ルルイアス・クエスト 〜まだ見ぬ珍味を求めて〜
とりあえず次章を4話くらい書き溜めて飽きたので番外編やります(流石に不定期更新だし途中で本編始めるかも)
どうせなので完全に無関係の視点で書きたかった、というか次章の練習も兼ねて
森羅万象、全ての物質は状態が維持されることを自然体なものとする。であれば、維持された状態を変えることはどれだけ言葉を取り繕っても「破壊」であることに変わりはなく。
「しかし「破壊」にも程度というものがある」
何も木っ端微塵にすることだけが破壊ではない。状態を壊し、されど次に繋ぐよう活かす。軽やかに動かされる手によって美しき生命の黄金が美しくも残酷にその身を蹂躙されていく。
ゆりかごは取り除いた、それは黄金の安らぎを保証するものなれど、今この場においては純粋さを損なう障害物に他ならないのだから。
「……ここからが本番だ」
黄金はその身を崩し、されど新たなる姿へと至る前段階……さながら美しき翅を得るために蛹へとなるかのような静かなる胎動に眠る。
そして、この世界そのものにわずかな揺らぎを生み出す純白の玉座へと黄金が腰掛ける。
そう、それはまさしく王の君臨。王の偉大さを余すところ受け入れる柔らかな玉座に黄金が座し、偉大なる戴冠式はついに最終段階へと入る。
「分量に間違いは無い、全てが一つとなり……完成へと至る───!」
黒と茶色寄りの、されど黄金の王と純白の玉座にとってはこれ以上なく相応しい王冠が円環を描く。花吹雪は緑と白。
「完璧だ……まさしく完璧な朝食……!」
男の名は折尾 帯斗。
その道に詳しい者に聞けばまず間違いなくその名を知られているであろう、日本国内に十数件しか存在しない三つの星を掲げるレストランの一つ。完全予約制ながら二年先まで予約で埋まっているという食に道楽を見出す者であるならば一生に一度は店の扉を開きたいと夢見る三つ星フレンチレストラン「ル・オリオン」の店主であり………
「とはいえ物足りないからオニオンスープを少し拝借するとしよう」
シャングリラ・フロンティアというゲームにおいて有数のクランにして情報の全てを蒐集することを掲げる「ライブラリ」に所属するある特定のカテゴリを充実させることにこそモチベーションを発揮するプレイヤーである。
朝食、と呼ぶには少々優雅な工程を経て並べられた黄金の戴冠式と濃厚なオニオンスープを完食した折尾は近頃自身の関心を料理から何割か奪って見せたフルダイブの世界へと潜り込むのであった………
「おっと、歯を磨き忘れた」
五分後、再潜行…………!
●
「……はい、じゃあ一応……まぁ一応ホストってことで私が音頭をとるね? それでは皆様、改めましてルルイアス六泊七日の旅へようこそ!」
「………」
甲板の上で歌うように音頭を取る女、折尾……もとい折尾でも何度かその姿を様々な情報媒体で見かけたことのある有名なモデルそっくりなアバターをした女を脇目に、意識はただひたすらに両手で構える釣竿へ。
「あー……」
「ああ気にしないでくれ給え、彼らは今回海中フィールドにおける主に魚類系の生態系の検証のために選抜したメンバーなのでね」
「やっぱ大概変人が集まってるなぁライブラリ……」
呆れを込めた眼差しが女……ある意味では悪名高いアーサー・ペンシルゴンの視線などどこ吹く風でオリオンともう一人、リアルでも釣りをライフワークとするプレイヤー「エヴィス」は海へと垂らした釣り糸とウキを見つめる。
「エヴィス、ここらへんではどんな魚が釣れるのだろう?」
「さぁてね……フィフティシア近海で試したけど鯛とかがモチーフの……まぁ言っちまえばリアルと似たような魚ばかり連れたからねぇ……遠洋ならやっぱりそれに対応した魚が釣れるんじゃないかい?」
「となるとカツオやマグロを狙いたいところだな」
「え、呼んだ?」
正気を疑う名前を頭の上に掲げるクラン「旅狼」のプレイヤーが振り向くが無視。
エヴィスとオリオンは普段から親密というわけではない、だがエヴィスのライフワークとオリオンのライフワークが合致した時だけは熟練のパートナーであるかのように行動を共にする。
「マグロかぁ……ま、ゲームだしデカい海蛇を釣り上げても折れない釣竿がありゃあ釣れんこともないだろうが……シャンフロだし案外火を吹いたりするかもしれんぜ?」
「それはそれで興味深い、耐熱性のあるツナを加熱した時の味わいとか……ね」
クラン「ライブラリ」は情報の充実こそを共通のモチベーションとするクランだ。そしてシャングリラ・フロンティアというゲームがある種の狂気すら感じる作り込みである以上、特定条件を満たすことで味覚制限が解放されると知ったオリオンが「シャンフロの全食材の制覇」に興味を抱くことは当然の帰結であった。
そして「シャンフロでの釣り」に至上の喜びを抱くエヴィスとは魚類の調理という一点で意気投合し、今回も深海の都市を攻略するという報せを受けて共に立候補したのだ。
「例の彼から聞いた情報では、昼の間は腐ったゾンビのような半魚人の姿をしているが夜間は元の魚類に戻るらしい」
「あぁ、ちっとばかし見せてもらったが深海にシャケがいたりとなかなか愉快なことになってるらしい……くくく、ピラルクからカジキまで色々と釣ってきたが下から上に竿を振るのは初体験だ」
互いに現実の地球で様々な経験を積んでいるからこそ、既存の常識と似ているようで異なる「未知」を孕むシャングリラ・フロンティアに魅了された者同士。
まだ見ぬ新しい体験に胸躍らせながら、密漁船は嵐へと呑まれゆく………
エヴィスさんはいいトコの次男坊、釣りのブログ収入と不労所得で得た金で世界中飛び回って釣りライフを楽しんでいたがシャンフロやばいという噂を聞きつけてフルダイブVRデビューした。自前のクルーザー(電波通ってる)でフルダイブしてるあたり金の力が強い。
なおオリオンが料理人ということは知っているが世界有数の料理人ということは知らない。多分いつかリアルで招待されて仰天するアレ、土産で持ち込んだ黒鯛はポワレになった。
ちなみに某鳥頭の父親とは当然一緒に釣りをしたことがある、カジキ釣るの上手いなこのリーマン……