……!」
遠い目をする彼に、だろうな、と他人事のようにアーチャーは思う。
そもそも、衛宮士郎と契約する自分が全くといっていいほど想像できない。
できないが、もし、やむを得ない事情があったとしても、自分は物凄く反発しただろう事は容易に想像できた。
「でもまあ、なんやかやあって、俺たちは二人で旅に出たんだ」
「待て、お前、今ものすごく大事な部分をものすごく適当に端折ったぞ?」
アーチャーのつっこみに、曖昧に笑い返すとリミテッド/ゼロオーバーは話を続ける。
スルーか、という呟きは完全に無視された。
「その道程で俺は『正義の味方』にならない道を選択した」
「何?」
「自分の望みを追い求めて、それのみをただひたすらに追求し、そして果てた。だから『これ』に至った、…んだと思う」
「なぜ最後だけ自信無さげなんだ?」
「だって、俺はただ満足して死んだだけだから。その後の事は正直よく分からないよ。こんな風にカタチをとっていた事だって。さっき初めて人格らしいものを得て、そうだと認識したばかりなんだからな。ちなみにさっきって、あの戦闘中な。急なことで状況が分からずに、お前の限界を超えてまで強化させちまって悪かった」
「じゃあ、あの無茶な強化はお前の暴走だったのか?」
「そうなるな」
「そうか。では、マスターには後で説明しておかないと。毎度あんな威力を期待されても困るとな」
「そうしてくれ」
状況は分かったが、コレがこうなっている原因も対処も分からないままだ。
――さて、どうするべきか。
そこで、アーチャーは肝心のことについて聞いていないことに気付いた。
「それで、衛宮士郎の根幹である『正義の味方になる』という望みを捨ててまで選んだお前の望みとは一体なんだ?」
「あー、まあ、そりゃ当然聞くよな…。えっと、その前に見せたい物があるんだけど、いいか?」
頷くアーチャーに目をやったリミテッド/ゼロオーバーが、ふとその顔に目を留めた。
自分の顔をじっと見つめて何かを測っているらしいのに気づいてアーチャーは眉根を寄せる。
「何だ?」
「お前、魔力ほとんど空っけつじゃないか?なんで戻ってきたのに回復してないんだ?」
「なぜって、必要ないだろう?今日はもう出動はないとマスターも言っていたし。最低限の魔力はちゃんと確保しているので日常生活に支障はないし。そもそも、ここも限りある魔力と電力でなんとか賄っている現状なんだ。極力無駄は抑えるべきだろう?」
「無駄ってお前なぁ…」
リミテッド/ゼロオーバーは呆れたようにため息をつくと、人間らしい仕種で額を押さえた。
魔力の不足はサーヴァントにとってはその存在の維持がかかった最大の懸念事項だ。
それへの飢餓感は人間の空腹感の比ではない。それをこの弓兵のサーヴァントは無駄だと言って耐えているのだ。
「お前、やっぱりアーチャーなんだなぁ」
しみじみとため息をつかれて、むっとしたアーチャーは、話の続きを促そうとリミテッド/ゼロオーバーに向き直る。
「おい、そんなことより、んんっ…!?」
開きかけた口を突然塞がれて目を見開いた。
塞いでいるのはリミテッド/ゼロオーバーの口で、つまりアーチャーはくちづけを受けているのだった。
ぬるりとした感触が唇の表面を撫で、それが相手の舌だと気付いた瞬間、慌てて顔を逸らした。
「き、貴様、いきなり何の真似だ!?」
「何って俺の魔力を分けようと思ったんだけど?体液を介した魔力供給が一番手っ取り早いだろ?」
「たっ、まっ!?」
赤い顔でアーチャーが固まったのを良いことにその顎を掴むと、リミテッド/ゼロオーバーはふたたびアーチャーに顔を寄せた。
そのまま口を塞ぐと開いたままの口へ舌を差し込む。
粘膜を粘膜が擦る、ぬるついた感触にぞわりと痺れるような感覚が首の後ろを走り、アーチャーは身体を震わせた。
口内に押し入った舌はアーチャーのものを捕らえるとそのまま絡み合わせる。
敏感な粘膜同士の接触と塗り込められる唾液に含まれる魔力の甘美さに酩酊感を覚えて、アーチャーの思考は白く霞んでいく。んん、と鼻に抜ける声を出したのは全くの無意識だった。
だから、いつの間にかリミテッド/ゼロオーバーが顔を離して、自分の顔を見ている事にもしばらく気づかなかった。
「どうだ?」
耳に届く言葉にはっと我に帰ると、ごく間近で琥珀色がこちらを覗き込んでいて、カッと自分の顔に血が昇るのが分かった。
濡れた口元を手の甲で押さえるように隠し、アーチャーは相手を睨みつける。
だが、予想に反して揶揄するような表情はそこにはなく、むしろこちらの状況を冷静に測るその姿にアーチャーは戸惑う。
「き、貴様…!」
動揺を隠すために眼差しをきつくしてリミテッド/ゼロオーバーを見やるアーチャーに、
「『お前』はこういう魔力供給は初めてか?言っておくが、魔力の直接供給は一番有用な手段だぞ。俺たちはそうやってきたし、俺のアーチャーもそれは納得してた。それは、かつて魔術師だったお前だって身に覚えがあるはずだ」
と指摘する。
「まあでも、予告もなしにいきなりなのは悪かった」
次からは気をつける、と笑うリミテッド/ゼロオーバーに他意は感じられず、アーチャーは拍子抜けする。
「いや、予告されても正直対応に困る。ただ、次からはできれば別の手段にしてくれ」
「ああ」
困惑しながらも素直に返すアーチャーに苦笑しながら頷くと、リミテッド/ゼロオーバーは自身のてのひらに視線を落とした。
「少し待ってくれ」
そこに魔力の集積を感じ、アーチャーは彼が何かを投影しているのだと察する。
間もなくそこに一振りの刀が顕現し、無言で差し出されたそれをアーチャーは手に取った。
なるほど、このための魔力供給かと納得しながら刀へ魔力を通して解析していく。
それは、取り立ててなんの特徴もない無銘の刀だった。
いずこかの英雄の持ち物だったこともなければ、華々しい逸話も特別な能力を持っているわけでもない。
だが、その刀を解析したアーチャーには分かった。
それを鍛造し、そして生涯振るい続けた愚かな男を、彼は誰よりもよく知っていた。
刀の記憶を読み、その男が幼い頃からの願いを捨ててまで生涯をかけて追い求めたものが何かを知って、アーチャーの表情が険しく苦々しいものに変わっていく。
「お前は、救いようのない大馬鹿だ……!」
呻くような小さな声が耳に届き、リミテッド/ゼロオーバーは顔を覆って俯いている男を静かに見た。
「ああ、知ってる」
アーチャーは刀を通してそれを見た。
英霊エミヤを超えたいと願い、その生涯を掛けてただひたすらに鍛錬に打ち込む衛宮士郎の姿を。
「オレを、サーヴァントを、人の身で超えようとするなど、考えるまでもない、不可能だ」
「だろうな。でも、できっこないからと諦めるなんて俺にはできなかった。だって、お前だってそうやってそこに至ったじゃないか。だから俺も目指した。それだけの話だ」
「それだけだと!?」
がばっ、と音がしそうな勢いで顔を上げると、アーチャーはリミテッド/ゼロオーバーに詰め寄った。
「叶うはずもない馬鹿な望みのために、お前は何を犠牲にした!?誰かを救うためではない、ただオレを超えたいという、そのためだけに刀を鍛え、自身を鍛え、そして一生をも捧げて。たまらなく無駄で愚かだ」
「俺が馬鹿なのは否定しないよ。お前を超えたいという願いがどうしようもなく利己的なのも理解してる。それでもそれを無駄だなんて、お前が言うなよ。お前は俺が文字通り生涯を掛けて目指した『理想』なんだぞ」
そう言ってまっすぐに自分を見つめる琥珀の瞳にアーチャーは息をのむ。
――ああ、自分はこの目を知っている。
分霊であるサーヴァントに通常、現界時の記憶は残らない。
せいぜい起こった出来事が記録として座に蓄積されるのみだ。
だが、自分は確かにどこかでこの瞳と対峙した覚えがある、とアーチャーは確信した。
もちろん、この現界ではない。
もしかしたらこれはこいつのいう『俺のアーチャー』の記憶なのかもしれないと思いあたり、それは妙にすとんと納得できた。
睨み合いはそう長くは続かなかった。
「アーチャー」
リミテッド/ゼロオーバーが、ふ、と表情を緩めたからだ。
呼ばれたアーチャーの顔に怪訝そうな表情が浮かぶ。
「俺はサーヴァントじゃないし、こんな状態がいつまで続くか分からないから、今言っておくな」
そう言葉を切ると、リミテッド/ゼロオーバーは先ほどのようにアーチャーの頬に手を沿わせた。
「こんな時に不謹慎だ、とお前はまた怒るかもしれないけど、俺はこんな風にお前とまた話ができて嬉しいよ。いや、今どんな状況かは分かってるって」
口を開こうとしたアーチャーを制し、続ける。
「でもさ、お前が『世界を救う』ために戦っているなんて、これってすごいことじゃないか?そして、そこにこうして俺も共に在れることが本当に嬉しいんだ」
と、屈託なく笑う概念礼装はかつての自分と同じ顔をしていながら、自分よりよほど人間らしいとアーチャーには感じられた。
そして、この原形となった衛宮士郎もまた、人間として自分の望みを最後まで貫き通したのだ。
――そうか、お前は人として生き、最後まで人のまま死んだんだな。
「アーチャー?」
リミテッド/ゼロオーバーはアーチャーの顔からいつの間にか険がなくなっているのに気付いた。
その手が自分の頬に触れ、柔らかい笑顔を向けてくるのに目を瞬かせた。
End