このまま死ぬまで我慢の日々…年金6万円・68歳専業主婦、定年退職した夫との暮らしに「もう限界」。心は離れているけれど、一緒に生きる選択をしたワケ【CFPの助言】
2025年06月11日 12時56分THE GOLD ONLINE
定年後、旅行や趣味を楽しみながら第二の人生を満喫する夫婦もいます。一方で、夫が一日中家にいるという生活に変わり、大きなストレスを感じる妻も少なくありません。今回は、トータルマネーコンサルタント・CFPの新井智美氏が、老後の暮らしをより豊かにするために、事前に考えておくべきポイントについて解説します。
夫との老後生活に感じる息苦しさ…68歳・専業主婦の悩み
「私の人生ってなんなのだろう……」
浅岡文子さん(68歳/仮名)は、最近ふと、そんな言葉をこぼすことがあります。
文子さんは大学卒業後、自営業だった実家の仕事を手伝い、お見合いで結婚しました。一方、夫の忍さん(71歳/仮名)は大学卒業後、中小企業で60歳まで勤務。その後は65歳まで関連企業で働きました。
夫の最高年収は600万円程度で、趣味も交友関係もほとんど持たずに生きてきた、「真面目一筋」の夫です。
夫婦2人分の年金収入は月21万円。不足分は、退職金と合わせて2,000万円ほどの貯金を切り崩しながら生活しています。金銭的に大きな心配や不満はないものの、文子さんはその日々に「息苦しさ」を感じずにはいられないと言います。
退職してから「家でじっとしているだけ」の夫
その原因は、夫の「何もしなさすぎる」日常にあります。真面目に働き、会社を休むこともほとんどなかった人ですが、定年退職後はほぼ1日中家にいるようになりました。
最初のうちは掃除などを手伝っていたものの、文子さんの手際の良さに遠慮したのか、今ではゴミ出し以外ほとんど何もせず、ただじっとしているだけ。テレビを観るか近所を散歩するか、あとは病院に行って帰ってくるだけ。
文子さん自身はもともと地域のヨガサークルに参加していたこともあり、時には友人と映画を観に行ったり、お茶をしたりすることもありました。しかし、夫が自分の外出を心よく思っていないことが態度でわかるため、その回数も徐々に減っていきました。
結局、文子さんの外出もスーパーへの買い物や日用品の調達、病院通いなど、近場に限られています。一人娘は独身で年に数回会う程度で、文子さんの話し相手にはなってくれません。
朝起きて、朝食を作り、家事をして、昼食・夕食・入浴という決まりきった流れで毎日が過ぎていく――。
ただ、いきなりこの状況になったのかといえば、そうでもありません。若い時には会社の付き合いで帰りが遅くなることがたまにあった夫ですが、60歳で関連企業に移ってからは会社の飲み会もほぼなく、定時に退社して帰ってくる毎日。
退職が近づくにつれ、「このまま完全に家にいるようになったら、夫の存在がストレスになるかもしれない……」と考えていた文子さんの不安は、見事的中したのです。
自分の人生、こんな風に終わっていくのか。そう空しい気持ちが日々募るばかり。そして、気づけば文子さんの心は、完全に夫から離れていたのです。
離婚して生きていけるか? 弁護士に相談した結果
離婚を考えるほどに追い詰められた文子さん。しかし、ずっと専業主婦だった自分が一人で生きていけるのか……それを確かめるため、まずは弁護士に相談してみました。
弁護士からは、離婚には原則として双方の同意が必要なこと。そして、離婚が成立した場合には財産分与や年金分割が行われることを説明されました。
財産分与では、婚姻中に蓄えた預貯金や購入した不動産などが対象となり、原則として半分ずつに分けられます。さらに、文子さんは専業主婦であるため、夫の厚生年金の一部(2分の1)を受け取れる「3号分割制度」を請求できます。この請求に夫の同意は不要です。
現在の貯蓄額は2,000万円なので、財産分与によって半分の1,000万円を受け取れます。また、夫の厚生年金額の半分の月4万円ほどを受け取れるため、文子さんの年金受給額は、自分の月6万円と合わせて月に10万円ほどになります。
しかし、文子さんは働いていないため、自分自身の貯金はありません。そもそも「一緒にいるのが嫌だから」と言って夫が離婚に合意するとは思えませんでしたが、仮に合意したとしても、年金月10万円と1,000万円で困らずに生きていけるのか……。
また、家を出るとなれば新たな住居が必要。しかし、無職の状態では部屋を借りるのも容易ではありません。
きちんとした家に住み、生活に不安のない今の暮らしと秤にかけた結果、文子さんは心が離れていても夫と共に生きる道を選びました。
「あと10年、20年もこの生活が続くのか」そう後悔しないように
日本人の平均寿命は、男性が81歳、女性は87歳。文子さんは、あと10~20年、この生活が続く可能性があります。
また、子育てをする時間は、多くの場合20年あまり。子どもが巣立てば夫婦だけの生活が待っていますが、その大半が定年後の「老後の生活」です。
生涯夫婦で一緒にいることを考えるなら、老後の人生を楽しく過ごすためにも、将来に向けて早いうちから、老後の生活について話し合うことが大切です。
また、時間や体力が許す範囲でパートやアルバイトなどを行い、経済的に少しでも自立できるよう備えておくことで、「もしもの時は一人で生きていける」という選択肢を持つことができます。
定年後、夫との2人だけの長い暮らしが訪れたときに「こんな人生で終わるのか」と後悔しないよう、老後に自分が希望する暮らし方に備え、事前に気持ちの整理や経済的な準備を行うことが大切だといえるでしょう。
新井智美
トータルマネーコンサルタント
CFP®