__マスターは強運だ。
数を上げればキリがないが酒吞童子、源頼光、エレシュキガル、両儀式、__そしてアーサー・ペンドラゴン。
マスターとなってまだ間もない中、召喚に応じないサーヴァントを召喚してみせる。
__同時に、臆病でもあった。
「ねえ、エミヤ。ちょっといいかな」
夜のとばりも落ちた頃、エミヤの部屋にマスターが顔を出す。
__ああ、またいつものか。
エミヤは腰かけていた窓枠から降り、マスターに問う。
「まだ、いつものかね」
「うん」
「わかった。向かおう」
マスターの後を追い、部屋を出る。
向かうのは、召喚の儀を行う部屋だ。
__人間は、とても臆病で、傲慢だ。
それは昔から変わらない。
そう、かつてエミヤが処刑されたときのように。
召喚の部屋には、見慣れた顔がいた。
青い装束を身に纏ったランサー。その手にはいつぞやの聖杯戦争でも手合わせたゲイボルグ。クー・フーリンだ。
「よぉ、アーチャー。久しぶりだな」
「ああ。」
縁があるその面におもうところはあるが、それを口にすることはなかった。
___どうせもういなくなるのだから。
「エミヤ、やっちゃえ」
「承知した」
干将莫邪を構えればランサーの顔色が変わった。
飄々とした顔つきから険しいそれへと変わり、愛槍を構える。
「おいおいなんのつもりだ。召喚しといて、味方同士で戦えたぁ随分じゃねえか」
「悪いが、それがここのやり方だ」
これ以上無駄口を叩く暇はない、とエミヤは剣を振りかざす。
きぃん、と武器が重なり合う金属音が部屋を包み込む。力比べのつもりだろうが、エミヤにとっては無意味なものだ。
いくらランサーが弱点とはいえ、カルデアを支え続け力を蓄えてきたエミヤと、召喚されたばかりのクー・フーリン。力の差は歴然だ。
__宝具を出されるまえに、決着をつける。
右手に構えた莫邪で槍を受け流し、干将でクー・フーリンの脇腹を刺す。
肉を断ち切る感触が手ごたえを教えてくれる。
距離を離し、槍の影響の及ばぬ所から、投影した弓で矢を放つ。
額に突き刺さったそれから、もうクー・フーリンは立ち上がれないと判断し、背を向けた。
その瞬間、背後から目にも終えぬ速さで槍が飛び出し、マスターに向かった。
咄嗟にエミヤはマスターを庇い、左手を犠牲にし、クー・フーリンに莫邪を叩きこんだ。
「うぐぅ…」
心の臓を貫いた莫邪が消えるころ、吐血しながらもクー・フーリンは断末魔のように叫んだ。
「ふっざけやがってぇ…弓兵ごときがぁ…」
「その弓兵に敗北したのは君だがね」
「へっ!ただでやられてたまるかよ」
ここでエミヤは異変に気付いた。魔力で回復できるはずの左手の傷が癒えない。魔力を回復に回せども癒えるところが、熱をもち、ぐずぐずと腐っているようだった。
「今更気付いたのか?今の槍には呪をかけた。癒えることのない呪をよォ」
道理で、とエミヤは納得する。やられた、とは決して思わなかった。「やられた」のは召喚に応じながら消される彼の方なのだから。
「エミヤ、食っちゃえ」
マスターの声が響く。そのために、致命傷を与えたのだ。
エミヤは慣れたように、もう動けないクー・フーリンの首元へ顔を寄せる。
「すまないな」
「許さねえ」
そのまま、首筋に噛みつき、肉を貪った。
最早何度これを繰り返したことか。もうエミヤにはなんの感情も沸かなかった。
____サーヴァントを強化する方法はいくつかある。
種火と呼ばれる石を与えられることが一般的だが、もう一つ。
他のサーヴァントを「食って」強化する方法だ。
このカルデアにはサーヴァントが少ない。そして集まるのは「希少なサーヴァント」
なにも、マスターが特別なわけではない。
「希少ではないサーヴァント」を「召喚しなかった」事にしているのだ。
エミヤは自らその役目を背負った。高潔たる逸話を持った英霊たちに令呪なしでその役目が果たせるとは到底思えなかったのだ。
脳裏に浮かぶのは、高潔で、清廉な少女。
きっと彼女は、こんなことで強くなることを望んでいないだろう。____汚れ役は自分の専売特許だ。
口内に鉄の味が広がる。血にまみれて、エミヤは天を仰いだ。
おおう、続いたと思ったら、中々ダークな内容だった…… でも流石プーサー様、超ジェントルマン