元・かっこいい嘘つき/現・いとしい泣き虫
オペ梟後、涙腺が弱くなってしまったロイドとその家族の話 ◾️Twitter再掲
※オペ梟完遂後もフォージャー家が家族として過ごしています
※それぞれ正体バラしています
※黄昏はロイドとして生きていく世界線です
※タグの賑やかしのため短いですがこちらにも上げます
※どこかでネタが被ってたらごめんなさい
(以下最新話ネタバレ)
◾️◾️◾️くんは、友達三人と共に亡くなったと思っているので、オペ梟後にスパイをやめてアーニャ達と日の下を生きていくのであれば、彼にはロイド・フォージャーの名を背負って、生きていってほしいなと思っています。アーニャやヨル、ボンドのあたたかさによって、育てられた男が”ロイド・フォージャー”である事実は揺るがないと思うので。
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東西平和がもたらされ、その実現のためにつくられた仮初の家族は、紆余曲折を経てほんとうの家族として生まれ変わった。(その際、父親は西国の諜報員、母親は東国に尽くす殺し屋、娘は人の心を読む超能力者だという事実が各々に開かれた訳ではあったが、同時に父も母も裏の世界に別れを告げることとなった。)
自身の生い立ちを交えながら、本当の姿を明かしあったのが半年ほど前のことだ。そうして、その日を境にちち——ロイドに異変が起き始めた。アーニャの学園生活の話を聞いたり、ヨルとアーニャが仲睦まじく話す姿を見ていたりする度に、ロイドが声もなく涙を流すようになったのだ。
※
悲しいから涙が出るのだ、というわけではないらしい。アーニャのはじまったばかりの人生で得た気づきの一つだ。
「あぁ、また…」
頬を濡らす雫に気づいた父は、手にしていたカップをソーサーへ乗せた。
「すまない。はじまってしまった」
「め、こすっちゃだめ。まって」
アーニャは慌てて立ち上がり、父のそばへかけ寄った。
ちちはカップを手放し、目の縁を自由になった指先でなぞっているが、溢れる涙を掬いきるには全く追いついていない。アーニャはテーブルの上に置かれたティッシュを二、三枚手にとって差し出した。ちちはそれをとって目元に当てると呆れ混じりに笑ってみせる。
「やっぱり、お前の前で泣くなんて情けないな」
心を読むまでもなく、自分をぞんざいに扱うような意図が言葉の外から聞こえた気がして、アーニャは無自覚に眉を顰めた。
「まだそんなこというの」
ちちが泣いている姿を見るのは初めてではない。はらはらと青い瞳から涙を流すその光景が、フォージャー家の日常の一つとなって、随分と経つ。
「そうだったな、言わないって約束だったのに」
元スパイの父は、やはり人の気持ちを読み取るのに長けている。アーニャの呆れと悲しみを感じ取った父は小さく呟いて、受け取ったティッシュで目元の水分を拭い去ろうと試みた。しかし、水源は枯れることを知らないのか、まだまだテッシュは必要になりそうだ。
「ちち、アーニャがせんせいにほめられたの、かなしかった?それとも、ちがうほう?」
「違う方だよ。……嬉しいんだ」
涙を拭うことは諦めたのか、瞬きのたびに雫でジーンズを染めるのをそのままにちちはアーニャの頭に手のひらを被せた。ぽんぽんと、優しく頭を撫でてくれる大きくてあたたかいちちの手のひらは、いつものようにアーニャのこころにも火を灯してしまう。
目の前のそれが、“うれしい“涙であれば、アーニャにとっても文句のつけようがないほど良いことではないかと、アーニャはほっと胸を撫で下ろした。
「なみだとまるまで、アーニャの話もっときいてて。もしかしたら、もっとなみだでちゃうかもだけど」
ちいへの目線をそのままに、頭上の掌を自分の頬へつたわせながら、言ってみた。ひどい奴に聞こえてしまうかもしれないが、アーニャは、ちちの涙が止まってほしいと思う気持ちと同じだけ、もっと泣かせてあげたいとも思っていた。ちちに知られれば、きっと困らせてしまうだろうけれど。
「あぁ、アーニャが過ごした今日のこと、もっと知りたいよ。教えてほしい」
朱色に染まりつつある目尻を下げながら、ちちの目からはやっぱり涙が流れ続けていた。
その姿を見上げながら、頬から伝わる体温が自分のそれと交わって、ちちと自分の境界線がなくなるような感覚に微睡みつつ、アーニャは口を開いた。
アーニャの話で、ちちの涙が溢れるのであれば、いくらだって話してあげる。仕事でまだまだ帰らないであろうははの分まで、ちちの涙を流させてやろうと思った。
「あのね、今日はじなんがね——」
※
「今までの分を取り返しているのでしょう」ははは、ボンドに芸を仕込むちちを眺めてそう言った。
初夏を感じる風は穏やかに吹いていて、ははの黒髪をかすかに揺らしていた。生温い風が心地よかった。
「いままでのぶんって?」
普通の家族と同じように、公園に遊びに来た中、ははの言葉の意味を図りかねたアーニャは聞き返してみた。
「ロイドさんは、幼い頃からずっと、ずっと一人で頑張って生きてくれていたんだと思います。それが、私たちと家族になってくれて、やっと一人ではなくなったから、今まで心の中で留めていた涙を外に漏らしているんじゃないかと、思うんです」
ははの言葉はすうっと、アーニャの心に入ってきて、だから最近のちちは泣き虫なのかと納得した。そうかもしれない、否そうなのだろうと思いながら、視線をははが見つめる先へずらしてみる。そこには、金の髪を揺らしながらボンドに話しかけるちちの姿が見えた。スパイの頃からなんだかんだで表情豊かなちちだった記憶はあるが、本当の家族になってからはそれがさらに増している上に、心の声と現実の声が異なることも少なくなってきていることにアーニャは気づいていた。
「ちち、なきむしなのはいいこと?アーニャもなみだだす?」
「はい。そうですね、ロイドさんにはたくさん泣いて、我慢してた分を吐き出して貰えたら、嬉しいです。でも、アーニャさんはだめ。あなたにはできればずっと、笑っててほしいです」
風で靡く髪を抑えながら、微笑んだ。
「アーニャ、ずっとわらう。ははもわらって!でも、ちちはもっとなかせる!」
「ふふ。私たちでたくさん泣かせましょうね」
アーニャとヨルは、ちち想いの娘とははの内緒の約束を、木漏れ日の下で交わしてみせた。