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リミゼロくんとエミヤさんとイシュタルさんにフォーマル凛さん/Novel by いちあき

リミゼロくんとエミヤさんとイシュタルさんにフォーマル凛さん

15,741 character(s)31 mins

インテ無配でした。お手にとっていただいた方々ありがとうございました。
エミヤが相手するキャラによって無名になったりするってことは他の世界の記録もしくは記憶を所持してるってことだよね? どこまで所持してるんだろう? まぁテラリンで平行世界渡り歩いていたりするし、もしかして、士弓時空世界をどこかに持っている可能性もあるし、エミヤができるなら士郎さんにも出来るんじゃね?という超展開を脳内で繰り広げてこのザマ。

弓凛属性も持ち合わせているので、イシュタル出番多めです。
そして弊デアにはパールが未だに来てないので、パールとイマジナリの実体化は実現しない……

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 青白い光を放つ召喚陣を前に呼符を額に押し当てながら、人類第後のマスターは祈っていた。
 切実に、痛切に、逼迫したこのカルデアの状況を打破するための女神に対して祈り続けていた。

 目標はイシュタル一点引き。
 1.6%の確立に打ち勝たなければ後がない。

 事実これまで爆死したマナプリズムという名のメロンゼリーは召喚室の端に山と積まれており、触媒という名目で背後に控えるエミヤの視線が針のようにチリチリとマスターの項に突き刺さっている。

「次で終わりだぞ、マスター。これで来なかったら彼女とは縁がなかったものと考えて綺麗さっぱり諦めることだ」

 冷ややかなエミヤの声。正直なところエミヤにしてみれば顔見知りが増えるのはたまったものではない。
 しかも知っている顔だが中身は違うという変化球だ。顔を合わせてもどのような態度を取れば良いのか分からない。
 だがしかし、マスターとしては戦闘中に凛と同じ顔をした女神とエミヤを並び立たせたいらしい。イシュタルにエミヤを「アーチャー」と呼ばせたいとかこの間叫んでいたことを思い出す。

 しかし、マスター自身もそれぞれの特異点で縁を結んだとしてもカルデアに招き入れられるかどうかは運次第というのも理解していた。

 タイムシフト教、光源教、極大成功教、マイルーム触媒教、舞教、マフィア梶○教、○OKIO待受教……様々な方法を試しての結果がメロンゼリーの山。出てくる時には出てくるし、出てこない時には本当に出てこないのが世の常というのも十二分に理解しているはずだが、それでも欲望を抑えきれないのは若さゆえの過ちなのか。

 一応ゆかりの者として、『フォーマルクラフト』を装備したエミヤが連れてこられたのはもう三十分も前になる。

 自慢ではないが幸運Eだ
 偶然出てきたベティヴィエール3人目と欠片礼装、フォーマルクラフトにはマスターも歓声を上げたが、それ以外にはなしの礫。40枚貯めていた呼符も最後の一枚になり、次は財布を開かねばならん、という状況に置かれればマスターの狂気じみた切実さも増すというもの。

 無課金で人理修復出来なくもないのだが、このマスターには無(駄じゃない)課金をしているんだと主張する。マスターの貯蓄を心配し度々忠告するのはいつもエミヤかロビンの役目だが、マスターが召喚に狂ってしまえばその忠告など無力に等しい。

「あーーーーーーーーーーーーーー、マジで来てください女神様ぁあああああああああ。
 美しい美の女神、ちょっとポンコツだけどそこが魅力的なイシュタルううううううううう。
 来てくれなかったらあなた用に貯めていた聖杯をエミヤとロビンとエウエウに捧げることになりますよ、それでも良いんですかあああああああ。
 ☆4フォウ君も捧げて最強のアーチャー育てますけどおおおおおおお。
 ついでにキッドとお米マンも育てちゃいますよおおおおお、あなた用の種火みんな食っちまいますからねぇええええええ」

 祈りなのか、呪いなのか、恨み言なのか分からない叫びを肺のそこから絞り出すようにして吐き出したマスターはようやく召喚陣の前に呼符を置く。そして召喚陣の中心をきりりとした眼差しで見据え、令呪が刻まれた左手をかざし、召喚の詠唱を唱え始めた。

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
 祖には我が大師シュバインオーグ。
 降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
 閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
 繰り返すつどに五度。
 ただ、満たされる刻を破却する。
――――告げる。
 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 マスターの呼びかけに応じて、魔力とカルデアの電力がフル回転する。その光は渦となり、召喚対象の滲み出た魔力と合わさりやがて一本の輪となった。それまでの経験則からその結果が予想出来てしまった。――礼装だ。

「誓いを此処に。
 我は常世総ての善と成る者、
 我は常世総ての悪を敷く者」

 それでも一度始めた詠唱は止めることが出来ない。
 一度やってしまった召喚には最後まで責任を持たなければならないのだ。

「汝三大の言霊を纏うななてん、
 抑止の輪より来たぅれ、天秤の守り手よ!」

 もう何回も唱えているせいか、早口で言ったためか、少々呂律が回っていなかった上に詠唱も間違えていた気がしたが、それでも召喚は成功したようだ。
 光の輪から現れたものを見て先程までの意気消沈はどこへやら、マスターのテンションは最高潮に達する。

「リミゼロ!!エミヤ!リミゼロ!!」

 最高ランクの礼装と名高いリミテッド/ゼロオーバー、略してリミゼロ。
 礼装の種類は数多くあれど、リミゼロはこのカルデアでは初めて迎える礼装だ。
 衛宮士郎がいづれ辿り着く、無限超える無元の剣製。マスターから見せられた時の感想は、悪くない、の一言に尽きる。
 英霊エミヤとは違う道を歩んだ果ての概念、己自身が燃えているかのような赤い髪、鋼のように鍛え上げられた肉体。
 その道は未だ歩みを止めず、鉄を打ち続けているのだろう。
 未だに答えにたどり着いてはいないのかもしれない。
 しかし、違う道を歩み、奴の信じる決意を悪し様に言う資格もなければ感情も持ち合わせていない。
 かと言って手放しで褒められる程、人間が出来ていない。

「冬木の時から存在だけは確認していたけど、もううちには縁のないものとばかり思っていたのに……」
「まぁ、君が良いというなら良かったんじゃないか?」

 感動しているマスターを横目にエミヤの口からはそのような言葉しか出てこなかった。
 実際、リミゼロ以上の性能を持つ礼装は多々ある。今更来ても……というのが正直な感想だ。

 一応クリティカルスキル持ちのバスター宝具サーヴァントに持たせたらまだ使い所はあるだろうが応用が効かない。
 しかしこれはこれでアタリの範囲に入ってくるのではないだろうか、というのはマスターの言。

「流れはきている。確実に来ている!!ちょっと、エミヤこれ持ってて。もしかしたらあと10連回せばイシュタル来るかも!」

 薬でもキメているのではないか、というほどにヒャッハー状態のマスターがエミヤに礼装を押し付け、「待ちたまえ!マスター!」というエミヤの呼びかけも無視して召喚室を飛び出していった。

 残されたエミヤは、慌ててマスターの財布の中の諭吉さんの救助に向かおうとしたのだが、慌てすぎたためかリミゼロ礼装が手元からすり抜けてしまった。

「おっと……」

 折角マスターが喜んだ礼装だ。例えあの未熟者の礼装といえども無下には出来ない。
 エミヤが何気なく拾おうとした矢先、静電気が弾ける音と共に、エミヤの内包している魔力がごっそりと礼装に吸われた。

「何?」

 力の抜ける感触にたたらを踏みながら、その怪しげな礼装を警戒する。
 礼装はエミヤが持ち上げていないというのに、勝手に空中に浮き上がり、魔力を放出させていた。

 過去様々な礼装に触れてきたが、そんな状況に陥ることは一度たりとも無かった。
 もしかすると、これはあの黒聖杯礼装のように厄介な礼装なのかもしれない。
 エミヤにだけ影響を及ぼすような礼装とは聞いたことがないが、ありえなくはない。
 エミヤの中で警鐘はこれでもかという程に鳴っていた。

 早急にマナプリズムに替えるべきだ。

 幸いにして有能な礼装は腐る程ある。
 もう一度触れたら今度こそエミヤの魔力はなくなるかもしれないが霊核にまで影響を及ぼすことはないだろう。

 覚悟を持って、それに触れる。
 バチッ!と音を立てて魔力がそれに吸われていくのを感じた瞬間、それは粒子となって溶け始めた。

 エミヤの内包する魔力を吸収しすぎた上の自己崩壊か?
 エミヤとしてはそれは願ったり叶ったりという状況だが、代償が一歩も動けない程の魔力というのは如何程のものか。
 もう二度とマスターにはリミゼロを召喚させないようにしないと、という決意を新たに決める。
 体のいたるところから力が抜け、もう立っていられないエミヤは召喚室の床に倒れることを覚悟して目を瞑った。


 しかし、予想していた衝撃はエミヤの体に当たることなく、代わりにエミヤの腰を支える力強い腕の感触を感じる。
 大きな布がはためく音。誰かが倒れる寸前のエミヤを支えた、にしてもこの場にはエミヤ以外の人間はいないはずだ。
 力の抜けた瞼を押し上げ、エミヤを助けた人物を確認すると、そこには赤髪の精悍な顔つきをした衛宮士郎の姿があった。

「……っ?!」

 先程まで弛緩していた体に一気に緊張が走る。
 驚愕の表情を浮かべているエミヤとはうらはらに、衛宮士郎は困ったように頬をかき、明後日の方向に目を向けながら「あー…、久しぶりだな? アーチャー」と呑気なことを呟いた。

「……衛宮士郎?」

 予想もつかない出来事に呆然としながらも、エミヤが名前を呼ぶと、何が嬉しいのか少し照れた様子で「ああ、お前の知ってる衛宮士郎だ。今の霊基はリミテッド/ゼロオーバーっていう名前らしいけど」と宣う。
 その名前は先程召喚を果たした礼装の名前だ。

「どういうことだ」
「いや、俺にも状況がさっぱりだ」

 とにかく立てるか、アーチャー。との声に、なんとかバランスを立て直し、体を直立の姿勢に持っていく。
 しかし、油断すればすぐさま倒れそうな体に衛宮士郎……いや、リミテッド/ゼロオーバーは眉を潜め「すまん、俺がお前の魔力を吸いすぎたせいだな」と呟く。

「貴様に憐れまれるとは、オレも堕ちたものだな」
「謝罪の言葉ぐらい素直に受け取れよ。ついでに俺の魔力余ってるみたいだからお前に返すぞ」

 そう告げられ、有無を言わさず胸ぐらを捕まれ、口元を引き寄せられる。
 口内体液からの魔力供給を考えたのだろう。しかし、エミヤは男、衛宮士郎も男、それしか現状は方法が無いにしても、随分と思い切りが良すぎる。
 しかも先程まで立つのがやっとの身が急にバランスを崩され、まともにたっていられる筈がない。
 リミゼロに引き寄せられるがままに、体が傾いた。リミゼロもそこまでエミヤが弱っていたことに気づかなかったのか、とっさに体重を受け止められず、エミヤがリミゼロを押し倒す形となってしまった。


 そして、そういう時に限って召喚室の扉が開かれる。

 腕いっぱいに虹色の聖召石を抱えたマスターは、エミヤがリミゼロと似た青年を押し倒している様子を見て、足を止めたが、何も言わずに召喚陣に石を溶かし始めた。
 逆に何も言ってくれないことが辛い。いや、何か言われても、いたたまれないことには変わりがないのだが。

「待て、マスター。これは事故だ」

 召喚の儀式を始めようとしているマスターに対し、エミヤが咄嗟に口走った言い訳は事実であるが、ありきたりな台詞にしか聞こえなかったことだろう。

「大丈夫、大丈夫。大方の事情は把握してるから。それよりも今は実体化したリミゼロとエミヤとフォーマルクラフトでこれ以上ない触媒が揃ったってことでしょ。これはいける。イシュタル呼べる」

 大丈夫でもなんでもない。事情は把握している、とはどのような事情をどのように把握しているのか。はっきり言って不安しかないのだが、召喚の儀式を開始したマスターに何を呼びかけても無駄というもの。

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公――」

 そしてこともあろうに、召喚一発目で虹の後輪が現れた。
 クラスカードはアーチャー。そして現れたのは。


「女神イシュタル、召喚に応じ参上したわ。美の女神にして金星を司るもの。豊穣、戦い、破壊をも司るこの私をせいぜい敬い――「イシュタルううううううう!!久しぶりいいいい!!やっと来てくれたーーー!!」
「……は? 久しぶり? なに言ってるの、アナタの事なんてこれっぽっちも……知らない、けど……まあ、人間にしては悪くないじゃない。生意気にも」
「イシュタルううううううう!!」

 素肌を晒している腰に抱きつくマスターを邪険に扱う事もできず戸惑うかつてのマスターと同じ顔をしている金星の女神は、まだ床でくんずほぐれず状態となっていたエミヤとリミゼロを見た瞬間「そこの二人、折角私が来てあげたっていうのに何をそこで乳繰り合ってるのよ」とエミヤの心にクリティカルヒットを与えてきた。

「え、遠坂がサーヴァント……?」

 クリティカルヒットを与えられたのはエミヤ一人だけだったらしい。
 理解が追いついていないのか、疑問符を浮かべるリミゼロに対し「たわけ」と叱咤するぐらいしか出来ない今の体が恨めしい。
「あの女神と凛を同一視すると痛い目にあうぞ。彼女は凛の姿をしているが中身は凛よりも凶悪な女神だ。あのギルガメッシュでさえ忌避する存在を好き好んで引き入れたいと考える酔狂な存在はマスターだけだ」

 触らぬ神に祟りなしというだろう、下手に関わるとどんなことが起こるか。リミゼロだけに聞こえる声量に抑え、忠告したはずだったのだが、腐ってもあかいあくまの地獄耳は健在だったらしい。

「あら、言ってくれるじゃない。そこの赤いアーチャー。でもそれは事実だから。せいぜい私を崇めなさい。とにかく今は乳繰り合うよりも、私を敬うことが先じゃないの?」
「下品な言葉は口にしないほうがいいと提言しよう、金星の女神よ。君の品性が問われるぞ。そしてこれには事情があってだな……」
「あ、ごめんエミヤ。忘れてた」

 ようやくイシュタルを召喚できた嬉しさから舞い上がっていた意識を現実に引き戻したのか、マスターがイシュタルから離れ、令呪を一角消費し、エミヤの体に魔力を充填させる。
 ちゃんと事情は正しく把握していたらしい。どういう経緯で把握したのかはあまり知りたくないが。

 リミゼロの体から身を起こし、一息つくエミヤに対し、イシュタルは何か面白いものを見つけたようににんまりと笑みを浮かべた。
 背筋を駆け上がる悪寒に「感謝するよ、マスター。貴重な令呪を使わせた」と皮肉9割、真心1割の言葉を残して足早に立ち去ろうとしたが、その前に「アーチャー」と凛の声で呼びかけられ思わず歩を止め振り向いてしまう。

「さっきのこの女神に対する不敬、どう償って貰おうかしら」

 悪巧みを考えている顔は凛そのもの。その瞳が神性に染まり赤くなければ、余計なことは考えるなと小言の一つも与えたくなっていただろう。

「ああ、すまなかった。女神に対して、不適切な言動は今後改めよう」

 謝罪を口にし、用は済んだとばかりに扉に向かうアーチャーの頬を何かがかすめ、召喚室の壁に大きな黒いシミをぶちまけた。

 魔力が充填している召喚室だ。
 召喚するサーヴァントがサーヴァントなだけに、多少の傷は予測され自己修復プログラムの術式が展開されているが、イシュタルの指から発射された黒ずんだ呪いはそれを吸収し、修復されるまで僅かな時間を要する。
 頬をかすめただけでも肌が焼けたそれをまともに食らっていたならば、どんなことになっていたか。
 いくら心眼を用いても避けられないものは避けられない。しかも耐魔力Eのこの体が打ち勝てる要素などある分けがない。

「話はまだ終わってないわよ、人類の守護者さん。口先だけの謝罪で私が満足すると思ってる? 随分とおめでたいことね」

 動きを止めたエミヤに対し、女神はこれでもかというほどに美しい笑みを浮かべた。

「私に許して欲しいっていうなら、私の満足するような貢物を用意してもらわないと、ね?」

 まるで肩がぶつかっただけだと言うのに多大な医療費を請求するヤクザのようだ。いや、肩すらぶつかっていないのだから、そこイラのヤクザよりも質が悪いとも言える。
 エミヤはふむ、とまだ床に座ったままでいるリミゼロを見やり、軽く指をさした。

「これはどうだろうか。腐っても礼装だ。君とも相性が悪くないと思うのだがね」
「おい」

 モノ扱いされたリミゼロから、抗議の声が上がるが、エミヤは聞かなかったことにした。

 気性の荒い女性の扱いにかけて、この男以上の存在をエミヤは知らない。
 なんせ気性の荒い女性がこの男のことになると途端に大人しくなる。
 少なくとも気性の荒さは5割減ぐらいにはなるだろう。それだけほおっておけない存在というのは貴重だ。

 面倒事になる前に、破れ鍋に綴じ蓋的な組み合わせで押し止めようという魂胆は「自立する礼装ねぇ……面白いしろものではあるけれど、どうせなら金目のものの方が私としてはいいというか。
 刀剣の類の価値ってイマイチよくわからないのよね」という言葉に無残にも打ち砕かれた。
 内心で舌打ちをしながら、そうとは悟られないように口の端を皮肉に上げる面の皮の厚さを育てた自分を褒めてやりたい。」
「しかし、金目のものと言っても私は英霊だ。基本的には無一文なのだが」
「礼装、いいもの持ってんじゃないの?」
「……私の礼装にそれほどの価値はないと思うのだが」
「女神の前で嘘をついても無意味よ。それだけ宝石の匂いプンプンさせといて、白々しい」

 宝石の匂い、と聞いて思い当たるのはフォーマルクラフトだ。
 宝石魔術に特化した五大元素の特性を全て併せ持つアベレージワン。
 既にレベルが最高値にまでなっている礼装から滲み出る魔力は隠しようがないらしい。
 宝石を持ち歩いているようなものと言ってもおかしくはないだろう。

「これか」

 イシュタルに掲げてみせると、ええ、と頷く。

「しかしこれは君と相性が良いとは……」
「合う、合わないの問題じゃないのよ。私が気になるって言うんだからさっさと渡しなさい。ガンド食らわすわよ」

 いくら人間に憑依しているデミサーヴァントとはいえ、神の力は本物だ。
 しかもその依代が上質な魔力の持ち主なら、その威力は乗算される可能性がある。
 エミヤはため息を付きながら礼装をイシュタルに渡す。

 あら、これって私の依代の姿を写した礼装なのね、流石、宝石にがめつそうな顔してるわ、と言いたい放題言っているイシュタルを目の前にして、リミゼロは「なぁ、アーチャー。俺にはこの女神様と遠坂がどう違うのか分からないんだが……」と戸惑いの声を上げた。

「それだけ凛とこの女神の相性が良かった、ということなのだろうよ。他人だと理解していても判別がつかない程に魂が混ざり合っている可能性もある」

 幸いなことにイシュタルはフォーマルクラフトにご執心の様子で今度は不遜な発言と、咎められることはなかった。ありのままの真実を口にしても問題はないらしい。

「もしかしたら、エミヤとリミゼロみたいにイシュタルと凛もなんかあるかなぁと思ったけど、大丈夫そうだね」

 同じ顔だしもしかして、と構えてたけど、令呪使う程じゃなさそうだし、大丈夫かなぁ、と先程まで空気に徹していたマスターがひっそりと呟いた。

「恐ろしいことを言わないでくれ、マスター。リミテッド/ゼロオーバーの現界、イシュタル神の召喚成功というだけでも私には受け入れがたい。これ以上の厄介事が増えるのは勘弁願いたいね」

 と言った矢先に「ひあっ!」とイシュタルの上ずった悲鳴が電気の弾ける音と共に上がる。
 そして礼装に魔力と電力が胎動し、一人の女性を浮かびあらがらせた。
 蒼く魔力を蓄えた瞳が、赤い神性を纏った瞳を睨みつけている。

「ちょっとアンタねぇ、人の体無断で使っておきながら、散々ないいようじゃないの?誰ががめつそうな顔してるですって? 同じ顔してるアンタも結局はがめついって言ってるようなもんじゃないの。しかもアーチャーから金品せびろうだなんてみみっちぃことしてんじゃないわよ。どうせぶんどるならあの金ピカの財宝盗んでこいとかそういう大きなことをね」

 現界を果たして早速それ。しかもイシュタルの言ってることよりも余計に質の悪い厄介事を口にしているあかいあくま。

 エミヤは頭を抱えた。
 フォーマルクラフトが現界を果たしても、魔力をふんだんに持ち合わせているイシュタルはやはりエミヤと違うのか、最初は凛の啖呵に面食らっていたようだが、徐々に自分を取り戻し、開き直りの姿勢を見せる。

「あら、私だって不可抗力でこうなったのよ。でなかったら人間の体なんて使うはず無いじゃない。しかも人間をマスターにして召喚されるなんて女神にとってはありえない事よ。それにね、全ての金品は私に捧げられて当然のものなの。美しいものは然るべき者の手に収まってこそ本来の輝きを出すというものよ。安心なさい、フォーマルクラフト。アナタの体、私が上手く使ってあげるから。感謝されども、そしりを受ける覚えはないわね。なんて言っても人間ごときがこの私の依代になれたのよ? なんでその名誉が理解出来ないのかしら」

「はぁ?! いくら神様だからって自分勝手っても大概にしておきなさいよ!」
「だって神だもの。私以下の存在の者に一々心を配る必要あると思う?」

 一触即発の雰囲気に秒で発展している現状を見て、エミヤの胃は既にキリキリと痛くなってきているが「大丈夫か、アーチャー」と声を掛けてくるのは憎たらしい顔の男だけという状況はいかがなものか。

「やぁやぁ、随分と面白……興味深いことになっているねぇ」

 と実に楽しそうな声を上げながらやってきた新たなる訪問者、モナ・リザの笑みを湛えながらやってきたレオナルド・ダ・ヴィンチの乱入があってもその調子は変わることがなかった。



「端的に言うと、礼装の霊基とサーヴァントの霊基が同一だからこそ成立した結果だと思われるよ。霊基クラスが高い礼装は魔力量も豊富だ。自己現界しても不思議ではないが、サーヴァントと接触することによってその記録が流れ込み、自我を確立できるのかもしれない。う~ん、これは実に興味深い現象だ」


 場所をダ・ヴィンチ工房に移し、エミヤとリミゼロ、そしてイシュタルと凛の解析を終えたダ・ヴィンチがそう告げる。

「しかし断定するにはまだサンプリングが足りないな。アサシンのエミヤと起源弾でも試してみるかい? あとアイリスフィールと黒聖杯とか」
「勘弁してくれ」

 ダ・ヴィンチが提案した人物を聞いてすぐさま拒否する。これ以上混乱の渦は広げたくない。

「確か起源弾ってエミヤのお義父さんじゃなかったっけ? 会いたいとは思わないの?」

 マスターの何気ない問いに、リミゼロも反応するかと思ったが、予想に反してリミゼロは落ち着いた様子でマスターとエミヤの会話を聞いていた。

「いや、起源弾は私と出会う前の切嗣の姿だ。会っても何も話すことなど無い。アサシンの彼と同じく、私にとって彼は見知らぬ他人なのだから」
「じゃぁ、黒聖杯は?」
「マスター、君はこのカルデアを滅ぼしたいのか」

 その言葉を聞いて察したのか、マスターはこれ以上口を開くことはなかった。

「まぁ、礼装の現界に必要なのはサーヴァントの魔力っていうことだね。別に動いても動かなくても本来の効果は変わらないし、現状問題は見当たらない。君たちの好きにしていいんじゃないかな」

 笑顔でダ・ヴィンチはそう告げる。それじゃ、とマスターが告げたのはイシュタルも含めた彼らの対処はエミヤに一任するということだった。体のいい厄介払いを押し付けられたような気がするのは気の所為だろうか。いいや気の所為ではないはずだ。

 間違いなく丸投げされた。

 マスターとは冬木からの付き合いだ。それなりに気が置けない関係となっている相手の思考は大体把握できる。なんとなく面白そうだから、という理由で一緒くたにされている可能性が高い。

 しかし、任されたエミヤにしてみればたまったものではなかった。
 リミゼロと凛はともかく、問題はイシュタルだ。あのギルガメッシュが関わりたくないという態度を示すような女神はどこに地雷があるのか分かったものではない。
 しかも最大の地雷が側にいる。イシュタルはくってかかる凛を軽くいなしているが、エミヤとしては薄氷の上を歩いている心地だ。
 同じ気性を持つ者同士、気が合ってもおかしくないものなのだが、同族嫌悪はどの人物でも当てはまるものなのだろう。
 同じ霊気を持つ同一人物で仲良くつるむことができるのはクー・フーリン達だけなのかもしれない。
 きっと多分そうなのだろう。隣を歩く、身長の差が縮まった男の事を考えながらしみじみ思う。

 昔はエミヤ達のいがみ合いを『仲良くしろとは言わないけども、少しは大人気ってものを持ちなさいよ』と諌めていた当の本人がこの体たらく。リミゼロも同じ事を考えていたのか「遠坂も人のこと言えないよな……」とぼやく。

 内心では同意しつつも、ここで余計な事は言わないほうが賢明だ。
 案の定「あら、何か言ったかしら。衛宮君」と冷ややかな声が突き刺さる。

「ナンデモアリマセン」

 怯えた返事に満足したのか、凛はそれ以上の追求をしなかった。

 未熟者から少しは成長している様子だが、まだまだ脇は甘い。
 その様子にどこか安堵している己がいた事には気づかないふりをして施設のあちこちを案内しながら廊下を歩く。


 その最中、喫煙ルームの横を通り過ぎた。赤い外套を目深に被り、無骨な鎧に身を包んでいる男が煙草を吸っている。
 その背格好で誰がいるのか理解したのだろう。リミゼロは通り過ぎるまで不躾な程にその姿を見ていたが、相手はその視線を遮断するかの様に頑なにこちらの方に視線を向けようとはしなかった。

「切嗣が、いるんだな」

 ぽそりと呟く。その声に、寂しさや感慨深さというものはない。
 しかし、その何もない感情の中には確かに切嗣に会いたいという思いが根底に隠されているのを知っている。そうでなければこの朴念仁が他人に興味を抱くこともないだろう。
 情緒の発達はまだ今ひとつというぐらいか。自己の願いを極限まで殺し、誰かの為にという生き方はそう簡単に変えられるものでもないらしい。
 エミヤは浅いため息を付きながら「ああ、私達とは別世界の切嗣だがな」と答えた。その会話を耳ざとく聞いていたイシュタルが、背後からリミゼロの頬をつつく。

「ちょっと、さっきは興味ないって顔してたけど、アナタ十分気になってたんじゃないの、リミテッド/ゼロオーバー」

 素直じゃないのね、とからかい気味に話しかけるイシュタルに対し、エミヤと共にこのカルデア生活の長い凛は硬い声でリミゼロに忠告した。

「衛宮君、言っとくけど、彼、本当に別人だから」
「ああ、分かってるよ。遠坂」

 そう頷く声はしっかりとしており、もう喫煙ルームを振り返ることもなかった。
 思わずいいのか、とエミヤが聞いてしまう程に足取りは前へと進んでいる。エミヤの呼びかけに、けろりとした顔で何がだ?と問われてしまってはこちらの立つ瀬がないではないか。

「話しても意味がないって言ったのは、お前じゃないか」

 本人は悪気がないのだろうが、畳み掛けられるといたたまれない。
 無言を返せば、ようやくエミヤがリミゼロの事を気遣っていた事に気がついたのか、ありがとうな、アーチャーと声を上げた。

「やめろ、礼を言われるような事は何もしていない」
「でも俺の事を気遣ってくれたんだろ?」

 何が嬉しいのか口端を緩めている。近くなった目線をあわせるのも癪で、視線を下げれば、傷だらけの肌が目に移る。
 昔はセイバーの鞘のお蔭で傷一つついていなかった。ランサーからの呪いの朱槍を受けた傷もたちどころに癒やしていた体は、どれほどの時を経て、どのような経験を乗り越えたのか。

「どうした? アーチャー」
「いや、なんでもない」

「素直じゃないのはこちらのアーチャーの方も、なのね」

 小声で呟く遠慮もない女神がそう口にすれば凛も合わせて「分かりやすいけど面倒臭いヤツなのよ」とそれに同意する。
 何が分かりやすいというのか、どこを見て面倒くさいというのか。

「あーコレがアレよね? ツンデレってやつ?」
「まぁ、デレの方が大半だけどね」

 先程までの険悪な雰囲気はどこへやら、エミヤに対しての理解者を得たのが楽しいのか、凛はイシュタルと親しげに会話をする。思わず「凛、君とイシュタル神の気が合ってなによりだよ」と口が出てしまった。

「あら、嫌味ならもう少しマシな台詞用意するのね、アーチャー」

「霊長の守護者さん。アナタ、さっきの詫びの品もまだ用意出来てない事、忘れてんじゃないわよね? 」

 余計な口を挟めばその口撃は二倍となって跳ね返る。それを自覚していた筈だというのに、リミゼロに調子を狂わされたお陰か、藪を突いて蛇を出してしまったようだ。

「イシュタル……あんたまだ諦めてないのね」
「何よ、フォーマルクラフト。アナタは一度狙った獲物をすぐに諦められるようなそんな性格なの? チャンスがあるならモノにする。コレは全ての世界の鉄則よ。私は勿論、隙きさえあればじゃんじゃんぶんどりに行くわ。全ての美しいものは私のモノになるべきなんだから、私のものにならない方が可哀想でしょ」
「……そうね」

 あの、遠坂凛が言い負かされている。
 内容が内容なのでもう少し粘って欲しい所なのだが、多くは望むまい。魔術師と無関係な、意外な点に弱いのが遠坂凛という女性の魅力とも言えるだろう。

「イシュタル神、私には君が満足できるような代物というのは想像し難いのだが」
「望んで人類の守護者になるような自己犠牲の塊だものね。どうせ持っているモノはみんな捨ててきたんでしょ」

 人間よりも高位の存在から発せられる言葉は簡単に核心をつき、耳が痛い。その場にいるリミゼロも覚えがあるのか情けない顔を晒していた。
 そんな周囲の表情の変化を物ともせず、イシュタルはエミヤの顔面に指を突きつけ、だからね、と続ける。



「カルデアにいる間に作りなさい。私に捧げるには惜しいと思うような大切なものをね」


 それまでは待ってあげる。女神の寛大な心に感謝しなさい、と告げるイシュタル。
 その内面の三割ぐらいが依代である凛の影響を受けているのか、彼女対する不敬の代償としては随分甘い代物だが、無理難題には変わりない。実に女神らしい無茶苦茶っぷりを発揮しているといってもいいだろう。

 大体作る、と言っても、エミヤが錬成できるのは基本的には刀剣の類になる。
 しかもそれは元の宝剣よりもランクが下がった偽物ばかり。しかも元の魔力が神代のものと比べてば格段に質が落ちるエミヤの魔力で編まれた宝物など、たかがしれている。間違いなく女神は満足しないだろう。



 イシュタルが現界し、数日が経過した。

 腕に寄りを掛けて作った料理は女神の舌を満足させる事には成功したが、消え物はカウントされないらしい。
 しかもイシュタル曰く「私に捧げて満足するようなモノじゃないって言ってるでしょ」ということらしい。

 では人か、と考えてみればエミヤの大切な人物はカルデアのマスターとフォーマルクラフトの凛である。
 それは流石にイシュタルの手には渡せない。なんといっても人類最後のマスターとエミヤの相棒だ。

 しかし、一度その事をイシュタルの前で口にしてみれば、マスターはイシュタルと契約している時点で既にイシュタルのモノとも言えるし、凛は依代だからノーカン扱い、だと告げられた。
 眉間に皺を寄せるエミヤに対し、イシュタルは「そこまで難しいものかしら」とため息まで付く始末。

「なんせ、今まで大切なものというのを作ったことがない」

「そう? あなた、フォーマルクラフトと同じぐらいに気にかけている存在がいるじゃない。それに気が付かない程、朴念仁とは思わなかったけど」

 イシュタルが出したヒントによって、一人の男の姿が思い浮かんだ。
 エミヤの魔力がなければ、このカルデア内を自由に動き回ることも出来ない存在。
 エミヤの眉間の皺がますます険しくなった。

「アレが実体化していると色々と捗る。それだけだ」
「そぉかしら」

 イシュタルは意味深な笑みを浮かべ、まぁ、そういう事にしてあげるわ、とその時は終わった。



 あの女神は何を考えているのだろうか。
 エミヤの中でリミゼロはどうでもいいが、カルデア内ではなくては困るという存在になってしまった為に、ドクターから要請され現界させている。それ以上の深い意味はない。

 ただ、リミゼロは時折後先考えずにカルデア職員に求められるがまま行動し、現界できなくなるという状況に陥る。そのような事態にならない為にもエミヤが監視しているに過ぎない。

 掃除、洗濯、炊事、機械修理と他人の為に働くということを苦に思わず、言われるがままに、求められるがままに行動する。

 その性質は昔から矯正されていないようだ。
 三つ子の魂百までとはよく言ったものだ、と己の事を棚に上げて評価する。
 本来の正しい使われ方をしていない、というのに不満の一つも零さない。


 今もカルデア職員の要請で、電子回路の修理を行っていた。通路の邪魔にならないところに座り込んでハンダゴテを使い、基盤を直している。

 カルデア職員からしてみれば英霊でもない現代人、しかも魔術が使える青年という容貌で親しみやすいというのもあるのだろう。事実エミヤよりもリミゼロの方に依頼が来るというのが多い。

 カルデア職員からそれとなく話を聞いたところによると、エミヤはいつレイシフト要請がかかるか分からない上、やはり腐っても英霊ということで物事を依頼するにしても気が引けるらしい。

 その気持は分からなくもないが、リミゼロには簡単に頼む姿を見る度、それを簡単に引き受けるリミゼロを見る度に、エミヤの中で苛立ちに似た何かを覚えるのも事実だった。

 今まで頼られる相手といえばエミヤぐらいしかまともな人選が無かったところを、人気を横取りされた嫉妬なのだろうとエミヤ自身は考えているが、それを態度に表す程に大人気なくはないはずだ。

「リミテッド/ゼロオーバー」

 リミゼロの名を呼べば、顔を上げる。

「時間だ」
「ああ、ちょっと待ってくれ。もう少しで終わりそうなんだ」

 そうして再び基盤に視線を戻すリミゼロ。既に霊殻の崩壊は始まり、肩に羽織っていた打掛が透けている。
 活動限界は間近だというのに、こいつはこの場から動こうとはしない。
 赤髪を掴み、無理やり顔を上げさせる。そして投影したナイフで切った指を無理やりその口に突っ込んだ。

 リミゼロの舌が傷口に触れ、ぬめりとした感触と、神経を刺激する痛みが伝わる。そこに指を吸われる感触が合わさり、ゆるい刺激をエミヤに与えるが、それは熱になるほどのものではない。
三回ぐらい喉が上下するのを見届けて、その口から指を抜いた。

「悪い、ありがとうな」
「己に非があると思うのなら、無闇矢鱈と依頼を受けるな」
「ああ、次からは気をつけるよ」

 リミゼロはそう答えるが、その約束が守られた試しがない。定期的にエミヤの元に来るように、と再三言っているのにも関わらず、だ。
 そこまでされると、意図的にエミヤからの魔力供給を避けている可能性が浮かび上がる。

「……お前、まさか実体化したくない、というのではあるまいな」

 基盤を弄る手が止まる。

 まさか、本当に?
 そんなエミヤの杞憂を他所に、リミゼロは基盤からハンダゴテを離した。修理自体が終わったらしい。

「いや、このカルデアの職員達や他のサーヴァントと会話するのも楽しいし、こうやって誰かの為に働くことが出来るんだから、実体化は嬉しいぞ」

 基盤を壁に組み込みながら、リミゼロは言う。

「しかし、単に作業に徹しているだけで、己の限界を忘れるはずがないだろう」
「そこはちゃんと気を付けてるんだって」

 本当に、コレが終わればお前の所に行こうと思っていたんだから、と言うが、その言葉も疑わしい。

「お前の実体化継続ははドクターにも頼まれている。オレの手を煩わせるな」
「ああ……」

 リミゼロの視線がまだ血が滴っている指先にいく。

「なんだ? まだ足りないか?」
「いや……毎回お前が傷作るのもな、と思って」
「今更何を。この方法が効率が良く、手っ取り早い」

 何回も回数を重ねているうちに魔力供給のコツも理解してきた。
 膨大な魔力を消費させたのは初めて実体化させた時のみで、それを継続させるのならば大した魔力は必要ない。
 毎回自分の指を切るのは手間だが、それも時間が経てば跡形もなく消え失せるものだ。

「でも、お前が自分で自分を傷つけるのを見るのは嫌だ」

 エミヤには自分自身を道具として扱ってほしくない、効率の為に。自身を傷つけないで欲しい、と宣う。

「ならばどうしろと言うんだ」

 自分自身をモノの様に扱っているのはお互い様であり、リミゼロの我儘でしかない。現状この方法が一番効率が良いことには間違いないのだから。

「あるだろ、他の方法が」

 リミゼロは立ち上がり、エミヤの目を見据えて言った。
 リミゼロの言う他の方法が、どんな物か、と言えば思い当たるのは体液交換。今度はエミヤの顔が険しくなる。

「何を言ってるんだ、お前は」

 エミヤはヘテロだ。リミゼロも同じはずだ。
異性ならともかく同性の、しかも同異体で性交渉を行うなどといった酔狂さは流石に持ち合わせていない。
 しかしエミヤはほんの数日前の事を忘れていた。リミゼロが初めて実体化した時、彼はエミヤから多くの魔力を取りすぎたと言って、何をしようとしていたのか。


 リミゼロの手がエミヤの頬に添えられる。


 近くなった目線。
 溶けた鉄のような明るさを燈す瞳には熱があった。
 そのような瞳で見つめられる理由が分からない。

「なぁ、アーチャー。お前は絶対に信じないと思うけど」

そう前置きをして、奴は衝撃的な事実を明かした。


「俺はお前と付き合っていた世界の衛宮士郎なんだ」




「は?」





 その衝撃的な事実はエミヤの思考を真っ白にさせた。

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