1日だけ千雪が最強になる話(下)
34作目です。
上がありますのでまだ読んでいない方はこちらから↓
novel/21077586
上の最後に複数アイドルが出てきましたが、その話は今後ということで...。
色々と不幸が重なって正月明けから時間が取れずにいましたが、何とか落ち着きました。
隔週くらいのペースで何かしら投稿したいですね。
- 76
- 99
- 2,816
千雪が事務所を出て行ってから少しした後、若干息を切らした様子で冬優子が事務所に駆け込んできた。
冬優子「ちょっとあんた、どういうことよ。アレ」
P「どういうことって...?」
冬優子「~~~!!あんた...しらばっくれるつもり?」
声にならない声を上げて、怒りをあらわにする。
一体何に怒っているのか、一切わからない。
P「ま、待ってくれ!一体何のことだ!?とりあえず落ち着いてくれ!」
冬優子「......はぁ、その様子から察するに、本当に知らないみたいね...」
冬優子は完全に肩透かしを食らったようで、ぐったりとソファに座り込む。
P「...取り敢えずお茶を持ってくるよ」
事務所の階段を急いで上ってきたのか、肩で息をしていた冬優子は、差し出した冷たいお茶を一気に飲み干して、一度深呼吸してから話を始めた。
冬優子「...桑山千雪よ」
P「ち、千雪がどうかしたのか?」
冬優子「...あんた、本当にそのうち刺されても知らないから。くれぐれも、ふゆを巻き込むのは勘弁してよね」
P「は、はは...気を付けるよ...」
冬優子「はぁ...ふゆたちのプロデューサーがこれでこの先大丈夫かしら...」
P「それで、いったい千雪がどうしたんだ?」
冬優子「あんた、何か貰わなかった?そうね...たとえば今朝、とか」
ギクリ。
心当たりしかない。十中八九あの指輪のことだろう。
しかし、いくら友情のペアリングとはいえ、こういうのが冬優子に見つかるとどうなるかは容易に想像がつく。
どこから情報が漏れたかわからないが、このパターンは不味い...!
P「あー、貰った...かもなー、そういえば」
冬優子「...あんた、そのへったくそな演技で本当に誤魔化せると思ってるの?ふゆもなめられたものね...」
すでに最初から俺の負けで勝敗は決まっていたようだ。
P「はは...最初から冬優子に隠し通せるつもりじゃ無かったし、わかった。降参だ」
冬優子「あら、思ったより素直じゃない。もうちょっと粘るかと思ってた」
P「これ以上抵抗しても無駄だと思ったからだよ。...それで、どうして指輪だと思ったんだ?」
冬優子「指輪?ちょっとそれ、話変わってくるんだけど」
P「あ、やばっ」
冬優子「ちょっと手、見せなさいよ早く。そして説明しなさいよ早く...!」
P「あ、あはは...」
洗いざらい話した。いや、話させられた。尻の毛まで毟り取られた気分だ。
冬優子「いや...さすがにそれはちょっと引くわ...」
P「いや、だってさ...!」
冬優子「だってもあさっても無いわよほんと...まあ、そんな単純に騙されるあんたも悪いってことねー...」
冬優子「取り敢えず...指輪、仕事中に着けるのは今日だけなんでしょ?じゃあふゆから言うことは何もないわ。せいぜい、他のアイドルに見つからないことね」
じゃあふゆは帰るから、と自分の中で納得したのか振り返ることもなく冬優子は事務所を出ていった。
どうやらすがる暇も与えてくれないらしい。
それからしばらくして、完全に日が落ちた。
冬優子が帰ってからも慣れない左指の違和感に時々目をやりながら、事務所にはもう誰も来ないと言うのに律儀に着けたまま仕事をしていた。
と、そんなことをふと考えていた矢先に、事務所のドアが開き、パタパタと音がする。
部屋の外にいると言うのに、外に誰がいるのか容易に想像がつく。
千雪「あ、プロデューサーさん...!」
何やらあわただしい様子だ。
P「どうしたんだ?千雪、こんな時間にそんなに慌てて...」
千雪「その...プロデューサーさんが帰られてるかも、と思って、ちょっと急いで来たので...!」
P「そうだったのか。何か急ぎの用事か?」
千雪「あの、今日ってこの後お時間ありますか?お仕事のことじゃないんですけど...」
P「特には無いけど...お酒の席に付き合ってあげるのは明日も仕事だし、ちょっと厳しいぞ?」
千雪「もう、からかわないでください...!ちゃんとわかってます...!」
P「ははっ、すまんすまん。冗談だよ。それで、本当は何の用なんだ?」
千雪「はい。その、着けてくださってる指輪のことなんですけど...実は...」
P「...この指輪の意味か?」
一瞬千雪が固まる。俺から聞かれるのは想定外だったみたいだ。
千雪「はい。...その様子だと、誰かから聞いたんですね」
P「ああ。その...恋愛的な意味だったん...だよな」
千雪「...はい」
P「はは...その...どうしてこういうことをしたんだ...?」
千雪「...え?」
突如、千雪が鳩が豆鉄砲を食ったような驚いた顔になる。
まさか、本当にからかっていただけなのだろうか。あまりそういうことをするタイプではないと思っていたが...。
千雪「あの...本当に分からないんですか...?」
ショックそうに声を漏らした。どうやら想像の付く中でもっとも最低な回答をしてしまったことだけはわかる。
P「...?すまん、もしかして、何か意図があったのか...?てっきりからかってるのかと...あ、いや、千雪がそんなことするような人じゃないってのはもちろんわかってるぞ!」
千雪「...あの、プロデューサーさん、本当に私の意図が分からないんですか...?」
P「す、すまん...恥ずかしながら...」
なんだか千雪が少し怖くなってきた。いつもの少女らしい千雪が今日はなんか、ギラついているというか...。
千雪「なのにその指輪を、今日ずっと付けていたんですか...?本当のことを知ってからもずっと...」
P「千雪...?なんだか目がちょっと怖いぞ...!」
千雪「つまり、そういうことって考えていいんですよね...?プロデューサーさん...私もう...!」
P「うわっ、もしかして酒飲んでるのか!?」
千雪が身を乗り出してきて来たと同時に、アルコールの匂いが鼻をつく。
しかも、普段の飲み方ではほんのりとしか赤くなっていない千雪の顔が、イチゴのように赤い。一体どれだけ飲んだんだ...!?
千雪「私...プロデューサーさんのこと...本当に...」
と言ったところで、俺に被さるようにして寝てしまった。
P「俺にとっても千雪は大切な人だよ...」
...もちろん、アイドルとしてだ。......誓って、深い意味は無い。
...本当に。
......。
P「俺も、千雪のアルコールに少しあてられたかな...」
気づけばすでに日付を跨いでいた。
その後の話。
眠ってしまった千雪を寮に送り届けると、樹里が眠そうな目を擦りながら出てきた。
樹里が言うには、ここまで酔うのはたまにあることらしい...。(俺は初めて見たのだが、樹里はすでに慣れている様子だった)
そして翌日、事務所に入ってきた後の記憶をすべて失っていた千雪が土下座せんばかりの勢いで謝ってきたが、特に怒ってもいないので許し、その後の出来事はそれとなくぼかして事なきを得た。
今日の帰りにでもリングスタンドを買っておくか...。