あのテレビマンの記事に思うこと
私は新卒で映像制作会社に入社し、その後転職エージェントに第二新卒で転職しました。現場業務の激務で心身ともに疲弊していたところに、エンタメ業界専門の人材チームからお声がかかったという奇跡的なご縁でした。
そして先日、興味深い記事を拝読しました。
元テレビマンとして、そして現エージェントとして、どちらの観点でも共感できるところがあるので、書いていきます。
そもそもの前提として、一口にテレビマンと言っても「局員」と「制作会社」では全く異なります。元の記事を執筆された方は、ノンフィクションやバラエティに強みがある制作会社界隈の方とお見受けしたので、私も「制作会社向け」に焦点を当てて書いていきます
※局側のテレビマンもそれもそれで転職しづらいという背景がありますが、こちらは割愛
「何にでもなれるゼネラリスト」は、転職市場では「何にもなれない」
たとえば転職する場合。
どこかの企業でずっと経理一筋にやってきた経理部長なら
「この人には経理を任せればいいんだ」とわかりやすい。
ところがテレビマン(制作者)の場合、
どんなにスーパーヒット番組のプロデューサーを経験していても
履歴書に書いたところで「???」となるのではないか。
(テレビ局を定年した人からも、転職は難しい、とよく聞く)
いわば「総合的な力」、「人間力」みたいなものに長けている。
特に活躍してきたテレビマンは、何にでもなれると思う。
本人が「ゼネラリスト」だと自称している段階で、もはや結論は出ているでしょう。転職市場の基本は「同業種・同職種」へのスライドであり、ミドルエイジになったのなら少なくとも「職種」は同じでなければ転職においては苦渋を嘗めるでしょう。
「転職活動をしたら、エージェントから同じような仕事しか紹介されなくてムカつく」こういう言説もよく聞きますが、実際その通りです。
採用企業側の目線に立てば、「営業」のポジションを埋めるなら「営業を経験したことがある人」が欲しい、というのは至極当然だと理解できるでしょう。
転職市場での価値の低さというのは、実は記事の中でテレビマン自身が言語化できているのです。「ゼネラリスト」だからです。中途採用において(第二新卒・ポテンシャル枠を除いて)「何にでもなれる人」は、結果的に「何にもなれない」のです。
体力・気力で勝負できるのは20代まで
「30歳を超えたら未経験転職が難しい」ということを聞いたこともあるんじゃないでしょうか。その通り、ポテンシャルを加味しての転職は20代までが限界です。
そして、記事ではテレビマンこそが体力気力の王様のような書き方がされていましたが、この世にはテレビマンよりももっと凄まじい存在がいます。そう、ゴリゴリの不動産や、通信回線営業の精鋭たちです。
彼らは体力や気力はもちろんのこと、KPIに対するコミット力が桁違いです。一方、テレビマンは「締め切りに間に合わせる」というお尻は決まっているものの、最終的な「絶対に視聴率4%をとる」といった目標は、個人の努力だけでどうにかなる世界ではありません。
例えば、同じ商店街でサンドイッチマンをしている不動産営業の若者と、街頭インタビューのハントをしているADがいるとします。同じく街ゆく人に声をかける行為でも、前者は1軒5000万円の戸建てを売らなければならず、後者は一応「テレビに出られる」というアドバンテージを持っています。この二者の努力の性質は同一視できません。
数年後、不動産営業マンは「KPI120%達成、個人売り上げ○億円」という定量化された職務経歴書を携えて転職できますが、ADの経歴書に書けるのは「気難しいと言われていた居酒屋の店主の懐に入って、TV初取材を獲得しました」といった定性的なエピソードです(そのエピソード自体はとても魅力的なので、面白がってくれる企業に出会えればいいのですが)。
仕事探しがファンタジー化している
全てのテレビマンが転職できないわけではありません。
特に制作会社出身者で、ワークライフバランスや年収を向上させたい志向があれば、自社メディアを持つ企業(UZABASE、PIVOT、クラシルなど)や、事業会社の社内広報(自社YouTubeの制作など)へ転職するのが近年の王道パターンでしょう。
しかし、転職活動につまずくエンタメ求職者に共通しているのが、一般企業への理解が浅いまま「大手志向」に陥っている点です。学生時代から「好きを仕事に」という軸で就活している方々なので、仕事探しに対しての姿勢というがどこかふわふわしまうんです。(自戒をこめて)
しかし定年した先輩たちの顔を思い浮かべて
「あの人がもし商社に転職したら
とんでもないヒット商品を見つけてくるぞ!」とか
「あの人がもし自動車メーカーに転職したら
絶対、誰も気づいてない不便を解消した車を提案するぞ」と思う。
「あの人がオカモトに転職したら、0.01ミリの壁を越えるぞ!」
とも思う。
そう、彼女らにとっての転職先イメージは「総合商社」「自動車メーカー」「オカモト」といった世間一般に名の知れた大手企業なのです。これでは転職は失敗します。
余談ではありますが、これはエージェントをやっていながら常に不思議だったのですが、世間一般はコンサルやメガベンチャー、SaaSへの志向を強めているのに、エンタメ人材はなぜか昔ながらの商社やメーカーが好きです。
他にも、エンタメ人材が希望しがちな典型例がこちら→
ゼネコンのエンタメ施設(映画館)開発チーム
伊藤忠のエンタメチーム
スタバの商品企画
日清の広報
厳しいようですが、自動車を作ったことがない素人がいきなり自動車の企画をできるわけがなく、オカモトに転職しても化学系大学院を出た研究職を凌駕する知識があるわけではないのです。
その「修羅場経験」は、一般企業で価値を持つのか?
「100時間残業できます!」とアピールする人は、後輩にも「100時間残業するのが当たり前なんだからやりなさい」と強要する上司になることの裏返しです。しかし、このご時世でその修羅場が待ち受けている一般企業はあるのでしょうか。
テレビ業界は一般社会から隔離された非常に独特なカルチャーで醸成されているため、一般企業に入った際に馴染めないケースが多々あります。
特に、自身の過重労働こそが業務への情熱だと思い込んでいる節があり、特殊なカルチャーに誇りを持つあまり、一般企業の常識と衝突しやすいです。異業種に入った時の軋轢は容易に想像できます。
「私は過重労働いけます!」と言って「じゃあうちに来てね!」と歓迎してくれるのは、結局、過重労働の会社でしょう。
結論
ここまで厳しいことを書いてきましたが、私自身も元々テレビの現場にいたからこそ、彼女らを単純に責めることはできません。良くも悪くも「テレビ村」という隔離された世界にいるため、一般的なビジネス感覚との乖離に気づきにくいのです。そして何より、これを言えてしまうくらいに彼女らは日々忙しく、外界から遮断されています。
こうした転職に対してのドリームは、エージェントと3件も面談すれば現実とのギャップに気づくはずです。周囲の転職した先輩を見れば傾向も掴めるでしょう。しかし、彼女らにはエージェントと話す時間すら、職務経歴書を書く時間すらありません。周囲にも転職した人もいないでしょう。そしてテレビ村は、テレビ業界を辞めた人のことを「逃げた」という風潮があります。
平日の10〜18時で面談候補日を複数出し、1週間後の1時間を確保することすらままならないのが現実です。(テレビマンの転職支援をする中でスケジュールの確保というのが最も大変な瞬間です)
深夜のスタッフルームで、スタッフ同士で「それだけ頑張ってたらどこでも転職できるよ」と無責任な言葉をかけあい、実態のない自信だけが育っていくのが関の山です。
昔読んだ『金持ち父さん 貧乏父さん』で、著者がパイロットのキャリアを続けるか悩む描写に、こんな一節がありました。
もし、この産業からはじきだされることになったら、人生かけて獲得したこの技能は他の産業では通用しない……(中略)……技術は産業から産業へと必ずしもつかいまわしできるものではない
この章の結論として「医師やパイロットや教師など、ニッチな職種を極めるのであれば、組合に入るべきだ」と締められており、とてもアメリカ的だと笑ってしまいましたが、テレビマンにも全く同じことが言えると思います。
ご自身の社会的な立ち位置を客観視し、妥当な転職先を見つけること。
もしくは、テレビのお仕事で満足して定年まで働いていけることを、同じ業界にいた者として願ってやみません。
微力ながらですが、こういう記事も書いたので、参考になりましたら幸いです。


そんなに優秀な方々がそろっている業界だったら、ネット広告のほうがテレビCMを上回り、制作会社の倒産も増えるのはなぜなのか?そもそもの設問というか前提条件が間違っているんでないかという方向に発想がいかないものか。。。
テレビ側には、依然としてテレビ>ネットという認識が残っている印象もあります。