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クックパッドの「レシピスクラップ」は何が問題か?
※この記事はAIと共同で制作しています。
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はじめに

2026年3月、クックパッドが新機能「レシピ取り込み」をリリースした。SNSやブログに投稿されたレシピのURLを貼るだけで、AIがレシピ情報を抽出・整形し、クックパッドアプリ内に保存できるというものだ。
この機能が発表された直後から、バズレシピで人気を博しているリュウジ氏の投稿を皮切りに、料理家やクリエイターを中心に強い批判が巻き起こっている。
リュウジ@料理のおじさんバズレシピ
@ore825
クックパッドの新機能酷すぎる InstagramやXなどクックパッドに載せてない料理家さんのレシピを簡単に取り込めて元投稿にアクセスしなくてもクックパッドアプリで完結出来るシステム こっちは必死で自己アカウントで頑張ってんすけど あまりにもレシピ製作者にリスペクトがない
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この記事では、今回の騒動の問題点と論点について整理したい。

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何が起きているのか?


機能の仕組みはシンプルだ。

  1. ユーザーがX(Twitter)やInstagram、ブログ等のレシピURLをアプリに貼る
  2. 2. クックパッドのサーバーがそのURLにアクセスし、コンテンツを取得する
  3. 3. AIが材料・分量・手順などのレシピ情報を抽出・整形する
  4. 4. クックパッドアプリ内に「自分のレシピ」として保存される
保存は5件まで無料。それ以上はプレミアム会員(有料)への課金が必要になる。
つまり、他者が作成したコンテンツを自社アプリに取り込む仕組みを作り、それを収益化しているということだ。

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論点① ── クリエイターへのリスペクトがない


リュウジ氏をはじめとする料理家たちが真っ先に指摘したのが、この点だ。
レシピを作った人間には何も還元されない。トラフィックも、クレジットも、報酬も。レシピという「成果物」だけが抜き取られ、クックパッドのエコシステムに取り込まれる。
クックパッドは料理のプラットフォームとして、多くの料理家やレシピ投稿者に支えられて成長してきたサービスだ。その歴史を持つ企業が、外部のクリエイターのコンテンツを吸い上げて自社の有料サービスの機能にするというのは、控えめに言っても筋が悪い。
さらに矛盾しているのは、クックパッド自身が今も料理家にコラボ記事の執筆を依頼したり、レシピ開発を委託したりしていることだ。つまり、クックパッドは料理家のコンテンツに価値があることを認め、対価を払って使っている。
にもかかわらず、別の料理家がSNSに投稿したコンテンツは、無断で吸い上げて自社の課金機能に組み込む。同じ「料理家のコンテンツ」に対して、片方には対価を払い、もう片方には何も払わない。 これはコンテンツの価値を認めていないのではなく、認めた上で取っているということだ。
コラボしている料理家にとっても気持ちのいい話ではないだろう。自分はクックパッドに協力しているのに、同業者のコンテンツは無断で取り込まれている。明日は自分のSNS投稿がやられるかもしれない。
「便利な機能」と「搾取の仕組み」の違いは、クリエイターに価値が還元されるかどうかだ。この機能には、その設計思想が完全に欠落している。

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論点② ── 自社の運営姿勢と矛盾している


クックパッドの利用規約(第16条1の16)は、自社サービス上での無許諾の営利目的利用を禁止している。つまり、クックパッドは自社のサービス上のコンテンツが勝手に商業利用されることに対して、明確にNOを突きつけている
(16 )本サービスの全部または一部を営利目的で、使用方法を問わず利用する行為(それらの準備を目的とした行為も含みます。但し、当社が認めた場合は除きます。)
ところが、レシピ取り込み機能がやっていることは、まさにこれの「逆向き」だ。他のサービス上のコンテンツを、許諾なくクックパッドのサービスに取り込み、有料機能として提供している。
「規約は自社サービス内の行為を規制するものであって、外部コンテンツの取り込みとは別の話だ」——法務的にはそう反論できるかもしれない。しかし、自社サービス内では他者による営利利用に敏感な運営をしておきながら、外部のクリエイターに対しては同意の取得も還元の設計もない。この非対称性こそが問題だ。
規約の文言が同一でなくとも、「他者のコンテンツを勝手に商業利用するな」という思想が自社の運営に込められているなら、自社がそれをやるのは矛盾している。

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論点③ ── 法的評価が割れやすい構造になっている


この機能の設計を見ると、結果として法的に攻めにくい構造が出来上がっている。

URLを貼るのはユーザー → スクレイピングの主体はユーザーであり、クックパッドはツールを提供しただけという建て付け
AIがレシピを「抽出・整形」する → 元の文章をそのままコピーするのではなく、AIが再構成することで著作権上の問題を弱める方向に働く(ただし、元の創作的表現との類似性が残れば侵害の余地はある)
保存先は個人のアプリ内 → ユーザー個人の便宜のための機能だという反論が可能(もっとも、事業者のサーバーが取得・処理・保存する工程を「私的使用」に収められるかは別論点だ)

偶然こうなったのか、意図的に設計されたのかは外部からは分からない。だが、「法的に攻めにくい設計になっていること」と「倫理的に問題がないこと」は全く別の話だ。法務レビューを経た慎重な設計であればあるほど、この行為のリスクを認識した上での判断だということになる。

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論点④ ── 課金モデルの是非


レシピ情報の抽出自体を法的に「違法」と断じるのは難しい。だが、だからこそ課金モデルの存在が問題の本質を浮き彫りにする
もしこれが純粋に「自分のレシピを整理したい」ユーザーのための無料ツールなら、まだ「個人の便利機能」という説明に一定の説得力がある。
しかし実態は、5件まで無料、それ以上は有料サブスクリプションだ。つまり他者のコンテンツを取り込む行為そのものに課金導線が設計されている
これは「ユーザーの利便性を高める機能」ではなく、他者のコンテンツを燃料にした収益モデルだ。クリエイターには一切還元されないまま、クックパッドだけが課金収入を得る。
違法かどうかは別として、この構造を「問題ない」と言い切るには、同意の取得、クレジットの表示、オプトアウトの手段、一次投稿者への還元——これらの設計が決定的に不足している。

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論点⑤ ── プラットフォーム規約の侵害可能性


法的に最も具体的な問題は、情報を収集する先のプラットフォームや𝕏サイトの利用規約等の侵害についてだ。
例として、𝕏(Twitter)の利用規約との関係を示す。
Xの現行規約(2026年1月15日発効版)は、書面による事前の同意のない自動的なコンテンツ取得を明示的に禁じている。一定量を超えるアクセスに対しては15,000ドルの損害賠償予定条項も置かれている。
ここで重要なのは、URLを貼るのはユーザーだが、実際にXのサーバーにアクセスしてコンテンツを取得するのはクックパッドのサーバーであるという点だ。
ユーザーのスマートフォンからXにアクセスしているわけではない。ユーザーがURLを入力すると、クックパッドのバックエンドがXのページを取得し、AIで処理している。つまり、技術的な主体はクックパッドだ。
もっとも、この規約がクックパッドのバックエンドに対して直接適用されるか、契約として成立・執行可能かは、アクセスの態様や規模といった事実関係に左右される。海外でもプラットフォーム規約によるスクレイピング規制の争点は判例が割れており、規約だけで全面的に押し切れるとは限らない。
ただし、Xはこの手のスクレイピングに対して実際に訴訟を起こしてきた実績がある。もっとも、2024年のBright Data訴訟ではX側の主張が厳しい判断を受けた局面もあり、プラットフォーム規約だけで押し切れるかは確定していない。それでも、X側から規約違反を主張され得る設計であることは確かだ。 訴訟・差止め・API制限といった実務上の摩擦は、現実に起こりうる。
なお、Instagram(Meta)についてはやや事情が異なる。Meta v. Bright Data判決(2024年)では、ログインせずにアクセスできる公開データの取得についてMetaの契約上の主張が退けられた。ただし、これはあくまで規約上の話であり、倫理的な問題が解消されるわけではない。

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論点⑥ ── 問われる「企業倫理」


ここまで読んで気づいた人もいるだろう。法的にクックパッドを「アウト」にするのは、実はかなり難しい
材料・分量・一般的な手順といったレシピの機能的・事実的要素は、著作権保護が及びにくい。一方で、レシピの文章表現、写真、動画、構成やストーリー性のある説明は保護され得る。だが、AIが情報部分だけを抽出・再構成してしまえば、著作権侵害を正面から問うのは容易ではない。
だからこそ、これは企業倫理の問題として問われるべきなのだ。
問題は違法性の有無だけではない。一次投稿者への送客が途絶えること。文脈や注意書きが脱落して誤変換のリスクが生じること。同意もクレジット表示もオプトアウト手段も見えないこと。そして、収益化の果実が一次創作者に一切戻らないこと。
この記事もAIとともに執筆もしており、筆者は反AI論者ではない。 AIは素晴らしい技術であり、社会を良くする可能性を持っている。
問題はAIという技術ではなく、それを使う企業の姿勢だ。
考えてみてほしい。個人がブログで公開しているレシピサイトには、Xのようなスクレイピング禁止条項も、大企業のような法務部門もない。法的に身を守る手段を持たない個人のコンテンツを、企業がAIで吸い上げて課金サービスにする。 これがAI時代における最も本質的な問いの一つだ。
そして、もしこのモデルが許容されるなら、同じ論理で業界全体に広がり得る。クックパッドが他社のコンテンツをAIで吸い上げるなら、他社もクックパッドのコンテンツを同じようにできる。互いのコンテンツを吸い上げ合うことが標準化すれば、一次発信のインセンティブとプラットフォーム間の信頼関係が壊れる。クックパッド自身が利用規約で他者による営利利用を制限しているのは、自分がやられたら困ることを知っているからだ

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論点⑦──「レシピに著作権はないのだから当たり前」か?


堀江貴文氏はこの騒動に対して、こうコメントしている。

堀江貴文(Takafumi Horie、ホリエモン)
@takapon_jp
レシピは著作権ないから、AI時代には蹂躙しまくられるな。リュウジさん乙。
Quote
リュウジ@料理のおじさんバズレシピ
@ore825
Replying to @ore825
しかも無料版で張り付けられるのは5レシピのみでそれ以上は「クックパッド」に課金が必要みたいだ クックパッドに投稿されてるレシピならまだしも他のSNSから勝手にレシピ取り込んでそれで金を稼ぐってどうなのよ 料理家さん許せないだろこれ

事実認識としては正しい。レシピの機能的な情報に著作権保護は及びにくく、現行法でこの種の行為を止めるのは難しい。AI時代にはこうした「合法的な取り込み」が日常化するだろう、という見立ても一面では妥当だ。
だが、「蹂躙できるから蹂躙していい」のか。
法律は常に技術の後追いだ。AIによるコンテンツ抽出・再構成という技術が普及した現在、既存の著作権法のフレームワークでは対処しきれない領域が確実に広がっている。その「法の隙間」を、コンテンツを生み出す人間を踏みにじるために使うのか、共存する方法を模索するのか。その選択こそが、企業の品格を分ける。
今回の件に限らず、法律に反しないことを「感情論だ」と断じて嘲笑う論評はネットに溢れている。その時点においては、確かに正しい。だが、法律というものは一面で、蹂躙された人たちの感情が結実したものでもある。今の「合法」が未来も「合法」であり続ける保証はどこにもない。未来も自由でいたいならば、今の自由の使い方を考えるべきだ。
特に個人のクリエイターは、大企業のような法務体制も、プラットフォームのような規約の盾も持たない。法律が追いつくまでの間、彼らを守れるのは企業自身の倫理観だけだ。「止められないからやる」ではなく、「止められなくてもやらない」という判断ができるかどうか。

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おわりに


音楽生成、画像生成、動画生成——AIをめぐるコンテンツの問題は毎日のように炎上し、毎日のように議論されている。結論の出ないグレーゾーンは広がる一方だ。実際に被害を受けたと主張するクリエイターもいる。
その中で、特に企業活動においては、技術的に「できること」と「やっていいこと」の高度な分別が求められている。そして、その分別に透けて見える倫理観が、これまで以上に重要性を増している。
クックパッドは1998年に創業し、日本のレシピプラットフォームの草分け的存在だ。多くの料理家が無償でレシピを投稿し、そのコミュニティの力でサービスは成長した。
そして、上場企業でもある。
上場企業には、株主・ユーザー・取引先・社会に対する公器としての責任がある。コンプライアンスの観点からも、個人開発者が作った便利ツールとは、求められる倫理の水準が違う。
ましてや、料理という文化を扱うプラットフォームが、料理を作る人間のコンテンツをどう扱うかは、その企業の根幹に関わる問題だ。
そのクックパッドが今やっているのは、外部の料理家やクリエイターが他のプラットフォームに投稿したコンテンツを、AIで吸い上げて自社アプリに取り込み、有料機能として課金する——という行為だ。
法的にグレーだからこそ、企業としての姿勢が問われる。料理のプラットフォームとして、料理を作る人間をどう扱うのか。その答えが、この機能に表れているといえる。

I'm not worried about artificial intelligence giving computers the ability to think like humans. I'm more concerned about people thinking like computers without values or compassion, without concern for consequences.(Tim Cook)
私が心配しているのは、AIがコンピュータに人間のように考える能力を与えることではない。むしろ、人間がコンピュータのように——価値観も思いやりも、結果への配慮もなく——考えるようになることだ。(ティム・クック Apple CEO)


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付録:技術的に何が違うのか——Web Clipperとの比較


さて、本件に関してWebサービスに明るい諸氏からすれば、「Evernote Web ClipperやNotion等のWeb Clipperと同じではないか」という疑問も湧くと思われる。この点についても、技術的な視点でいくつか整理しておきたい。
確かに、URLを指定して外部コンテンツを自分の領域に保存するという構造は似ている。だが、技術的にも設計思想としても、決定的な違いがある。
① クライアントサイド vs サーバーサイド
Evernote、Obsidian、NotionのWeb Clipperはブラウザ拡張として動作する。ユーザーが既にブラウザでアクセスしているページを保存するものであり、コンテンツの取得主体はあくまでユーザーだ。クックパッドの場合、ユーザーはURLを渡すだけで、実際にコンテンツを取得しに行くのはクックパッドのサーバーだ。X規約のスクレイピング禁止条項がWeb Clipperよりもクックパッドのほうがよりグレーなのは、この主体の違いによる。
② 元コンテンツの保存 vs AI書き換え
Web Clipperは元のコンテンツをそのまま(またはマークダウン変換して)保存する。ブックマークや引用の延長であり、元の著作物がそのまま残る。クックパッドはAIでコンテンツを分解・再構成し、元の表現を残さない形に変換する。これは著作権法上の防御を強める方向に働くが、同時に元のコンテンツへの参照やクレジットが消えるという倫理的問題をより深くする。
③ 汎用ツール vs 特定コンテンツの狙い撃ち
Web Clipperはニュース記事でも論文でもブログでも、あらゆるWebコンテンツを保存できる汎用ツールだ。クックパッドのレシピ取り込みは、著作権保護が及びにくい「レシピ」というコンテンツ類型に特化している。汎用ツールと、法的に攻めにくいコンテンツに絞った専用機能では、設計の意図が異なる。
④ 保存機能の無料提供 vs 取り込み行為への課金
Evernote/Notion/Obsidianのクリッピング機能自体は無料だ。課金対象はストレージ容量や同期機能であり、「他者のコンテンツを保存する行為」そのものには課金していない。クックパッドは5件超のレシピ取り込みに対して直接課金している。この差は、「個人の便利ツール」と「他者コンテンツの収益化」の境界線を示している。
Web Clipperとクックパッドのレシピ取り込みは、表面的には似た構造に見える。だが、上記の4つの差分が積み重なった時、両者の意味は全く異なるものになる。

ただし、この技術的な差分をもってしても、クックパッドのみが個別の条件において明らかな問題をはらんでいると断じるのは難しい。技術的な線引きには常にグラデーションがあり、どこからが「セーフ」でどこからが「アウト」かを一意に決めることはできない。結局のところ、問題は技術の差分ではなく、その技術をどのような姿勢で使うかという企業倫理に帰着せざるを得ない——というのが、本稿を通じての結論でもある。
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