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【保存版】数学強者のための「生存戦略」としてのアクチュアリー

はじめに:私はアクチュアリーにならなかった

まず、私のアクチュアリーとしてのスペックを提示しておく。

  • 勉強期間:約3ヶ月(400時間程度)

  • 合格科目:数学、損保数理、生保数理(3科目合格)

  • 前提知識:東大理系、統計検定1級レベル

これだけ見れば、アクチュアリーに向いていると思われるかもしれない。
実際、試験自体はそこまで難しくなかった。東大入試や大学院入試に比べれば、容易に解ける問題ばかりだ。

しかし、私は結局アクチュアリーにはならなかった。
研究会員にはなったが、実務には進まず、今はTech業界でエンジニアとして生きている。

正直に言おう。私は、高校生の時にインターネットの甘言に踊らされて、アクチュアリーという選択肢を過大評価していた。

本稿では、私自身の経験と後悔を踏まえつつ、アクチュアリーという資格をキャリアの生存戦略としてどう位置づけるべきか、メリットだけでなくデメリットも含めて、できる限り正直に語る。

生存戦略:日本市場で数学強者が直面する残酷な現実

まず、数学強者の皆さんに、誠に残念なお知らせがある。

残念ながら、日本の労働市場においては、数学強者は構造的に冷遇されている。

伝統的な日本企業の多くは総合職という名のジェネラリスト採用を行い、文系・理系を問わず同じ給与テーブルに乗せる。むしろ、営業や企画といったコミュニケーション重視のポジションが出世の王道であり、数理的スキルはあれば便利という程度の扱いだ。

理系院卒が研究開発職に配属されても、文系の同期が営業で売上を作る方が評価され、気づけば給与も役職も逆転している。そんな話は珍しくない。自分たち(コストセンター)の給料は、営業(プロフィットセンター)によって賄われた利益で成り立っているから、当然と言えば当然である。

では、日本市場において数学ができることを評価してくれる領域はどこか?

実は、驚くほど少ない。

  • クオンツ(金融工学):外資系投資銀行や日本の伝統的な証券会社、アセットマネジメント。ただし採用枠は非常に狭い。

  • アクチュアリー(保険数理):保険会社、信託銀行、監査法人。資格があれば確実に評価される。

  • データサイエンティスト:IT企業やJTCのDX部門。ただし数学より実装力、コンサルテーション能力が問われることも多い。

これ以外の領域では、数学力はあったら良いねというレベルであり、それ単体で年収が跳ね上がることはない。

つまり、日本で数学強者が数学で食っていくためには、上記の限られた市場を選ばなければならないのだ。

では、アクチュアリーはその中で本当に最適解なのか? ここからは、メリットとデメリットを冷静に検証していく。

アクチュアリーの年収推移

まず、多くの人が気になるのが、アクチュアリーの年収の推移だろう。
筆者が就活で社員から聞いた話や、アクチュアリーとして就職した友人の話を聞く限り、おおよそ以下のようなレンジで推移する。

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アクチュアリーのおおよその年収推移[筆者作成]

参考:JAC Recruitment アクチュアリー職の年収ガイドAMBI アクチュアリー転職求人情報ミドルの転職 に基づき筆者作成

30代で年収1,000万円超は標準的であり、外資や監査法人なら1,500万円も珍しくない。

ただし、この数字を見て高収入だと感じるかどうかは、比較対象による。 東大卒の平均年収が30代で約800〜1,000万円程度であることを考えると、東大生平均より少し良い程度とも言える。平均8年という膨大な投資に見合うリターンかどうかは、慎重に考える必要がある。

アクチュアリーのメリット

1. 試験に受かれば報酬が上がる明確なルール

大企業の総合職として出世競争を勝ち抜くのは不確実性が高い。一方、アクチュアリーは試験に受かれば報酬が上がるという明確なルールがある。

政治力や運に左右されず、実力で年収1,000万円を超えたい人には魅力的だ。

2. 働きながら取得できる

試験勉強にフルコミットすることを事実上要求される他の難関資格(弁護士、会計士)と異なり、アクチュアリーは働きながら取得できる。正会員になるまで平均8年という長丁場ではあるが、その間も年収は上がり続ける。科目に受かるたびに手当がつく企業も多い。

3. 保険業界内での転職は容易

正会員になれば、保険業界での転職は難しくないと話を聞く。生保から損保、損保からコンサルティングファームへと、より良い条件を求めて転職することは一般的だ。

アクチュアリーのデメリット:ネットでは語られない不都合な真実

ここからが本稿の核心だ。ネット上で散見される、アクチュアリーを熱心に推す記事では語られない、不都合な真実を列挙する。

1. 民間資格であり、独占業務がない

これが最大の弱点だ。

アクチュアリーは日本アクチュアリー会が認定する民間資格である。弁護士や医師、公認会計士のような国家資格ではない。

保険計理人は保険業法で設置が義務付けられているが、これはアクチュアリー正会員の中から選任される役職であり、アクチュアリー資格そのものが法的に独占業務を持っているわけではない。

つまり、極論すれば、アクチュアリー資格がなくても保険数理の仕事はできる。資格の価値は業界内での信用に依存しており、法的な参入障壁は弁護士や医師ほど強固ではない。

また、民間資格であるがゆえに、その合格率は極めて不安定である。
平均合格率は15%ほどであるものの、「ビッグウェーブ」と呼ばれる急激に易化する年が数年に1回あり、こうした年の合格率は50%を超える。これは、試験が絶対評価であることと、1次試験で停滞し続ける研究会員を拾い上げようとするアクチュアリー会の温情に由来している。これは、毎年相対評価に基づき、最終合格率が8%や3%という極めて低い合格率に抑えられている、会計士試験、予備試験とは対照的であり、難化年度を突破できる確かな実力のある受験者にとっては、理不尽な仕打ちであると言える。

2. スキルがポータブルでなく、組織依存

アクチュアリーのスキルは、保険会社という組織の中でしか価値を発揮しにくい。

弁護士や税理士、公認会計士は独立開業が可能だ。医師も開業できるし、フリーランスとして働くこともできる。

一方、アクチュアリーの独立は極めて難しい。保険数理の仕事は、保険会社や監査法人という大きな組織の中でしか発生しないからだ。コンサルタントとして独立する道もなくはないが、成功例は極めて限られる。

いつでも会社を辞めて、別の会社に転職できるのは事実だが、辞めた後に組織に属さず、個人として生きていけるかは別問題だ。

3. 活躍の領域が保険業界に縛られる

アクチュアリーの専門性は、保険・年金・リスク管理という狭い領域に特化している。

データサイエンティストやソフトウェアエンジニアのスキルは、金融、医療、製造、エンタメなど、あらゆる業界で活用できる。一方、アクチュアリーのスキルは、基本的に保険業界でしか需要がない

業界全体が縮小したり、規制環境が変わったりした場合、逃げ場が少ない。

4. 投資コストに対してリターンが見合わない可能性

平均8年という膨大な時間を投資して、得られるリターンは年収1,000〜1,500万円。

これは確かに日本の平均年収よりは高いが、東大卒の平均と比較すると少し良い程度だ。同じ8年間を、プログラミングスキルの習得やMBA取得、あるいは起業に投資していたら、もっと大きなリターンを得られた可能性もある。

機会費用という観点から見ると、アクチュアリーへの投資は必ずしも最適ではない。

5. 仕事が面白くないかもしれない

身も蓋もない話だが、アクチュアリーの仕事は地味だ。

決算業務、準備金計算、商品の収益性検証。いずれも、過去のデータを分析し、規制に準拠した報告書を作成する守りの仕事が中心となる。

世界を変えるプロダクトを作りたい、最先端の技術に触れたいという志向の人には、物足りなく感じる可能性が高い。

Excelと向き合う時間が長く、使う技術もレガシーなものが多い。AI/MLエンジニアやソフトウェアエンジニアのような攻めの仕事とは、性質が大きく異なる。

6. アップサイドが限定的

アクチュアリーの年収上限は、せいぜい2,000万円程度だ。監査法人、コンサルティングファームのパートナーになれば3,000万円以上も可能だが、それは極めて狭き門であり、大半の人には関係のない話だ。

一方、弁護士は独立して大きな案件を取れば億単位の収入も可能。医師は開業すれば年収5,000万円以上も珍しくない。ソフトウェアエンジニアは起業やストックオプションで桁違いのリターンを得る可能性がある。

アクチュアリーには、そうした青天井のアップサイドがない。 堅実ではあるが、夢がないとも言える。

アクチュアリーを勧める人、勧めない人

以上を踏まえて、アクチュアリーを勧める人・勧めない人を整理する。

勧める人

1. 数学は得意だが、プログラミングや英語は苦手で、医学部に行く気もない人

クオンツは狭き門、データサイエンティストはプログラミングの実装力が必要、医学部にいく学力はないし、今から6年かかる…という消去法で選択肢を消して行き、アクチュアリーが残る人。

2. すでに保険会社に就職しており、社内でのキャリアアップを目指す人

入社後に資格を取れば、確実に評価される。社内に限定すれば、投資対効果は悪くない。

3. 安定志向で、年収1,000〜1,500万円で満足できる人

それ以上は望まない、リスクを取りたくないという人には、手堅い選択肢ではある。

勧めない人

1. 高校生・浪人生・大学1年生で、まだ進路を決めていない人

医学部を目指せ。 医師免許を取ってからアクチュアリーになることはできるが、逆は不可能だ。選択肢を狭めるな。

2. 東大理系(特に情報・物理・数学専攻)

東大理系で、数学もできて、プログラミングもできて、英語論文も読めて、研究経験もある。そういう人間がアクチュアリーになるのは、機会損失が大きすぎる

金融業界の中枢に入ることができる。Tech業界で年収2,000万円以上も狙える。起業という選択肢もある。

東大理系トップクラスのポテンシャルを、Excelと規制産業の世界に閉じ込めるのは、あまりにももったいない。

3. すぐに結果が欲しい人

正会員まで平均8年。この数字を舐めてはいけない。3年くらいで年収1,000万円になりたいという人は、外資ITやコンサルを目指した方がいい。

4. 独立志向がある人

アクチュアリーで独立開業は極めて難しい。いつか独立したい、組織に縛られたくないという人には向かない。

5. 世界を変えたいという野心がある人

アクチュアリーは守りの仕事だ。過去のデータを分析し、会社が潰れないようにする。Excelのセルを埋める日々。それが苦痛な人には向かない。

結論:後悔のない選択をするために

人生は一度きりだ。そして、キャリアの選択は、その一度きりの人生を大きく左右する。

私は本稿で、アクチュアリーという選択肢の「影」の部分を、あえて多く語った。それは、かつての自分が見たかった情報であり、誰かが教えてくれていれば、と今も思う情報だからだ。

ただ、一つだけ確かなことがある。

それは、「よく知った上で、自分で選ぶ」ということ。

誰かの成功譚に憧れて選ぶのでもなく、誰かの失敗談に怯えて避けるのでもなく、自分の目で見て、自分の頭で考えて、自分で決める。その選択であれば、たとえ結果がどうあれ、後悔は少ないはずだ。

本稿が、あなたが「よく知る」ための一助になれば、これ以上の喜びはない。

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アクチュアリー正会員でアクチュアリーを途中でやめて、外資系資産運用会社でクオンツをやっている者ですが、解像度が非常に高く大変良い記事と思いました。 本流のアクチュアリーではアップサイドに限界があり、稼ぎたい方は運用会社や証券会社(+一部の再保険会社)に行っている印象です。 もち…

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数強と言っても不毛な中学高校大学受験でのパズル問題習熟に膨大な時間を取られているような気がするので、小学校算数からとりあえずの理論面ゴールであるシュレディンガー方程式とブラック・ショールズ方程式理解までの最短距離を指導する学校があればいいのにと思います。もはや両方とも理解したとて…

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