融解/溶解
ここから何か始まっちゃうかもしれないユリロイのお話2つ。
姉からの愛と劇物を受けてすくすく育ったユーリ・ブライアに夢を見ています。
【融解】
末っ子気質ユととんでもなく具合の悪いロ。
*ロが発熱/嘔吐/熱でふわふわしてる
【溶解】
キレるユとうっかりドキンコしつつ感傷に浸りそうなロ。
*ロが男に付きまとわれている*多少の流血表現
ついったでロ右の妄言とss吐き散らかしてるのでよろしければどうぞ→@carboncell_ro1
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【融解】
「ちくしょう、なんで僕がこんなことを...」
目の前のドアを睨みつけてかれこれ三十分は経っている。それというのも全てはロイド・フォージャーのせいである。
またも上司に取らされた退屈な休み、せっかくなら姉さんに会いに行こうと電話をかけると応答した透き通るような美声は酷く切羽詰まっていた。どうしたのと尋ねればロッティが酷い熱を出しているという。しかし寝ていれば治ると言って病院を拒み、あまつさえ仕事を始めてしまうらしい。いや寝てろよ。自分も休みだと思っていたのだが急な仕事が入り、ロッティの友人だというフランキーにも用事がある。チワワ娘は学校の友達の家へ遊びに行くので良いのだが、どうしてもロイドを一人にしておくのが心配なのだそうだ。ああ姉さん、なんて優しいんだ。女神のような姉さんの慈愛を実感するが、前のようにチワワ娘ならともかく憎きロイド・フォージャー。しかも弱っている奴と二人きりなんてうっかり亡き者にしてしまうかもしれない。大体もう立派に働いている成人男性なのだ。いくら具合が悪かろうと一人で大丈夫だろう。そう断ろうとした。したのだけど。
『お願いですユーリ。ロイドさんすごく具合が悪いみたいで、なのにお仕事しようとするんです。見ていてあげてくれませんか...?』
不安に揺れた姉さんの弱々しい声。
受話器から聞こえるそれにNoを返せる奴がいたらそいつは売国奴に違いないのだ。
意を決して受け取った合鍵を使い中に入る。出かける前に寝かせたと言っていたので少しだけ配慮しつつ靴を脱ぎリビングに入る。
そこには林檎のように顔を真っ赤に染めた憎きロイド・フォージャーがふらつきながら立っていた。僕の姿を映すなりまんまるく見開かれたその目は薄く水が張っており、呼吸も浅い。零された声も酷く掠れていた。
「....ユーリ、くん」
「姉さんに頼まれたんです。だから、看病に。」
「そ、か....ごめんね、休日、なんでしょう。いま、お茶を...」
「お気遣いなく。...いやなんで起きてるんですか?」
ぎくりとロッティの身体が強ばった。奥に見えるテーブルの上にはコーヒーと散らばった書類。そっと隠すようにその前に立つがもう手遅れである。ピキリとこめかみに青筋が立った。姉さんの心遣いを無視しやがってこの野郎。
「仕事をするなッ!寝てろ!!」
意図せず大きくなってしまった声にロッティは眉をひそめた。いけない、つい病人相手に大声を出してしまった。この男を目の前にするとどうにも調子が狂う。姉さんを横取りされた恨みが先立ち冷静な判断が出来なくなるのだ。もう敬語で取り繕うのも面倒になり、さっさと書類を片そうと手を伸ばせば焦ったように白い手がそれを制した。
「あ、...研究会の、資料....もうおわる、から」
「明日やれ!」
「...ほんと、あと、ちょっとなんだ。三十分くらい。」
眉尻を下げて懇願するようにこちらを見る男は態度こそ柔和なものの、折れる気は一切ないようだ。このタイプはどうせ目を離しても自室に入れたとたん仕事を始める。今止めても時間の無駄だ。息を吐いて紙束から手を離した。
「終わらせたらすぐ寝ろよ、姉さんが心配するだろ。」
「ありが、とう」
ほっとした表情を見せまたフラフラとダイニングへ戻るロッティは本当に具合が悪そうで面食らってしまった。姉さんは優しい人だ。こんな状態の奴を放っておくなんて出来るはずがない。先程怒鳴った時の苦痛に歪んだ顔が思い浮かぶ。バツの悪い気持ちがせり上がってくる。頭を振ってそれらを振り払い、冷蔵庫を開いた。
「ユーリくん、それ...」
予告通り三十分とかからず仕事を終わらせたらしいロッティがキッチンを覗いていた。顔が完全に引き攣っている。
「なにか腹に入れないと薬も飲めないだろ。」
僕も一人暮らしの身だ。自炊くらいは出来る。とはいえ残っていた米と野菜を適当に突っ込んで調味料で味を整えただけの簡単な具入りスープしか出来ないが。大した量は作っていないのでそこらに置いてあった食器に盛り付けテーブルに置いた。その前に座ったロッティは相変わらず神妙な顔付きだ。失礼じゃないか?
「なんだ僕の料理が食えないのかロッティ」
「いやその、....いただきます」
意を決したように恐る恐るスープを口に入れる。だからなんなんだその反応は。そして一口食べた途端ピタリと静止した。流石に病人に毒を盛るほど僕も悪人ではない。どうしたのかと尋ねれば上げられた顔は驚愕を浮かべていた。
「...おいしい」
心底驚いたと言わんばかりのその声にバカにされた気がしてまたも青筋が立つ。しかしゆっくりとスプーンを口に運びながら独り言のように言葉を連ねる姿は幼く、溜息が下がってしまう。
「いや、....あの、ヨルさんは....こせいてき、なりょうりをつくるから、てっきり....うん、おいしいよ....ありがとう.....」
「...ふん、黙って食え。残すなよ。」
先程とはまた質の違う居心地の悪さを感じた。むずむずとしたそれは不快感ではない。しかしそれを受け入れるのはどうにも許せず、眉間に力を込めたままロッティが食べ終わるまで睨み付けていたのであった。
大分の時間をかけて食べ終えたロッティは眠くなってきたのかしきりに目を擦っている。食事と薬は取らせたので後は寝かせるだけだが一応熱くらいは測っておいた方がいいだろう。そんな気持ちで脇に突っ込んだ体温計はいやに長い時間沈黙を続けた。エラーかと確認しようとしてやっと鳴ったそれの数字を見て絶句する。
「さ、...39.8もあるぞ、病院いけ!」
「だいじょうぶ、ねてれば、へいきだよ。」
平気な訳がないだろう馬鹿か?思わずまた怒鳴りそうになったがぐっと堪える。立ち上がったロッティはいよいよ呂律も怪しくなってきていた。目もふらふらと視線がさ迷い焦点が微妙に合わない。今から病院まで歩かせるのも酷だ。本人の言う通り一先ず寝かせた方がいいのかもしれない。非常に不本意だが部屋までの道中で倒れられても困るので肩を貸した。
「ありがとう....」
「うるさい。明日から働け。」
長身に相応しく中々にあるだろうと見た重量はそうでも無かった。足取りはふらついているものの大してこちらへ体重をかけてはいないようだ。それがまた子供扱いされたようで癇に障る。少し歩調を早め部屋のドアを開くとなんの変哲もない、飾り気もない風景が出迎えた。姉さんが家を出る時には入っていたのだろうベッドは少し乱れている。片手で申し訳程度に整え、ロッティはいそいそとその中に収まった。あれだけの熱が出ていたのだ、氷嚢でも作ってやったら良いのだろうか。キッチンへ踵を返そうとする僕にロッティの穏やかな声がかかる。
「ほんとう、きょうはありが」
感謝を述べようとしたのであろう言葉が不自然に途切れる。疑問に思い後ろを振り返ればロッティは前傾姿勢で口を抑えていた。手で覆われていない隙間だけでもザアっと顔色から血の気が引いてゆくのが如実に見て取れる。見開かれた碧眼には生理的な涙がみるみるうちに溜まっていき、こめかみは冷や汗が伝い落ちてゆく。どう考えても普通ではないその様子に呆気に取られてしまう。
「...ろ、ロッティ?」
口に添えられた両手は力みすぎで指先が真っ白だ。先程まで観られた小刻みな震えは不自然なほどぴたりと治まっている。いや、何かを堪えるように全身に力を込めているだけだ。恐らく呼吸すら止めている。整えられた爪がぷつりと皮膚を破り鮮血が伝い、やっと固まっていた頭が動き出した。
「っおい、どうしたんだ、苦しいのか!?」
呼びかけに答えるかのようにごぽり、と排水溝のような音が響いた。あ、まずい。咄嗟に近くのゴミ箱を掴んで駆け寄るがすんでのところで間に合わず、均衡はあっさりと崩れた。
「ぅ゛、ぉえ゛ッ...ッ、ッ、ひゅ、....ッ」
口を抑えていた手の隙間から消化されていない固形物が溢れ出る。それでも寝具への配慮なのか口元を抑え続けるので軽く窒息しかけている。嘔吐はそれ自体というより吐瀉物を詰まらせて窒息するのが最も危険だ。無理やり口元から手を剥がさせる。代わりにゴミ箱を渡してやればそれに縋り付くように顔を埋めた。
ただ隣に立つだけなのも薄情な気がして恐る恐る摩った背中は燃えるように熱い。もしかしたら更に熱が上がっているのかもしれない。救急車も過ぎったがこの状態でわざわざ動かすのも危険な気がする。
と、胃の中を戻し続けるその狭間に何か呟いているのが聞こえた。くぐもっていてよく聞き取れないそれに耳をすませる。
「ふ、ぅ...ッ、う゛ぇ゛ッ....ご....え゛ッ、....ッごめ、ッ」
「...は?」
つっかえながら何度も紡がれるのはか細い謝罪だ。均一の取れた痩身は断続的に震えを繰り返し、言葉の続きを制限する。常より艶のないブロンドがちかちかと暗い部屋で光った。
嘔吐きながらも途切れ途切れに繰り返される謝罪は酷く痛ましい。そもそもこいつは別に悪いことなんて何もしていないのだ。ただ妻の弟が看病を申し出て料理を作ったからそれを食べきっただけ。むしろ半ば無理矢理それを食わせたのは僕の方だ。
ただ丸くなり嘔吐を繰り返す様に自分の心臓が早鐘を打っているのがわかった。
とっととくたばれ姉さんを返せと常々思ってはいるものの、姉さんがこいつを本気で好いていることは知っている。中々に良い奴で、(僕から姉さんを奪った重罪人ではあるものの)ただの善良な一般市民であることも。
胃の中をあらかた吐き戻し多少落ち着いたのか次第に摩っていた背中の震えも収まってきた。途中から受け皿を作ったとはいえベッドは中々の大惨事だ。それを目に留めたロイド・フォージャーは咳き込みながら眉尻を下げた。
「ッげほ、ぅ゛....ッ、え゛ッ......ごめん....」
「いい、片付ける。」
自分でも声が震えている自覚はあった。何人もの売国奴を葬ってきたのに。それこそ取り調べ中に嘔吐する奴なんてごまんといて、むしろ具合の悪い人間なんかは見慣れているはずなのに。たった一人、目の前で熱を出す人間に何もしてやれない事が歯がゆくて情けなくてたまらない。
姉さんが風邪を引いたところなんて見た事もなくて、目の前で弱る人間なんて取調べ以外で見たことがないのだ。壊し方や追い詰め方はわかっても寄り添い方なんて思い付かなかった。たまに自分が熱を出した時だって意識が朦朧としてしまっていて、姉さんが何をしてくれていたのかなんて覚えていない。
何を言っていいかもわからず淡々とブランケットを剥ぎ取りゴミ箱の中身を縛る。水とタオルを取りに行った隙に戸棚から替えのブランケットを出そうとしていたロッティに若干呆れつつベッドへ押し戻す。水を飲ませ汚れた手を拭いてやれば多少はマシになったようだった。
目を離した隙にまた嘔吐して窒息されては敵わない。無いとは思うがまた仕事を持ち出されても面倒だ。いやそれよりも本気で救急車を呼んだ方がいいのかもしれない。あとそうだ、頭を冷やして脳にダメージが行かないように氷嚢を作りに行かないと。
ぐるぐると思考の巡る頭に酷く熱い何かが触れた。
頭を撫でるそれは大きく、成熟した男の手だった。姉さんのひやりとした白魚のような手とは似ても似つかない。僕から姉さんを奪った憎むべき野郎の手だ。僅かな微笑をたたえた小綺麗な顔だって女神のごとく愛らしい姉さんとの共通点なんて見つけられない。
「だ、ぃじょ...ぶ、しなない、から」
それでも、酷く熱くて震えた手に安心を覚えてしまう。そんなガキ臭い自分を認めたくなくて、しかし泣きそうな安堵を跳ね除けられるほど大人ではなかった。
「...撫でるな、ちくしょう」
涙混じりの虚勢を子守唄に、熱に溶けた碧眼はゆっくり閉じられていった。
あひゅう(気絶)