Will you marry me?
現パロ、女体化な槍弓です。
にょただけど口調は変わらず、基本は見た目もあんまり変わらない感じでお願いします。
内容はタイトル通り。
同棲している槍弓の結婚のお話。
着地点を見失ったけど、セイバーにドレス語りをさせたのがすごく楽しかったので満足←
ドレスについては私の妄想を多分に盛り込んだので実際がどうなのかは分かりません。
前回のお話に評価、スタンプありがとうございます。
思ったより多くの人に読んでもらえたみたいで…ありがたいです
遅筆なものでまだまだ時間が掛かりますが…
続きは書きたいと思っていますのでお待ちください
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「アーチャー、一つ頼みがある」
快晴の昼下がり。
昼食を終えてソファーにまどろみながら座っていれば、私の膝に頭を預けて寝転ぶ男がふいにそんな言葉を口にした。
下からこちらを見上げてくる整った顔を見下ろして私は口を開く。
「何だね?夕飯のおかずの追加はないぞ。今日は半日煮込んだとろとろのビーフシチューだからな」
料理を追加するのは面倒くさいとさらさらの青い髪の毛を撫でながらそう言ってみる。
テレビを消した静かな部屋で耳をすませば、微かに鍋が火にかかる音がして。
「…さっきからなんか音がすると思ったら…鍋の音か!」
彼が目を丸くして合点がいったように呟いた。
「ふふん、あと1時間もすればシチューの良い香りがしてくるぞ?」
微かに聞こえる町の喧騒と鍋の音、あぁ平和だな…。
思わず頬が緩んでしまう。
しかも今日のシチューは自信作だ。
繁忙期を終えて久々にあった互いの休日。
しかも連休だ。
有り余る時間を有効に活用して食材を吟味し、丁寧に下ごしらえをして煮込んでいる。
それを何気なく告げてみれば。
「…なん…だと…!?」
膝に寝転がったままの彼が頭を浮かせて、間抜けな顔をした。
今にもよだれを垂らしそうに開いた口と、頭が動くたびに揺れる髪の毛、それはまるでおやつを前にした犬のようで。
それに可愛いな、なんて思ってしまうのもこの怠惰な昼下がりのせいだろう。
「って今回は違うんだわ」
夕飯に気をとられていた思考がどうやら戻ってきたらしい。
彼は頭をポスンと私の膝に戻して真剣な顔になる。
「なぁ、アーチャー、着て欲しい服があるんだ」
私の頬にかかる髪の毛を弄りながら少し甘えたような声で言う。
私がその声に弱いことを知っててやってるのだろう。
現に理由も聞かずに頷いてしまいそうになった。
だが、
「…お互いのファッションについては口を出さないと約束したろう?」
私と彼、ランサーとの間にはいくつか約束事があった。
これはその一つで。
そもそもの原因は初デートだった。
私はいつもと変わらず黒の上下で辛うじてスカート、対する彼は派手なアロハシャツに黒のレザーパンツ。
初デートにその格好はなんだ!?とお互いに自分のことは棚にあげての痴話喧嘩が勃発した。
幾度か起こったその喧嘩は毎回平行線のままで終了する。
頑固で自分の考えは曲げない、何故かそういうところが似ている私たちだった。
どうせならもっと違うところに共通点が欲しかったが、これはもう性分なのだから仕方がないのだろう。
そう悟った私たちはお互いの服のセンスについては言及することをやめた。
だけれど、喧嘩をしたことで少しだけファッションに気を使うようにはなった。
見苦しくなく、清潔感さえあれば良いと思っていたが、着飾ることにも少しだけ意識を回すようになった。
…地味で面白味のない私だってやっぱりお付き合いしている相手が喜ぶようなことはしてあげたいと思うのだ。
それはランサーも同じだったのか、今ではお互いちょっとだけお洒落になった。
凛から、ようやく人並みのカップルに見えるようになったわね、と呆れたようにため息を吐かれたが。
そんなひと悶着があり、いつの間にか定着していた不可侵条約。
それを今さら蒸し返してくるのは彼の性分からすると珍しくて。
「これだけは譲れなくてな、駄目か?」
なんて殊勝にも上目遣いでお伺いを立てるものだから、仕方ないなと頷いてしまった。
「それで?着て欲しい服はどこにあるんだ?」
あんなに真剣な顔で譲れないとまで言ったのだ、まさかとんでもないものが出てくることはないだろう。
若干の不安はあるが、そう信じて聞いてみる。
決心が鈍らない内にサクッと着て終わらせてしまおう。
そうだそうすれば良い。
そうやって自分に言い聞かせたが。
「あーっと、今は手元にゃなくてな…」
と、歯切れの悪い返事が帰ってくる。
「?今ここで着るんじゃないのか?」
あそこまで言いきったのにもしやその着て欲しい服を用意していないのだろうか?
それとも通販で買ってまだ届いていない、とかだろうか?
頭の中が疑問符で埋まっていく。
「今度嬢ちゃんと坊主が帰ってくるのは聞いてるだろう?」
不意にランサーはそんなことを口にした。
嬢ちゃんと坊主、とランサーが呼ぶのは私の幼なじみの凛と我が愚弟の士郎のことだ。
この二人は今はロンドンに留学していてもうじき帰国することになっている。
というのを数日前に国際電話で話したばかりだ。
その時に確か…
「その時パーティーを開くんだと。」
そうだ、そんなことを言っていた。
準備についてはまだ何も聞いていないが、士郎が留守にしていた実家を片付け、パーティーに何の料理を出すかや飲み物の手配をそろそろ考えなくてはいけないなと思っていたところだった。
「やはり、和食中心にメニューを考えた方が良いだろうか?」
良い機会だしランサーに少し相談に乗ってもらおう。
私はついついさっきまでの話題を忘れてパーティーに気をとられてしまった。
「…お前さん、やっぱり自分であれこれやろうとしてやがったな?」
ランサーが呆れたようにそう言った。
「まぁ、うっかり伝え忘れてた嬢ちゃんも悪ィが……やんのはホームパーティーじゃねぇぞ?」
「ホームパーティーではない、とは?帰国祝いのパーティーだろう?」
長い留学を終えて日本に帰ってくる身内をお疲れ様、お帰りなさいと労るのではないのだろうか?
「帰国したら遠坂の当主は代替わりするそうだ。この意味分かるよな?」
現在、遠坂家の当主は凛の父親の遠坂時臣氏だ。
遠坂は冬木の名士だ。
代々この土地の管理者を担っている。
その家の当主が代替わりするということは関係各所に通達、挨拶をしなければならない。
つまり、帰国のパーティーはそういうことだ。
簡単に言ってしまえば新当主のお披露目パーティーということで、そこそこの家柄の人間をたくさん呼ぶことになる。
それはもう身内のささやかなホームパーティーとは言えないわけで。
「まぁ簡単に言っちまえば社交パーティーだよなぁ」
あっけらかんとランサーは言うが、そんなことは気にしていられない。
「そんなの私は聞いてないぞッ!!?」
頭を抱えて叫んでみても事態は変わらない。
そんな形式ばったものにはとんと縁がない私だ。
パーティーでの振る舞い方も、どんな格好をすればいいのかすら分からない。
「と、いうわけでパーティーの準備は全部遠坂で仕切るってこった。俺たちが考えなきゃいけないのはパートナーと着ていく衣装さね。」
「……それで?そのドレスを君が用意するということか??」
「まぁ、そういうことだな」
ランサーは軽く頷いて身を起こした。
「…あまり露出の高いものにはしてくれるなよ」
思っていたよりも大きな話で少し目眩がする。
これ以上は考えたくなくて、駄目だと思いながらも全てランサーに任せてしまおう、そう心の中で決め、本人にも告げる。
ざわめいた心を静めようと私はソファーから立ち上がった。
そろそろ鍋の面倒をみなければ。
随分と遠回りだったがランサーの言いたいことは理解した。
結局は彼は私を好きに着飾りたいのだろう。
何故そんな思考に至ったのかは分からないがパーティーということで何かが琴線に触れたのかもしれない。
彼も本国では爵位を持つような家柄だと言うし。
…庶民の私なんかが付き合えるような人ではないのだろうにな。
緩く鍋のシチューをかき回しながらぼんやりと思考を飛ばす。
家の人間の目を気にしなくても良い、遠い異国の地だから今は何も知らないフリをして付き合っていられるのだろう。
いつか彼は国に戻り家を継ぐ、それと同時に私は一人になるのだろう。
この関係が始まった瞬間から、終わりに向けてのカウントダウンも始まっていた。
どうしたって家柄の壁は越えられない。
それに…私がきっと耐えられない。
彼が求めてくれても答えられる自信がないのだ。
「ランサー、パンとご飯とどちらにする?」
私は沈みそうになる思考を振り払うために声を上げた。
「どっちも食いてぇ!」
ニカッと笑ったランサーはそれはそれは可愛らしかった。
と、まぁこんな話をしたのが数ヶ月前で。
月日が流れるのは早い。
とうとうパーティー当日がやって来てしまった。
ランサーは何やら早めに行ってしなければならないことがあるらしい。
朝食を終えると慌ただしく家を出ていった。
パートナーなのだから私も行くべきなのではと聞いたが、迎えを寄越すからあとから来いとはこれ如何に。
少し不満に思いながらも大人しく迎えを待っている。
ドレスも靴もバッグもメイクも、全部会場に着いてからだというのだから手持ち無沙汰だ。
ぼんやりと伸びた髪を梳かしながらソファーに凭れかかる。
慣れない長さで少し鬱陶しい。
そろそろ切ってさっぱりしようと思っていたのにランサーがあんなことを言うから。
思考がとりとめなく流れる。
いつかの怠惰な休日にもう一つお願いされたのだ。
「あぁそれと、髪を伸ばしてくれねぇか?お前さんがアップにしたところが見たいから」
二人で並んで食器を片付けているときだった。
何でもないようにさらりと言われて。
「あぁ分かった」
と脊髄反射で出たのは肯定の言葉。
「やった!楽しみにしとけよアーチャー!!とびっきり綺麗にしてやる!」
そう言ってはにかむように笑ったランサーにもう何も言えなくなってしまった。
あんなに嬉しそうな笑顔を見せられてしまっては前言撤回もできやしない。
「あ、体型も変えんなよ?ダイエットとか食べ過ぎには注意だかんな!」
早々にその余韻は崩れ去ってしまったけれど。
全く何故あの男は詰めが甘いのか。
そういうところも悪くないと思っている私はもう手遅れだろうな。
ふっと自嘲の笑みが出てしまう。
意識を切り替えよう、今日はきっと大変な一日になる。
それから数分も経たないうちにやってきた迎えに連れられて、辿り着いたのは教会だった。
郊外の森の中にあり、小さな湖がある。
都会の喧騒から外れ、緑に覆われ、湖は光を弾いて澄んでいる。
まるで一つの絵画のような見事な風景だった。
ここで式を挙げるのはとても、とても素敵なことだろう。
だが、何故私たちは教会に来たのか…
今日行われるのは凛のお披露目パーティーで、まぁ…おまけに士郎おかえりと言ってやらんでもないと思っていないこともない…そんなパーティーで。
…ん…?士郎と凛…?
そういえばあの未熟者は凛のことを特別に思っていて、凛もまた憎からず思っている様子だった…
日本にいるときは付かず離れずな微妙な距離だったが…
…まさか、まさか、パーティーではなく挙式?
いやいやまさか。
教会でパーティーなはずがない、そう心の隅で思いながらも希望を捨てきれなかった。
私は隣の美丈夫に恐る恐る尋ねる。
「…教会でパーティーをするのか?」
「いえ?今日はこちらで挙式だと聞いておりますが」
ランサーの後輩ディルムッドは疑問符を浮かべながらも丁寧に答えてくれた。
一体どういうことだ!?
結婚なんて話は全く聞いていないし、家族もみな何も言ってはいなかった。
もしや私が反対するから隠していたのか…?
なんて酷い仕打ちだ…
それに今まで考えないようにしていたが…
凛は生涯のパートナーをあの未熟者に定めたということか…?
あぁ、なんてことだ…凛…ロンドンにはもっと良い男が居ただろうに何故あんな、よりにもよってあんな未熟者なのだ…
というか何故私には内緒でこんなことに…
何故話してくれなかったんだ…凛!
切なさと寂しさとほんの少しの憤りで胸が締め付けられる。
うっかりすると泣いてしまいそうだ。
車を降りて立ち尽くしていると教会の中から凛々しい雰囲気の女性がタイミング良く顔を出した。
来客に気づいた案内人だろうか?
そう思ったが彼女はランサーと共通の大学からの友人、セイバーだった。
「やぁ、セイバー久しぶりだな」
「お久しぶりです。アーチャー息災そうで何より」
ブロンドヘアーを綺麗に結い上げて淡い水色のドレスを着ている。
「さぁ、アーチャーぼんやりしている暇はありませんよ」
こちらです!
挨拶もそこそこにセイバーは私の腕を引き教会の中へと誘う。
「ではアーチャーまた後ほど」
ディルムッドがにこにこと手を振っているのを肩越しに見ながら、私はセイバーに引きずられていった。
「せ、セイバー?どこへ向かっているんだ?」
可憐な見た目からは想像もつかないほどの力で腕を引かれながら疑問を口にすると。
「控え室ですよ、アーチャー。早く支度をしなければ」
そうだった、私は普段着のまま連れてこられたのだった。
しばらく進むと新婦控室と書かれたアンティーク調の扉の前に辿り着いた。
更衣室として使えるのはこの控え室だけなのだろうか?
花嫁の大事な部屋で着替えるなど…と申し訳なさでいっぱいになる。
…そうだ、少しはしたないけれど、トイレで着替えよう。
さっと荷物を受け取って出ていけば凛の邪魔にもならないはずだ。
そして無茶な頼みごとをしたランサーを叱ろう。
ここで支度をするように話をつけたのはヤツなのだろうから。
全て終わってから二人で謝って、それからもう一度祝福するのだ。
そんなことを考えながらゆっくりと開くドアを見つめた。
瞬間、目に入ってきたのはデコルテ部分にレースがあしらわれたマーメイドラインのウェディングドレス。
そしてドレスの前には今日の主役であろう遠坂凛が立っていた。
「おっそい!!何してたのよ!」
開口一番が小言なのは何とも凛らしい。
心の中で微笑ましく思った。
「すまない、凛」
こうやって私が謝るのも久しぶり。
「私のドレスはどこにあるのかね?受け取ったらすぐに出ていくから君はゆっくりするといい」
そう告げると凛は深く息を吐いて後ろのウェディングドレスを指差した。
「素敵なドレスだな。凛にしては少し大人っぽいようだが」
「…そう、このドレスはあなたの好みにも合ってるのね。ねぇ、アーチャー何かおかしいと思わない?」
私の手を取り、引いていく。
先にあるのは今日の主役のために誂えられたドレスと鏡。
鏡の前に立たされ、いつの間にか部屋に入っていたセイバーがドレスを私の胸に当てた。
「……え?」
一体なにを、しているの、だろう?
「全くムカつくくらいぴったりね」
「えぇ、悔しいですがランサーの見立ては完璧です。こんなにアーチャーの魅力を引き出すとは」
現状に意識が追い付かない。
固まっている私を無視して、二人は私の服を脱がしドレスの着付けをし始めた。
「っいやいや待ちたまえ!二人とも!!」
「静かにしなさい、アーチャー。支度を全て整えてから説明するから」
こうなってしまっては何を言っても聞かないだろう。
私は諦めて二人にされるがままドレスを身に纏う。
鏡台の前に座り、今度はヘアメイクのプロに髪も肌も整えられ、飾り立てられていく。
永遠に続くかのような時間に思われたが、時計を見れば過ぎたのは一時間と少し。
姿見で自分を見てみればそこには立派な花嫁さまが立っていた。
何一つ実感は湧かないが。
「それで?どういうことなのか教えて頂けるのかね?」
ソファーに腰掛け優雅なティータイムを送っていた二人を振り返る。
「っアーチャー!とても美しい…!このドレス、ホルターネックタイプで胸元はレースで編まれていたのですね。褐色の肌に白がよく映えています!膝下から重ねられたフリルはまるで人魚の尾のようでしなやかだ。そしてそのフリルから後ろへ伸びるトレーン(引き裾)は見事なものですね、エレガントさが際立ち、長身のあなたにとても似合っています!あぁ、なんということでしょう、正面から見れば慎ましやかな花嫁だと言うのに後ろ姿がなんと大胆な!あなたの綺麗な背中をここまで見せてしまうのですか…いえ、綺麗なのですから見せるべきとは思いますが少しだけ勿体ないような気もするのです。…ホルターネックのうなじ部分は真紅の宝石で留めるのですね。ベールで隠れるでしょうに、ここにランサーの象徴のような赤を持ってくるとは…彼の執着心を表しているようで大変遺憾ですが…アーチャーの美しさを引き立てているので良しとしましょう。マリアベールの中に見える白薔薇もなんと美しいことか。白い髪に白い花では同化してしまうのかと思いましたが葉も共に挿すことでメリハリが出てとても美しい」
マカロンを頬張っていたセイバーがいつの間にやら私の手を取って惜しみなく賛辞を述べていた。
訳の分からない事態が更に酷くなり、少し頭痛がする。
とりあえずは興奮しきったセイバーをどうにかしないと。
「…セイバー少し落ち着いてくれ、まだ何がなんだかよく分かっていないんだ私は」
「すみません、実際に着ている姿が私の想像以上に美しかったもので…」
セイバーは先に説明をしなければなりませんね、と言いながら私をエスコートして凛の向かいの長椅子に座らせた。
「ま、ここまできたら薄々分かるでしょう?」
視線で話を促せば凛はそう言って事の真相を話し始めた。
「端的に言ってしまえば今日はあなたとランサーの結婚式です。私たちのパーティーではなく、ね」
「…まさか、冗談だろう?」
ここまでお膳立てされていても信じられない気持ちが強かった。
だってそんな素振りは全く見せなかったし、第一、プロポーズ、されてない。
そう考えていたのが見透かされたのか凛は順を追って説明してくれた。
曰く、こんな大事になったのは私が結婚に対して消極的だったせい、らしい。
確かに私はあまりランサーとそういう話はしなかった。
話題が出ても流したり、別の話にすり替えたり、真面目に考えるようなことはしなかった。
私はずっとランサーと一緒にあの少し狭いアパートで変わらずに暮らしていきたいと思っていた。
だって挙式、とか籍を入れる、とかそんなことをしたら何かが変わってしまいそうだったから。
終わりのないモラトリアムのような毎日が良かった。
だってあやふやな関係のままなら断ち切れてしまってもしょうがないと諦められるから。
いつか手放さなくてはならない幸せだと思っていたから、だから思考を停止させたままでいたいと思っていた。
…それは間違いだったようだ。
「アーチャーはもっと自分の幸せに貪欲になるべきよ!」
凛に叱られてしまった。
相手の幸せを考えるあまりに現実が見えていないと。
勝手にランサーの幸せを決めつけて自分はそれに沿わないからいつでも消えられる準備をしている。
ランサーはそのことに気づかないまでも雰囲気は感じ取っていたらしい。
嫌われてはいない、愛されてる実感もある、なのにいつか消えてしまいそうな気がする、繋ぎ止めるにはどうすりゃいい?
とずっとぐだくだうじうじ、常のランサーからは考えられないほど煮え切らない態度で凛に相談していたらしい。
そんな態度に切れた凛がいっそのこと強引に式でも挙げてしまいなさいよ!と怒鳴りつけてこの計画が立てられた。
周りの色んな人間を巻き込んで。
「だぁってずーっとその話ばっかなのよ?国際電話のお金もバカにならないってのに」
「…だが…こんな、人を巻き込まずとも…」
この場に招待されたのは家族と、古くからの友人たち。
既成事実を先に作ってしまうにしても私たち二人だけで事は済んだはずだ。
「でも逃げ道を絶って突きつけないとあなた、逃げるでしょう?」
そう言われてしまえばぐうの音も出ない。
「幸せになることに臆病になる必要はないんですよ、アーチャー」
セイバーは静かに微笑んでそう言った。
そのどこまでも優しさしかないような顔を見て凝り固まっていた考えが少しだけ解された。
凛のパーティーの話から全てが嘘で、だけど、ランサーが語っていたことだけは嘘ではなかったらしい。
本当に長い長い遠回りをして辿り着いたのはウェディングドレス。
…そうか私に着て欲しかったのはこのドレスなんだな?
ここまで来たならば私ももう迷うのを止めよう。
「さて、お喋りはそろそろお終い。式が始まるわよ」
二人に連れられて控え室を出た。
長くたなびく裾やベールを捌くのは少し難しい。
二人に助けられながら向かうのは教会の入口だ。
新郎はもう先に入って待っているらしい。
セイバーと凛は私の手を元気づけるように強く握ってそれから中に入っていった。
扉の外で佇むのは私だけ。
本当はここに父親が隣に居るのが正しいのだろうがそれはしょうがない。
私は養父母に育てられ、血の繋がった家族は居ない。
彼らは惜しみなく愛情を与えてくれていたが、如何せん忙しい人たちだった。
だから今回もきっと都合がつかなかったのだろう。
一人で納得して扉が開くのを待つ。
「アーチャー」
後ろから聞き覚えのある低い声が聞こえた。
振り向けばそこには久しぶりに見る顔があった。
「…何で」
「何でって娘の結婚式なんだからに決まってるだろう?」
そう言って隣に立つのは養父の切嗣だ。
困ったように笑いながら彼は腕を差し出してくるが、私は戸惑ってその腕を取れないでいる。
来ないものとたかを括っていた。
どうせ、私の家族として参列するのは士郎だけだろうと。
そう思い込んでいた。
「アイリもイリヤも士郎もみんな君をお祝いに来たんだよ」
切嗣は私の腕を取り、そう言ってゆっくりと歩き出す。
鐘の音と共に開かれた扉の向こうには見慣れた顔が見慣れない白いタキシードで私を待っていた。
全く今日は心臓に悪いことばかりだ。
だけど、あれもこれも、全て忘れ難い思い出になる。
勝手なことばかりをするなと文句の一つも言いたかったが、結局何もかも許してしまうのだろう。
だって先に待つランサーの顔がだらしなく緩んでいる。
今まで見たこともないほど幸せであると顔を綻ばせ私を待っている。
ゆっくりと歩いていたはずのバージンロードはすぐに終わり私は差し出されるランサーの腕へと手を伸ばした。
「ランサー」
つられるように微笑みながら彼を見つめる。
「あぁ、アーチャー綺麗だ…遅くなっちまったが」
Will you marry me?
(ずっと着て欲しかったんだ俺のためのドレスを)