Pに依存している美琴さんが懺悔室でPの告白を聞く話
Pに依存気味の美琴さんの第10話。
元ネタは言わずもがな、「岸辺露伴は動かない─懺悔室」と米津玄師「orion」
節目なので一気に話を進めました。起承転結でいえば、まあ転、くらいですかね。
これで終わる訳では無いのですが。
何でPの話し方がシャニPと違うのか。何で冬優子が「美琴と話すときは全く違う話し方をPがしている」といっていたのか。何で6話で告白断っておきながらキャプションでこれが「美琴の大好きなPにとっての最適解」と書いたのか。
簡単です。このプロデューサーはこれぐらいクズなので、物腰柔らかい、優しげな大人を演じていたってことです。
誰もいないはずの懺悔室での、神様に対する懺悔。崇拝とも呼べる狂愛。
これを書きたかった。
僕はヤンデレが好きですが、ヤンデレが「オタクくんの都合のいい女」扱いされるのは嫌です。そのキャラがヤンデレならば、ヤンデレである理由をしっかり明示すること。これが鉄則です。
僕の中でその最適解は「自分のことを愛してくれているから」愛する。つまり、相手がヤンデレだから、自分もヤンデレになった。これがいちばん綺麗だと考えてます。
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プロデューサーの休日の過ごし方。
プロデューサーは1ヶ月、また1ヶ月と過ごしているうちにみるみるうちに数少なくなっている貴重な休日をどう過ごしているのか。
プロデューサーは日曜日、休めたならば教会のミサに行く。
プロテスタントでいう日曜礼拝だ。
前に聞いた話だと生まれ育った地元が昔から信者が多い地域らしく、例に漏れず、プロデューサーの家もカトリック教徒であった。
プロデューサーは自称、そこまで信心深くはないが習慣と近所づきあいで教会に行くだけの教徒、らしいが。
彼が私のオーディションのときに握っていたのは、普段、スーツの下に着ているから、見かけでは分からないけれど、首から提げているらしい、ロザリオだった。
神様、プロデューサーがいう、心の中に設定する人間よりも高次の存在、についてプロデューサーはちゃんと信じているように思える。
「困ったときの神頼みだよ。人智を尽くしたのならば、これしか、もうできることは無い。
美琴がここまで頑張ってくれたからできることなんだよ。美琴がここまで尽くしてくれているから。僕はもう、普段、信仰する気なんて一切ない、神にも縋る。
無力な僕にはもうそれぐらいしかできない。手段なんて選ばないで、見えないもの、ここにはいないモノにまで縋る。そういう情けない人間が僕だ」
プロデューサーはそういっていた。
神様、どうか。
どうか、声をきかせて。
ほんのちょっとでいいから。
私はその日、来週にモデル撮影の仕事があるって、プロデューサーから聞いていた教会に行ってみた。
撮影する前に場所のイメージだけでも膨らませたい。
きっかけはその程度の用事だった。
その日は平日。
私はちょうど休日だった。
その日の一般客の拝観の時間に合わせて足を運んでみたのだが。
「・・・・・・眩しい」
白い壁面、横窓から射す白光。
正面には大きなステンドグラスの彩やかな光が赤い絨毯を照らしている。
光に包まれた空間。
私にとっては昔観たドラマ、こないだ読んだ結婚雑誌くらいでしか見ない光景。
これがあの人の見ている景色なのかな。
あの人は昔から、子供のときから、こういうものを見て育ったのかな。
確かに、こういうものを見てしまうと、信者でなくとも、その神様のことをよく知らなくても、つい祈ってしまうのではないだろうか。
みんな、何を祈るのだろうか。
私は目をつぶって、真っ先に思いついたのは明日の仕事のこと。
仕事がうまくいきますように。
と、結局、自分のことばかり。
こういうの、叶えるのは自分の力でするべきことだろうし。
神様にお願いすることじゃないね。
じゃあ、私の手に負えない、私の手が届かない場所のことを、祈ろう。
それは─。
彼のこと。
彼の気持ち。
彼が私を想う気持ち。
こればかりは、私が、どうこうできるものではない。
彼が私を選んでくれる。
彼が私の隣にいてくれる。
彼が私の手を握ってくれる。
彼が私の髪を撫でてくれる。
彼が私の目を見てくれる。
彼が私の耳に囁いてくれる。
彼が私の歌を聴いてくれる。
彼が私の話を聞いてくれる。
彼が私のモノになってくれる。
彼がもう私の傍から離れないでいてくれる。
彼がもう私以外の人に思い焦がれるようなことをしないでくれる。
彼がもう私がいなければ生きられないような身体になってくれる。
彼がもう私がいないだけで不安で不安で仕方がないと思えるようになってくれる。
彼がもう私の匂いじゃなければ安心して眠れないようになってくれる。
彼がもう私が作った料理でなければ食べたくないと思えるようになってくれる。
彼が私以外の人間に行為を向けられただけで気持ち悪いと感じてくれるようになってくれる。
彼が私が目の前で死ぬような、彼よりも早く死ぬようなことを想像するだけで、涙が止まらないようになってくれる。
ああ。
これがいいな。
これぐらいで、私は十分だ。
この幸せを祈ろう。
この小さな、ありふれた幸せを祈ろう。
これ以外は何もいらない。
そんな幸せを祈るだけにしよう。
これぐらいなら強欲じゃないはず。
これぐらいなら誰でも祈っているはず。
これぐらいの気持ちがもてないならば、その人を好きだなんて、決していえない、当たり前の願いを祈ろう。
でも、この幸せも。
祈る前には。
私が尽くさなきゃ。
プロデューサー、いってたもん。
「美琴が尽くしてくれたから」
神様が叶えてくれるって。
だから、私はできる限りのことをしよう。
私ができるくらいの小さなこと。
私が何を犠牲にしてでもできる程度の簡単なこと。
あの人に好きになってもらえるためにやれること。
そしたら、プロデューサー。
もっと、もっと、もっと、もっと。
私の名前、呼んでくれる。
美琴、って。
美琴がいちばん、っていってくれるから。
だから私は─。
手段は選んじゃいけないんだ。
だから。
私は手段を選ばなかった。
──────────
「この箱・・・・・・懺悔室・・・・・・?」
プロデューサーから貰った資料にも書いてあったし、プロデューサーから直接聞いていた。
プロデューサーは告解と呼んでいた。
犯した罪を告白する部屋。
電話ボックスくらいの大きさで。
カーテンを開けるとその小部屋は壁に仕切られて2つの部屋になっている。
壁には小さな小窓がついていて。
向こうからの声は聞こえるけれど、向こうに座る人の顔は薄暗くて見えないらしい。
少しばかり座ってみよう。
懺悔したいことも後悔していることも。
ありすぎて。
どこからやり直せばいいのかも、分からない人生だけれど。
といっても、拝観に来る客もどうやらほとんどいないような時間に来てしまったらしく、神父様も来ることはなかった。
こういうところで。
あの人も告白をするのだろうか。
自分の背負う罪を。
自分が背負いきれなくて、誰かに話してしまいたくなる罪を。
・・・・・・狡いな。
あの人の悩み、他の人が聞いているのかな。
それって狡い。
何で私に相談してくれないの。
私じゃ頼りないのかな。
私が聞き上手じゃないからなのかな。
私がまだあの人との時間が足りたいからかな。
私のこと、好きじゃないから─
そう考えた途端。
私は教会に響いてしまわないよう、何とか漏れてしまう嗚咽を抑えるのに必死になった。
吐き気も、目眩もする。
息をするのもどんどん苦しくなる。
最近、より強くなった気がする。
症状が日に日に、目に見えて、強くなっている。
私がつい、プロデューサーが私のことをきら─嫌だ、嫌だ。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
プロデューサーが、私のことを、好きではな─
そんなわけない。
そんなことあっちゃ駄目だ。
そんなわけない。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
・・・・・・好き嫌いで考えちゃ駄目だ。症状、もっとひどくなっちゃうから。
だから・・・・・・私と距離を、少し、ほんの少し、遠ざけたい、と思ってしまう、かもしれない、と。
そうつい考えてしまうと、最近、こうなってしまう。
しばらく。
私はそうやって口も目も覆って、プロデューサーが私を呼ぶ声だけを、想い出して。
なんとか、落ち着こうとした。
だからだろうか。
目の前に、私が座ってない方の。
向こうの席に誰か座るまで気づかなかったのは。
「・・・・・・相変わらず、静かだな。ここ。まあ、だから、ウェディング企画にここを紹介したのだけれど」
聞き馴染みのある声だった。
「・・・・・・戸次さん、いないですよね?」
誰のことか。
教会の人がいるのか、確認したのかな。
それより、出なきゃ。
私がいるこの場で。
告白なんてされたら大変─
「・・・・・・カミサマ、カミサマ。どうか、聞いてください」
待って。私、まだここにいるから─
「神父様にも言えないこの話を」
そこで、私は確信したから。
息を殺して。
気配を消して。
立ち上がりかけたのに。
音を立てまいと、慎重に腰を下ろして。
手で口を押さえた。
・・・・・・私の、いちばん好きな人の声だったから。
「愛してはいけない人を愛しています」
「仕事仲間の、僕が私心を捨てて何があっても支えなければならない人を愛しています」
「僕はこの人が何年もかけて叶えようとしている夢を壊そうとしている」
「だから好きになってはいけないんです」
「好きになってはいけない」
「あの人を愛してはいけない」
「あの人を好きでいることが、あの人の夢を壊すことになるから」
「あの人の人生を無駄にしたくない。あの人の生き様を汚したくない。あの人が、あの人であり続ける。あの人のすべてを肯定出来るように、あの人への想いを断ち切りたい」
「あの人の、何の一点の曇りもない、そのすべてに一滴も泥をつけたくない。あの人のすべてが、あの人のモノであるようにしたい」
「僕にとって彼女は、すべてだから。彼女の目も、耳も、口も、髪も、手も、首も、爪も、声も、すべて、すべて、すべて、全部・・・・・・食べてしまいたいくらい、完璧でなくちゃいけないから・・・・・・食べたい。見る度に想う。名前を呼ばれる度に過ぎる。夢を壊したくなる。完璧なすべてを全部、堕としたい。彼女が触れるもの、全部、壊したい」
「でも、なんとか今まで、なんとか、抑えられていたんです。必死に、必死に、必死に。抑えました。他の子にはそんな感情抱かないのに。あの子だけは、あの子に会うのが、痛くなるほど、必死に、なんとか耐えました。でも」
「それがどうにもならないときが2回ほどあった。1回目はWINGの決勝オーディションで優勝したとき。あのとき、僕は痛みに耐えていた。だって、ステージにいる彼女は完璧だったから。完璧そのものだったから。
だから、そんな彼女に。触れてみたい、って。思ってしまった。壊したい、って。だから、そんな自分が情けなくて、それでも彼女が綺麗で。
耐えるのが痛すぎて。彼女が綺麗だったから。みっともなく、泣いて、なんとか抑えました」
「2回目は、その彼女に抱き寄せられて。僕の勘違いでいいのだれど、彼女から好意を伝えてくれそうになるとき。あのとき、好意に応えようとした。もうこれで、楽になろう、って思った。でも」
「もっといい案が思いついた。彼女にも同じ想いを、罪を背負ってもらおうって。
もし、好きな人に、好きになってはいけない、って言葉を使わずに伝えられたら、人はどうするのだろうかって。
僕だったら、その気持ちにきっと、押しつぶされる。その気持ちをもったことを後悔する。嫌われなくない、って思いが強くなる。何としてでも、好きだって伝える前の状況に戻ろうとする。それなのに好きだって気持ちを抑えられないほどに重くすることができる。
一生、背負いきれないほどの、好きになってはいけないって罪を負いながら、好きになってはいけない人を好きでいてくれる。ずっと、ずっと、ずっと、罪を犯し続けてくれる。
・・・・・・美琴は一生、一生、死ぬまで罪人であってくれる」
「・・・・・・カミサマ、こういうの、何ていう罪なんですか。好きな子を壊したいって想うのはまだ名前がつけられるにしても、好きな子を同じ目に遭わせたいって。こういうの、何なんですか。
なんかもう自分のクズっぷりに清々しささえ感じますよ。開き直っているんですよ。自分が汚い存在だって、何ももっていない、倫理観も道徳もすべてもちあわせていない、あんたの信仰心すらもってない人間だって分かったから。今もこうやって、あんたを利用して、あんたに全部押し付けているんだから」
「あんた、カミサマなんだろ。じゃあ、声くらい聞かせてくれよ。なんか言い返してみてくれよ。子どものときからあんたに話しかけてやっているのに、あんた、全く応えようともしない。
あんた、実は本当はそこにいないんじゃないか。父さんも母さんも、みんな、本当はいない、って教会からの帰り道、いってたよ。でも、俺は信じてやったよ。あんたのこと。いないならいないでそれでいいが。いたら、いたでさ。あんたに恩を売れる絶好の機会だろ。他の人には見向きもされないのにさ、俺だけは見てあげてるって。あんた、俺のこと、一生、守ろうってしてくれるだろ」
「なあ、あんた、俺を好きでいてくれているのか?どうなんだよ。証明して見せろよ。声に出してみろよ。それぐらいのこともできないで、何がカミサマだよ。早く俺を罰してくれよ。どうしようも無いクズの、他人の気持ちをこうやって踏みにじる、好きな子に素直に好意もいえない、その子の夢を今にも壊しそうな人間の処遇ぐらい決めてくれよ」
「カミサマ。ほんのちょっとでいいから、声ぐらい、聞かせてくれよ。俺を罰して、楽にしてくれよ。頼むから」
「・・・・・・プロデューサー」
私は。
声を出した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
返ってきたのは沈黙だけ。
さっきまで。
私が聞いたことも無いような。
荒々しく。乱暴で。途中から別人じゃないかってくらい怖くって。それでいて、ずっと泣きじゃっくっていた声は聞こえなくなった。
「・・・・・・・・・・・・私、プロデューサーのこと、好きだよ」
「・・・・・・プロデューサー、今までずっと苦しかったね。お願いだから。
もう一生、苦しんでくれないかな。
その気持ちに一生殺されてくれないかな」
「プロデューサー。黙ったままじゃ、分からないよ。返事して」
「私、プロデューサーの気持ち、嬉しいよ。大丈夫だよ。ごめんね。怖がらせて。でも、許さないよ」
「一生、一生、一生、一生、苦しんで」
部屋を出て。
カーテンを開けると。
彼は。
真っ青な顔で。
震える掌で、睡眠薬と書いてある瓶からたくさん白い錠剤を出していた。
だから、それを、床に叩き落とした。
「逃げないで」
今度はネクタイで首を絞めようとしてたみたいだったから。
その手も払い除けて、ネクタイも棄てて。
「一生、苦しんで」
「全部、聞かれた」
「何を」
「全部だ」
プロデューサーは笑っていた。
「考えていること、全部、聞かれた。美琴に嫌われて当然の人間だってバレた。だから、とりあえず、逃げたい」
「逃げられるわけないじゃない。私、聞いちゃったんだから。プロデューサーが私のことを好きで好きで仕方がないって話」
「何で、よりにもよって、こんな所にいんだよ、あんた」
「本当はそういう話し方をする人なんだね。可愛い」
「死なせてくれないかな」
「私がこんなに貴方のことを好きでいるのに、死にたいの?」
「幻滅しただろ。全てが嫌になっただろ。演じられていたのが分かって嫌いになったろ。あんた、それを認めたくないだけだ。認めたくないから、そんなこといえるんだ」
「とりあえず。プロデューサーが他人の気持ち、よく分からない人だってことは分かったよ。貴方はプロデューサー、向いてないよ。私の気持ち、全然分かってないんだから」
「やめたい。やめたいよ、この仕事」
「辞めさせるわけないじゃない。ちゃんと仕事して。他の子の仕事、辞めたければ辞めてもいいけど。私の仕事は辞めないで」
プロデューサーはもう勘弁してくれ、降参だ、と、両手を上げるものだから。
首にかけていた手を離した。
「・・・・・・・・・・・・帰る」
プロデューサーは薬もネクタイも拾おうとせず、その場を立ち去る。
「・・・・・・何で」
だから、ついて行くことにした。
「何でって。ひとりでいたら、またさっきみたいになっちゃうかなって。見ておかなきゃ」
「・・・・・・頼む。ひとりにしてくれないかな」
「じゃあ、私に嫌い、っていってみて。そしたら、放っておいてあげる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「貴方は優しいから。そういうの、嘘でもいえないの、知っているから」
「・・・・・・美琴、僕は─」
「今、嘘、つこうとしてた。そういうこと、いっちゃうと、他の子に嫌われるよ」
「・・・・・・・・・・・・」
ふたりきりのときのをプロデューサーの話し方はその日から変わった。
それくらいしか変化はなかったと思う。
ドン引きだろ神…