Pに依存してる美琴さんが首輪をあげる話
Pに依存気味の美琴さんの10話です。
美琴さんがいたのは浅草の吾妻橋。私の設定では、美琴さんのランニングコースという立ち位置です。
そこから派生したというわけではないのですが、私の好きな作品のひとつの「さらざんまい」を意識して書きました。つながり、とかがっつりそれっぽいワード使ってます。
さらざんまいED スタンドバイミーの映像、夜の浅草に広がる幾何学模様の光の映像が大好きで、ずっと聴きながら書いていました。
やっぱり、純粋に恋愛関係を書こうとしても、この子の愛情表現はすごく歪になってしまいます。
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「これ。着けて」
プロデューサーに、はじめてアクセサリーを送った。
ロザリオ。
プロデューサーが子どもの頃からもっているものとは違う。
私からのロザリオ。
シンプルなデザインがいいと思って選んだが、簡素すぎないだろうか。
宝石の類は一切ない、銀色の十字架。
この人がどんな服を着ていても合うようなデザインにしたいと思って選んでみたのだが。
こういうのって給料3ヶ月分くらいのモノをあげればいいんだっけ。
もっと高いモノ、もっと綺麗なモノの方が喜んで貰えるかな。
ずっと着けて欲しいモノだから。他の人にも見られるモノだから。
と、いうより。
他の人に、この人は、私のモノだって。
ちゃんと理解させないといけないから。
首に痕はつけようと思えばいくらでもつけられる。実際、教会で、私が絞めた痕はしばらく残っていたし。
だが。
それではプロデューサーがその跡を隠してしまう。
キスマークくらいならまだそれを見た他人は、プロデューサーが仕事の直前までそういったことをしてきたと、どうでもいい妄想してくれる程度なのだが。
流石に、赤黒く腫れる首を見たら、そんな浮ついた気持ちは一瞬で引くだろう。
それを見た会社の同僚も、上司も、取引先の人も、担当アイドルも。
皆、彼の隣に、死が立っていることが分かってしまう。
だから、そんな心配を掛けたくないと思う彼は、その痕を隠してしまう。
私は、プロデューサーが私のモノだって、プロデューサーにとって私がカミサマだって、他の人にも伝えて欲しいのに。
だから、隠す必要はないモノで縛ることにした。
どんな服にも合う、無個性で、無難なデザインなロザリオ。
これだったら、彼といつでもいっしょにいられる。
彼をいつでも縛れる。
「似合ってるよ、プロデューサー」
「美琴……これは?」
「これは、お仕事の復帰のお祝い。プレゼント」
「……そうか……ありがとう」
「……うん。ちゃんと、ずっと、着けてね」
「もうひとつの普段使いの方と併用するか」
「……それ、どうしても、まだ使いたい?」
「……え」
……何をいっているのだろう、私は。
プロデューサーが前から使っているロザリオ。
これは、確か。
プロデューサーのお父さんから貰った、彼の家に伝わるロザリオらしいなのに。
彼の家族の絆とも呼べるモノなのに。
それですら。
「嫌なの」
「……美琴」
「……嫌。私以外の人に頼れるような、繋がり。もって欲しくない」
駄目。
駄目なのに。
「絶対に、嫌」
それは、また彼の信仰を侮辱することなのに。
「プロデューサーのロザリオは、私がもっててあげる。だから、貴方は、私のロザリオだけを使って……?」
なんて、我儘で、エゴイストなんだろう。
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こんなモノ、棄ててしまいたい。
私にとって、大切な人の、大切なモノのはずなのに。
私は、こんなモノ、もう二度と見たくもない。
もう二度と、あの人がこんなモノに頼らないように、目の触れない場所に隠してしまいたい。
プロデューサーが仕事を復帰して1週間。
あの人は、周りに心配をかけまいと、特段、休職前と何ら変わりない、いつもの「プロデューサー」としての業務を、いつも通り、こなしている。
仕事で私と会うときも、1ヶ月前の、懺悔室の一件がある前の、誰にでも優しいプロデューサー。
こういう時、仕事以外での私の態度がどうなのか、気になるところなんだけど。
私は、あえてプロデューサーから一歩引いてみた。
私の家で休んでもらっていたけれど、復職したことを機に、プロデューサーを自宅へ離してあげた。プロデューサーのスマホも返したし、パソコンの電源ケーブルも返した。
仕事以外、私から連絡することもなく、私からプロデューサーと会おうともしなかった。
あえて、つながりを、最小限にしてみた。
あれだけ、私のことしか考えられない環境にいたあの人が、どれだけ、これからも私のことに執着してくれるか、知りたくなった。
私があげた、押し付けたロザリオだけで、どれだけ私とあの人をつないでいられるか試したくなった。
私はこんなに今すぐにでも会って、あの人に手を握ってもらいたいけれど、あの人は、私のことを同じように、同じ程度に、同じ重さで、想っていてくれているのか、確認したくなった。
私の好意が、私だけのモノじゃないって、言ってほしかった。
結局、私は、あの人を無理やり閉じ込めて、あの人から自由を奪ってでも、私のプロデューサー、私だけのプロデューサーでいて欲しいって気持ちを押し付けたことで、あの人から幻滅されないか、嫌われないか、失望されないかが、また怖くなっていた。
好きで、好きで、仕方がなくて、あの人から求められる度に、あの人が本当に私のことを好きでいてくれることが分かって嬉しかったくせに。
結局、強引すぎたのではないか、手を強く握りすぎたのではないか、本当は、痛かったんじゃなかったかって。
前にホテルで告白しようとしたときと同じ。
あの時から、私は、何も変わっていない。変えられない。
あの人が、私のことをカミサマだって信じてくれていることが分かっても。
私の気持ちを利用して、踏みにじってでも、壊してでも、自分を好きになってもらおうとするぐらい、私のことを好きでいてくれると分かったはずなのに。
それが、幸せすぎて。
失いたくない。
あの人にとって、理想のカミサマ、偶像であり続けたい。
あの人にとって、この世で最も、信じるべき絶対的存在であり続けたい。
あの人にとって、いちばんのアイドルでなければならない。
じゃなきゃ、嫌われる。
あの人とのつながりがなくなっちゃう。
その気持ちが、前よりも、もっと、重くなった。
どんな犠牲を払ってでも、どんな手段を使っても、あの人の「絶対」にならなきゃいけないんだ。
このつながりは、もう、失いたくない。
だからか。
あの人と、他の人とのつながりを、こんなにも断ち切りたいと思えてしまうのは。
目の前を流れる、真っ黒の水の流れ。
もう、1時間は、橋の欄干にもたれかかって、ロザリオを握りしめて、ずっと、川を見ていた。
今すぐに、このロザリオを川に投げてしまいたい。
私以外の全部、あの人の手から奪ってしまいたい。
見れば、見るほど、私の胸の中に、夜の川と同じ色の、真っ黒が広がっていく。
プロデューサーに出会う前は、北海道にいたころに、もう一生分は見たであろう、雪景色の白。
だけれど、本当は、ただの水の結晶で、どんな色にもなれない透明。
私は、まだ、誰の心にも留められない、私が目指すアイドルからは程遠い、何者ですらなかった。周りの色を見ようともしなかった。
だから、わたしには、透明。コンビニのビニール傘のような色しかなかった。
だけど、あの人が、私の人生を変えてくれた。あの人のおかげで、私はアイドルとしての色をもてた。私には、ステージとレッスン室以外の居場所の色があることを教えてくれた。目を刺すスポットライト以外の光が、あの人がもっている色が、もっと知りたいと思った。
だからだろうか。色んな色を知っちゃったからだろうか。人生で初めて、まともな恋愛感情なんかもったからだろうか。
他の人が、その色を、血が通った鮮やかな赤に表現できるのに。
私のその色は、あの人に出会ってから抱えてきた絵の具をすべて混ぜたような、濁った黒。
はじめて東京に来て、こんなに大都会の川は汚いのか、臭いのかと顔をしかめてしまった、あの色。
目の前で、川を見つめる私なんか映さない。私なんかよりも遠くにいるはずなのに、真夜中にもかかわらず、痛いほど眩しい光を放つ、川の向こうのビルやスカイツリーの色に染まる隅田川。
こんな色。こんな色ばかりが、いまの私。
私以外のことなんかどうでもいい。あの人は、私だけを映してくれれば。
私の色だけに染まってくれれば。
だって、私は、あの人からもらった色で、こんな色になっちゃったのだから。
あの人も、同じ思いしてくれなきゃ、嫌だ。あの人も、私と同じ水で溺れて欲しい。
だから、これは棄ててしまおう。余計なつながりがあったら、それを伝って、あの人は他の色を映してしまう。
あの人には、そんなもの、必要じゃない。あの人が、それが必要だと思っても。
私にとって、あの人に、私以外の人なんか必要じゃないから。
こんなもの、いらない。
このまま、手からロザリオを離そうとした。真っ黒な水の底に沈めてしまおうと思った。
そのとき。
ポケットに入れていた携帯が、震えた。
誰からの着信からか。
画面を確認するまでもなく、私は電話に応えた。
もうこの時点で、手にしたロザリオのことなんかどうでもよくなった。
「プロデューサー…いま、どこ?」
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プロデューサーは、家にいない私を探してくれていた。
どうして、私が家にいないか、分かったのか。
どうして、私の家を、自分から、訪ねたのか。
どうして、仕事でもないのに、私に会おうとしたのか。
その問いかけが楽しくて、私は彼の首を何度も撫でる。
休みの日も、ネックレスをちゃんと着けてくれている。
この人、私のモノなんだ。
この人には、私がいないと駄目なんだ。
私が、この人をめちゃくちゃにしていいんだ。
あの懺悔室と同じことを、したくなってしまう。
首を絞める振りを何度も。何度も。何度も。
この人の命を握っている感触が気持ちいい。
この人の鼓動も、呼吸も支配している感覚が楽しい。
この人が、私にすべてを委ねてしまっているのが、何物にも代えがたい色を、私にくれる。
結局、耐えきれなくて、何度もこの人のことを噛んでしまった。
せっかく首輪を買ってあげたのに。
どうか続きをお願いしたい