【5/4新刊サンプル】深山いぬあそび(槍弓)
5/4 SUPER Root4to5 2022内・蒼天赤を穿つ2で発行予定の新刊サンプルです。
HA後日談時空で、仔犬の姿にされてしまった槍とそのお世話を申しつけられた弓の、ほのぼの冬木ライフ。
CP色は希薄ですが書いた人は槍弓のつもりです。
2020年12月に発行した「冬木ねこあるき」(novel/14356969)の続編ですが、未読でもさほど問題なく読めるかと思われます。
5/4 東2ホール サ16b「ACF」
『深山いぬあそび』 B6/22P/予価300円
できればイベント配布時に無配をつけたい希望だけはあります。
通販
フロマージュ(書店):https://www.melonbooks.co.jp/fromagee/detail/detail.php?product_id=1464479
BOOTH(自家通販/匿名配送をご希望の方は匿名配送用アイテムを一緒にカートに入れてください):https://acf.booth.pm/items/3824255
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始まりは元マスターのお願い、もとい命令だった。
「新都の教会に行って、預かりものを引き取ってきてくれない?」
聖杯戦争が衛宮士郎を勝者として終結し、繰り返す四日間が終わってなおアーチャーが現界を続けているのは、元マスターである遠坂凛の願いに依るものだ。
そうである以上、彼女のお願いはほぼ無条件で受理するアーチャーであるが、だからといって引き受ける際になにも文句をつけないとは限らない。
「新都の教会」
「そう、冬木教会よ」
「正直なところ、冬木において近づきたくない場所筆頭なのだが?」
「アンタが素直に苦手を白状するなんて相当よね」
苦虫をかみつぶしたような表情を作ってみせても、凛にはまったく効果が無い。効果が無いことは最初から知っているが、新都の教会が苦手なのは悲しいかな嘘偽りない事実なので、ますます眉間の皺が深くなるだけだった。
「それで? 己の元従者を敢えて苦手な地へと追いやろうとする元主人の心は?」
「べつに嫌がらせしたいわけじゃないわよ、そこは誤解しないでちょうだい。私もあそこはあんまり行きたくないし、アンタの気持ちもちょっとわかるのよね。ただ、どうしてもあそこからサーヴァントに預かり物を引き取ってきてもらわないといけないの」
嫌がらせではないと断定されて、アーチャーの眉間の皺がほんのわずか弛む。
だが、次に凛の口から飛び出してきた単語を聞きとがめ、今度は眉を跳ね上げた。
「サーヴァントに?」
「そうよ。サーヴァントに、よ。となったら、わたしが頼めるのはアンタしかいないでしょ」
サーヴァントとは、エーテル体。言うなれば、魔力の塊だ。
そんな存在に引き取りを依頼する。人間が持ち運びするには荷が重い、つまりはそういうモノを教会から引き取るということか。
それは確かに、信頼できるサーヴァントに依頼するしかない。
「……君、今度はどんな厄介事に首を突っ込もうとしているんだ……?」
「行けばわかるわよ」
そう断言した凛に遠坂の邸を追い出されたのは、一時間ほど前の話だ。嫌味半分の『厄介事』呼ばわりが完全にスルーされたことがなによりも嫌な予感をあおり立てている気がするのは、考えすぎだろうか。
「預かり物を引き取ったら、まっすぐ帰ってきてちょうだい。寄り道しないでね」
そんな、まるで子供に向けるような言いつけまで追加されている。初めてのおつかいではないはずだが、凛の中では似たようなカテゴリなのかもしれない。
「しかし……」
深山町にある遠坂の邸から新都の冬木教会まで、普通に人間の速度で移動してきたのは、もちろん気が進まないからである。
まっすぐ帰ってこいとは言われたが、急いで往復しろとは言われていない。アーチャーがまるで人間のような生活をしていると凛は喜ぶので、これについてもおそらく文句を言われることはないだろう。
だが、いざ冬木教会の門前に到着した時点で、ついアーチャーは足を止めてしまった。ここまで来た以上今さら躊躇もなにもなく、さっさと用事を済ませて帰るつもりだったのに、だ。
「これは、どういうことだ?」
サーヴァントには、サーヴァントの気配が分かる。
冬木教会を預かるのは、カレン・オルテンシアと名乗るシスターだ。間違いなく敬虔なシスターだが、性格は嗜虐的で人使いが荒い。彼女を依代として現界している二騎のサーヴァントのうち、片方は彼女から逃れるために年中家出しているくらいだ。
なので、本来この教会を拠点とすべきサーヴァントの気配が二騎とも揃っていることはほぼない。あるとすれば、カレンに捕まってたまたま連れ戻されているタイミングということだ。
それはいい。今、見知ったサーヴァントの気配が教会の内部に二騎存在し、それらが間違いなくカレンのサーヴァントのものであることも、おかしくはない。
問題があるとすれば、その片方の気配――バイトを掛け持ちしているせいで、街中でちょくちょく顔を合わせるほう――がやけに弱々しい、ということだ。
「なにをやらかしたんだ」
なんとなく、想像はつかなくもない。カレンから逃げようとして魔力を使い果たし、マグダラの聖骸布で釣り上げられた結果そのまま放置でもされているのではないだろうか。
「……む?」
と、思ったのだが。
そういうわけではないことに気付き、教会の門をくぐったアーチャーはほんのわずか歩く速度を上げた。
なんせ、やけに弱々しい気配が徐々にこちらへと近づいている。一応、行動は制限されていないのか。
アーチャーが教会の中にサーヴァントが二騎いることに気づいているように、教会にいるサーヴァントたちもアーチャーが近づいてきていることに当然気づいているだろう。どちらも顔を合わせれば挨拶くらいするし会話だってするが、気配に気づいたからとわざわざ出迎えにくるような面々でもない。
だとすればカレンにそう命じられたか、もしくはそのカレンから逃げているか、だ。前者であればおそらくは凛に言いつけられた『預かり物』をアーチャーに手渡すためだろうし、後者だとすれば――捕まえてカレンに差し出すつもりは特にないので、とりあえずぶつからないように避けてスルーするのがいちばんか。
脳内で勝手にそう決着し、ひとまずさっさと自分の用件を済ませてしまうために、教会の正面玄関――荘厳な両開きの扉に手を掛ける。
ギイィ、と
「わん!」
重々しく開いた扉から飛び出してきた毛玉が、勢いよくアーチャーの胸に飛び込んできた。
とっさに片腕で抱きとめたものの、なにが起こったのかいまひとつわからない。いや、正確には想像つかなくもないのだが、現実だと思いたくない。
なによりも。
「まさか、と思いたいのが……」
ずっと感じていた、やたらと弱っていたサーヴァントの気配が、なぜか現在進行形で自分の胸元にある。
つまり。今、アーチャーに片手で抱かれ、ふるふると震えているこの毛玉の正体は。
「……ランサー?」
「きゃん!」
そうだよいちいち確認しなくたってわかんだろ! と言いたげな鳴き声をあげた、その生き物は。
大きくな頭、つぶらな瞳、短くて太い足。毛は短いのにふわふわしていて、触れれば滑らかで温かい小さな体。全体的に青味がかった毛色こそはあまりお目にかかれるものでもないが、それ以外は。
どう見ても、仔犬だった。
「では、詳細を説明いたしましょう。ええ、大きいギルガメッシュが」
「いやもういい、言わなくていい。大体理解した」
「そうですか」
胸の前で祈りを捧げるように指を組んだカレンが、そっと目を伏せる。殊勝な態度に見えるが、そう見えるだけなことをアーチャーはよく知っていた。
「さすがに驚きましたが、面白……いえ、ひとまず姿は変わったものの霊基は無事のようでしたので。それに肝心のギルガメッシュが、戻し方はわからないと言い張ってさっさと子供の姿に変わってしまいましたから仕方がありません」
案の定、『面白い』と言いかけている。
「ランサーはランサーで、とにかく教会に居着かない駄犬ですので私も困っておりまして。しばらくその姿で留め置いて仕置きとしようかとも思ったのですが、どうやらその姿のままですと魔力をうまく取り込めないようなのです」
ついでとばかりにサラッととんでもないことを口にしていたが、追求するのはやめておいた。自他共に認めるサディストが考えるお仕置きの内容を知りたいとは思わないし、それよりもランサーの現状のほうが気に掛かる。
――なんというか、聞き覚えというよりかは身に覚えのある症状だった。
「この教会はそれなりに良質の霊地のはずですが、それでも魔力を汲み取れずに弱っていく一方。私は魔術師ではないので、そうなってしまいますと手に負えません。そこで先輩の知恵をお借りすることにしようと思いまして連絡したところ、すぐに貴方を行かせるのでランサーを預けるようにと言われました」
「なるほど」
話を聞いた凛も、おそらくはアーチャーと同じ既視感を抱いたに違いない。原因は違えど、似たようなことになったのなら対処方法は大体同じになるはずだ。うっかり以前巻き込まれた珍事の細部を思いだしかけてしまい、意思の力でそのままねじ伏せた。あのときとは逆の立場で対処するだけなら、細部まで思い出す必要はない。まったくもって、ない。
ちなみに、扉を開けると同時に自らアーチャーに突撃してきたランサーは、今はその腕に抱えられたまますっかりおとなしくなっている。アーチャーとカレンの話を聞いているのかいないのか、たまに耳がぴくりと動いていた。尻尾は揺れていない。
今は、このままさっさと眠ってしまうのがいいと思われた。この魔力の枯渇状態では先行きが不安だ。
「私としましても、こんなことでランサーを失うような下手を打つわけにはまいりません。確実に引き渡せるようにと捕獲しようとしたら逃げ出しまして、どういうわけか自分から貴方の胸に飛び込んでいったというわけです。どういうことなのかしら」
「…………サーヴァントは魔力の塊のようなものだ。本能で魔力不足を補おうとしたんじゃないか」
「そういうものですか」
「そういうものだ。なんとなくわかる」
「まあ」
まさか経験があるとも言えない。というより、彼女が知らないのであれば言いたくない。
曖昧な言葉で濁すと、カレンは小首を傾げて歌うように口を開いた。
「サーヴァントなら、ここにもずっといましたのに」
「…………」
たとえ子供になっていたとしても、元凶でしかないギルガメッシュに年中くっついていたくない気持ちはアーチャーにもよくわかるので、敢えてノーコメントとしておいた。
(続く)