「地上の楽園は、この世の地獄だった」北朝鮮に渡った日本人妻の慟哭、3年で帰国のはずが40年にわたる苦しみ… 金総書記に8800万円の賠償命令、異例判決が認定した「帰還事業」の実態
斎藤さんたちは判決を不服として控訴。その約1年半後に言い渡された2023年10月の東京高裁判決が訴訟の流れを大きく変える。判決は事業への勧誘から出国制限までを「継続的な不法行為」と捉えた上で、もう一度地裁で審理を尽くすべきと結論付けたのだ。 上級審の東京高裁の判断を、差し戻し審の地裁は覆すことはできない。事実上、焦点は帰還事業で受けた損害を裁判所がどのように賠償額として認定するかに絞られた。 ▽「人生の大半奪われた」異例の判決のその後 今年1月26日。東京地裁の差し戻し審判決は、慰謝料として原告1人当たり2200万円、計8800万円の賠償を北朝鮮に命じた。神野泰一裁判長は北朝鮮に渡ることになった経緯や、現地での過酷な生活状況を個別に認定。一般的な水準より非常に高額な慰謝料額を認定した。 「人生の大半を奪われたといっても過言ではない」。法廷で判決文の要旨が読み上げられると、斎藤さんは原告席でそっと涙をぬぐった。傍らには提訴後に亡くなり、訴えを取り下げざるを得なかった原告の女性の遺影があった。
2月10日、北朝鮮政府は控訴せず判決は確定した。弁護団は賠償命令に実効性を持たせるべく、財産を差し押さえる方法を模索している。 斎藤さんは、脱北に成功した四女や孫たちとともに大阪府で静かに暮らしている。気がかりなのは、現地で出会った日本人妻たちのことだ。事業で海を渡った日本人妻は約1800人いると推定されている。「残された時間はもうわずか。一日でも早く里帰りができるようにしてほしい」。今回の判決がその糸口になることを、今はただ、願うばかりだ。