『Z世代は戦後初めて銃をとる世代になるかもしれない』一部先行無料公開。元中国大使・丹羽宇一郎氏が最後に若い世代に託したメッセージ
2025年12月24日、伊藤忠商事の元社長で、中国大使も務めた丹羽宇一郎氏が老衰のため逝去しました。
生家が書店で読書家としても知られ、さまざまな分野でオピニオンリーダーとして活躍していた丹羽氏。戦争が痛みを伴った「記憶」から「記録」へと変質し、リアリティが欠如していくことに強い危機感を抱いていました。このままでは、日本は再び戦争へと近づいていってしまうのではないだろうか――。
戦争体験者や軍事専門家を自ら訪れて真実を直接聞き、「戦争に絶対に近づいてはいけない」というメッセージを訴え続けてきた丹羽氏。1月28日に発売された『Z世代は戦後初めて銃をとる世代になるかもしれない』は、未来を生きる若い世代に向けて「平和への決断と覚悟」を託した一冊です。
本書の刊行を記念し、丹羽氏が書き記した「はじめに」を無料公開いたします。
はじめに
人類が生存する限り戦争が姿を消すことはない。この絶望的な状況が過去から現在まで、そして現在から未来に向かっても疑いなく、永遠に続くことは歴史の語るところです。
平和を望まない人はいません。しかし平和は、砂漠の蜃気楼のようにぼんやりと姿を現してはすぐに消えてしまいます。パレスチナを見ても、ウクライナを見ても、その惨状に心を痛めない人はいません。誰もが戦争などすぐにやめればいいのにと思うはずです。
にもかかわらず、戦争は終わりません。これからの世界のことを考えると、とても暗い気持ちになります。でも、この絶望的な未来から逃れることはできません。
世界のどこかで戦争が起きても、日本には関係ない、自分たちには関係ないと拱手傍観できますか。日本は80年戦争をせずに経済発展をしてきたのだから、これからも平和だと楽観できますか。
私には、日本はどんどん戦争に近づいているように見えます。そして国民も、それを望んでいるかのようにさえ見えることがあります。
日本は2022年末に防衛費の増額方針を決め、2027年度までにGDP(国内総生産)比2%まで増額する目標を掲げています。防衛予算をGDPの2%にすると、日本の軍事費は世界第3位のロシアと肩を並べるところまで来ます。第1位の米国と第2位の中国はダントツの軍事大国ですが、軍事費の大きさだけなら日本は紛れもなく軍事大国です。
こんなにたくさんの防衛予算をいったい何に使おうとしているのでしょうか。
GDPではドイツに抜かれ、IMF(国際通貨基金)の予測ではやがてインドにも抜かれようとしている経済力の衰えた日本が、軍事力ばかり強化してどうしようというのでしょうか。日本にとって喫緊の課題は軍事力よりも経済力を回復させることです。経済力のない日本を世界が相手にするとは思えません。
軍事力の強化を心強いととるか、危険な兆候ととるかは人それぞれでしょうが、日本が戦争に近づきつつあることだけは、両者の見解が一致するところではないでしょうか。
それでは、これから起こり得る場面について考えてみましょう。 日本はこのまま戦争へと近づき、いつか再びどこかの国と戦争をすることになるのでしょうか。そのとき戦うのは誰でしょうか。日本が再び戦争するとき、それを私の年代の人々が見ることはないでしょう。未来の日本が戦争をするとき、その光景を見るのも、その中心にいるのも、いまのジェネレーションのみなさんとみなさんの子どもや孫たちです。
世界から戦争がなくならない限り、日本も戦争しないという保証はありません。世界では常にどこかで戦争が起きています。東アジアも安全ではないことは周知のとおりです。
日本の平和をどう守るのか。戦争をして守るのか、戦争することなく外交交渉とさまざまな分野の話し合いで守るのか。
いずれを選択するにせよ、私たちはこれからも争いの絶えない世界で、生きていかなくてはならないことを肝に銘じておかなければなりません。
私は戦争のなくならない世界で、日本が戦争をしない道を選択することは、決して不可能でもなければ非現実的な夢物語でもないと考えています。ただし間違いなく困難な道です。
戦争をしない道を選ぶことも、覚悟を持って臨まなければなりません。
無論、武力を強化して力で平和を維持する道も、もう一つの選択肢です。この道を選んでも、日本は重い負担を背負うことになります。単に強がっているだけでは蟷螂(とうろう)の斧(おの)ほどの力もありません。
そろそろ日本は決断と覚悟が求められる時期と思います。戦争をしない道を選ぶにせよ、力対力の戦争をする道を進むにせよ、タイムリミットは迫ってきています。若いみなさんは、どちらの道を行くことになるのでしょうか。
できることなら、私もみなさんと共に考えていきたいところですが、残された時間は長くはありません。ですから、みなさんが未来を考える上で、参考になりそうなことをここに書き記します。
戦争のない世界が明るい未来とするならば、現在の私たちの行く手には暗黒の世界が広がっているようにしか見えません。しかし、絶望だけのこれからではありません。私たちの世界には仄かな希望の光は確実にあります。
そうです。闇の中の唯一の光は、若いみなさんです。光源はみなさん自身の他にはありません。
知らない世界にも柔軟に対応できることが、若さの持つ能力の一つと言えます。この能力を発揮して、世界の人々に日本人がお互いの幸福を求めていることを知らしめてほしいと思います。たとえ意見の相違はあっても、お互いに幸福を求めていることがわかれば、戦争をしないための糸口がつかめるはずです。
世代は限りなく続くのです。世界に希望の光は永遠に残ります。力なき平和は無力とあきらめる必要はありません。
2025年12月 丹羽宇一郎
『Z世代は戦後初めて銃をとる世代になるかもしれない』
丹羽宇一郎(著)
定価:1,980円(税込)
発売日:2026年1月28日
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