「ぎゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!!!」
絹を裂くような大絶叫が、NRCの校舎全体に響き渡った。その悲鳴にある者は持っていた薬瓶を取り落した結果大惨事を起こし、ある者は食べる前にと振りかけた塩の加減を間違えて皿の上に塩の山を築いた。
学園の方々で起きた災害の中、食事後に自習をしていた監督生は一度顔を上げ、一度は触らぬ神に祟りなしとばかりに視線を再び元に戻したが……今までの経験上確実に先ほどの悲鳴の調査案件がこちらに回されであろう事を察してしまい、ハア、と溜息をついて立ち上がった。
周りの生徒達に悲鳴の上がった場所を聞き込み、たどり着いたのは己の住処ことオンボロ寮だった。そして、オンボロ寮の前で腰が抜けているのか座り込んだエース・フロイドそしてジャミルというバスケ部の面々の姿も。
そして、一番目を引いたのは泡を吹いて気絶するジャミルの姿であった。そんな彼に必死に呼びかけるエースと、必死ではないが意識を取り戻させようと声をかけるフロイド。『オンボロ寮で』、『ジャミルが気絶する』。その光景にみなまで言われなくとも何があったのかを察してしまった監督生は、とりあえず事実確認の為に「エース、」とマブに声をかけた。
「ねえ、もしかしなくともさ、この3人で自分の趣味部屋、覗いた?」
「っ、監督せっ……!」
ジャミルに声をかけるのを止め、こちらを振り返ったエースがイタズラのバレた子供のような表情を浮かべたのについ笑ってしまい、「別に怒ってる訳じゃないからさ」と答える。
「いやさ、あの部屋を覗いたらジャミル先輩がこうなるのは分かっていたからさ、多分そうじゃないかなー、って思っただけだよ」
当たってる?と尋ねれば、エースはコクコクと何度も頷いた。…うん、NRC生の好奇心舐めてたわと監督生は苦笑を浮かべ、今度は「ジャミルせんぱ~い」、とペチペチ彼の頬を叩いてみる。
ジャミルの意識は彼方に飛んでいるのか一向に目覚める気配はない。まあ、あの部屋を“ジャミル先輩が”見たんだからそう簡単に意識を取り戻すとは思っていないが。
「小エビちゃん…もしかして、俺達にあの部屋に何があるのか言わなかったのって、俺達が部屋に忍び込むのを期待していたとか…?」
フロイドの問いにいやまさか、と答える監督生。あの趣味部屋は、その名の通り監督生の趣味を集約した部屋だ。基本立ち入り禁止にしているのは育成中の彼らの住居を無暗に壊されるのが嫌だっただけであり、目の前に居るエースやこの場に居ないデュースと言ったマブ達に「あれ、何の部屋だ?」と尋ねられれば「自分の趣味の部屋だよ」と正直に答えていた。その返答に深く追求しなかったのは相手の方である。
さて、長々と引き延ばしたが。監督生の趣味についてそろそろ話そうか。
監督生は元々、とある生き物が大好きだった。自分の手で飼育するのはもちろん、フィギュアを集めるのも大好きだった。それは一般的に売り出されるフィギュアだけでなくガチャガチャにあるミニフィギュアや、プライズなどでクレーンゲームの景品にされているものだって夢中で集めるほどだ。
監督生は元々、其処までゲーム好きでは無かった。ゲームにお金をかけるぐらいなら大好きな彼らにつぎ込みたい。そんなタイプだった。唯一の例外はそんな愛する彼らそのもの、もしくは彼らをモチーフにしたモンスターが登場するゲームならば喜んで手を出したくらいか。それも、モンスターとして撃破対象になるゲームはいらない、某ポケットの魔物ゲームのように仲間として一緒に戦うようなものならば、なんだって好きだった。
だってそうだろう? あの鋭い針で自分の命を賭して特攻をかけ、己の巣を守る姿なんて涙無くして見れないし、あの角で外敵をひっくり返す姿なんてかっこよすぎて惚れ惚れしちゃう。鱗粉をまき散らしながら美しい羽をはらはらと羽ばたかせ飛ぶ姿なんてある種鳥なんかよりもよっぽど優雅だし、あの小さな手足を一生懸命動かして、進みは人が見れば遅いかもしれないが一歩一歩を堅実に進んでいく姿なんていつまでも応援したくなっちゃう。
――そう。この監督生、三度の飯よりも虫が好きな昆虫マニアであった。某ゲームにて短パンで野を駆る小僧たちとはうまいジュースが飲めそうだ!と声高に主張する監督生に元の世界の友人たちにドン引きされたという事実があったりする位には虫が大好きなのである。ちなみに、そのエピソードを
ここまで説明すれば大絶叫の主が誰なのか、間違いなく分かるだろう。そして、ジャミルが忘我の彼方から帰ってこない理由も。
エースたちバスケ部メンバーは、軽い気持ちであの趣味部屋に入ったに違いない。その結果が今現在の光景な訳で。
育成している間に何千、何万匹に膨れ上がった愛しい虫たちであるが、元の世界でも苦手な人が多いのは事実だし、1匹2匹は平気でもうじゃうじゃと団子のように固まった虫の群れに嫌悪感を抱く者は多数存在する。だから、詳しく聞かれなければ趣味部屋がどういったものなのかを説明しなかったのだが…
別に秘密にしていた訳ではないが、好奇心に負けて監督生に詳細を聞く前に勝手に部屋に入ったこの3人が悪いよね、と監督生は溜息一つ、とりあえずジャミルを介抱した方がいいかとオンボロ寮のゲストルームに彼を運び込むようエースとフロイドに頼む監督生であった。
ちなみに。監督生が飼育する虫たちは、主にオンボロ寮、もしくは学園周辺に生息するものを採取して育成している――監督生は虫全般を愛でるタイプの人間だったので、育成する虫たちの品種にはそこまでこだわりが無かったのだ――まあ一部、各寮を訪れた際に捕獲した品種も居たりするが。
そんな身近な虫を捕獲してはケージに放り込み、図鑑片手に生態を確認しては観察日記に事細かに書き込み、なるべく彼らが快適に過ごせるように工夫をしながら育成をしていた。
監督生自身は元の世界で培った知識と技術で彼らの世話をしているのだが、実は一部の品種で人工飼育が難しい虫が居たり、人の目に触れる事が少ない珍しい品種がケージの中を所狭しと飛び回ったりと、監督生自身も知らぬ所でとんでもない偉業を成し遂げていたりするのだが……悲しいかな監督生の趣味部屋が虫天国だと知ったNRC生がその部屋に近寄る事が無くなったため、その偉業が日の目を見るのはこれからもうしばらく先の事になる。
書き始める前は注意書きとかいるかなー、とか思ってましたが、書きあがったら注意書き必要か?レベルの内容になったのでとりあえずは全年齢公開とさせていただきます。
最初は某副寮長と恋仲でー、とかもちょっと考えましたが、いざ書いてみると副寮長が一言も喋らない事態に。って事で今回もいつもと変わらず仲のいい先輩後輩の関係を継続しています。
---------- 以下読後推奨 ----------
監督生
何でよ虫、可愛いじゃん。
後に虫を飼育している事で錬金術に必要な虫を調達したいクルーウェルを部屋に案内した結果、本人も知らぬ偉業が発覚する未来が待っている。
エース・監督生の秘密があんなだとは思ってなかった!・トラッポラ
監督生が隠したがる(注:隠していたわけではない)部屋に何があるのか、好奇心で覗いて後悔した。
ちなみにジャミルをあの部屋から連れ出したのは彼。
フロイド・うえぇ、陸の虫って結構キモいね・リーチ
虫自体は別に気にはならなかったが、小さい虫がうじゃうじゃ塊になって蠢いているのは正直に気持ち悪かった。
ジャミル・眠り姫・バイパー
あの後○時間寝込み、1週間悪夢に魘された。