light
The Works "と或る時代の、と或る王国の、と或る家族の話" includes tags such as "槍弓", "腐向け" and more.
と或る時代の、と或る王国の、と或る家族の話/Novel by 上総

と或る時代の、と或る王国の、と或る家族の話

53,452 character(s)1 hr 46 mins

・王族槍×元奴隷弓、二人の愛息・セタンタの話
・オメガバース要素あり(α槍×Ω弓)
・男性妊娠要素あり
・長編というよりは短編の寄せ集め
・書いた順に並べてあるので、途中の時系列がバラバラ
・奴隷を王族に仕立て上げるという設定の元ネタは手塚御大の『ブッダ』より拝借しております(名作なので機会があれば是非)

 以上、性癖詰め込みハッピーセットなのでご注意ください。

 また、この話はkuriko様(user/1612678)がツイッターにて描かれた愛溢れる素敵な槍弓夫婦と愛息セタンタのイラストより着想を得て書かせて頂きました(御本人様よりPixivへの投稿の許可等は頂いております)。突然の不躾なお願いにも関わらず快く承諾してくださりありがとうございました。

 表紙はこちら(illust/60939153)よりお借りしました。

1
white
horizontal

1.セタンタ


 セタンタには奴隷の母がいる。
 アルスター王家の王子、クー・フーリン ・L・アルスターの嫡男であるセタンタの母が何故奴隷身分であるのか、その理由を詳しく説明するには、昔から諍いの絶えない周辺国との歴史を辿らねばなるまいが、要は戦争に勝って従属させたとある国から人質に差し出させた王族の息子が、実は奴隷だったというだけの話である。
 奴隷は褐色の肌ではあったが、従属国の王族の証である雪のように白い髪を持っていた。それでアルスター王はころりと騙されてしまったのだ。
 身分を偽ってアルスター王家の第一王子の側室としてやってきたその奴隷の第二性はΩであり、やがてそうと気付かぬまま、αであるアルスターの王子のお手付きとなって子を成してしまったのだから、従属国の王族達は笑いが止まらなかったであろう。

 奴隷の身分が発覚したのは、セタンタが生まれて五年後のことだった。

 発覚した経緯を、セタンタは知らない。覚えているのは、突然母親が何処へと連れ去られ、会えなくなってしまったことだけだ。
 母を追おうと暴れるセタンタを、召使い達が羽交い締めにして止めた。最後にもう一度だけ息子を撫でようとした母の手は、兵士達によって捕まれ、拘束された。
 セタンタはすぐさま父親の第一王子のところに走って事の次第を訴えたが、父はただ「耐えろ」と言うだけで、それ以上のことをしてはくれなかった。

 毎晩、母が恋しくてベッドの中で泣いた。

 美しい女が代わる代わる添い寝をしてくれたが、どれだけ見目が良くても良い匂いがしても、そんなものはこれっぽっちもセタンタの心を慰めることはなかった。
 母はΩであったが男だったので、添い寝の女よりも身体は大きかったし、柔らかくもなかった。だけどセタンタを抱き締める腕はいつも暖かで、愛に満ちていた。褐色の指がセタンタの頬を撫でて額にそっとキスをされる瞬間、自分はこの世で一番幸せで愛されているのだと思えた。

 絶え難い時が流れた。
 それはほんの二年の月日であったが、幼いセタンタには永遠のようにも思える時間だった。
 その間、暇さえあれば母の姿を探し続けた。死んではいないと教えてくれたのは他でもない父で、しかし居場所に関しては決して口を割らなかった。
 母が元々奴隷として暮らしていた国は、侮辱を許さぬアルスター王の手によって既に滅びている。だから帰る場所など何処にもありはしないのに、母は見つからない。
 世話役の側近達の目を盗んでアルスター王家で使役されている奴隷の小屋にまで足を伸ばしたこともあったが、やはりそこにも姿は無かった。

 祖父である現アルスター王は、事あるごとに「貴様は醜い奴隷の子よ」とセタンタとセタンタの母を口汚く罵るので、自然と顔を合わせることも避けるようになった。
 父は変わらず優しかったが、セタンタが母親の話をすると口を噤んだし、その話はするなと厳しく叱られた。セタンタが母を恋しく思うほどに彼は妻に執着しているようにも見えず、その変わらなさがセタンタには堪えた。

 セタンタが七つを数えた頃、側近達の噂話が偶然耳に入った。
 曰く、母はアルスター王国の領土内にある森の奥で、ひっそり暮らしているのだという。

 雲を掴むような話だったが、詳細を問い質しても彼等は決して答えてはくれなかった為、セタンタは夜半にこっそりと王宮を抜け出して、母を探しに行くことにした。
 父の工房から拝借したベルカナのルーン文字を刻んだ小石を握り締め、馬に跨る。乗馬は習い始めたばかりで途中何度か落馬しながらも、噂の森に辿り着いた頃にはとっくに陽が昇っていた。
 セタンタは森の入口で記憶の中の母の姿を思い浮かべ、ベルカナの小石に念じる。すると石はセタンタの手の中から勢い良く飛び出し、一直線に森の奥を進んでいった。
 夜通し馬を走らせて、身体は疲れ切っていた。何度も足をもつれさせ、木の根に転びそうになりながら、けれどセタンタは懸命に小石を追って走った。

 母に会いたかった。
 抱き締めて、キスして欲しかった。

 どれくらいの距離を走ったのか。身体中汗だくで、膝はがくがくと震えて倒れこみそうになった頃、生い茂った木々が消え、ぽっかりと開けた空間に出た。そこに一軒だけぽつりと建っている、小屋と呼ぶには重厚な造りの小さな家の扉の前で、ベルカナの小石はただの石くれに戻っていた。
 セタンタの足は、急にすくんで動かなくなった。
 ここまで来て、そこに住んでいるのが、もし母ではなかったら。今度こそセタンタは、絶望してしまう。

「そこに誰かいるのか」

 木の扉が、中から開いた。
 セタンタは一歩後退る。
 家の奥から姿を現したのは、褐色の肌に、雪のように真っ白な髪の男だった。

「君は……」

 セタンタの目の前が滲む。口の中から声にならない嗚咽が漏れた。そこにあったのは、会いたくて会いたくて堪らなかった、必死で探し求めた、この世で一番のセタンタの幸福。

 紛れも無い、母の姿だった。


Comments

  • 笔记本
    December 20, 2025
  • Yellink
    November 19, 2025
  • October 18, 2024
Potentially sensitive contents will not be featured in the list.
© pixiv
Popular illust tags
Popular novel tags