「お前は、僕を置いて帰るのだな」
元の世界の帰るという監督生に、寂しそうにそう言ったのは友人のツノ太郎ことマレウス・ドラコニアであった。
元の世界への帰還方法がわかり、エーデュースを始め学園で親しくなった面々に盛大なお別れ会を開催してもらい、その夜。ツイステッドワンダーランド最後の夜にオンボロ寮にやって来た友人は、開口一番そう告げた。
彼の言いたい事はよくわかっている。…何せ、同じような問答をエーデュースを始めナイトレイブンカレッジで親しくなったみんなと繰り広げたのだ、「元の世界には帰らずに、
そんな彼らの懇願を振り払い、監督生は元の世界に帰ることを決めた。今日のお別れ会でもまだ納得していない面々もいるようだっだが…監督生の意思はかたく、誰にも止められはしなかった。だから、マレウスにも告げたのだ、ただ一言「ゴメン」、と。
「そうか…お前の意思は、もう決まっているのだな」
監督生の瞳を見て、マレウスはそう、目蓋を伏せる。そうしてはあ、と小さく嘆息し…おもむろに監督生を抱きしめた。
「お前が、帰ってからも息災であるよう僕が祝福を与えよう」
そう言うと同時に、キラキラと光を放つ緑のなにかがマレウスと監督生を包み込む。
「ねえツノ太郎。拒否権は…」
「僕からの餞別は不要か?」
監督生の言葉にすぐさま答えるマレウスに、「せ、餞別なら…」とそれを受け入れ――翌朝、監督生はNRCを去ったのだった。
そうして元監督生こと■■ユウは元の日常に戻った。のだが――
ピピピ、と電子音が部屋に響く。毎日聞いている目覚ましの音だ。
布団団子からのそりと腕が伸びる。電子音を響かせる目覚まし時計の周りをふらふらと彷徨う腕が目当ての目覚ましに触れた途端、まるで親の敵と言わんばかりの力強さでベシベシと目覚まし時計を叩いていると。
「人の子、今日は“朝練”があるから早く起きなければならないと昨夜言っていなかったか?」
布団団子以外に人の気配の無い部屋に、何者かの声が響いた。その声に反応してか、布団団子からむにゃむにゃと返答がくる。
「いや、いや…ツノ太郎、ここには~、“あと五分”…って言葉が、あって…」
「そんな時は容赦なく起こせと言ったのはお前だろう、人の子よ」
そう言うと共に、ベッドの隣に置かれた学習机からパリパリと緑の雷光が発生した。そして、「警告から10秒、だったな?」との声が聞こえ――
「っっあっっっぶなっっっっっっっ! 寝過ごすとこだった!!!」
ありがとう!と布団を跳ね除け飛び上がったのは、NRCの元監督生ことユウだった。同時に学習机で光っていた雷光もスッと消える。
その事を気にする風もなく、ユウは学習机に近寄る。そして、机上に置かれたこぢんまりとした籠にそっと手を伸ばし、布団替わりのハンカチの山からそっと“ソレ”を持ち上げ、
「おはようツノ太郎! …じゃなくてツム太郎!」
顔の位置まで掲げ上げた手のひらに乗った、マレウスをデフォルメし寝そべらせたようなフォルムのぬいぐるみのような“ソレ”に、ユウは元気に挨拶した。
さて、急に話は変わるが。監督生の故郷には『ツムツム』と呼ばれるゲームがある。ツムと呼ばれるキャラクターを繋げて消す、パズルゲームの一種だ。
なぜそのような話を突然したのかと言うと、理由は簡単。デフォルメマレウスことユウの呼ぶ『ツム太郎』は、そのツムツムに出てくるキャラクターそっくりであったからだ。
そしてこのツム太郎、正直に言って正体はユウにもよく分かってはいない。ただ、ツイステッドワンダーランドから現代日本に無事帰還し故郷の地を踏んだその肩に、気付いたらちょこんと乗っていたのだ。
ユウがツイステッドワンダーランドから持ち帰った私物は、実は何もない。NRCで使っていた物は全て帰還の妨げになってはならないからと学園長に持って帰る事を禁じられ――帰還時に物に宿る魔力が異世界への道しるべとなっている魔法を阻害して云々などと学園長に説明されたが、正直ユウには半分くらいしか理解出来なかった。なんか難しい理論とかも言い出したし―― 一応、闇の鏡に呼ばれた時と同じく式典服に身を包み、元の世界に通じているという鏡をくぐり…そうして次に目を覚ますと、見慣れた自室に無事帰還していた訳である。
着ていた式典服は着慣れた部屋着にいつの間にか変化しており、壁にかけたカレンダーは記憶にあるNRC入学前日のままで。今までの学園生活はまさか夢…?とセンチメンタルになりかけた時。
「ほう、ここが魔法の無い世界か」
そう、肩口より聞きなれた声がして。「え?」とそちらに目をやると、先述のツムマレウスと目が合った訳で……
驚愕の悲鳴を上げたユウに、母親からの叱責が飛ぶのはそのすぐ後であった。
そんな訳で叱責からのツムマレウスとの『お話し合い』にて分かった事は、このツムマレウスこと後のツム太郎(もちろんユウ命名)は、帰還前夜にマレウスより施された“祝福”が、魔力の無い世界でわかりやすく言うなら謎の化学反応を起こして形を成したものである、という位だった。…え? もっと正確に話せって? あの時のツム太郎の言葉は正しくは以下の通りである。
「高魔力の宿った次期妖精王の祝福が魔力の全く存在しない世界で反発を起こしはしたが、人の子が
であった。残りの説明は怖くて聞きたくなかったユウである。
最悪ツム太郎と一緒に消滅していたかもしれないとかナニソレ怖い。ツノ太郎、善意が仇になりかけたじゃん…、とは後のユウの呟きである。その呟きを聞いた当の
結局のところ、ツム太郎の正体は自称『ツノ太郎がユウに施した祝福』である。正確には『魔力の無い世界がユウより引き剥がせた祝福の塊』である。そして、まだユウの身にはマレウスからの祝福が授けられている状態でもある。その量、数値にするなら全体の三分の二がツム太郎を形作り、残りの三分の一が未だユウに宿っているとか。全体の三分の二でもこうして喋って静電気程度だが雷を発生させる事も出来るとか、マレウスがこの祝福にどれほどの魔力を込めたのか…言わなくてもまあ、色々察せられるってものである。
が、しかし。監督生は変な所で鈍感であった。「まあこれで! NRCの事は夢じゃなかったって証明されたし、こうしてツム太郎と話が出来るって事はNRCでの思い出話も出来るんだって事で! 悪い事ばかりじゃなかったよね!」とからから笑ってみせるユウに、監督生の元へと繋がるアンカーとしての役割も兼ねられたツム太郎は、しかし真実を話す事も無く「また、この世界の事を話してくれるな? 人の子よ」と笑いかけるのであった。
今回はほぼ全編監督生の事を『ユウ』と表記してます。
そして今回はツイステキャラはほぼ出ません。
地雷の方は今すぐバックプリーズ。
※ こちらは某イベント発表以前の作品です。あのイベントとは一切関係の無い話です。
ツムツムのツイステイベント全クリア記念に何か書きたかった。ので、形にしてみた。
なんでヴィル様やイデア氏達じゃないのかというと、単純にツノ太郎には一番お世話になったからってだけです。あと――太郎って語感がなんか気に入ったから(一応伏字)。
一応マレ監かなって思わんでもなかったのでマレ監タグつけてます。マレウス冒頭しか出てないがな!(笑)
基本、きりうさんはあまりカプ系の話を書く気は無いですが、今回はマレツムありがとう!って気持ちもあったのでちょっとそっち系意識してます。まあ、ほんのちょっぴりだし何よりこの続きは無いんですけど(;´∀`)
朝のあの後の様子とか、その後の日常とか、もうちょい付け足そうかなと思いましたが蛇足感半端なかったのでばっさりカット。書きたかったのは(元)監督生と――太郎だけだったのでまあいいかなと。
監督生が帰った後の話もちょこちょこ妄想はしてるので、いつか形にしたいな、と思っています。ただ、こういう話が地雷な方も居そうなので、捏造未来の話がいくつか出来たらシリーズも分けようかな、とか考えてます。どうなるかは未来のきりうさん次第ですけどね(オイ)
---------- 以下読後推奨 ----------
作中書けなかったのでここで補足。
(元)監督生とツム太郎は現代日本では常に一緒に行動してます。祝福を2人(1人と1匹?1体?)で分けている状態なので、離れて影響が出る(=ツム太郎と話せなくなったり等の悪影響が出る)のはイヤだと(元)監督生が連れ回してる感じ。ツム太郎としてもNRCでは夜以外は一緒に居られる機会が少なかった事もあり喜んでるので2人の関係は良好です。
あと、ツム太郎は(元)監督生が祝福を受けた時点でマレウスと分離したってイメージなので、(元)監督生とのお別れの時点までのマレウスの記憶を持ってます。こちらの世界で廃墟巡り(不法侵入にならない程度に)とか廃墟の写真集とか一緒に見てたらきりうさんが癒されます(笑)
■■ユウ
帰る前に(有無を言わさず)妖精族の次期王に祝福された元監督生。そのせいで知らない所で消滅の危機を迎えかけた。
ツム太郎には最初は驚いたがなんだかんだ上手くやっている。
最近のお気に入りはツム太郎のほっぺたをぷにぷにすること。
マレウス・人の子に祝福を・ドラコニア
自分の手の届かない場所に行こうとする友人に、祝福(と言う名のマーキング)を授けた未来の妖精王。いつかは自分のかけた祝福の痕跡を辿って人の子を迎えに行くつもり。絶対に逃さない。
後に魔法の無い世界に来て自分の祝福が形を持った者と人の子争奪戦を繰り広げるかもしれないし、繰り広げないかもしれない。
ツム太郎
元は姿形を持たない次期妖精王の祝福が、魔法のない世界で何故か形を持った姿。性格はマレウス・ドラコニアそのもの。
魔法の無い世界なので人の子にただ寄り添う事しか出来ないが、NRCで数多くいた人の子と親しかった者がこの世界には居ないので、それはそれで楽しい日々を過ごしてる。