【槍弓】re:re:Re Birthday
◆表題+一編(子を成すわけでもなく、魔力を分け合うのでもなく)。いずれも短編。気が向けば続きを追加するかも。
◆原稿の息抜きの合間にプライベッターに上げた内容です。以下詳細。
・re:re:Re Birthday
ランサーに殺されて凛ちゃんに生かされて生まれ直した末に、未来のエミヤが生まれる。そのことを知っている兄貴と、三度目の誕生日にぐるぐる考えごとしているエミヤの話。召喚おめでとう用にかいたもの。
・子を成すわけでもなく、魔力を分け合うのでもなく
マスターから押し付けられたコンドームを見て、弓兵を押し倒そうと考えるランサーの話。
この後普通にスケベに続くはずですが先の話はアヴァロンに消えましたってことで。自覚的にグッズとしてコンドーム使う兄貴がいたらすてきかなというたぶん何万回も繰り返されたであろう妄想ネタ。
◆表紙素材お借りしました、ありがとうございます!
小説表紙/Lace paper | ソラさま [pixiv] illust/61174094
◆新刊一冊分は作業が終わったので、どこかのタイミングでアンケート取らせていただこうかと思っております。槍弓でスペース取るのはじめてなので…。ご興味あればご協力くだされば嬉しいです。
後こんなところでなんなのですが、前作までごらんいただきまして評価やふぁぼ頂きました皆様、ありがとうございました。本当に嬉しいです。
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re:re:Re Birthday
眠れないな、と息を吐き、アーチャーは自室から外へと踏み出した。すでに消灯時間を過ぎたカルデア内、それでも廊下には視認できる程度の明かりがともされている。もっともこれは、カルデア内で生活をしている数少ない人間たち――世界にたったひとり残されたマスターや、カルデアを支える職員らに対する配慮であろうが。
かつ。かつ。ゆっくりと歩を進め、エレベーターに乗り。そうして、最上層階へとやってくる。天井まで高く続く窓は、このフロアにしか用意されていない。まあ、用意されていると言っても、窓の外は万年空気さえ白むほどの猛吹雪なのだけれど。
星ひとつ見えない外界は、しかし白い雪の反射を受けて酷く眩い。この外側はすでに消え失せ、何も残っていないと言うが、もし残されていたとしてもこの景色を見ているだけで、この場所が外界から切り離されていると実感するには十分であろうとアーチャーは思う。
眠れない理由は分かっていた。二月二日。暦になど今更大した意味はないが、記録の一つが語り掛けてくるのだ。エミヤシロウであった自分が一度死んで、また生まれ直した日、時間。時間も場所も飛び越えて今現界している己も、確かにそうやって生まれたのだと。
するりと胸に手を当てる。念ずれば手の中でつるりとした冷たい塊が形を成した。開いた手の中に姿を見せたのは、赤い大ぶりなルビーを留めたネックレスだった。アーチャーが身に着けるには似つかわしくない代物だ。白金の鎖がシャラシャラと涼し気な音を立てる。
投影品ではない。自らを飾るようなものを持たないアーチャーが持つ、唯一の例外がこれだ。死ぬまで手放さなかった平穏の名残とでもいうべき代物。手の中で転がせば、窓の外の雪明りを拾ったルビーは赤々と煌めいた。その色のなかに、アーチャーはいつも二人の人物を思い浮かべる。
ひとりはこの石の本来の持ち主。生前においてはエミヤシロウを教え導いた師であり、命の恩人。死してのちはなんの因果かサーヴァントとしてアーチャーを呼び出した類まれなる才を持つ魔術師の少女。
そしてもう一人。赤とは正反対の色を纏いながらも、その視線、武装が血の赤を連想させる男。
「よう。」
「っ、」
弾かれたように振り返る。まさかこのタイミングで、と思わず動揺が表に出てしまったことに内心歯噛みをしつつ、アーチャーは取り繕うように口許を持ち上げた。手にしていた石は素早くエーテルに変換して隠す。おそらく様々な世界線を知っている彼に、これを見られたくはなかった。カルデアに召喚され、互いの情報も開示されて久しい。それでも。
「んだよ。ゴーストでも見たような顔しやがって。」
フン、と鼻を鳴らし歩いてきたのはランサーだ。かつてのこの日、エミヤシロウを一度殺した男。ルビーの赤で連想するもう一人。
「……貴様、どうしてこんなところに。」
「べっつに。ただの偶然だろ。なんとなく眠れなくてよ。」
さしたることでもないようにそう言って、男はアーチャーの隣で立ち止まる。なんでもないのならばさっさと立ち去ればいいものをとは思いはするが、ここは別にアーチャーのためだけの場所というわけではない。それにサーヴァントらがどのように時間を潰すかについては、規律を大いに乱すようなことがない限りにおいては自由が認められている。アーチャーがランサーの行動についてどうのこうのと口を出せるような筋合いはないのだった。
視線を逸らすようにしてアーチャーは再度窓の外を見た。景色は相変わらずだ。いつだって変わらない。窓を叩くような吹雪。その先には何も見えない。崩壊した外界も、未来も。それどころか今本来はあるはずの空や、月一つさえ。
「月くらい見えてりゃよかったのにな。」
考えていたことをなぞられるような発言に、ぎくりと肩が強張りかける。辛うじて誤魔化すように、アーチャーは肩をすくめつつ口を開いた。
「月見がしたかったのか? ならばマスターに頼んでどこか適当な場所にレイシフトでもさせてもらえ。ここは万年雪に覆われて、空すら拝めない。」
「そんくらいのこたぁ知ってる。オレの方がテメエよりも古参だぜ。」
馬鹿じゃねえのかと言いたげな声音に、アーチャーはぎろりとそちらに視線を流す。ただでさえ胸がくさくさして眠れないのだ。喧嘩を吹っ掛けるつもりならば受けてやろうと返すつもりだった。
だがランサーの表情に虚を突かれ、言葉は喉の奥で形にならず消えた。いつもとは違う、静かな目をしたランサーが外をじっと見つめながら微笑んでいたからだ。
「あんときオレの朱槍で死ねてりゃあ、テメエも少しは救われたんかねえ。」
それが一体何を示す言葉なのか。分からないはずがない。まさに今そのことを考えていたのだから。
「何を馬鹿な。そのようなこと貴様に決めつけられて堪るか。」
滲んだ感情が握った拳を震わせる。湧き上がったのは怒りだ。
ある年の、とある極東の小国、そのまた地方都市で。……ほとんど必ずと言っていいのだろう。エミヤシロウは、聖杯戦争のマスターとなる運命にある。
そしてその中でこれもまた必ずと言っていいだろう――エミヤシロウはこの男に、ランサーに、殺されるのだ。夜の学校で、たまたま彼の姿を見た、ただそれだけの理由で。何の価値もなく、何の意味もない命として実にあっけなく朱槍を心臓に突き刺され、そうして数秒。エミヤシロウは短い二度目の命を終える。
その瞬間に感じたものを、今のアーチャーは正確に思い出すことはできない。だがもしもいまもう一度その夜が再現されたとしたならば、抱く感情は分かっている。
なんの意味もなく、価値もなく殺されるだなんて許さない。そう思うに違いない。
そして――これはもう業腹としか言いようがないが、きっとこうも思うはずだ。冴え冴えとした静かな月の光を浴び、冷たい死の一撃を放つ男の姿を、その手に携えた槍を、美しいものだと。
だからと言って喜んで死ぬような趣味は持ち合わせていない。美しいものを前にしたからと言って自分の命を投げ出すような趣味は、少なくともアーチャーにはない。
そして彼に殺され、凛によって救われたことでこの自分が生まれるのだとしても、そのことをランサーに哀れまれるような謂れはない。選び取ったのは常に自分だ。その選択が凛をはじめとする愛すべき人々を切り捨てるものであったと知った今でも、そこだけは譲れない。選択の結果や代償を背負うべきはいつでも自分だけ。すべてを擲ち、結果そのせいで命を失い、それどころか魂の先まで世界に縛られたとて――その結果は他人に判断されることではなかった。
殺意を隠しもせず睨み付けた先で、ランサーがひそやかに笑う。長い睫毛の下で赤い双眸が雪明りを弾く。鋭く尖った呪いの槍そのものの色合いが、するりとこちらを穿つ。
「勘違いされても困るから先に言っておくぜ。オレは別にテメエを可哀想だなんて思っちゃいねえ。オレとしちゃあテメエの性格はイラつくが、戦士としちゃあ悪くねえと思ってるからな。」
「……。」
「つまり、だ。誕生日おめっとさん、ってことだな。」
ああ。この男。最初からそれを知っていて。
「…………なんでさ。」
気が抜けると同時に生前の口癖が唇を突いた。いったい何なんだ。一瞬にしてげっそりとしたアーチャーの隣で、ランサーが何でもないことのように続けた。
「こんな夜だ。どうせ寝れねえんだろ。どうだい、手合わせでも。今なら訓練室も使い放題だ。」
「…………なんだ。最初からそういうつもりだったのならそう言え。確かに今更眠ると言っても難しい。付き合ってやっても構わんよ。」
「オレがテメエに付き合ってやるんだよ、エミヤ。」
「……。」
ぐ、と息を詰まらせたアーチャーの目の前で、食えない男がまた笑った。