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黄昏捕縛if/Novel by 涙雫

黄昏捕縛if

2,254 character(s)4 mins

M82で滾ったので衝動のままに書きました。本編はきっとハッピーエンドになってくれるという信頼の上で、あの後黄昏が捕まる暗い話。スパイファミリー沼の予感しかしないので多分書くのは最初で最後にします。

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 さて、そろそろか。

 秘密警察に捕縛され、厳重に椅子に拘束された黄昏は拷問まがいの尋問を受けながらも沈黙を貫いていた。殴られ続けて体の至る所が焼けるように熱いが、大きな欠損はない。諜報員への拷問にしては生ぬるい、というのが黄昏の感想だった。大方、黄昏を捕縛したと聞きつけた上層部が優秀なスパイなら自分達も利用できないか、などと勝手な妄想を膨らませているのだろう。結構なことだ。なびく気がないことがわかれば殺されるのは時間の問題だ。だが、すぐに殺されることはない。
その確信を持って、黄昏はただじっと1人の男を待っていた。


「交代だ。」
 ガチャリ、と重い扉が開く。入れ代わりに入ってきた新しい尋問官はユーリ・ブライア、若く優秀な秘密警察の少尉であり、ロイド・フォージャーの義弟であり、そして彼こそが黄昏の待ち人だった。
 ユーリは黄昏の向かいにまわると何か言いたげに逡巡する様子を見せたが、すぐに口を引き結んで黄昏を睨みつける。
 少し痩せたな。
 黄昏は数日振りに会う義弟を冷静に観察していた。あまり良く眠れていないのか目には隈がくっきりと浮かんでいる。黄昏が拘束されてから数日が経つが、その間彼が尋問に来ることはなかった。それは彼自身が黄昏の身内として尋問を受けていたためだろう。黄昏の捕縛に大きく貢献していた事もあり、今日ようやく復帰したという所か。
しかし、完全に疑惑が晴れたというわけではないのだろう。黄昏は、部屋の人数よりも多くの視線が自分達を観察している事に気付いていた。

「ロイド・フォージャー……」
「やあ、ユーリ君。久しぶりだね。」
 憎々しげに唸る義弟に向けて、黄昏は捕縛されてから初めて表情を作り、声を発した。努めて優しく、穏やかに。ロイド・フォージャー然として。長く偽りの人格で騙していた義弟を挑発する。
姉に関わることとなると途端に理性を失くす男だ。正体がバレてなお偽りの笑顔を向けてやればすぐに激昂するだろうという予想に反して、目の前の男は黄昏を睨みつけたまま拳を強く握りしめただけで、短く息を吐くと感情を落ち着けて見せた。

「黄昏。精神科医ロイド・フォージャーとしての勤務歴は実際に存在するようだが身分は偽造か?」

 黄昏が初めて会話に応じたため尋問に徹することにしたらしい。
この状況で尋問官としての冷静な判断ができるか。
日頃の突飛な言動で忘れかけていた彼の優秀さを思い出す。

「ああ、最初から存在しない男だ。」
 ずっと騙されていたんだよ、とわかりやすいように口の端を歪めてみせる。ロイド・フォージャーならば絶対にしない表情だ。

 生きたまま捕えられる事は諜報員として最悪の失態だ。西国一と呼ばれた男が諜報員失格も甚だしい。口を割るつもりは微塵も無いが、用済みの諜報員など早々に口を塞いでしまうのが望ましい。
黄昏には、既にその覚悟ができていた。
そしていく通りもの演算を繰り返した黄昏の頭脳は、現状最も効果的な命の使い方を弾き出していた。
まずオペレーション「梟」のために利用した者達はただ黄昏に騙されていた被害者として保護させる。ロイド・フォージャーは全くの偽りの人格であるとここで強調し、激昂したユーリ・ブライアに未練なく黄昏を殺させる。ユーリ・ブライアに手を下させることで彼の疑いも晴らす。
幸い秘密警察も黄昏の性格データまではつかめていない。黄昏は無辜の東国の一般人を弄ぶ歪んだ人格のスパイとして死ぬ。

「前妻の子だとかいう娘は。懐いていたようだが?」
「適当な孤児院から引き取ってきた。愛情に飢えてたんだろう、少し優しくしてやるだけで純粋に慕ってきたよ。簡単だった。」

「姉さんは。」
「それこそ簡単だった。男性経験のない無垢で単純な女だった。甘い言葉を囁いてやればすぐ靡いたよ。それに___

 ここで少し言葉を迷う。より深く傷つけるための表現を選んで。

___彼女、パートナーがいなくて弟を心配させてるって悩んでたんだ。付け込みやすくて助かった。君のおかげだよ。」

ガタンッと音を立てて立ち上がったユーリに胸倉を掴まれる。
乱暴に持ち上げられる視界がやけにゆっくりと動いて見えた。
予想される衝撃に備える気になれず、諦めて目を瞑れば浮かんでくるのは仮初の家族の笑顔だった。

 簡単だった、ならばどれだけ楽だっただろう。予想外で意味不明で常に黄昏の想定を超えてきた彼女達に、何度度肝を抜かされたことか。
騙され利用されているというのに、真っ直ぐに自分を気遣い、笑いかけてきた彼女達。
最期に浮かぶ光景がこんなにも眩しく美しいなんて、スパイにはあまりにも分不相応だ。
だからこそ、ここでしくじるわけにはいかない。
最初から家族は偽装で、彼女達は騙されていた。それだけが真実だ。
彼女達に嫌疑が向けられ、ましてや黄昏に有効な人質だなどと、秘密警察に勘違いされては困るのだ。

「おい!」

予想していた衝撃がいつまでも訪れず、拍子抜けしてゆっくりと目を開くと、視界いっぱいにユーリ・ブライアの顔が広がっていた。

「僕の目を見てもう一度言って見ろ!ロッティ!!」
燃え上がる真紅の瞳が真っ直ぐに黄昏を射抜く。ヨルさんと同じ色だ。
こちらを見透かすような視線はどこかアーニャを思わせた。

 この偽りの家族は本当にいつだって黄昏の調子を狂わせる。
百戦練磨の嘘つきは、まっすぐに向けられる視線から目をそらすことしかできなかった。

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