ゆっくり意識が浮き上がり始めて、瞼越しでも眩しい光に朝だなあとつらつら思う。起きたくない。無意識に右隣りに腕を伸ばしたがシーツに擦れるだけ。ひんやりしたシーツは、アーチャーがとうに起きていることを教えてくれる。しかしキッチンの方からがちゃがちゃと音がするので、恐らくそこで家事に勤しんでいるんだろう。
そうしてようやく目を開けた。真っ白い天井。あれ、坊主ん家って木じゃなかったか。ぱちぱちと瞬きをした後、あ、と思わず声が出た。そうだ、昨日アパートに引っ越してきたんだ。今寝てるベッドだって、でかい男2人が寝ても大丈夫なようにダブルベッドだ。ついでに言うなら昨日はおれが新婚初夜だとか何だとアーチャーを丸め込んで熱い夜を過ごしました。おかげでアーチャーがいつもよりかわいかったです。まる。
おれはもぞもぞとベッドから這い出た。フローリングの床に足をつけて立ち上がり、ぐぐーっと背伸びをしたら眠気も薄れていく。存分に身体を伸ばしたところで、自分が全裸であることを悟ったためいそいそと服を着た。ちなみに昨日脱ぎ散らかしたはずのパジャマはきちんと棚の上に畳まれてあって、アーチャーらしいと笑った。 キッチンに入るとアーチャーは食器を整理している真っ最中で、皿を保護していた新聞紙を剥がしていた。
「ああ、おはよう」
「おはよ。朝っぱらから頑張ってんな」
「もう11時だぞ、ねぼすけ」
え、嘘。そう思って壁掛け時計を見ると確かに時計の針は11時と5分を指していた。あちゃー、とぼさぼさの頭を掻くとアーチャーは少し笑った。おれと違って、アーチャーは髪も身だしなみもいつも通りだ。昨日散々セックスしたのに元気だなあと思う。どうせもう2人きりなのだからもっと怠惰に過ごすべきだとも思う。言わないけど。
「ランサー、コーヒーは飲むか?」
「おう」
「ミルクと砂糖は?」
「いらね」
おれは椅子に座って欠伸をひとつ。マグカップを二つ取り出してケトルのお湯を注ぐアーチャーの背中を眺めているうちに頭がはっきり覚めてきた。これからこの背中を眺めるのがおれ一人だけだと思うと嬉しい。嬉しすぎてにやける。ああひとりじめってすばらしい!なんて思っていたら、振り返ったアーチャーが眉をひそめた。
「…何を気色悪い顔をしているのかね」
「幸せ噛み締めてんだよ」
ゆるんだ頬をさらにゆるめてにっこり笑う。アーチャーは一瞬呆れてみせたが、くすくすと笑ってくれた。ほら。渡されたカップを受け取る。さんきゅ。おれは礼を言う。アーチャーは向かい側の椅子に座って、二人でちびちびとコーヒーを飲んだ。マグカップはトレードカラーとでも言えばいいのか、アーチャーは赤でおれは青だ。もちろんおそろいだ。子供みたいにあれが欲しい、と駄々をこねたのはつい最近のこと。長々と渋ってはいたが何だかんだこいつはおれに甘かったりする。
「…」
「…」
こち、こち。時計が時を刻む音が静かなキッチンに響く。小鳥の囀りはもう聞こえない11時すぎは、のんびりと暖かい。幸せな気分は膨らむばかりだった。
「……、おれ達だけなんだよな」
「…当たり前だろう」
「アーチャーはおれのものだって、すげー実感してる」
「奇遇だな、私もだ」
一瞬の沈黙。直後に二人とも笑い出した。えへへ。ふふふ。夢心地みたいなふにゃふにゃな声がまたおかしかった。
お揃いのマグカップでコーヒー飲みながら二人で笑う。そんだけのこと。だけどそんなささやかな出来事が続くのだ。毎日一緒に飯食って、ソファでくつろいで、同じベッドで眠って。これを幸せと言わずにいられるもんか。
「しあわせ、だなあ」
「しあわせ、らしいな」
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- そーOctober 19, 2017