【FGO士弓企画】ご飯を作るリミゼロとエミヤの話
FGO士弓webアンソロジー企画参加作品。
企画の詳細は企画用記事をご参照ください。
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早々たる方々の間に飛び入りで参加させていただいて本当緊張しています…。
何のひねりもないタイトルの上に、しゆみらしさ全っっ然出て無くて本当すいません。
カルデアのオカンってSNよりも幼さアップしてますよね?
リミゼロのデザインもかなりドツボに入ってて、もう士郎スキーにはハァハァするしかありません。うちのカルデアにもようやく来てくれたからこれからどんどんと使っていきたい所存です。はい。
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リミテッドゼロオーバー、それが現在士郎に付けられている名前だ。略してリミゼロ。
直接的に戦うサーヴァントではなく、サーヴァントをサポートする存在として限界した。
半月前見も知らぬ場所に概念礼装という形で現れたのも、人間として生きていたはずの士郎の姿が、名も知らぬ礼装に身を包まれていたのにも驚いた。
ついでに昔の自分も『投影魔術』という名前でいる。
ドッペルゲンガーがどうという常識はこの世界では通用しない。
一応肉体を伴っているが、英霊の座と同じく、礼装の方でも本体があり、概念礼装はその本体の意識を憑依させている、らしい。
英霊と違うのは英霊は記憶を記憶として座に持ち帰る事が出来るが、礼装は記憶をもって本体へと帰る事ができない。確かに考えれば、生身の人間が突然膨大な記憶を注ぎ込まれたら発狂するだろう。過去アーチャーの記憶が否応なく脳に刻み込まれた身としては、あの経験をもう一度体験するのは勘弁して欲しい。
ランサーは4人いるし、セイバーはランサー以上にたくさんいる上、槍を持ったら体が成長していたというのも驚きだし、キャスターは若い頃と今が歪み合ってる(というか一方的に士郎の知っているキャスターが若いころを毛嫌いしている。どこでも状況は似たような物なんだろう)し、士郎は自分の知っている聖杯戦争とは余りにもかけ離れているシステムに戸惑いが隠せなかった。
変わっていないのはアサシンとライダー、そしてアーチャーだと思っていたのだが、アーチャーこそが一番変わっていたのだ。
いや、変わっていたという表現はおかしいかもしれない。あの時には見せようともしなかったものが表面化しただけなのかもしれないがどうも調子が狂う。
このアーチャー・エミヤは士郎の知っているアーチャーのようで、また違う存在だ。
彼は冬木の記録を所持しているが、記憶を所持していないのだ。
根本的な性質は変わっておらず、士郎と話せば反発が多少なりとも起こるのだが、それにしても僅かな齟齬が出る。
士郎が『こう返すだろう』と思っていた反応とは別の反応が来た時のあの戸惑い、肩透かし感は食らった者にしか分からないだろう。
大多数のサーヴァントが従うのは唯一のマスターだ。
通常の聖杯戦争の様に他のサーヴァントや陣営を倒さねばならないというシステムも無く『世界の未来の為に』『人理焼却を企む者を』『人知れず倒す』。
これだけの要素が揃っているのは間違いなく、士郎の心にもクるものがある。正義の味方に憧れ、理想に裏切られ、摩耗した英霊ならば余計に理想の世界だろう。むしろ夢のような世界であるかもしれない。
それに自分自身が成長したというのも多少はあるのだろう。あの頃は見上げていた視線が、隣を見ればすぐに合わせられる程に身長も伸び、アーチャーの苦言もあの時点の自分自身にとっては必要なものであったのだと理解出来る程には大人になった。
青臭いままつっ走っている投影魔術の方を見るとアーチャー程ではないが、苦笑の一つや二つ漏れる事もある。よくこんなので生きて来れてたよな、と思う程には。
正義の味方を目指して、掲げた理想の重さを知らず、まっすぐ前を向き続けるひたむきさ。それを懐かしいと思うぐらいには。
「ったく、あいつ。いくらレベルが上がったからって無茶しすぎだろ」
先に士郎や(フォーマルクラフト)より召喚され、同じパーティのアタッカーであるクー・フーリンオルタのほぼ専属となっている投影魔術は燃費の悪いクー・フーリンオルタに対して自分の血を分け与えるきらいがある。いくら消滅する心配がないと言っても、見ている方は気が気ではない。宝具を一発撃つ度に、赤い聖骸布とは別の場所に赤色が広がっていくのだ。強敵になればなるほどにクー・フーリンオルタの出撃回数は高まり、そしてサブアタッカーとして概念礼装である士郎を連れたエミヤが付き従う。諸葛孔明とペアになっている遠坂が戦闘を終わらせる度に投影魔術に雷を落とし、最終的に遠坂のせいで瀕死になるという以外の光景を士郎は見たことがない。
「遠坂もやりすぎだとは思うけど、別にあいつが血を流さなくても勝てる見込みがあるっていうのに、なんで毎度毎度そうなるんだ……」
鍋の中のカレーをかき混ぜながらそう愚痴を零す士郎の隣で「貴様も大概変わらんだろう」とアーチャーは鯛を順番に捌きながら口元に僅かに笑みをたたえてそう言う。
皮肉めいた笑みでもない、嘲笑でもない、士郎の記憶の中にあるどれとも違うその穏やかな微笑みに、士郎は言葉を失う。
「衛宮士郎は自分以外の誰かの為であるのなら己自身がどうなろうとも無茶をする。それに対してお前が怒りを抱くとはな」
「……お前も同じエミヤシロウじゃないか」
「ああ、そうだな」
今度こそ絶句した。
士郎の苦し紛れの一言にも苛立つ事無く受け流すアーチャーは別人の様だ。アーチャーは反応がない士郎の方に視線を向け「何だ」と声を掛けた。こちらに向ける顔はいつもの眉を不染めた不遜な表情で、見慣れた顔にホッとする。
「いや……何でもない」
あの一瞬の表情は不意打ちだっただけに余計に心臓に悪かった。前髪を下ろしている姿はいつもの大人びた顔を幼く見せる。記憶にある顔よりも自分に親しいものになるだけある意味卑怯だと思った。
「鍋が焦げ付くぞ。ちゃんと中身をかき混ぜろ」
アーチャーの小言が飛び、改めて意識を鍋の方へと向けた。底のほうを重点的にかき回すが、焦げ付いてはいないようだ。
士郎は子供用のカレーを小鍋に振り分け、そこにマヨネーズと蜂蜜とヨーグルトを心持ち程度に足した。スパイスから煮込んだカレーは子供の舌には辛いだろう。星形に型抜きした人参のソテーも添えれば、ナーサリー・ライム辺りは喜ぶんじゃないだろうか。
湯煎していた大鍋に大人用のカレーが入った鍋を入れ、小鍋の方も火を止めた。アーチャーは三枚におろした鯛の身の半分に粗塩を振り、半分を冷蔵庫に仕舞う。塩を振った方は士郎に渡された。火にかけろという事なのだろう。それにしては切り身の形になっていない。
「焼き魚にするのか?」
「鯛めしだ。近頃カロリーの高い物が多いと文句を言われたものでな。女性にはあっさりとした和食の方が良かろう」
「遠坂か……」
「凛の他にも色々な女性がいるのさ。凛以上に気が強く、食えないご婦人方がな」
そう言いながら軽く炙った鯛のアラと昆布を土鍋に投入する。沸騰寸前で火を止め、そこに塩をひとつまみ入れる。小皿に出汁を移し、味を確かめたアーチャーは「ふむ、こんなものか」と呟いた。
「俵殿のお陰で食料に潤いが増したのは喜ばしいことだ。食材の偏りだけは、どうしても私の腕でカバーしきれないからな」
確かに、このカルデアはサーヴァントだけでも百人弱、それに加えて意思のある概念礼装に、常駐しているスタッフの数を合わせると軽く二百人は行くのではないだろうか。料理好きとは言え、一人で厨房を任されるには大変な負担であっただろうに。
「それに、お前が来てくれたのも大きい」
アーチャーからそのような言葉が出てくるとは思わず、驚きの表情のままにアーチャーの方を向けば、アーチャー自身はその言葉に違和感を抱いていないのか、出汁に入っているアラを濾し取り、もう一度土鍋に返している。そして豆腐を入れそのまま蓋をして弱火を加えていた。
「あの未熟者は狂王殿か来るまでは凛のスペアというような扱いでな、出動回数もそれ程多くなかった。その分だけ暇になって食事当番に回されるという事も多かったのさ」
「あ? ああ……」
なんとなく、アーチャーの言いたいことが想像出来始め、士郎はこめかみを抑えた。
何かの、誰かの役に立ちたいという理屈は判る。しかし、限られた食料の中でやりくりしていた所をアーチャーが未熟者と言ってはばからない投影魔術によって冷蔵庫の中身が減っていたとしたら。例えれば、冷蔵庫の中に自分の名前を書いたプリンを食べられる心境、それに近いだろう。
今は俵藤太が言うおかげで海の幸、山の幸も満遍なく手に入れる事が出来る。本当に良い時代になったと思う次第だ。ここに来て未だ一年も経ってはいないけど。
龍神様万歳と心の中で密かに思うぐらいには、カルデアは潤っている。
「ケルトの人間どもは、すぐに新しい獲物を狩ってくれば万事解決等と楽観的に言うが、奴らがまともに食べれるものを狩ってきた試しもない。私が作ったのでも、小僧が作ったのでも大差ないなどとほざくし」
一番アーチャーの神経を逆撫でしたのはその点かもしれない。青菜のおひたしの為に胡麻をする士郎の向かいで、まな板に殺菌処理を施したアーチャーは何かの肉を包丁の刃で叩きながら細かなミンチにしていく。その間にも愚痴は止まらないどころか加速する一方だ。
小言を言うアーチャーは、士郎の記憶の中にいるアーチャーとそこまで言う程変わらない。
しかし、ここまで饒舌な男だっただろうかと考えれば、違うような気もする。士郎が召喚されて良かったという言葉にどう繋がるのか、その理由も未だにわからないままだ。信頼されているのだろうか。アーチャーの宝具と士郎の持つ剣属性の魔術は相性が良いから余計にそう思われているのであれば、嬉しいと思う。
ひとしきり投影魔術の愚痴を吐き切った時には既に、大抵のメインは作り終えた段階までいっていた。
セイバーを筆頭としたアルトリア勢用にはご飯を多めに炊いたカレー、遠坂を筆頭とした女性達にはヘルシーな和食の定食。アーラシュやロビンにはジビエ料理に煮豆を添え、ケルト勢にはそのままむしゃぶりつけるような獣の肉を火に炙っている最中だ。中国勢には涙の出るほど辛いと噂の火鍋が、アメリカ勢には現代の者とそう変わらない洋食を。そこまで用意した後にようやく「本当に、あの未熟者は救いようが無い」と締めくくったアーチャーの姿は器用だと思わずにいられない。士郎でも判る範囲のレシピは手伝ったが、それ以外はアーチャーの独壇場だ。年若い投影魔術であれば、そこに『お前にはこのような事まではできはしまい』という無言の皮肉を感じ取り、反発するだろう。その姿が簡単に想像出来て、士郎は思わず吹き出してしまった。
「なんだ、何を笑うことがある」
「いや、アーチャー、実はお前って結構凄かったんだよな」
その凄いと感心する場面が料理の手際の良さ、という事実がどうかと思うが。
しかし、士郎の言葉に虚を突かれた様に、アーチャーが目をむいたので、今度はこちらが驚いた。
「アーチャー……?」
士郎が声を掛けても、驚きの表情は変わる事無く、唇だけが動く。
「……貴様が私に対して感心する時が来ようとはな……」
呆然とした声は、本当にそれが思いもよらない事だったと言っていた。
なんだろう、かわいい。
そう思った一瞬の後、何だよかわいいって、と自分で自分にツッコミを入れる。一瞬でもアーチャーをかわいいと思った自分自身に動揺した。かわいいというのは、セイバーや遠坂や桜に対して使う言葉であって、断じてこんなゴツい男のアーチャーに対して使う言葉じゃないはずだ。内面でどんなことを考えているのか悟られない為に、慌てた調子で言葉を紡ぐ。
「俺も大人になったって事さ。少なくともお前と同じ目線になって、お前の言う事も間違ってなかったんだなって思ったりしたし……お前の気持ちも多少分かったからさ……」
「そうか……」
あれ、なんか恥ずかしい。
「そういえばさ、お前なんで俺が来て良かったって思ったんだ?」
「ああそれは、あの未熟者より成長したお前の方が相性がいいからだ。戦闘の面に於いても、私生活の面においても少なくとも私の不快な事はしないだろう。ここ数日行動を共にしているが、苛立つ事もない」
お前がいてくれているお陰で全員分の食事が用意出来ているようなものだからな、としどろもどろに呟くアーチャー。
その姿はやはりかわいいと思えて、士郎は思考が混乱する。
おかしい。俺は女の子が好きで、こいつとはいがみ合う存在だったはずだというのに。年月というものは、人の見方を変えるほどなのだろうか。
大人になる弊害というより混乱を抱えた士郎の思考が、爆発するのはそう遠くない未来のことであった。