研究室長などを降格するための就業規則不利益変更(令和元年12月25日大阪地裁)
概要
地方独立行政法人A研究所の研究室長であった原告ら10名が、就業規則改正により研究室長の位置付けが管理職から非管理職へ変更され、職務の級も3級から2級へ引き下げられたことを争った。原告らは、改正前は3級各号給に基づく給与に加え管理職手当を受けていましたが、平成27年5月1日付の規程改正により、管理職手当の対象外となり、級も2級へ切り替えられました。もっとも、給料月額が下がる場合には現給保障がされる仕組みが採られていました。背景には、市人事委員会の報告を受けて、大阪市が課長代理級職員の給与制度を見直し、管理職手当の支給対象外とし、超過勤務手当の対象に改めたことがありました。A研究所も市に準じた給与制度を採っていたため、研究室長についても同様の見直しが検討され、研究所労組との協議や説明が行われましたが、組合は反対しました。原告らは、研究室長の職務内容は改正前後で実質的に変わらず、研究主幹と同様に研究室員の指揮監督、人事考課、委員会運営、対外的な調整業務などを担っていたのに、非管理職化と降格が行われたと主張し、昇給停止や手当不支給などの不利益を受けたとして、地位確認や損害賠償を求めました。なお、原告の一人は訴訟係属中に死亡し、その者に関する訴訟部分は終了しています。
結論
棄却
要旨
不利益の程度について、研究室長が管理職手当(月額6万2700円)の支給対象外となったこと自体は不利益であると認めました。しかし同時に、非管理職化に伴って超過勤務手当の支給対象となり、実際には原告らの半数以上が従前の管理職手当額を上回る超過勤務手当を受給していたことを重視しました。そのため、管理職手当の不支給による経済的不利益は、実質的にはないか、少なくとも相当程度軽減されていると評価しました。
3級から2級への切替えについても、形式上は降格であっても、現給保障が設けられており、基本的には従前と同水準の給与が維持されていたことから、実質的な不利益は大きくないとしました。原告らが強く主張した、事実上の昇給停止についても、規則変更時点では将来に生じ得る不利益にすぎない面があるうえ、仮に原告ら主張の前提に立って比較しても、年収に占める不利益割合は1.63%から5.90%程度にとどまると指摘し、実質的にそれほど大きい不利益とはいえないと判断しました。さらに、管理職から外されたことに伴う憤りや勤労意欲の低下といった精神的不利益についても、就業規則変更による実質的不利益として重く評価することはできないとしました。
変更の必要性については、A研究所が市を設立団体とする地方独立行政法人であり、給与制度も従来から市に準じて改定されてきた事実を重視しました。市では、人事委員会の報告を受けて課長代理級の給与制度が見直され、研究職の課長代理級も非管理職の級に位置付け直されることになりました。これを受け、A研究所は研究室長を引き続き管理職として扱いたいと市と折衝したものの、市からは、運営費交付金の交付を受けている以上、市の勤務条件を上回る取扱いはあり得ないとの強い見解が示されました。裁判所は、地方独立行政法人としての自主性を前提にしつつも、当時の実情のもとではA研究所が市の申入れを拒むことは実質的に極めて困難であったとし、本件規則変更の必要性は相当程度高かったと評価しました。
変更後の内容の相当性については、研究室長の職務内容が本件規則変更の前後で大きく変わっていないことを認めつつも、それだけで非管理職化が不相当になるわけではないとしました。裁判所は、どの範囲の者を管理職として扱うべきかについて明確な一義的基準があるわけではないとしたうえで、研究室長が管理監督する研究室員が1名から3名と少数であること、全国の同種地方独立行政法人では研究職に占める管理職割合が概ね20%以下であり平均約13.4%であるのに対し、A研究所で研究室長を管理職に含めるとその割合が著しく高くなることを指摘しました。そのため、他機関との均衡からみても、研究室長を非管理職とする取扱いは相当であると判断しました。加えて、A研究所が準拠していた市の給与制度でも、研究職の課長代理級が2級の非管理職に位置付け直されたことを踏まえ、研究室長を2級とした点も相当と評価しました。もっとも、裁判所は、労働組合との協議期間が短く、本格的説明が規則変更直前であったこと、組合が反対し、個別同意も得られていなかったことは認定しています。その一方で、A研究所側が当初は研究室長を管理職として維持する方向で約2か月以上にわたり市と折衝していた事情も認め、交渉経過に問題があったとしても、それだけで全体の合理性判断を左右するものではないとみました。
以上、裁判所は、本件就業規則変更には合理性があり、労働契約法10条に照らして有効であると結論付けました。その結果、原告らの地位確認請求はいずれも認められず、原告の損害賠償請求も、前提となる規則変更および降格が有効である以上、不法行為は成立しないとして退けられました。


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