夢にまどろみ
ふと書きたくなったので書いてみた。くっつく前の、意識すらし合ってない2人。そこそこ捏造でhollow後サーヴァント残留設定です。「星を掴む、夢を見た」って一文が書きたかっただけのモノですが、よければ。 【1/8 追記】ひ、ひいい。たくさんの評価ブクマありがとうございます……! おかげさまでルーキーランキング64位だそうでございますなにこれえっ!? 驚きに脳内処理落ちしております本当にありがとうございます。ブクマコメは、コメント欄にて返信させて頂いておりますので、よければ。 【1/10 追記】9日ルーキーランキング66位、評価400越えありがとうございます……! 弓と槍じゃなくって私が夢見てるみたいです(笑)
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星を掴む、夢を見た。
まどろみの残骸を残す目を開いて、彼はベッドの上で体を起こす。時刻は午前6時。古めかしい時計が刻む時間を数秒見つめた彼はそそくさとベッドから降りて、傍にかけてあった黒いシャツに袖を通す。
柔らかな日差しが眩しい、いい朝だった。
穏やかな空気。外には歌う小鳥のさえずり。なんてことはない、当たり前という日常の1コマそのもの。
部屋を出て、傍にある主の部屋をノックする。僅かに覚醒を促されたらしい、「んぅ」とも「むぅ」ともとれる声を聴覚が拾いあげた。
「凛、朝だ」
扉を開いて、惰眠を貪る彼女へ呼びかける。
ベッドの端に座り、頬へ触れた。柔らかな肌の感触を返してくる、まだ幼い少女のそれ。死にきり変色した自分のモノとは大違いだと、そんなことを考えながら彼はぺしりと一度優しい手つきで頬を叩く。
「ん……アーチャー……?」
「ああ、おはよう。凛。
今日も学校だろう? 起きなければ衛宮 士郎と時間が合わせられないぞ。交差点で会うのだろう。あれはもう起き出して、7時には家を出る。君もそれに合わせなくてはな。
私は今から朝食の準備をするが、オーダーはあるかね?」
「セイロンでお願い……」
「了解した。二度寝するなよ? マスター」
立ちあがり、去りながらからかえば、背中に枕が叩きつけられる。
変わらない朝。
現界してから二度目の冬が、もうすぐ終わろうとしていた。
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2月15日までの聖杯戦争。
10月8日から10月11日を繰り返した偽りのサカヅキが起こした再現戦争。
終わった以上、サーヴァントは消えるのが正しい姿だ。だがどうしてか、第五次聖杯戦争に関わったすべてのサーヴァントが、未だ現界したままに残されている。原因は不明。ただイリヤスフィールは、ほんの少しだけ寂しそうに『みんな一緒がいいって、思ってくれたのよ。きっと』と、呟いていた。
あの4日間のせいで、結局誰が生きて誰が死んだのかもわからなくなった。なにが起こったのかを皆覚えてはいるのに、誰が死んだのかだけがぽっかりと抜けてしまった。ただ1人、言峰綺礼を除いて。
なにもかもが終わった後。訪れたのは、あまりにも理想的すぎる平和だったのだ。
朝食を済ませてティーカップを傾ける遠坂 凛は、話し合いの際にもういいかという結論を最終的に出した。皆が納得したわけではなかったけれど、今はそれでいいということにもなった。
死者がいないことは、いいことだ。皆が揃っているのも、いいことだ。
穢れた杯の主である『彼』が、ありふれたシアワセを望んだのか。はたまた、この空の上で未だサカヅキが巡っているのか。それらすべて、どうでもいいだろうと凛は投げ捨てたのだ。
だって、みんないる。ここには、なにもかもがある。
聖杯戦争でないならば、いい。それに。
「アーチャー」
「なんだね、凛」
この馬鹿なサーヴァントをどうにかしたくて、時間が欲しいと思っていたのだ。
転がってきた時間に感謝こそすれ、どうしてそれをいらないなんて言えようか。
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星を掴む、夢を見た。
英霊は夢を見ない。夢を許されるのは生者だけであり、死者たる自分たちの眠りとは魔力温存のためでしかない。その中で夢を見るとすればそれは、パスより流れ込むマスターの過去か、自らの記憶の回想か、だ。
アーチャーは凛と主従契約を交わしているが、彼女とのパスは遮断して貰っている。魔力が流れてこないため維持に少々の不安は残るが、戦うことのない現状を考えると聖杯のバックアップだけで問題ないと判断したからだ。なにより、自分の過去は彼女の毒となる。好いている男の、『辿るかもしれない未来』なぞ、あの心優しい少女に見せたくなかったのだ。
だから、見た夢は彼女の過去ではない。つまり自分の回想なのだが、摩耗で擦り切れた記憶はアーチャーに明確な答えを返してはくれなかった。
自室の扉を開き、魔力の消費を抑える眠りにつこうとシャツを脱いで。
枕を占領する、青に彼は、気がついた。
(……いつの間に)
というか、何故、ここに。
気持ち良さそうにぐーすかと――睡眠を貪る姿は名高い英霊とは思えない――眠る姿を晒している彼は。どうして、この遠坂邸の、自分にあてがわれた部屋にいるのか。
確かに、めぐる4日間の中ではよく共に行動した。アーチャーもランサーもあの4日間における鍵であり、それ故に行動の制限があったからである。なら制限がある者同士で行動しておいた方が楽だという思考に繋がるのはどちらも同じで。それとまあランサーの不運に巻き込まれるような形で、アーチャーは何度か彼と行動したが、それだけだ。
あの4日間から4ヶ月。確かに、会えば話す程度の仲ではある。が、それだけだ。
こうして訪ねられてベッドを占領される覚えなんてものが、アーチャーには欠片もなかった。
「ランサー」
小さく、呼ぶ。
僅かに身じろぎしただけで、彼が目を開けることはなかった。どうしてこの男、髪まで解いて寝ているんだろうか。広がった長髪がまるで水辺のようだと、そんなことを考えながら、アーチャーは広がった髪の一筋に触れる。
疲れているのだろうか。これだけのことをしているのに、ランサーが目を開く様子はない。
「眠っているのか、ランサー」
わかりきったことを、口にする。
やはり男は目覚めないから、アーチャーとしては困った。弓兵のクラスは魔力不足に強いといっても、凛には強く『消費を抑えなさい』と言い聞かせられているのだ。自分が学校に行っている間、アーチャーが寝ていなかったと知れば烈火のごとく怒り出すだろう。それは、困る。とても困る。
眠り続ける美しい男を見下ろす。
寝床を奪った男、ランサー。相容れないと思う。在り方を受け容れることは永遠にできないとも。だがこの男こそが、いつかの夜に自分をこちらの世界へと導いた者だった。この美しい男の槍が、『エミヤシロウ』を夜へと導いた。
――星を掴む、幻想を見た。
星のように美しい少女がいた。星明りに照らされて、心臓を貫いた男がいた。
あの光が忘れられなかった。あの星の煌めきが、この胸を震わせてならなかった。
(……なにを、馬鹿な)
どこか空転する自らの思考を、首を振って断ち切る。
馬鹿らしい。小さく呟いて、アーチャーはベッドを背に座りこんだ。
眠ってしまえ。そうすれば、この弱々しい感慨なんて消えてしまう。眠って、忘れてしまえ。嫌ってすらいる男に抱く、秘めた感情なぞ。気付いてしまったこんな、みっともないものはなかったことにしてしまえ。
(私が)
この、男に。
ランサーに。
「あこがれて、いる、なぞ」
呟きは、意図してのものではなかった。ただ、眠りへ落ちる自制のタガが外れた意識が、外へと発してしまっただけ。
忘れて、なかったことにしてしまえ。
言い聞かせ眠りを選ぶ弓兵の上で、1つの気配が身じろぎしたけれど。彼は気付くことなく、休眠状態に近い睡眠へと入った。
ゆるりと、身を起こしてランサーは不機嫌な顔で眠り始めた弓兵を見つめる。
どうしてここに来たかといえば、破格の報酬でランサーお気に入りの彼女が弓兵の世話を依頼してきたからだった。どうやら彼女は、この馬鹿なサーヴァントを1人きりにしたくないらしい。どんな手段でもいいからアーチャーの傍にいて。仲が悪いと知りながら。それでも手が空いていて良心的なサーヴァントって貴方しかいないから、と。苦虫を噛みつぶしたような顔で、彼女は言い放った。
苦笑して。「まあ、あいつは嫌いだが」と、ランサーは彼女の頭を撫ぜた。
「そんなに嬢ちゃんが言うんなら、引き受けてやるよ」
そう、引き受けたまではよかった。だがどうやって近付けばいいのかわからなくて、なんとも乱暴な手段に出た結果がこれだった。
あの弓兵がお人好しであることは知っている。無防備な姿を晒せば、追いだしたりしないであろうこともわかっていた。寝ているのか、だと? まさか。お前が入ってきた時点で、オレの目は覚めていたぜ。アーチャー。
赤い瞳をついと細めて、眠り始めた男を見つめる。
「憧れ、ねぇ」
なんだ、それは。
らしくない。素直にそう思った。
まったくもって弓兵らしくない。こいつはもっとふてぶてしくて、偉そうで、嫌みったらしい方がいい。その方が、わかりやすいのに。
「……お前、あの坊主なんだろうに」
自分のようなモノに、憧れて、どうするのだ。
衛宮 士郎という名の少年は、あまりにも普通だ。少しだけ特異な魔術をその身に宿す、ただの人間でしかない。自分たちというものは、世界の助けなぞ借りることなくこの域まで登り詰めたモノだ。『そう在れ』と望む、人々の心によって生み出された存在だ。元からして、在り方が違う。ただの人間として生きる道なぞ、生まれたその瞬間にはもうなかったのだ。
だが、こいつは、違う。
そう生きる選択肢もあった。どんな風にでも生きることができた。不格好で壊れていても、少年は自由だった。そんな、普通の、当たり前が。自分たちのような異常に焦がれて、どうするというのか。
一緒になれるわけがないのに。それでも、たかが人間の身で、この域まで辿りついたことは賞賛に値するけれど。代償はけして、安くなかっただろうに。
好きや、嫌いを。脇に置いて、ただ馬鹿だなぁと思った。
そんな風に憧れてしまうから、こんな風になってしまったんだろうに。
ぱさぱさの、傷んだ髪に触れる。最悪の触り心地だったが、これを嫌いにはなれそうにない。努力が必ず実るだなんて幻想を信じているわけではないし、頑張った人間にはそれ相応のモノをいう信念があるわけでもないが。
(なんなんだろうな。これ)
甘やかしてやりたい、だなんて。自分よりガタイのいい野郎相手に、なにを考えているのだろうか。
「――――」
名を呼びかけて、やめる。力なく膝に置かれている手をひょいと掬い上げて、やんわりと触れた。堅い手だ。戦う人間の手をしている。それに柔らかく指を絡めて、ランサーはゆるゆると目を閉じた。
まあ、なんだ。
これが女なら、添い寝して背中叩いてあやすんだけどなぁ。こいつ、男だしなぁ。
指先から伝わる体温は温かい。相手にも、そんな風に伝わっていればいい。ほんの少しだけ指へ込める力を強めて、ランサーは睡魔へと意識をゆだねた。
なにかに意識を引きずられて、目を開ける。
片手が、誰かに掴まれていた。といってもそれは悪意を感じるものではなく、優しさと甘ったるさの入り混じった、心地よいものだった。
あたたかい。
寝ぼけたまま、呟く。緩く絡み合わさった指に力を込めて、ほうと深く息を吐き出す。触れあった場所から、僅かに交感される魔力が心地よかった。自分のモノとは比べることもおこがましいほどの、高純度の魔力。触れているだけで、常に不足状態であった魔力が満たされていくような錯覚すら覚える。
(ああ、いいな)
安心しきって、ぬるま湯に身をゆだねる。
ああ、そうだ。眠らなければ。また、あの気難しいマスターに、おこ、ら、れ――――。
********************
家に戻った凛は、なんとも不思議な光景に出会い目を見開いた。
眠るアーチャーは、いい。いつものことだし、眠れと命じているのは自分なのだから。だがその片手は白い大きな手と絡められていて、ベッドはその持ち主であるアーチャーではなく槍兵に占有されている上に、まるで獣の親が子を守るようにランサーはアーチャーの傍で丸まって眠っていた。その片手を、アーチャーと繋げて。
常ならば、「わたしのアーチャーをなにたぶらかしてんのかしら?」とガントを放つところなのだが。あまりにも、眠るアーチャーの表情が穏やかで、安心しきっていたから。まぁいいか、なんて、ガラにもなく思ってしまったのだ。
「……おやすみなさい。わたしのアーチャー、それにランサー。
晩御飯になったら呼びにくるからね」
おそらくはこちらに気付いているであろうランサーのためにそう声をかけて、凛は部屋の扉を閉める。
いい夢を見ていればいい。たくさんつらい思いをしてきた馬鹿だから、この泡沫のような日々くらいは穏やかで幸せでもいいのだ。みんなに愛されて、幸せになればいい。そしてこの記憶が、記録が、座にいる彼の心の支えになればいいと心底願う。
(ああもう。狗なんかにわたしのサーヴァントがとられるなんて)
なんだか不満ではあるが、彼が幸せならそれでいい。
だけど、まあ。夕ご飯を麻婆豆腐にするくらいの嫌がらせは、許されてもいいでしょう?
白玉さま…ありがたいお言葉ありがとうございます! どんなお言葉を返すべきなのか、うまく言えないのですが、書いている側としては楽しんでいただけたのならば何よりです! ありがとうございます!! コメントありがとうございました!!