鏡を通って現れた人影は1人だった。
寮の入り口にてリドルが出迎えたのは、ハーツラビュルの寮服を着た、帽子を被るトレイ・クローバーその人で。
どういう事だ、監督生は一緒では無いのかと辺りを見回していると。
「あ、リドル先輩! お久しぶりです!」
姿が見えないのに監督生の声がした。しかも、トレイの方からだ。
「トレイ、監督生の声がしたようだけど、何処にいるんだい…?」
姿が見えないようだが…、と戸惑うリドルに苦笑を浮かべたトレイが差し出したのは、寮服のポケットに引っ掛けていた鏡だった。古臭いデザインの丸い手鏡には、ニコニコと笑顔で手を振る監督生がいる。
「かっ、監督生!!??!!!???」
叫んだのはリドルの傍らに立っていたハーツラビュル生だ。あれ、ケイト先輩じゃないんだ?なんて監督生は疑問を抱くが、その疑問はトレイの声にかき消された。
「うーん、そうだな…何から話せばいいんだか……」
トレイは苦笑を浮かべつつ、順を追って彼らの女王へと報告をするのだった。
時間は遡り、監督生がオンボロ寮にて実験を行う、と言ってからすぐの事。
「とりあえず試すのは…やっぱり塩かな? それから塩水で作った聖水もどきもイケるか? …ん? それなら水鉄砲あった方がいいか。んでもってファブは一応用意しておいて~…」
鏡の向こうから監督生の声だけが聞こえてくる。その声を聞きながら、トレイはカップに入った紅茶を喉に通した。――これは、「実験の準備をするので先輩はブロット回復がてらゆっくりしていてください!」と、実験をしたいと言い出した監督生が少しの間鏡から離れたと思ったら、淹れたての紅茶とマドレーヌの乗ったボードを手に戻ってきた時のものだ。湯気の立つそれはつい先程淹れたもののようで…しかし、紅茶葉は何故か網状で立体的な三角形に作られた透明の袋に入れられていた。
「すみません、こっちじゃ紅茶ってティーバッグに入ってるものが多くて…あ、でも淹れ方は先輩達にみっちり扱かれた通りに淹れてますので!」
続き続き!とトレイの返事を待たずに再び鏡を離れる監督生。サラサラと落ちる木製の枠で囲まれた砂時計が落ちきるのを待ってからバッグに入った紅茶葉を取り出しカップに口をつければ、なるほど、確かに寮のお茶会で使う紅茶には劣るが紅茶特有の風味がふわりと香る。
ホッと一息をつき、今度はマドレーヌに口をつければ、バターの風味が口いっぱいに広がった。監督生の手作りではなく市販品なのか、少々味付けは濃い目であったが……これが異世界の料理の味かと咀嚼していると。
「あ、先輩、ちょっとコイツ部屋の外に出しておいてもらえません?」
そう言って鏡から差し出されたのは小さな板状の機械であった。
黒い板にはディスプレイがついており、何らかの文字が書かれているが…異世界の文字だからか残念ながらトレイには読めない。そして、板から伸びたコードの先には無数の穴の空いたこれまた別の機械が。その穴から音が聞こえてくる事から、どうやらこれは音楽プレイヤーと小型のスピーカーのようだ。だが、しかし…
「…なんだこの気味の悪い声は…何て言っているんだ?」
すでに再生されているらしくスピーカーから何やら聞こえてくるが、淡々と読み上げられる言葉の羅列はトレイには全く理解できないものだった。抑揚の無い声でほとんど途切れることなく続く声は、今現在の、ゴーストすら居らず照明も消えたオンボロ寮の様子も合わさりひどく不気味に思えた。
「あー…この声の主は人間です。抑揚の無い声で詠うから不気味なんですよね、わかります」
とりあえず悪いものではないので、とクスクス笑う監督生に、そう、なのか…?なんて首を傾げつつも、閉じていた扉を開いてそっと廊下に置いておく。未だ扉の前に
腕だけを扉から伸ばして音楽プレイヤーを廊下に置き、サッと腕を引っ込める。「コレも実験の一環なんで扉は開けておいてください。危なそうならすぐ閉じていただければ」との監督生の言葉に頷き、モケケ達の動きを観察している間に監督生が解説する。
「プレイヤーで流しているのは般若心経と言って、自分の世界のお葬式なんかで詠まれるものです。なのでまあ、あまり抑揚が無いと言いますかちょっと怖い感じと言いますか…聞き慣れないと余計に不気味に感じるのかな? 自分は今日も聞いてたし、あまり気にならないけど。…やっぱ慣れちゃってるんですかねえ?」
あ、言ってる言葉の内容をざっくり説明すると、変化という現象に捉われず、本質に気付きなさいという仏様…神様みたいな方の教えを詠っています。
未だに鏡には顔を出さない監督生は、まだ何かをしている様子。鏡から顔は出さずにパタパタと動き回っているらしい音と共に告げられる解説に耳を傾けていると、監督生が突然「あっ!?」と驚いた声を上げた。
「先輩、すみません! 般若心経には霊よけの効果無いって! 勘違いしてたなぁ」
モケケ達の様子どうですか?プレイヤー壊したりしそうですか?と尋ねる監督生であったが、
「いや、特に害を与える様子はなさそうだ。…それどころか、アイツらもあのプレイヤーを避けてないか?」
ほら、と鏡を傾けてこちらに顔を出した監督生にも扉の先を見えるようにすれば、なるほど確かにモケケ達はプレイヤーには近付きたくない様子で遠巻きにこちらを伺っている…ように見える。
そんな様子を目にし、キョトンとした監督生は不思議そうに一言。
「単純に不気味に思ったとか? あれ、なんかあいつらちょっと愛嬌ある?」
「考え直せ監督生!」
アイツらは俺たちに害を与えてきたやつらだぞ!?と慌てて後輩を嗜めるトレイであった。
閑話休題。
実験の準備が出来ました~、と改めて戻ってきた監督生より手渡されたのは、塩の入った透明の袋と明らかに玩具であろうパステル調の色使いで装飾された銃だった。
コンコン、とノックの要領で加圧式タイプの銃を叩けば、金属とは異なる軽い音を響かせた。それから危険性は無いだろうが一応念の為、と銃の全体像を眺めつつ「これは?」と尋ねれば。
「ああ、それ水鉄砲です。そっちにはありませんでしたっけ?」
「いや、水鉄砲は
監督生の
「まあ、歳を取った今でも結構楽しめますよ、水鉄砲。その水鉄砲は学校のレクリエーションといいますか学内イベントで、と言いますか…まあ、ちょっと必要になったので買ったものなんですけど。人数いたらそれなりに盛り上がれます」
あ、水はすでに装填済です。正確には中身は塩水なんですけどね。そう言って、監督生はさらに続ける。
「ネット調べなんですけどね?
「待て待て待ってくれ、情報が多い多い」
なので、
そんな監督生にハァと乾いたため息を1つ、とりあえず分かる所を反芻する。
「つまり、この水鉄砲であいつらを倒せたら儲けもの、って事か」
分かった、預かるよとトレイが頷けば、それから…と新たに数枚の紙と何らかのスプレーを取り出す監督生。どちらも先刻の音楽プレーヤー ――ちなみに監督生の言うハンニャシンギョウとやらを未だに流していたりする――と同じような、トレイには読めなかった文字が書かれている。
スプレーの方は音楽プレーヤーと同じく一字一字がハッキリ書かれているが、紙の方はその文字を更に崩して描かれており、もはや何を書いているのか全くもってわからない。むしろこれは文字というより絵の一種なのでは?と思ってしまう。
「これもあいつらに有効かもしれない道具なのか?」
「はい。こっちのファブ……スプレーは元はただの消臭剤なんですけど、こっちのネット界隈では除霊効果有りって有名な代物なんです。これもネット調べなんですが、なんでも今では本職でも使ってる人が居るんだとか」
「それでいいのか本職!?」
思わず叫んだトレイに監督生もうんうんと頷く。ホント、なんでただの消臭剤が?と初めてその事を知った監督生もトレイと同じような反応をしたものだ。
「それと、この紙は御札っていいます。こちらは神社とかで授けてもらえる代物で、厄除けの効果があり…あるはずです。何枚かありますので寮の玄関とかにでも貼っておいたら安全地帯を確保できないかなって」
とりあえず玄関には確実に、各部屋は後回しにするとしても一階の窓辺には貼っておきたいですね。と続ける監督生にそうだなと頷き、今は御札だけを受け取る事にした。さすがに塩の入った袋、塩水を入れた水鉄砲とそれなりに重く、
トレイの説明に「それもそうですよね、すみません」とあれもこれもと準備してしまった監督生は謝罪する。まあ、スプレーの方はまた別の機会に試せばいい。何せ、この戦いはマブ達一年救出は元よりNRC全体を解放するまで続くであろうから。
「あ、あとオンボロ寮探索にあたりコレもお渡ししておきますね」
そう言って最後に監督生がトレイに渡した物は、白い紐で結ばれた赤い小袋だった。中央にやっぱり同じような異世界の読めない字が書かれたそれは赤地に金糸の刺繍が入っており、重さも全くと言っていいほど無い。
「なんだこれ? 何が入っているんだ?」
ポケットに入れても邪魔にならない、手のひらサイズのそれを受け取りながら尋ねると、
「お守りです。神社とかお寺…宗教施設でだいたい300円から…300マドルから500マドルくらい納めたら買えま…あ、こういうお守りとかって、買ったっていうのはちょっと間違い…というか買ったって言っちゃダメなんだった。えっと、これらのお守りはお布施して、授けてもらったものです。あー、
ちなみにコレは道中の安全を祈願する安全祈願のお守りです、と続ける監督生に、トレイは「いいのか?」と尋ねる。
「アミュレットはそれ自体が大変効果があるものだ。魔力が込められているならその効果も更に高まる。こちらの世界で言うアミュレットはそういう貴重品なんだが、俺が預かってもいいのか?」
「もちろん。こちらの世界ではそこまで大仰なものではないですよ。みんな気軽に入手して、持ち歩くなり車や家に置いておくなりとそんな貴重品ってほどじゃない代物です。…あれだ、庶民でも気軽に手に入れられる物、みたいな? アミュレット1つ取ってもそれくらい認識の違いはありますが…ま、気休めみたいなものですね。無いよりはマシかと。それに、効果あれば儲けもん、です」
あ、袋の口は開かないでくださいね。神主…お守りを授けて下さった神職の方曰く、お守りの封を空けると納められていた神社で祀っている神様の力が抜け出てしまう、らしいです。
そう答える監督生に「そ、そうなのか…?」とトレイは戸惑いつつも了承し、とりあえず今回の探索準備は完了した。お経が流れる室内で、未だ侵入を果たせないモケケ達の――というか、音楽プレイヤーをずっと遠巻きにしており部屋に入ってこようとする素振りすら見せない――おかげでつかの間の休息を取れたからか、トレイのマジカルペンのブロットも2割弱まで回復している。これなら、塩を撒いてオンボロ寮を回る事も可能だろう。何なら探索後に再びこの部屋に戻り一休みの後ハーツラビュルに戻ってもいいか。その辺りの判断はトレイに任せるとして、まずは実験の成否からだ。
「じゃあ行ってくるよ」と準備を済ませたトレイは監督生を部屋に残して自室から出ていった。――とりあえず、まずは一階の出入口に御札を貼り、モケケ達のこれ以上の侵入を阻む事から始める。
今回の作戦は簡単だ。実験がてらトレイにはオンボロ寮の出入口に御札や塩を蒔いてもらい、隔離完了後にモケケ達を一掃する。
とはいえ塩は確定効果ありだが御札の効果は現時点では未確定だ。御札の効果があり隔離可能なら作戦通りに動いてもらい、逆に効果なしなら出入口付近に塩を撒いてもらってある程度モケケ達を浄化するに留めてもらう予定である。
簡単な作戦会議の後、実働隊であるトレイはブロット回復に勤しみその間に監督生が準備を行う。そうしてできる限り体制を整え、トレイは部屋を出発した。
とはいえ、部屋周辺のモケケ達はそもそも監督生曰く『般若心経』とやらが怖いのか、相変わらずこちらを遠巻きにするばかりだ。トレイが部屋を出たところで襲いかかってくる様子は無い。これ幸いと、まずは水鉄砲を撃ってみれば…塩水が命中したモケケの一体がジュワッと音を立てて消滅した。――これで、塩水も効果ありと判明した。
そこからは話が早かった。魔法を用いない有効打があるのなら、遠慮する必要なんて皆無だ。トレイは次から次へとモケケ達を撃破してはオンボロ寮を進んでゆく。
水鉄砲という特性から充填された水の量を常に気をつけなければならないが、監督生曰く最大容量1リットルというその水鉄砲は、数発引き金を引いても残量にはまだまだ余裕がある。しかも、それなりに飛距離が出るものらしく、サーチアンドデストロイよろしく遠目に遭遇したモケケ達も合わせて手当り次第撃破されていった。
そうしてたどり着いたオンボロ寮の玄関前。トレイが寮に飛び込んだ際に扉が開いたままだったのか、続々と侵入してくるモケケ達に、ここまで水鉄砲ばかりで未使用だった塩を手のひらいっぱいに掴み、そのままソルトシャワーのようにぶち撒ければ、塩を浴びた複数体のモケケ達が塩水と同じようにジュワッと消滅する。ついでに、先刻の監督生の部屋の時のように塩を恐れてかモケケ達の新たな侵入は無い様子。これじゃあこの紙――監督生が言うところの御札の効果が分かり辛いな、なんて苦笑をこぼしつつ、玄関の内側に御札を貼り付ければとりあえず一区切りだ。
「さて、じゃあ次はゲストルームにでも向かうか」
誰に言うでもなく呟けば、比較的近く…しかし少し離れた所から声がした。しかもこの声は――
「先輩ー! トレイせんぱーい! 聞こえましたら返事してくださーい!!」
「…監督生…?」
監督生が居るであろう先刻の部屋からの声は、ここには届かないはずである。なのに声がすると言う事は……
「全く…こちらには来るなと言ったのに…」
先輩の言う事が聞けない
そう、悪い笑みを浮かべながら、トレイは声のする方へと足を向けた。
再度時間は遡り、トレイが監督生の元自室を後にしたすぐの事。1人自室に残された監督生は少しずつ離れていく足音に、「トレイ先輩、頑張ってください…!」と祈りを一つ。
…さて、ただ待つだけなど出来はしない訳だし、対霊に有効な手段を講じなければと監督生もまた、自室を離れる。リビングに向かい――監督生の自宅では、方角の関係で神棚がリビングにあるのだ――神棚に必勝祈願とお供物を。世界が違うから意味が無くないかって?こんなのは気の持ちようなのだ、世界が違うなんて細かいこと()は気にするな。
自分のスマホ片手に――今使っているのは故郷にて普段から使用している方だ――家の中をひっくり返しながら、塩やら消臭スプレーやらをかき集める。塩は買い置きが一袋と消臭スプレーはまとめ買いをした時の二本が新品で見つかった。…しかし、NRC解放には圧倒的に足りないか。
後で買い物にも行かないと、と考えながら、とりあえず今ある物である程度は凌げるようにしなければと武器の量産に勤しむ。
本格的な清め塩の作り方は分からないが、とりあえず日光に当てておけばいいだろう、と物置に仕舞われていたブルーシートを両親の部屋に広げて、そこに新品の塩袋を広げる。この部屋にした理由はベランダに通じる掃き出し窓があるこの部屋が、一番日差しを受けるからだ。ネット調べでは直射日光がいいとあったが、塩が風に吹き飛ばされたり、木の葉などの不純物が混じる方が困るからとりあえず今は窓は開けずに置いておく。先ほどネットで検索した清め塩の作り方に再度目を通し、一時間はこのまま置いておこうと次の準備へ。
今度は聖水の作り方を検索しながら、さて塩一袋から何リットルの聖水が作れるか…などと考えながらリビングに向かうと、再び物音が聞こえてきた。次いでトレイの声が次第に近付いてくる。
「…は?」
声のする方に近付けば、今度は家族共用で使っているスタンドミラーにオンボロ寮談話室内部が写っていた。
「いやどういう事なの?????」
自室の鏡はまあ分かる。わからないけどわかる。監督生の所持品なのでこっちの世界と向こうの世界の縁を繋げた、みたいな無理やりな理論をたてられなくもない。でもコレは違うだろ、これ我が家の共有物だぞ、とツッコミを入れつつ鏡に向かって声をかける。
「先輩ー! トレイせんぱーい! 聞こえましたら返事してくださーい!!」
鏡に向かって叫べば、足音がこちらに近付いてくる。そうして談話室に入ったトレイはしかし、人影の無い談話室に首を傾げている。
「…監督生?」
どこにいるんだと困惑するトレイに先程の姿見と同様、声も届く事に安堵する監督生。
「気付いた! よかった! ――何か自室の鏡以外にもそちらとつながった鏡があるみたいなのでちょっと探してもらっていいですか?」
そう告げれば、「なんだ、言いつけを破って
トレイ先輩のお仕置きなんて何をされるか…何か想像もつかないようなヤバいことされそう、と呟く監督生に、いい子でいればお仕置きはしないぞ、なんて笑われつつ。談話室内に監督生が写る鏡を探す。
「うーん…監督生が写っている姿見は無いようだが…?」
「なら手鏡とかないです? こっちは小型のスタンドミラーに写っているんですよ」
姿見とは限らないと伝えれば、すぐさま捜索範囲を壁から部屋全体へと変えたらしい。角度的に監督生からは談話室や、そこにやって来たトレイの姿が見えたのだが、どうやら件の鏡は物陰の死角に隠れているようで、監督生が見ている景色やトレイの姿が見える位置を伝えれば、今度は比較的早く見つかった。
「ん? あ、これか?」
そう言って鏡を覗き込むトレイに「先輩、さっきぶりです」と軽く手を振れば、さっきぶりって…、なんてトレイも笑う。
「これ、手鏡か。ポムフィオーレでもないのにこんな洒落た手鏡がオンボロ寮にあるなんてな」
「誰かの持ち物だったんですかねえ? 一年住んでましたけど、流石に部屋の中を隅々まで知ってるわけじゃないですし……あ、でもコレで一緒にハーツラビュルに行けますね!」
先程自室でやり取りをした話を出せば、そうだな、とトレイも同意する。
「確かに、さっきの鏡は持ち運べないが、これくらいのサイズなら持っていけそうだな」
「じゃ、御札貼りと塩撒きが終わりましたらそのまま鏡舎行きましょう!」
持ち運びよろしくお願いしまーす、と続ける監督生に、安全運搬の保証は出来ないぞ、なんて笑うトレイであった。
道中、離れていた間の事を話し合う。水鉄砲は有効だった事、塩一撒きで大勢のモケケが消滅した事を伝えれば、良かったですと監督生も喜び――次いで、やっぱり買い物行かなきゃな、と呟く。
「そちらの世界の塩でも効果があればいいんですが…無理だった場合、大量に用意しないとですね」
我が家に塩はあと一袋しかありませんと続ける監督生に、確かにそれでは量が足りないなとトレイも同意する。
「とりあえず
「それもいいですが、ハーツラビュルの近くだとオクタヴィネルでも確保出来そうですよね、塩」
この状況ですし、流石に慈悲かっこわらいなんて事は無いと思いたいですし、と続ける監督生に「かっこ笑いって、あのな…」とトレイも苦笑する。が、否定しない辺り普段のオクタヴィネルがアレだという事で。
そんな話をしている間に御札貼りは完了した。各部屋の窓周辺に塩を撒き、御札を貼るだけの作業なので話ながらでも問題は無かったのだ。ちなみに、玄関を閉ざしているからか、それとも撒き塩の効果か、今現在オンボロ寮内を徘徊するモケケ達以外に増える様子は無かった。なので移動中に遭遇したモケケを倒していけば、最後の実験こと閉じ込めたモケケ達の一掃は必要無かったのだった。
「いやーヤバい映像撮れちゃったかな、コレ?」
なんてスマホを見る――ちなみに先程までスレに顔を出していたようだが、今は元の世界の方のスマホを弄っている――監督生に、このままハーツラビュルに戻るぞと伝えれば、了解です!と敬礼付きで返事が来た。ノリがいい監督生に、これからモケケ達が
警戒は当然怠らない。水鉄砲は常に構えているし、塩だってすぐに手に取れるようにしている。両手を空ける為に監督生in手鏡は寮服のポケットにひっかけた。ちなみに手の空いている監督生はスレへの報告兼監督生が準備した懐中電灯で周囲を照らす役割を担ってもらっているので、ポケットに引っ掛けた鏡からちょこっとだけ伸ばされた手が、傍から見ると心霊現象そのものであるが。
そんな感じでモケケ達よいつでもかかってこい!とばかりにトレイは進んでゆくが…薬学室付近まで来た辺りで道中感じた違和感が確信に変わった。――どうやら外のモケケ達は、こちらに襲いかかる様子は無い…?
「おかしいな、オンボロ寮に駆け込むまではあれだけ襲ってきていたのに…何で今は襲いかかって来ないんだ?」
「こちらとしては助かりますが、確かに不気味ですよね…あれかな? 自分の背後、太陽光が差し込んでる窓だからですかね?」
確かに、靄に囲まれ薄暗いNRCに比べて監督生の方はまだ日が沈まない時間なのか鏡の向こうが非常に明るい。それこそ、鏡の向こうが眩しく感じるくらいに。まあ、鏡を通して直射日光が差し込んで来ている訳ではないので眩しいと言っても目も開けられない程ではないのだが。
…だがしかし。相変わらず何か準備を続けているのか鏡の向こうの監督生の背景は頻繁に変わっていた。それは当然、日光の当たらない場所に移動していた時もあるのだ。つまり――今この瞬間、モケケ達が襲ってこないのは日光以外にも理由はある筈だ。
その事を告げ、原因は何だとトレイは考える。
オンボロ寮に行く前と今の違いは、監督生の存在だ。あと、監督生から預かった道具類か。
「うーん…監督生から預かったのは塩と水鉄砲、あと紙と小袋だったな」
その言葉に「御札とお守りですね!」と監督生よりすぐさま訂正が入る。
ちなみに、オンボロ寮の1階に貼りまくった御札の残数は2枚だ。こちらは鏡舎内部の入り口に貼る事を監督生と相談の上決めている。御札の効果はまだ把握出来ていないのでこの紙が原因という可能性は大いにあるのだが。
それからお守り――アミュレット。監督生曰く、安全の……
「まさか、コレか…?」
呟き、寮服の内ポケットに入れていたお守りを取り出せば――モケケ達が目に見えてズザザッと後退った。その様子にトレイも、監督生までもがポカンと目を見開く。
暫しの沈黙。
トレイが、手に持ったお守りを見せつけるように指からぶら下げながら腕を伸ばせば、やはり周囲を囲むモケケ達が嫌がるようにお守りから距離を取る。
トレイと監督生は思わず見つめ合う。
そうして、再びの沈黙の後。
「監督生、このアミュレット凄いな? 効果は抜群じゃないか」
「いや自分でも驚いてますよすごいな!?」
驚く監督生にいや何で監督生が驚くんだと言いかけ――そういえば、
「しっかし神様か…まさか、別の世界の神の力が有効だとは…」
「あー、別の世界っていうのとはちょっと違うかもしれませんが、昔TVで自国の宗教の言葉は、海外の…言語が異なる国のゴーストにも有効なのか、という話を聞いたことがあります。ちなみに答えはイエス、何故か言葉が通じるとか何とか言ってたので、異世界でも通用しちゃうとか…?」
うーん、と首を傾げる監督生にいやそこは曖昧にしちゃダメだろう、とトレイが苦笑する。しかし監督生的には○年前に一度だけ見たTVの内容なので、曖昧でも許してほしい所である。
そんなこんなでオンボロ寮を出てからは一切の交戦は無く、彼らは無事に鏡舎へと到着したのであった。
「そんな訳でスレでも言った通り、自分はトレイ先輩に運んでもらっただけです。歩きスマホはやってません」
トレイとの合流からハーツラビュル到着までの一連の話を報告し終わり、まず監督生が続けたのはそれだった。
ちなみに、お守りの効果発覚後にトレイより「監督生、悪いことは言わないからこのアミュレットの事はオクタヴィネル…特にアズールには言わない方がいいんじゃないか?」なんてやり取りもあったりしたのだが…そこはまあ、割愛しておこう。
話を聞き終わり、リドルはふと、気になったことを訪ねる。
「しかし監督生、いくらなんでも準備が良すぎないかい?」
「え、それって使えそうな道具が家に揃ってたって意味で、です?」
コテンと首を傾げる監督生にリドルは頷き、言葉を続ける。
「ああ。最初の清め塩? はまあいいとして、それ以外のものはどうやって揃えたんだい? …まさか、そちらの世界ではこういった退魔道具を家に常備しておくものなのかい?」
魔法が無いわけだし、ゴーストに対抗できるものは事前に準備しておく必要があるのかい?
尋ねるリドルに監督生はいやまさか!とからから笑う。
「お守りなんかはフツーに近所の神社…えっと、宗教施設です。そこで買い…じゃなくて授けてもらいました。…あ、自分の故郷、トレイ先輩にも言ったようにいろんな宗教をちゃんぽんしてるから、けっこうあちこちに宗教施設があるんですよ。で、そこって大体の場所でその施設ごとにオリジナルデザインのお守りを売ってるんです」
お守り自体も先輩にお渡しした安全祈願のお守り以外にも学業とか、交通安全とか、幸運とか、いくつか種類があるので見ていて結構面白いですよと監督生が笑う。
「で、水鉄砲の中身の塩水――ネット調べで超簡単に作った聖水とかはさすがに市販では売ってないですが…あーコレ、言ってもいいのかな?」
言い難そうに言葉を濁した監督生に今度はリドルが首を傾げる。
「何かあったのかい?」
「えー…っと、ですね……自分がNRCに居た間、
さっきのお守りは正真正銘自分がこっちに帰って来てから授けて貰った物なんですが…あ、別に安全お守りを買ったのはNRCに行った事とは全然関係無いですよ? 赤い
ま、そんな訳なんでぶっちゃけお守りって今家にいくつもあるんですよ。…いっぱい持っていると逆に宿る力が相殺されて効力が半減するなんて話も聞いた事があるので、手元にあったいつも持ち歩いているお守りを先輩にお渡しした次第ですはい。
「なのでまあ、先ほどお渡しした以外でモケケ相手に使えそうな対霊道具も、家にはまだいくつかあったりします」
お守りなんて全寮に1つずつ預けてもまだ片手で数えられるくらいには残っています、と笑う監督生であった。
「――さて、ではオンボロ寮での事はここまでとして、これからどうします?」
とりあえず先程検証に行った先輩方が戻られるのを待つとして…まずはどう動きますか?とこれからの作戦を尋ねる監督生。
ハーツラビュルに帰寮後(監督生的には訪寮後)、二人はまず最初に他の寮生達が気になっているであろう魔法を用いない方法でのモケケ撃退方法を報告したのだ。監督生がスマホで撮影していたオンボロ寮での撃退の一部始終を映像と口頭で説明した結果、寮生の殆どがポカンと間抜けな表情を浮かべていたが…そこは優しい()監督生、見なかった事にしておいてあげた。今までの心労も溜まっている事だろうし、ここいらで一旦肩の力を抜けばいい。
その後でハーツラビュル寮生3年より有志を募り、トレイの手に渡っていたお守りと共に寮のキッチンに残っていた塩袋を手に、鏡舎周辺のモケケ相手に再び実験を行ってもらっている所である。
実験内容は当然『ツイステッドワンダーランド産の塩の有効性の実証』である。ここでどちらの世界の塩でも有効であれば、それだけこちらの有効打が増える訳なので。ちなみにスレへの情報開示は実験結果で有効であると証明出来れば開示する、とリドルは判断した。信じるか信じないかは別として、ブロットに左右されない武器の情報は連絡が取れない他の寮の生徒達や、NRCの外で動いているであろう救助隊への情報伝達は早い方がいいとの事だ。
そういう事もあり、とりあえずハーツラビュル到着直前にスレに投下した次の訪問予定地――ちなみにこの3箇所は武器(塩と水鉄砲)確保・(スレの状況を鑑みて)食料確保・統率者()への報告と、優先度が高いであろう項目をトレイと相談の上で決めた。事後報告になってしまったが、リドルからもその後了承を貰っている――から、さてまずは何処に向かえばいいのかとスレに目をやり――まさかのアンケート結果にリアルに「ファッ!?」と素っ頓狂な声を上げる監督生であった。
読前に補足しときます。耶蘇教=十字架がトレードマークの三大宗教の一つです。もう1つの宗教と合わせて表記を変えてるのはただの検索避けです。
ブルームけー君が10連で来てくれたのは「早く出番頂戴?」っていう無言の圧力だと感じましたまる(なお出番があるとは言っていない)
いやだってけー君の現状は早々に決まってたもんで…ゴニョゴニョそんな訳で半年以上ぶりのNRC Crisis!の続きです。終盤が駆け足なのはバースデーピックアップけーくんが終わるまでには上げたかったからです。…まあ確かに力尽きたのもあるんですが(;^ω^)
事態が動くにはまず現状把握から!の精神で未だに大きな動きが見えません。しかも前回のアンケート内容が完全には終わってないという…
ちなみに、今回は取れるアンケートが無いのでただの遊びです。アンケート如何でも次回の内容は変わりませんので悪しからず。
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前回のアンケート結果:まずはどこから調査をしますか?
・食料調達に勤勉寮長かイソギンチャクのトラウマ場所 4票
・武器調達にアウトストック選手権会場 4票
・ボスカラスの巣または親ガラスの巣 4票