咲耶とくっついて暖めあう話
55作目です。
前回のお話→novel/26478686
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秋に別れを告げ、冬の寂しさが訪れる頃。
朝霜が降りきる前の283プロダクション事務所で、一人の男が焦っていた。
P「おいおい、嘘だろ......!」
手元と頭上を何度も行き来する視線。
彼、283プロダクションのプロデューサーは焦っていた。
P「とりあえず電話しないと、まずは────」
壁についていた手を離して、スーツのポケットからスマホを取り出す。
どこかに電話を掛けたかと思えば、プロデューサーの表情はどんどん焦りを増していく。
P「はい、はい......。明日ですか......わかりました。ではそれでお願いします......!」
通話を終えたプロデューサーは、頭を押さえながらソファに腰掛ける。
P「困ったな......」
P「暖房が壊れた......!」
ソファから立ちあがり、壁に取り付けられた業務用エアコンのコントローラーに向き合う。
暖房と書かれたボタンを押せば、天井に取り付けられたエアコンから暖かい風がリビングを巡るはずだった。
しかし今ではうんともすんとも言わない。液晶は付いているもののもちろん入タイマーも機能していないし、他のボタンも全く反応しない。
どこからどう見ても、完全に故障していた。
P「修理業者さんは明日来るから良いとして......今日をどうしのぐかが問題だな......」
抱えていた焦りが落ち着くと、刺すような寒さが襲ってきた。
来る前に見た天気予報では今日の最高気温は二桁を切っていたことを思い出し、何か暖を取れるものはないかと事務所内を歩き始めた。
P「ここにブランケットが何枚か......あれ、一枚しかないぞ」
辺りを見回すが、どこにもブランケットのようなものはない。
どうやら消えたブランケットの所在ははづきさんに聞くしか無さそうだ。
P「うーん......他に良さそうなものはここには無さそうだし、倉庫の方も探してみるか」
P「うおお......廊下も寒いな......」
廊下に出ると、室内履きを貫通するほどの冷たさが足に伝わって来る。
誰かが来る前に少しでも部屋を暖めておかないと、これでは風邪を引いてしまうだろう。
倉庫の扉を開けて中に入る。
P「大掃除は頑張らないとな......」
周囲を見渡して、再び暖を取れるものがないかと探す。
そしていくつかの段ボールをかき分けた後、ついに目的のものを見つけた。
P「電気ヒーター......!少し年式は古いが無いよりマシだ......!────よいしょ、っと」
「おや、プロデューサー?」
P「わっ!────い゛っ゛!?」
後ろから声を掛けられたのに驚き、電気ヒーターを足の指に落とした。
室内履きがなんとかクッションになり大事には至らなかったが、かなりの激痛がプロデューサーを襲う。
悶絶するプロデューサーに声を掛けた主、咲耶がかけ寄ってきた。
咲耶「だ、大丈夫かい!?プロデューサー!!」
P「は、はは、咲耶、おはよう......!」
不安そうに覗き込んでくる咲耶を見て、プロデューサーは何とか笑顔を取り繕う。
しかし、その顔には玉のような汗がいくつも浮かんでいた。
咲耶「ああ、私のせいでプロデューサーの足が......!」
P「いやいや、本当に大丈夫だよ......!ちょっと痛むけどヒビも入って無さそうだし......それより咲耶。ごめんけど、これ運ぶの手伝ってくれないか?実は────」
────────
P「────よし、ちゃんと動いてくれたな......!」
咲耶「なるほど......暖房が......」
電気ヒーターを倉庫から運び出してもらった後、咲耶に事の顛末を話した。
P「それで、どうして咲耶は倉庫の方に?」
咲耶「ああ、事務所に来たら誰も居なかったから、もしかしたらと思ってね。生憎、私が声を掛けたせいであなたに負傷させてしまったわけだけれど......」
P「全然、これくらい気にしなくて大丈夫だよ」
咲耶「......ありがとう。それじゃあ、お詫びに何か飲み物を用意させてもらえないかい?」
P「ははっ、じゃあコーヒーをお願いしようかな」
咲耶「承知した」
咲耶が淹れてきたコーヒーを受け取って、一口飲んでからカップをデスクの上に置く。
さて仕事を再開しようと椅子に腰かけたとき、咲耶が口を開いた。
咲耶「ところでプロデューサー、あなたは寒くないかい?聞いたところ、暖を取れるものはこのブランケットと電気ヒーターだけのようだけれど、どちらも私が使わせてもらっているし......」
P「俺はへっちゃらだよ────くしゅっ......あ、あはは......」
せめて探し物をしている間はコートを着ておくべきだっただろうか。
それにしても、なんてタイミングの悪いくしゃみだ。俺の心配をしてくれていた目の前の咲耶の顔が険しいものに変わってしまう。
咲耶「いいかいプロデューサー。プロデューサーは私たちを大切に扱ってくれているのはとても嬉しいけれど、自身の身を犠牲にするあなたを私は見たくないんだ。わかってくれるね?」
P「は、はい」
咲耶「私にいい考えがあるんだ。もちろん、アイドルのことを一番に考えてくれるような優しいプロデューサーは、そんなアイドルからの意見を無下になんてこと、するはずが無いだろう?」
見るからに怒っている咲耶の目を見て、俺は「はい」以外の言葉を出すことはできなかった。
咲耶の指示に従って仕事用のタブレットを片手にソファに座らされる俺。
一つしかないブランケットを膝に掛けられる俺。
隣に座りブランケットに入ってくる咲耶。
P「なあ、こんなに張り付く必要って......」
咲耶「フフッ、こうでもしないとブランケットの長さが足りないんだ。二人とも風邪を引かないようにするにはこれしかないだろう?」
そうはいうが、密着しすぎて凄いことになっている。
主に咲耶のニットが。俺のスーツと擦れて静電気特有のパチパチという音を立てている。
当の本人はニコニコだし、確かにこうしていた方が暖かいけど......。
気持ちだけ離れる。咲耶が気持ち近づいてくる。繰り返しているうちに、ソファの端へと追いやられてしまった。
P「さ、咲耶......」
咲耶「プロデューサー、まだ温もりをご所望かい?」
P「いや、さすがにこれ以上は詰めれないから......!」
すでに満員電車に乗っているような気分を味わっている。
満員電車と違うところは咲耶の匂いしかしないというところだろうか。
咲耶「フフ、冗談だよ。おや、顔が赤いけれどもしや熱でも────」
P「か、からかわないでくれ......!」
そこからは咲耶の独壇場だった。
────
P「ははっ、ま、待ってくれ,,,,,,!くすぐったいから......!」
咲耶「おや、283の王子様はここが弱点かな?」
────
P「咲耶、寒くないか?」
咲耶「大丈夫だよ。あなたの温もりのおかげでね」
────
P「どうした?咲耶」
咲耶「ああいや、あなたの綺麗な瞳に見とれていてね」
────
それから一時間弱が経過したころ、それは起きた。
俺がタブレットとにらめっこをしていると右肩に何かがのってきた。
思わず咲耶の方を見ると、読んでいたであろう小説に付箋代わりに親指が挟まれていた。
咲耶「────............」
P「(寝ちゃったのか......)」
小さな寝息が聞こえてくる。仕方ない、起きるまで待つことにしよう......。
P「(でも、確かに部屋が少し暖かくなってきたな......俺は寝ないように気を付けないと......────)」
────────
P「────はっ......ね、寝てた......」
どのくらい時間が経っただろうか。腕時計の時間を確認すると二十分ほど時間が経っていた。
まだ寝起きで思考に霧がかかったような状態だが少しずつ記憶を整理していくと、咲耶に肩を貸していたことを思い出す。
P「(そうだ。咲耶.....!)」
再び咲耶の方を見るとすでに起きていたようで、困り笑いをしていた咲耶と目が合った。
咲耶「どうやら、二人揃って座睡していたようだね」
P「はは......ちょうどいい温さだったもんな」
「ホント、来た時はびっくりしましたー。二人ともくっついて寝てるしー」
ここにいるはずのない第三者の声がした。
P「ま、摩美々!来てたのか」
摩美々「まあ、そろそろ時間なんでー」
そういえば今日は久しぶりにアンティーカ全員が揃う打ち合わせの日だった。
咲耶「恋鐘たちもすぐそこまで来ているようだよ」
P「了解だ。......ごめんな、久しぶりに揃うって言うのに事務所の暖房が壊れてて」
摩美々「まあ誰のせいってわけでもないですしー......咲耶はなんでそんなに嬉しそうなわけー?」
咲耶「そう見えるかい?フフフ、それは困ったね......」
何に困っているかは分からないが、今日の咲耶はすごく嬉しそうだ。
P「久しぶりにアンティーカで揃うからだろ?そう言う摩美々も嬉しそうじゃないか?」
摩美々「や、まあ......」
摩美々「(それ抜きにしても、なーんかニコニコしすぎじゃないー?)」