【槍弓】商店街にて
HA後日談後の槍弓。書いた人的には槍弓です。限りなくその気配が薄くても槍弓のつもりです
というかHA期間ですね! 繰り返す四日間万歳! みんなHAやって!
やりゆみデイズで配布していたペーパーの中身に少しだけ加筆しました
これ(novel/10183810)に時間の関係で入れ損ねた短編をサルベージしています
入れ損ねたネタまだ数本あるのでそのうちなんとかしたい
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ライダーがその顔に気づいたのは、たまたまだ。
「おや。貴方がここに顔を出すなんてめずらしいですね」
「ああ……そういえば、ここは君のバイト先だったな」
昨夜は風が強かったせいか、店の前にちらほらと落ち葉が散らばっているのが出勤時に少し、気になっていた。店頭に出してある特売ワゴンの整理ついでに掃除でもしようかと、ほうきとちりとりを手に店の外に出てみたら見慣れた顔に遭遇した、というわけだ。
見慣れてはいても、思わず声を掛けてしまうくらいには意外だった。声を掛けられたほうもこの展開は予想していなかったのか、一瞬でポーカーフェイスの向こうに隠れてしまったが軽く目を見はっていたのは見逃していない。
さらに意外なことに、彼――アーチャーはライダーに見つかってもその場を立ち去ろうとはしなかった。追い払いたいわけではないので一向にかまわないが、あまりないことなのでつい好奇心がうずいてしまう。
鋼色の瞳は、特売ワゴンの中でも片隅に寄せられているカゴに向けられていた。カゴの中には、ライダーには使い道のわからないガラクタが雑に積み重ねられている。
確か、店主は壊れてしまっていて動かない機械、だとか言っていた。骨董品屋で取り扱う品にしては少しばかり夢や浪漫に欠けるそれらは、倉庫丸ごと整理を依頼された遺品の中や、商品として引き取った家財類に紛れていたものらしい。壊れていなければ適切なリサイクルショップにでも流すが、壊れてしまっているとそれも難しく、商売をしているため捨てるのも手間がかかるため、部品が欲しい人にでもタダで譲ろうと置いてあると説明された記憶がある。
ライダーの気のせいでなければ、アーチャーはじっとそれらを見つめているように見えた。
「……それ、気になりますか?」
ふたたび、声を掛けてみる。気になっているのはむしろライダーのほうであることは、おくびにも出さない。
アーチャーが、またしても目を丸くした。今度は、すぐポーカーフェイスに隠れるわけでもない。よほど、驚いたのだろう。
ライダー自身、自分らしからぬことをやっているという自覚はある。たまにはこういうことがあってもいいと、勝手に自分の中で納得した。ただし、それが相手に伝わっているとは限らない。
というわけで、驚いたまま固まっている顔をじっと見つめていると、しばらくしてふっとアーチャーが肩の力を抜いた。苦い笑みを浮かべるその姿は、目を丸くしていたときもそうだったが、眉間に皺を寄せているいつもよりだいぶ若く、というか幼く見える。
そんな小さな発見に、ライダーが意外性とほんの少しの納得感を得た気分になっていると。
「あ、ああ。いや、なぜこんなところにゲーム機が積まれているのかと思ってね」
予想外のところから、積み上げられているガラクタの正体が転がり出てきた。なるほど、ゲーム機。
正体がわかっても、ライダーには今ひとつなにをするものなのか判然としない。ただ、ゲームが現代における娯楽として一大ジャンルを築いていることは、聖杯から付与された知識によって知っている。ソレを楽しむための機械がそこそこ値段がすることも、同じく把握している。
さらには、アーチャーがこの時代に誰より詳しいことも知っている。そしてライダーの問いかけに対応しつつも、彼の視線が壊れたゲーム機から外れていないことにもちゃんと気づいていた。
「在庫処分、と言いますか。壊れているので、誰か無料で引き取ってくれる人を探しているようなのですが」
「そうなのか?」
「ええ、捨てるにも手間とお金がかかる、とかで」
「もったいないな。この程度なら、修理すればどれもまだ十分使えるだろうに」
「……そうなんですか?」
アーチャーの言葉に、今度はライダーが首を傾げる。少なくともライダーの雇い主は、修理をするほうが高くつくと言っていたような気がするわけで。
「つまり、貴方なら修理できると?」
「……触っても?」
「どうぞ」
現状は商品にもならないただのガラクタなのだから、一向に構わない。躊躇なく頷くと、アーチャーがそっとガラクタの山に手を伸ばした。ひとつひとつに、慎重に指で触れていく。ごくわずか、魔力が動いたのがライダーにもわかった。
「――……やはり、再起不能というわけではないな」
アーチャーがゲーム機のなれの果てに触れていたのは、ほんのわずかな間だ。手を離したときには、すでに褐色の眉間には見慣れた皺が刻まれている。
「どれも、部品があればすぐに直せるものばかりだ」
「でしたら、持ち帰ってはどうです?」
名案とばかりに思いついたことを口にすれば、またしてもアーチャーが目を丸くした。今日だけで三度目だ。
もしかしたら、明日は嵐かもしれない。頭の片隅でそんなことを思いながら、ライダーは言葉を続けた。
「ずっと見ていたようですし、気になるのでしょう?」
「いや、だが、先程も言った通り、修理さえすれば適当なショップで引き取ってもらえるものだ。それを、無料でもらって帰るわけにはいかない」
「ですがここにこのまま置いておいても、修理されるあてもなく埃を被るだけですよ」
「む」
眉間の皺をますます深くするアーチャーを眺めながら、思案する。さて、どうするのがいちばんいいか。
ライダーはこの店のバイトだ。店が損をすることを提案するつもりは、最初からない。
だから、べつにアーチャーがこのガラクタをすべて持ち帰ったところで、なんの問題もないことは知っている。ゴミにするのも金がかかるからと、無造作にワゴンの隅で積み上げられていたものだ。
だが、この弓兵はあいにくと融通がきかない。常識派なくせして、彼にとっての普通が周りからすると普通でないことに、たまに気づかないことがある。
さらに、ゲーム機が気になることは否定しないことを鑑みて、ひとつの答えを弾き出した。
「では、こうするのはどうでしょう?」
にこりと笑ったライダーの目の前で、アーチャーがぱちりと目を瞬かせる。
その瞳の奥に先刻まではなかった警戒の色が垣間見えることに気づいて、そういえばこの男は女難の相持ちだったことを思い出した。
修理すれば使えるようになるとはいえ現状ただのゴミに等しいガラクタを持ち帰ることに難を示した堅物に理由を与えるため、ガラクタすべてを店の奥で修理させ、ガラクタがすべて商品と化したことに感激した店主の怒涛の感謝の言葉をオマケにつけて、生まれ変わったゲーム機を弓兵に一台持って帰らせることに成功したライダーは、しばらくの間上機嫌だった。店主の感謝はアーチャーに修理してもらうという決断をしたライダーにも向けられ、ついでにバイト料に少々色をつけてもらえたというのもある。
予定よりも多い収入が気分を良くするのは、当然といえば当然だ。臨時収入を片手に本屋へ向かう足取りが常より軽くなるのも、仕方のないことである。
「おや」
そんな軽やかな気分で向かった目的地には、見慣れた顔がいた。これまた、ここで見るにはめずらしい顔だ。
「貴方がこんなところにいるとは意外ですね」
「おう、お前さんか」
首元で束ねた青く長い髪が、振り返ったはずみで尻尾のように跳ねる。紅玉のような赤い瞳をまっすぐに向けてきたのは、ランサーだった。
ランサーも商店街でバイトをしているので、顔そのものはしょっちゅう見ている。ただ、彼が本屋にいるというのはかなりめずらしい。異常事態とも言えるほど、ランサーと本屋に接点が見出せなかった。聖杯効果で日本語は間違いなく読めるのだろうが、それでも。
「ランサーが読書とは……明日は雷が落ちますか?」
「なんだよ、それ。攻略本探しに来ただけだっつの」
「こうりゃくぼん……?」
また、よくわからない言葉だ。疑問に思った途端、聖杯が知識を流してくれる。なるほど、ゲームの進め方や攻略方法などをまとめ記した本の総称、それが攻略本。
……ゲーム?
「ゲームっての、前からやってみたかったんだけどよ。こないだアーチャーがゲーム機持って帰ってきたから、ソフト買ってやり始めたんだよ。これが面白ぇんだが、謎解きがよくわかんねぇから教えろって言ったら、そんなもの知るか攻略本出てるから買ってこいって追い出された」
「はあ」
どこからツッコめばいいのか、ライダーにはすでにわからない。アーチャーがゲーム機を持って『帰って』きたという部分が特に気になるわけだが、とりあえずひとつだけ明らかなことがある。
「気づかなくていいことに気づいてしまいました……」
「あ?」
「いえ、なんでもありません、気にしないでください。早くお目当ての攻略本とやらを買って、戻ってゲームの続きをなさったらいかがです?」
「うん? おう、そうするわ……? んじゃな」
迷わず一冊の本を棚から抜き出し、首を傾げながらレジに向かう青い男の背中を見送りながら、ライダーは長い髪を揺らしてため息ひとつ。
つまり、なんだ。あの堅物の弓兵は、あのやたら現代に馴染んでいる槍兵の望みを叶えるために、アレを探していたということか。そして店の前で見つけたから、つい眺めてしまった、と。
アーチャーの性質を考えれば、なんとなくそうなる流れはわかる。まったく、意外ではない。
だが、まさかそれがランサー相手にも発揮されるとは、予想外もいいところだ。しかも、ランサーはアーチャーと一緒に暮らしているようなことを口走っていた。
それ自体、未だに現実のこととは思いがたいが、槍兵がそんなところで嘘を吐く理由もない。それに、顔を合わせれば嫌味を言い合っているようなふたりではあれど、ちょくちょく共に行動をしていたのも確かだ。
つまり、どこをどうしてそうなったのかはさっぱりわからないものの、そういうことなのだろう、たぶん。
詳細を知りたいとは思わない。ライダーにとっては、これ以上ないほど他人事だ。揉めているならともかく、あの様子だと双方それなりに満足しているように思えるし、放置でいいだろう。
とりあえず、今言えることは。
「……今度遭遇したときにからかう権利くらいは、主張しても構いませんよね」
なんというか、これに尽きる。
もちろん、否と言われても決行するつもりなのだ。異論は認めない。
目当ての本を手に取りながら、ライダーは心の中でそう誓った。
Comments
- あいJuly 27, 2022