「モストロラウンジで解体ショー。」
「不穏な言い方は止めなさい」
アズールの言葉を反芻した監督生に、すぐさま当の本人よりツッコミが返ってくる。苦言を呈する彼に「まあ確かに、解体ショーだけだと不穏ですよね」と苦笑いを浮かべて素直にゴメンナサイと謝罪し、監督生は改めてアズールより言葉と共に渡されたチラシに目を落とした。
○月×日に、極東より料理人を招いて極東伝統のパフォーマンスショーを行うという。同時に極東フェアと題したイベントを開催すると告知するチラシには、監督生がチラシと聞いて想像するようなカラフルな色遣いのフォントや複数の写真を散りばめたものではなく、テーブルにマグロと思しき魚を寝かせた料理人らしい人物のシルエット写真に開催日時等が必要最低限に書き込まれた、落ち着いたシックなもので仕上げられている。
「ところでモストロの次のイベントで、なんで店内で解体ショーを行う事になったんですか?」
極東の文化って聞きましたけど、と首を傾げる監督生に、
「元々極東フェアを開催する予定でしたが、あちらの文化でこのような催しがありましたので、オファーを受けていただいたんですよ」
その口ぶりだと監督生さんはこのショーを知っているのですか?と問われ、故郷にも同じようなショーがありましたからと素直に答える。
「いや、でもあのショーと同じだと
監督生が思い浮かぶ解体ショーとツイステッドワンダーランドの極東に存在するらしい解体ショーが同じものならば、似合わない事この上ない。が、
「それは僕も考えましたが、1日だけの開催なので問題はないです。それに、賢者の島や他の国でも滅多に見られないものですからね、物珍しい者が見られるとあれば集客率も上がりますし」
よろしければ監督生さんも来てくださいね、ショーの後は捌いたばかりの魚をそのまま提供する予定ですから、と笑うアズールに、そんな所も故郷と一緒なんだな、なんて感心する監督生だった。
そうして迎えたショー当日。マブ達と共にモストロラウンジを訪れた監督生はショーの舞台となるのであろう設置された作業台や巨大なまな板に(あ、コレ故郷と同じだわ)と思った監督生である。マブ2人は見慣れない巨大まな板や切り落とした部位を入れるのであろう桶といった、極東ならではの道具類に好奇心を刺激されている様子。…流石に監督生が故郷で見た時のような大漁旗やのぼりといった装飾は無かったが。あったらミスマッチ感半端なかっただろうけど!
マブ達が一通り置かれた道具を観察し終えるのを待って注文を行う。といっても今回のメインは解体されてすぐの新鮮魚なのでとりあえず今はドリンクだけをオーダー。周囲を見渡せば監督生達と同じようにドリンクだけを注文している生徒がちらほらとおり、みんな同じ考えなんだな、なんて笑ってしまう。
監督生は極東フェアに合わせた期間限定ドリンクの緑茶をオーダー。マブ達はそれぞれ好きなものを注文していたが、監督生としては久しぶりに和食が食べられるかも!と思えば甘いドリンクなど注文する気は起きなかったのだ。が、しかし…残念ながらそう感じたのは監督生1人のみ。残念ながらNRC生にとって未知のドリンクである“緑茶”に手を出した者は1人も居ない様子。…紅茶にマグロとか合うの?なんて純粋に疑問を抱く監督生。甘いドリンクも然りだ。
途中、腹が減ったと騒ぐグリムに追加で軽食にサラダを注文し、待つこと暫し。未だに腹が減ったと訴えるグリムにはショーの後には新鮮なマグロが待ってるから!と宥めていると、ようやくショーは始まった。
とはいえ、ショー自体は監督生のよく知るものと同じであった。と言っても監督生自身、解体ショー自体を見るのは2回目だ。ちなみに1回目は故郷日本にて、家族旅行の宿泊先の旅館で開催されたものであったので、2回目の今回もそれなりに楽しめたのだが。
まずは頭とヒレを切り落とし、片側の背、腹を切り出し、中落ちのついた背骨を切り離す。「この骨回りも美味しいですよ」なんて板前は解説しているが、真っ赤に染まった身の部分はNRC生には不評な様子。顔を顰めている生徒が複数おり、結果板前はそれ以上の解説はせずに次の部位へと作業の手を止めない。
上下をひっくり返して再び背、腹を切り落とし、生徒全員に行き渡るように複数のブロックに分ければパフォーマンスは終了だ。
「さて、じゃあ何が食べたい?」
無事マグロの解体を終わらせた板前がそう言ってショーを見ていた生徒達(や、実は見に来ていた教師陣)に顔を向ける。だが…普段、売り物の切り身だけだったり裁くとしてもマグロのような大型の魚を解体する事が無いからかみんな二の足を踏んでいる様子だ。
だがしかし、そんな空気に吞まれる事無く手を上げた生徒が1人だけいた。…そう、ここには『目の前で解体された?そんなの関係ねぇ!』な食に貪欲な故郷から来た生徒がいたのだから。
「ハイッ! お刺身がいいです!!!」
そう、声を張り上げたのはもちろん監督生だ。そして、板前はマイナージャンルの極東グルメのリクエストが来た事に驚いたらしく「え?」と問い返している。
「だってこんな美味しそうなマグロ、刺身にしたいに決まってるじゃないですか! …いや、鉄火丼もいいけど…いやいやでも、しっかり脂のってるし、コレ絶対食べたらとろけるやつですよね!?」
「え、あ、ああ…」
グイグイと迫る監督生に板前が逆に戸惑っている。そんな様子などお構いなく、監督生はさらに続ける。
「普段はアニサキス怖いから生食はさすがにしないけど、コレ直前まで生きてたしいけるでしょ!? 久しぶりにお刺身食べたい…。あーもう、考えただけでよだれ出そう…」
じゅるり、とよだれを飲み込む様子に呆気にとられた板前であったが、リクエスト内容がじわじわと浸透してきたのだろう。呆気顔が次第に笑顔に変わっていく。
「…ク、ククク、ハッハッハ! いやあ、まさか賢者の島で
「は? マイナー? マジですか? こんなにおいしいのに!!?」
本気で驚いているらしい監督生に更に気を良くしたのか、板前はアッハッハと豪快に笑う。
「いやぁ、この美味しさを分かってくれる子がいるなんて! よし、最初のお客さん特権だ! 良かったら好きな部位を選んでくれ!!」
その言葉に監督生の顔がパァッと輝いた。だって、解体ショーの時点から狙っていた部位を選べるのだから!
「部位選んでいいんですか!? んーじゃあ、ワガママ聞いてもらえるなら是非! 部位は中落ちで!」
そうして指定された部位に板前は驚きに目を見開く。
「中落ちを知っているのか!?」
だってショーの時点での生徒達の様子から、この部分はそのまま廃棄されると踏んでいたのだ。まさかのリクエストに驚きを隠せなかったようだ。
「知ってますよ自国では常識です。でもショーの途中の周りの様子を見るにあまりいい反応じゃなかったですからね。なら自分が貰ってもいいですよね!?」
取れる分全部貰っても自分は全然構いませんよ!と鼻息荒く訴える監督生に、板前は苦笑を浮かべる。
「流石に全部は無理だな、もしかしたら君が食べるのを見て、他にも食べたいって行ってくれる子がいるかもしれないからな! でもそこまで知ってくれているなんて嬉しいねぇ。よーし、君にはオマケもつけよう」
そう言って板前が取り出したのは、
「そ、それは――伝家の宝刀『WA・SA・BI』!」
手に持つ緑の根菜に、監督生の表情は更に輝く。逆に板前は少し残念そうな…しかし嬉しさも滲ませた表情を浮かべる。
「なんでぇ山葵も知ってるのかい。これでこっそり驚かせてやろうと思ったのに…」
「しってますよ日本じゃ定番スパイスです!」
定番、という言葉が嬉しかったのか、板前の機嫌はうなぎ登りだ。ニコニコと嬉しそうに「よしよし、一番擦りをやろう!」なんて提案し、監督生は嬉しそうに「あざっす!」なんて返すのだった。
そうして擦りたての山葵を乗せ、ツンとくる刺激臭を周囲にふりまきながら監督生の手にマグロの中落ちの刺身が渡された。刺激臭が鼻に来るのか、それとも生で食べる様がアレなのか…周りの表情はあまりよろしくは無いが、監督生は気にせず一緒に手渡された醤油皿に刺身を軽く漬け、フォークで刺したそれを口に運んだ瞬間、監督生の顔が幸せそうに綻んだ。
「うっま…! おじさん、サイッコーです!」
「お、ありがとな!」
その反応が嬉しかったのだろう、板前も笑顔で返す(なお周囲は相変わらずドン引きだったが)。
「しかもこの山葵、めちゃくちゃ美味しいです! これ、絶対高級品でしょ!?」
「残念ながら普通だな。何せ山葵は需要が薄いから」
心底残念そうな板前の様子に、監督生もありゃりゃ…と顔を歪める。
「マジでかこんなにおいしい山葵、最高の水質と手間隙惜しまない世話でしか出来ないのに…」
まあ確かに自分の故郷でも山葵は好き嫌い分かれてましたけど、自分は好きですよ。なんて続ければ。
「よっしゃ、今日の余りでよけりゃ持ってけ! ここの人達の口にはちーっと合わないみたいだからな」
周囲の生徒達を皮肉る板前に幾人かが反応する。だが、皮肉はそれだけで終わらない。
「嘘でしょ生徒だけでなく教師陣まで全員お子さまなの?」
「山葵の味は素人にはちょーっと刺激が強すぎたみたいだな!」
まあ仕方が無いよなー、ねー、なんて彼等だけで通じ合う様子に煽られた生徒達や教師陣が、だったら俺達も挑んでやろうじゃねえか!と煽られた結果は――
まあ、予想通りと言う事で。
よってドマイナーだけど和風文化が存在する世界線の話です。…まあね、某作品的にTWLの極東=中華圏な気はするんですけどね。こんなのがあってもいいじゃないか!って事で。
ちなみに書きたかったのは冒頭と伝家の宝刀のくだりのみだったりします。
あの辺りは書いてて楽しかったですwww
2022年11月14日:twst夢100users入りタグ追加ありがとうございます!
---------- 以下読後推奨 ----------
ワショク・タベタカッタ・監督生
おっさしっみおっさしっみうっれし~な~♪なんて実は終始ご満悦だった。
刺身は美味しかったしこの世界に緑茶や醤油が存在している事を知れた事に大満足。その後極東フェアにて更にTWLに存在する他の和食レシピを知り歓喜の涙を流した。
なお、後で残ったマグロの切り身で鉄火丼も作ってもらった。もちろん山葵有で。山葵に撃沈した生徒達に奇異なものを見る目を剥けられたがそんなの関係ねえ!旨けりゃいいんだよこっちはぁ!!の精神でシカトした。
山葵に撃沈したNRC生・教師達
匂いの時点で獣人族・人魚族は即アウト。食べてみた人間族を中心としたチャレンジャーは悶え苦しんだ。調子に乗って山盛りにしたバカはタヒんだ。なお食べられたのは監督生と妖精族を中心とした某寮の生徒達だけである。(理由:副寮長メシに比べたら全然イケるから)