黛冬優子「ふゆがチョロいわけないじゃない」
P「冬優子って、案外チョロいよな」
冬優子「はぁ!? ふゆがチョロいわけないじゃない」
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「あ゛? ふゆがチョロいですって?」
ずっと心の中で抱えていた疑問。それをお酒の勢いとはいえ、うっかり口に出してしまったのが運の尽きだった。案の定、俺の舌から滑り落ちていった言葉に冬優子が眉を吊り上げた。
思った通りの反応。ここがどこかの居酒屋じゃなくて冬優子の家でよかった。広い2LDKの一室。俺の部屋とは比べるべくもない家賃のここは防音もばっちりだ。
「ああ」
「ざっけ――……や~ん♡ ふゆはそんなに軽い女じゃないです~……♡」
怒気を孕んだ低い声が冬優子の口から零れかけて流石に怒鳴るのはマズいと思ったのか、ハッと我に返って口元に当てる。語尾にハートマークが浮かんでいるようには見えるけれども、よく見たらハートに青筋が浮かんでいた。
「いや、いまさら取り繕われてもな……」
「……はぁ。まぁ、いいわ。別にあんたが変なこと言い出すのも、今に始まったことじゃないし」
「俺は純粋に冬優子のことを心配してだな」
「はいはい、感謝してますよーだ。 ──ったく、ふゆのこと何だと思ってるのよ。アイドルなんだから誰が相手だろうが、そんなに簡単に靡くわけないじゃない」
ため息を吐きながら冬優子がヤレヤレと肩を竦める。「付き合ってられないわ」とばかりに空いたグラスにビールを注いだ。
確かに冬優子の言う通り、彼女のガードはものすごく固い。共演者に食事の誘いをされたとしてもそれを受けたことはない。親しみやすいようでいて一定のラインから先は踏み込ませないようにするのがとてもうまいのだ。
「ほーん、大した自信だな。こんな風に男を部屋に上げておいて、襲われでもしたらどうするつもりだ?」
「──……はっ。冗談きついっての。あんたにそんな度胸があるの?」
「まぁ…………度胸があるかどうかはともかく、手を出すつもりは微塵もないが」
「ほら見なさい。ふゆはちゃあんと相手を選んでるのよ……──ま、仮に……万が一あんたが迫ってきても、靡いてやるつもりなんかないから。残念だったわね」
ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向く冬優子。プロデューサーとしてはこれ以上ないくらい頼もしい姿だ。スキャンダルを起こさない大人気アイドル。芸能界はしばらく冬優子の天下だろう。
ただ、一度心を許した相手には結構チョロい。それが俺の評価。現にあさひや愛依にはよく振り回されているし、面倒見の良さが隠しきれていない。そのこと自体は悪いことではないのだけれども、それを逆手に取られる可能性もあるわけで。
だからこそ冬優子にはきちんと自己分析をしてもらわないといけない。決して邪な意図があるわけではないのだ。冬優子相手に手も出せないようなヘタレだと言われたことを気になんかしていない。ああ、決して。よし、理論武装は完璧だ。
「まぁ、それはそうと……冬優子、最近疲れてるんじゃないか?」
「え? まぁ……ちょっとは疲れが溜まってるとは思うけど」
我ながら雑な話題転換だった。冬優子も訝しげに眉をひそめている。ここは本気を出さないといけないようだ。意識的に声のトーンを落として真面目な雰囲気を出す。急なテンションの変化に冬優子の戸惑いが伝わってきた。
よしよし、結構効いているみたいだな。ここはもっと攻めに行くべきだろう。そう考えた俺はわざとらしくガックリと肩を落としてしょぼくれて見せる。冬優子相手はこんな風に弱った姿を見せることが効くと、長い付き合いの中で知り尽くしていた。
「そうだよな……冬優子にはいつも負担をかけているから……」
「ちょ、ちょっと。そんなことないわよ……あんたがふゆたちのためにいろいろしてくれているって、ちゃんとわかってるわ」
はぁ……とため息をついてわざとらしく顔を覆う。そんな俺を冬優子がおろおろとしながら励まそうとしてくれた。向かいに座る俺に向けて伸ばそうとして引っ込めた行き場のない手が中途半端な位置で止まっている。
手元のグラスを一気に呷る。アルコールが喉を焼いた。その代わりに効果は覿面。本気で心配している表情を浮かべた冬優子が俺の顔を覗き込んだ。
「この間も例の番組ディレクターにセクハラされてただろ? 愛依をかばって」
「あれは…………」
冬優子が言葉を濁す。愛依たちの手前、平静を装ってはいたけれど、そんな彼女の手が少し震えていたことを俺は見逃さなかった。これで気が付かないようなら、それこそプロデューサー失格だ。
もちろん相手には既に手を打っている。これでも伊達と酔狂で敏腕プロデューサーと噂されているわけではない。冬優子に不快な思いをさせた以上、二度と日の当たる道を歩けないようにするのは当然のことだ。
「ちょっとくらい弱音を吐いてもいい。俺の前でくらいは悩みを聞かせてくれ」
「──……そうね。正直ふゆも少し怖かったわ。あんたがタイミングよく助けにきてくれなかったら……」
隣に座る冬優子が自分の腕で身体を抱きしめた。少しだけ申し訳ない気持ちが頭を掠める。なぜあのときの俺はもう少し早くあの場にいられなかったのだろうか。そう悔やんだのは紛れもない事実だった。
「ああ……でも、冬優子は悪くないさ。もっと俺が早く行っていればって後悔してる……もう、絶対に冬優子にそんな思いをさせないって、そう誓うよ」
「プロデューサー……」
ゆっくりと立ち上がった俺は冬優子の隣に腰を下ろす。瞳を潤ませた冬優子が俺のことを見上げた。甘い匂いが俺の鼻腔をくすぐる。お酒が飲めるような年齢になった言ってもまだまだ冬優子は若い。いざというときは守ってあげられる大人が必要だ。
そっと冬優子の手を握る。ビクリと肩を震わせる彼女の顔をジッと見つめた。瞳を潤ませている冬優子を安心させるように頷くと、握った手に力を込めてくれる。
震えはもう、止まっていた。
「また今度気晴らしでも行かないか? 買い物とか、いろいろ付き合うよ」
「あら。それってデートのおさそいかしら?」
「いや、残念ながら。冬優子は俺の大切な担当アイドルだから、そういう誤解されるようなことは、な」
「残念、フラれちゃったわね。まぁ、あんたのことだし、どーせアイドルのメンタルケアだかなんだかのつもりなんでしょうけど」
冬優子が残念そうに肩を竦めた。「知ってたけどね」という感じを出しつつ「実は少し期待していた」ことをこれ見よがしにアピールしてくる。いつもの調子に戻った冬優子は惚れ惚れするような笑みを浮かべた。
本音は今すぐにでも彼女をデートに誘いたい。後先なんか考えずに冬優子のことを大勢の前で見せびらかしたい。そんな欲求とせめぎ合う。
「ああ。プロデューサーとしては所属アイドルの笑顔を守らないといけないからな。そんなことするわけないさ」
「──……そうよね。あんたって、そういう男よね」
「でも……本音を言えば、冬優子みたいに魅力的な子にそう思われているのも悪くはないって思っちゃうけどな。正直嬉しいし」
「え? それって……」
冬優子が目を大きく開く。信じられないものを見るような目つき。俺がこんな風に真っすぐに好意を言葉にしたことはなかったから当然っちゃ当然の反応だろう。
──まぁ、こうして二人きりで冬優子の部屋でお酒を飲むような仲になった時点でお互いに相手の気持ちは察しているのだけれども。ただ、言葉にするのとしないのとではまったく意味合いが違うのは言わずもがなだろう。
「ああ、冬優子のことは誰にも渡したくないって思っている。お酒の勢いで言うものじゃないけれども、その……大好きだ、冬優子」
「ふ、ふゆは……ふゆだって……あんたのことが大好きよ」
冬優子が瞳を震わせる。真っ赤に色づいた首筋は決してアルコールのせいだけではなかった。もじもじと膝を擦り合わせる姿もたまらなく愛おしい。
ゆっくりと冬優子の肩に手を回す。グッと引き寄せると大した抵抗もなく俺の身体にもたれかかってきた。
「ほら、肩の力を抜いて……俺にもっと身体を預けて」
「うん……」
冬優子の頭を胸に抱く。綺麗に整えられた髪をゆっくりと撫でた。艶やかに煌めく唇に目を向ける。それに気が付いた冬優子がきゅっと目を瞑った。
じらすように頬を撫で、肩に掛かった長い髪を背中の方に動かす。冬優子の呼吸が激しくなって、開いた口から甘ったるい吐息が漏れた。
「脚も、ほら。ゆっくりと開いて」
「……いや。恥ずかしい」
「大丈夫だって」
「じゃあ少しだけ……ひゃん♡」
冬優子の脚に手を伸ばす。短かめスカートから伸びる白いふとももが目に眩しい。恥ずかしがって少ししか脚を開かない冬優子の膝を掴んで、グッと大きく開かせた。下着が見えそうになるくらい捲れ上がった裾を冬優子が必死に抑える。
ももの内側を指先でくすぐるように撫でる。肌に触れるか触れないかの位置、肌の表面を這うようにして指先を動かしていく。冬優子の耳元に口を寄せて荒っぽく息を吐いた。俺の乱れた呼吸を敏感に感じ取った冬優子が唇をわななかせる。
「──……冬優子、いいよな?」
最終確認。ここまで許しておいて、いいも悪いもないとは思うけれど。これだけは冬優子本人の口から聞かないといけない。ふとももを這いずり回る手は止めずに顎を掴んで持ち上げた。
きゅっと瞑ったまぶたを冬優子がゆっくり開く。蕩け切った瞳は歓喜に打ち震え、乱れた吐息が湿っぽく空気を震わせた。
「ええ、きて────」
冬優子の唇が待ちわびるように閉じられて、俺に向かって突き出された。誘蛾灯に誘われるかのように俺の顔が吸い込まれるように傾いていき──────、
ふゆチョっっっっっロ