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隠せない事/Novel by うーたん

隠せない事

8,562 character(s)17 mins


東西冷戦終結後のお話。
正体バレ後です。
ロッティが弱ってます。体調不良系好きです。分かち合いたい。話したい誰かと。
ユリロイも好きだし、とにかく愛されてて欲しいっていう願い。

短編を後ろにつけたので気が向いたら見てやってください😌

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………完全にやらかした。
久々の任務。それも東西平和の後であり、そこまで大変な任務になるとは誰も思っていなかったであろう。もちろん、西国一のスパイと謳われたあの〈黄昏〉でさえも。

守るべきもの、帰るべき家が出来た分昔より人間味があり、表情もあの冷酷な物ではなく少し穏やかな物に変わった。ただ、油断を誘われたと言われればこれ以上の言葉は無い。小さな子供と、母親の家庭を崩す訳にはいかないと二人を逃がした事が始まりだ。
元、ではあるが西国一有名だったスパイ。命を狙う敵は未だ完璧に落ち着いたとは言い難い。

「黄昏さん!」

「……なんだ。やっと片付いた。早くセーフハウスへ戻ろう」

「その前に止血です!腹から血が…」

「……大丈夫だ。傷は大して深くない。軽い切創だ」

致命傷である大動脈は避けた。だが大きな刃物ではあったため、小さな血管を多めに切られたらしい。呼吸の度に止血が馬鹿になったかのようにドクドクと生暖かい血が流れる。こんなにも自分の体から血を出したのは久々だと他人事の様に黄昏は思考を巡らせながら、たった一つの結論、"早く家に帰りたい"と思考を停止させた。

「……早く帰らせてくれ。今日は娘の誕生日なんだ」

「娘さんの……ではそのまま動かないで下さい。医療班も向かっておりますので!」

「…あぁ、分かった。なるべく、早く頼む。」

抵抗するかと思ったが黄昏の思考の樹形図では抵抗はワーストシナリオだったらしい。横になった体制で動かず、医療班を待つ事を決めたと瞳を閉じて呼吸に集中していた。







「ただいま。悪い、遅くなった」

「ちちただいま!」

「アーニャ、改めて誕生日おめでとう」

「あざざます!あーにゃおめでたい!たぶん7さい!」

「遅いぞロッティ。チワワ娘が遅いと泣いてたぞ」

「…悪かったなアーニャ。ケーキ買ってきたから食べようか」

ちゃっかりユーリが家に居る事は気にしないでおこう。恐らくユーリがヨルの返事も聞かずに強引に家を尋ねたに違いない。

かくいう黄昏はあれから数十分。医療班が到着し、ろくに麻酔薬が効かない黄昏は半分覚醒している状態で刃物を抜く処置が行われた。痛いなんてものでは無い。麻酔の効かない黄昏にとっては一種の拷問だ。無論、黄昏でなければ気絶していただろう。タオルを口にはめ、痛みの逃げ口を作る。少しではあるが、気を紛らわすためだ。処置を終えた頃には、全身の倦怠感と共に、傷を忘れさせまいと、腹部の疼痛がはしっていた。

とは言え、今日は大切なアーニャの誕生日。沢山お祝いしようと約束していたし、ロイド自身この日の為に沢山準備をした。そしていつも寂しい想いをさせてきたアーニャにはその分沢山思い出を作ってやりたいと、親のエゴも込めて。切創の事は忘れよう。いやもう忘れた。これをアーニャの能力で読まれないようにしながら、ロイドは気丈に振舞っていた。

「いちご、おいひい!アーニャいちごさんすき!ちちあざざます!」

「こらアーニャ。口に食べ物があるときは喋るな」

「ロッティ。今日くらい娘に優しくしてやれ」

「ははも!ははもたべて!」

「うふふ。はい。いただきますね」

美味しいですと頬を溶けさすよな優しい顔でヨルはアーニャと楽しそうに笑っている。ユーリも手にグラスを持ち、幸せそうにワインを煽っていた。

「……まぁ。こんな時間ですね。アーニャさん。明日も学校ですし、そろそろおやすみしましょうか」

「……んん、ちょっとさみしいけど、そうする!」

「そうだな。歯磨きしてそろそろ寝ようか」

「ちち!しゃかしゃかいっしょにする!」

「俺とか?いいぞ。じゃあ─」

抱っこしようと持ち上げかけた時。ロイドは自分の腹の傷を思い出した。この状態でアーニャを抱っこする事は困難である。黄昏テクを使い、流れるように嘘を吐き、抱っこしようとしていた事を悟られまいと洗面所に向かう。

「ちち、どっかいたい?」

「?痛い所は無いぞ。アーニャが大人になっていくから寂しいだけだ」

「アーニャおおきくなったらちちとけっこんするからあんしんしろ!」

「そうか。それならヨルさんの敵だな」

「ははのてき……?かてそうにない……けどアーニャがんばる」

「応援してるぞ」

たわいも無い親子の会話。うふふとヨルの笑い声が洗面所まで届いてくる。おいロッティ不貞は許さないぞと勢い良く洗面所に入ってきた義弟にアーニャは立ち向かい、アーニャ負けないと義弟に宣戦布告。カオスだ。

「ほら早く寝るぞー」

「うぃ。ちち、きょうはあざざます!たのしかった」

「…遅くなって悪かったな」

「ゆるす!けーきうまうまだった!」

「良かった。じゃあおやすみ」

「おやすみなさい!」

トントンと一定のリズムでアーニャのお腹を優しく撫でるロイド。アーニャの年齢にしては遅い時間まで起きていたため眠かったらしい。直ぐに深い呼吸音が聞こえてきた。改めてお誕生日おめでとうを込めて、アーニャの額にロイドは唇を一つ落とした。

その後、ロイドは眠そうなヨルにありがとうと伝え、先に寝ますとヨル。ヨルも朝から仕事を済ませ、様々な準備をしてくれていたためお疲れの様だ。ふらふらとした足取りで寝室に入っていった。

「ロッティ貴様、姉さんを────」

「……は、」

「……お前、まさか体調でも悪いのか?」

「…ごめんユーリくん。片付けるから立たせてくれないか」

ユーリの前でロイドは荒い呼吸を漏らし、両膝を床に着けて動けなくなってしまった。元ではあるが敵の前で弱い部分を見せるとは、過去の栄光の西国一のスパイと謳われた黄昏にとっては大きな失態である。そしてその元敵に助けを求めるなんぞもってのほか。情けないとロイドは自身を責めながらも、動けない体に溜息を飲み込み、ユーリに助けを求めた。

「……横になってろ。熱も測るぞ」

「いや片付けはボクが、」

「ええいうるさい!黙って言う事を聞け!」

されるがままにソファーに横にならされ、腋窩には体温計を挟まされる。恐ろしい顔でロイドを見つめるユーリは、機械音と共に、体温計を取りだし、更に険しい顔になった。

「……どうしたらこんな高熱を出して普通に振る舞えるんだ?」

「一応スパイやってましたから…」

「……どこまでもムカつく野郎だ。腹の切創が原因だな。適切な処置は終えているようだが、そこからの熱に間違いない。」

「良く分かったね、ボクは仕事柄薬への耐性があってね。薬の効果がなかなか出ない。休息を取れば直ぐに治る、ユーリくんはとりあえず終電前に帰って、」

「その熱で何が出来る。40度だぞ?とりあえず抗生剤でも──」

「普通のは、効かないんだ、俺の体には、…特殊な、悪い呼吸が、」

頭が鈍くなっているのが分かる。情けない自分に腹が立つ。今自分は黄昏なのか?ロイドなのか?捕まって自白剤を打たれた時の様な鈍い頭と霞む視界で憐れむような表情を浮かべる義弟を見た。
黄昏の馬鹿野郎と罵倒が飛んで来た後、腕に鋭い痛みが走る。そして、一気に眠気が───。
そのまま、抗うこと無く意識を飛ばした。






「ったく世話の焼けるやつだな」

ロイドの意識を無くならせる為に、強めの睡眠薬を前腕に刺した。黄昏がかくかくしかじかで姉とチワワ娘のために捕まったのち使用した睡眠薬と同量だ。どのくらいで西国一のスパイは意識が落ちるのか、秘密警察のユーリにとっては興味があったため、前回使用した量を正確に覚えていた。

「薬に耐性があるやつの抗生剤も調べてある。起きたら飲ませるか」

ブツブツと独り言を並べながら、ロイドの額に冷たいタオルを乗せ、熱い体に対比して冷えた末梢を更に冷やさないように布団をかけた。
ソファーにそのまま寝かせてあるのは家族への見せしめの為である。このまま自室へ戻してしまえば、奴はまた上手く隠し通すだろうとと踏んだ。だからソファーに寝かせ、額にはタオル、赤い顔を並べれば姉やアーニャにも熱があるという事が伝わると思ったのだ。

「強がりなお前に丁度いい罰だろ。悪く思うなよ」

0時を告げる控えめな鐘の音が鳴る。小さな音でも眠りが浅いロイドは目を覚ますが、睡眠薬のおかげ……と言おう。おかげでぐっすりと眠りに付けていた。呼吸は荒いが、顔付きは幾分か落ち着いて来た事を確認したユーリもまた安心し、ソファーにもたれかかった。今日位は甘えてろとらしくも無い言葉を吐き捨て、瞳を閉じた。


「……ん、朝か。」

「……おはようユーリくん。おかげでぐっすりねむれたよ」

「ひっどい声だな。ずっとそのままいけばいいのに」

「…ごほっごほ、それがいいかもしれないね」

ただ眠るだけでは完全復活とはいかなかったらしい。掠れた声がおはようを告げて来た。
あの量の睡眠薬を入れたのに、時刻は4時。4時間程度の持続時間だ。まだ誰も起きて居らず、部屋に明かりも入っておらず暗い部屋であるが、ロイドの顔は先程より赤く、酷くなっている事が悟られた。

「薬だ。これは秘密警察で使っている最強の抗生剤だ。口を開けろ」

「…そんなへんなもの、っぅぐ、っ、ふ、」

「嚥下を確認するまでこの手は離さないぞ」

「……っふ、ん、」

ゴクリとロイドの喉が上下に動いた所で無理やり飲ませる為に覆っていた手を離す。少しの拘束ではあったが、今のロイドには何倍も被害があるらしく、肩ではぁと頻呼吸を繰り返す。しつこい咳もあるため余計に呼吸が苦しくなるようで、掛けていた布団を手で掴み、逃げ所を作っている様だ。今までには見た事も無い余裕のないロイドにユーリはたじろぎ、行動に移せないでいた。強く瞳を閉じながら、目尻から流れる生理的な涙。苦しい、助けてと言わないのは感覚がバグっている黄昏の名残であろう。背中を丸め、頭を膝の上に乗せて、現状に耐えているロイドの姿を見ていられなくなり、背中に手を当てようとしていた時。

「ロイドさん!?」

寝ていたはずの姉が部屋を飛び出して、ロイドの様子を見て真っ青な顔。しかし、昔の様に動揺するヨルはいなかった。……まるで慣れていますと言わんばかりの動きに、ユーリは手を出すことを辞めた。

「ロイドさん、深呼吸です。何も怖いことはないですよ、ゆっくり、すって、そうです上手です」

「……ぅは、っぁ、……ごほ、」

「大丈夫、大丈夫です。」

ヨルが優しく背中を撫でながら、声を掛ける度にロイドの呼吸は少しずつ元に戻り始め、軽く咳を吐いたまま、またソファーに横になった。半分以上意識は飛びかけていたが、最後の最後、意識が落ちるタイミングでロイドはありがとうと言った。それもユーリとヨルの顔を見て、である。こんな時にも感謝を忘れない完璧男と、何も出来なかった自身に苛立ちを隠せず、髪の毛をぐしゃぐしゃと崩した。こんな気持ち、姉泥棒には感じるはずも無いと思っていたのに。ユーリの中でロイドへの想いが変化しつつあるのだ。馬鹿馬鹿しいが、事実であった。

「ユーリありがとう。ロイドさん、熱があったんですね。気付けなかった。妻失格です」

「……姉さんはロッティにとって、必要な人だよ、今分かった。姉さんも慣れてた。こういう事になった事何回かあるの?」

「……たまに、怖い夢を見て魘されている時があるの。アーニャさんがそれに気付いて、ロイドさんが危険だって言うからロイドさんを見たら、汗だくで魘されてて。その時に、背中を摩って、大丈夫ですよと言えば、ロイドさんは軽く目を開けて、私達を確認し、ありがとうと言って眠ってしまった。ロイドさんは恐らく記憶にないみたい。翌日、何も無かったかのように普通で、」

「怖い、夢か。」

黄昏の過去は知らない。まず過去については話そうともしない黄昏は、この話を聞けば大きな傷を背負っていると確信が付いた。だが、無理に聞く事はしてはならない。ユーリは直感的にそう感じていた。

「昔は甘えん坊な、泣き虫少年だったらしいですよ?」

ヨルがロイドを見つめる瞳は自分を見る時とは違う優しさが込められていた。自分はもう、この男とは違う意味の愛情なのだ。姉はちゃんとロイドの事を愛しているのだと。

「……降参だロイド・フォージャー。お前に姉さんを任せる」

午前4時30分。ユーリVSロイドの戦いは終わりを告げた。



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「お腹を見せてください!!」

「いや、それはちょっと……」

「ちち。きずをみせろていこうはゆるさないしょけいだ!」

「傷は開いてませんから…」

「そんなこときいてない!それはひらいたっていうじしゅだ!」

「……多分朝に勢い良く立ち上がったので、開いたと、おもい、マス」

ロイドが服を捲れば、人為的に当てられたであろう大量のガーゼ。それも色は赤色に染まっており、出血量はかなりであるとアーニャでも分かる程度であった。

「ち、ち、ち!」

「びょ、病院にいきましょう!!」

「いやでも病院は!」

「シルヴィアさんに連絡しますので!それなら大丈夫でしょう!」

こうなれば手を付けられないヨルにロイドは従うしか無いと体の力を抜いた。大量のガーゼはロイドが止血のために簡易的に当てたものだ。圧迫止血で止まるだろうと思っていたため、持続する出血に病院に連絡しようとしていた所であった。
とは言え、ヨルが管理官に連絡中、電話口から怒号が聞こえ、意識が遠のきそうになり、アーニャがロイドの体をぶんと揺さぶるものだから更に貧血の症状が出たのは心の声でも漏らさなかった。





「全くお前は!どれだけ自分を犠牲にしたら気が済むんだ!再出血したらすぐに来いと言っただろう!」

「……この程度なら大丈夫だろうと」

「口答えはその傷を治してから聞こうじゃないか」

無事に腹部の縫合を終え、今は発熱と切創の治療の為に病院にいる。それも、黄昏が持ち前のスパイスキルで体調が悪い事を隠さないようにするためだ、とか。
ヨルとアーニャ監視下の元、俺はベッドに拘束されており、点滴は繋げられ、満身創痍な自身に失笑した。そして、家族からの心配の眼差しと、大丈夫と言えばアーニャに心の声を読まれ、だいじょばない!と声を荒らげたと思えばどこからが管理官が入ってくる入院生活を送ったとか。





別話。短編。




"ちちのしっと"


「ちちは、ははのどこがすき?」

「っぶ、なんだいきなり。」

「どこがすきかいえ!」

「ヨルさんの好きな所、」

(素直でとても心の優しい所?いやでもそんな在り来りな言葉でヨルさんの事を言い表す事は……)
ロイドは、ヨルとの偽装夫婦を完結させ、本当の家族になった。ヨルはロイドにとって唯一攻略が出来ない女であったが、それがロイドにとっては居心地の良いものだったのだろう。

「ちちってははいがいにはすごくさめてる」

「……そうか。自覚は無いが」

「ベッキーがきたとき、こころのこえ、ぜんぶさめてた」

「それはまぁ、子供だしな」

「おとなならのる?」

「乗らないさ。」

「ははがいちばん?」

「……なんだ今日は。何かあったのか?」

「きになっただけ!」

アーニャは見抜いていた。ロイドのヨル以外の女性との関わり方の違い。ある程度ヨル以外の女性にも愛想良く振る舞うが、大きな大きな壁を作っている。そして、冷めている。そう。ロイドは、"俺は、妻子持ちだ"という雰囲気を醸すことを忘れないのである。

「ただいま戻りました〜」

「ボフッ」

散歩を終えたボンドとヨルが戻って来た。ニコニコと微笑むヨルがロイドに今日の仕事での出来事を話し掛けている。
そういえばと思い出した様な顔をして、ロイドはヨルに話しかけた。

「そういえばヨルさん。明日、食事会がありまして……。良ければヨルさんもどうでしょうか」

「お仕事のですか?私で良ければ、是非。」

「アーニャは!アーニャもいきたい!」

「あぁ。アーニャも一緒だ。よし。じゃあ三人で行こう」

その食事会は病院の仲間で定期的に開催されるものである。とは言えロイドは今まで任務に忙殺されていたため食事会に誘われても何とか断り文句を付けて食事を断っていた。
オペレーション〈梟〉も完結した今、管理官に「そんなに好きなら早く本物の家族になれ」と真意の読めない顔で言われた後。ロイドは本気で付き合うとは……と考えあぐね、行動に移すまでに時間が掛かり、管理官に本気で降格するぞと脅されながら、本物の家族となった。
そういった事も含め、やっと本物の家族として自然に振舞えると踏んだロイドは家族を誘ってみたのである。

「こういった場は初めてです。どんな服を着たらよろしいのでしょうか?」

「皆さん至って普通の私服で来ると思いますよ」

「なるほど……。それではロイドさんとお食事に行く時のような服装で、」

「いや、ヨルさん。ボクと一緒に服を買いに行きましょう」
(ヨルさんの普段着は何かと露出が多いし…ヨルさんのあの姿を周りの人達に見せたくない)

「……ちち、どくせんよく。」

「こらアーニャ。心の声を読むな」

「アーニャさん。ロイドさん何て言ってました?」

「ははのきているふくをまわりに───」

アーニャの言葉は大きなロイドの真っ赤に染まった手によって塞がれた。
そんな二人の姿がとても可愛らしいと言わんばかりの表情で微笑ましく笑うヨル。腑抜けているかもしれないが、本当に平和だった。

(ちちあいかわらずてれやさん)



「あらフォージャー先生!こんばんは!」

「あぁアマンダさんこんばんは。」

「相変わらず可愛い子ねえ〜!アーニャちゃん?今日は沢山食べてね!」

「うぃ!」

ちょこんとロイドの足にしがみつきながら、周りの様子を伺うアーニャ。アーニャが言うに人が多い所では沢山の声が聞こえる為普通の人の何倍も疲れてしまうらしい。まだ自らの能力を制御しきれる程使い勝手も良くないため、定期的にロイドはアーニャの様子を見て、無理させない程度で帰ろうとしていた。

「……良く似合いますねヨルさん」

「ロイドさんが選んでくれたからですね」

「こういう場ではパンツスタイルも良いかもしれません」

ヨルはこの様な場ではスカートよりズボンがいいのか…と勘違いしているが。ただのロイドの嫉妬心である。にししと笑うアーニャだけが全てを知っていたため、ロイドにグッドサインを送ったら読むな!って心の声で叱られていた。

「フォージャーせんせーい!」

ロイドの隣に座った一人の女。
……如何にもロイドの苦手そうなタイプである。酔っているのか距離は近く、ロイドの腕に手を回し、軽く呂律は回っていない。

(面倒臭い。)

元西国一のスパイの黄昏であれば、表情の一つや二つ作る事は造作もないのだが。フォージャー家で過ごす中、ロイドの顔は感情と乖離する事が少なくなった。簡単に言えば、本当に分かりやすくなったのだ。あの、黄昏が。

「え〜隣の方が奥さんですかぁ?私はどうなったのよせんせぇー」

「……貴方とお話するのは初めてですが」

「やだ冷たぁい。わたし先生のセーターぬってあげたじゃないですかぁー」

(……あぁあの時の女か。すっかり忘れていた。あれは確か任務の為にと思って一時的に利用させてもらっただけで)

「あぁそうでしたか。すみません最近記憶力が悪くて」

ロイドがヨルの方を見れば、悲しそうな顔をしてお酒を啜っている。すみません誤解ですヨルさん!!と土下座したい気持ちを抑えつつ、しつこい女にイライラが募る気持ちを抑えていた。

(ちち、いらいらしてる。)
アーニャの出番だ!と勢い良く立ち上がり、アーニャはロイドの膝の上に座り込んだ。

「ちち、ははといちゃいちゃたりない?いえじゃもっとちゅーとかしてる!」

「なっ……アーニャ!?なにを…」

まぁと絶賛の声が上がる観衆達。何故ならロイドに近寄って行った女の様子を周りの女監修達は隠す気も無い程度に見ていたからである。
ロイドは職場でかなりのモテ男として有名であり、あの男に彼女が……いや妻がいたなんぞ、と妄想に妄想が膨れ上がり、あんな事やこんな事を呟かれている。
仕事場で出来すぎる完璧な男は、プライベートで妻にどんな顔を見せているのだ、と。

「お盛んですねっ奥さん!」

ヨルの隣に座っていた看護師につつかれた彼女は顔を真っ赤にさせて、動かなくなった。まるで、何かを思い出したかのように。

(ちちとははなかよし)

ニコニコ笑うアーニャと、茹でたこのように全身を真っ赤にしたヨル、そして必死にあたかも饒舌な言い訳をかますロイドであった。


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