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【Web再録】腐男子エミヤの受難【5月新刊のアンケートあり】/Novel by 紫月@ついった在住

【Web再録】腐男子エミヤの受難【5月新刊のアンケートあり】

10,758 character(s)21 mins

クーエミの高校生パロ、エミヤが腐男子化しております
腐男子のエミヤが勘違いからクーに迫られるお話。

昔コピー本で出したのち、再録もしましたが、最近確認したところ、
サンプル(novel/9156751)にブクマをたくさんいただいていたので、Web再録します。

アンケートについて
少し先ですが5月31日の蒼天(大阪)で以下の本をまとめた再録本を出そうかと思っております。(スペース申し込み済み)

生のはなし(novel/12228757)完売済み未再録
私の推しが尊すぎてつらい(novel/11388749
クーエミAVパロ~バス痴漢~(novel/13300712
クーエミAVパロ~潜入捜査官編~(novel/15497169
You'er My Lord(novel/16500489)DomSub話

文庫サイズで160P程度、1000円程度の予定ですが、
なにぶんクーエミに出るのが久しいため、部数が読めません。
とらのあなに委託予定ではありますが、規約改定もあり、部数は刷れないなと思っております。
買ってやるよ、という方がおりましたらアンケートポチっていただけると助かります。

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 腐男子エミヤの受難
                   紫月 蓮




エミヤはどこにでもいる高校生だ。ごく普通の一般的な家庭に生まれ、普通の両親に、普通の兄弟、特出する特技と言えば、弓道が少しばかりうまく、両親の帰りが遅かったからと料理を弟たちに作っていたせいか家事ができることくらい。身長だって周りと比べれば高すぎず低すぎず。ただ、鍛えていたせいもあって筋肉にも少しばかり自信はあったが、とはいえ並外れているかと聞かれればそこまででもなく。
 そんなエミヤには、ひとつだけ、人には言えない趣味があった。特出することのないエミヤの、特殊な趣味。それが今のエミヤにとっての楽しみであるということは、言うまでもないだろう。

「おい、狗」
「犬って言うなって言ってんだろ!なんだよ、傲慢王」

 今日も今日とて、休み時間になればエミヤは席に座って本を読んでいるふりをしながらも、その男たちのことを目で追っていた。片方はエミヤと同じクラスのクー・フーリン、もう片方は、隣のクラスのギルガメッシュだ。二人は家が近所であるがゆえに昔からの馴染みであると、ある情報筋からエミヤは聞いて知っていた。
 そんな二人を観察するのが、実のところエミヤの楽しみであるのだ。

「貴様に名誉ある仕事を申し渡そう、国語辞書を貸せ」
「は?」
「狗ごときの辞書を我が使ってやると言ってるんだ、貸せ」
「忘れたなら素直に貸してくださいって言えばいいだろ…」
「ふんっ、忘れた?違うな、忘れてやったのだ!貴様に名誉をくれてやろうと思ってな!」
「うるせえよ!なら貸さなくてもいいな!」
「貴様は我が叱られてもいいというのか!」

 クーのことをギルガメッシュは犬のように扱う節があるのだが、二人のじゃれ合いはどちらも犬のようだとエミヤの趣味を知る少女が言っていたのを思い出しながら、エミヤは表情を一切変えることなく机の影で携帯を弄り、その少女にメッセージを送るのだった。

『ギルクーが今日も尊い』

と。そう、エミヤの特殊な趣味とは、所謂男性同士のそういう恋愛、ボーイズラブを見るのが好きだということ。エミヤは、大きな声では言えない、腐男子、という属性の人間だったのだ。

 どうしてそのような趣味に目覚めたのかと尋ねられたのならば、はっきり言えるのは幼馴染のせいだ、と断言できる。幼馴染である凛という少女はどういったきっかけか聞いたことはないが、幼い頃からボーイズラブを愛する腐女子だった。彼女が腐っていることを知ったのは、多分腐って間もないころの、まだ分別がつかない時期だった。こういうのが好きなの、ぜひ読んで!と渡されたのは当時はやっていた少年漫画の主人公たちが描かれた薄い本。少しばかり絵柄が違うことには疑問を持ってはいたものの、自分の知る漫画の主人公が描かれていることから抵抗なく借りてしまったそれを開いて、エミヤは衝撃を受けた。なにせ本来であれば友情を語るはずの二人が、手に手を取って、愛を囁き合い、あまつ口付けすらも交わしている姿がそこにはあったからだ。
 初めそれを目にしたとき、浮かんだのは嫌悪感。男同士でありえないという拒否感。だというのに、嫌悪と拒否の先に更なる好奇心が沸き上がってきた。初めは気持ち悪いとすら思えたそれに、幼いエミヤはまた手を伸ばしていたのだ。そして、気がつけば、凛からまた別の本を借り、それを熟読し、立派な腐男子へと変貌を遂げていたのだった。
 そんなエミヤに凛は満更でもなさそうな様子であったため、ハメられたのではないかという気持ちは残ってはいるものの、今ではこうしてクラスの仲のいい男子たちを眺めたり、男子更衣室で体格のいい男子を見つめたりしては悦に浸り、『生きるのが楽しい』と思える毎日であるので、深くは追究しないことにしている。

『今すぐ行く』
『まだ間に合う?』

 凛の知り合いの腐女子と組まれ他グループにはさっそく先ほどのエミヤの言葉に返事が返ってきており、それに既読をつけると、エミヤは再び顔を上げてギルガメッシュがクーから国語辞典を奪っていく様をじっくりと眺めるのであった。
 最近のエミヤのお気に入りは、クラスメイトのクーとギルガメッシュとの主従のようなやり取りからくる、ギルガメッシュ×クー・フーリンの妄想だ。二人はリアルにはいがみ合っているように見えるが、その実、ギルガメッシュがクーをほかの人にとられないように必死に囲っているようにしかエミヤには見えないのだ。
 クーも男性的ではあるものの、整った顔立ちはかっこいいというよりも、美人と呼ばれることの方が多い。
曰く昔はよく女の子に間違えられていたという話も耳にしているし、髪の毛の長さなども、一房だけ伸ばされたそれのせいか、どうにも中性的な印象を与えてくる。勿論それはエミヤだけの考えであるのだが。そんなところから、華奢な美少年受けが好きなエミヤは断然、クー受けを推しているのだった。

「いいわね、クーギル…」
「何を言う凛、あれはどう見ても好きな子に構ってほしい攻めからのアプローチだろう、どう見てもギルクーだ」
「私はクー士を推すんですけど…」
「桜は士郎総受けがいいだけでしょ」

 話をするというよりも、突然声をかけてきた言葉にもかかわらず、エミヤはその言葉に真面目な返答をする。それに対して、また別の少女が言葉を発するが、飽きれたような声が返されるだけだった。
 一人はエミヤをこの世界に引きずり込んだ張本人、凛。もう一人はエミヤの弓道部の後輩にあたる桜だ。桜もエミヤと同じく凛にその世界を開かれた一人ではあるが、中心に置くのは、エミヤの弟でもある士郎なのだそうだ。弟に対してそこまでの感情はないのでどういう対象に見られても気には止めないが、好きな男性を総受け扱いできる桜の今生はなかなかに据わっているなと少しだけ感心しているところはあるのは述べておこう。
 ただ、凛はエミヤを染めたのだが、エミヤとは趣向が一致しないことが多く、お互いにリバ可ではあるものの、推しているカップリングが逆であることは多々あるのだった。今回もいい例で、エミヤは俄然クー受け推しだというのに、凛はクー攻めを推している。どうにも相いれないため、こうして言い合いになることも少なくはないが、それはそれで楽しい時間となるので、険悪な雰囲気になるでもなく、同じ腐れ者同士の時間を過ごしているのだった。

「そこまでにしておけ、声が響いている」
「言峰!この狗が悪いのだ!」
「いやいや!俺のせいじゃなくて…!」

「言クーもありだな…」
「クー言ギルじゃない?」
「三人×先輩もいいですよね」
「せめて此処に連れて来い」

 大騒ぎをするギルガメッシュとクー・フーリンを眺めていると向こうからやってきた教師言峰の存在に、腐れ者たちは即座に反応をする。この二人に対して、どうしてか甘いような厳しいような、特別扱いは確実にしているだろうと言いたくなる教師であるがゆえに、妄想がはかどって仕方ないのだ。
 ほう、っと三人が熱い吐息を零したことなど知る由もなく、言峰によってクーとギルガメッシュの言い合いは収められていった。

「「「控えめに言って、最高だ(ね)(です)」」」

 そうして、熱い視線を三人で向けながら休み時間は過ぎていくのであった。


 そんなある日のことだった。放課後の弓道部の練習中、水を飲みにエミヤが弓道場を離れ、後者の影にある水道で顔を洗った後、水に口をつけていた時のこと。

「よう、エミヤ…。今いいか?」
「クー・フーリン?何の用だ?」

 不意に声をかけられ視線を動かせば、そこには制服姿のクー・フーリンの姿があった。クーも一応陸上部に所属していて、この時間は部活の時間では、という疑問が浮かびながらも、休憩のつもりで少し離れたこの場所を訪れていたエミヤは断る理由はなく、顔を上げる。
 内心ではいつも遠巻きに見ているだけで、特別仲がいいわけではないクーに呼ばれたことに、いつも邪な目を向けていることがばれてしまったのではないかとハラハラしているのだが、それを匂わせぬようエミヤは平静を保ったまま向き直った。腐っていることがバレればからかいのネタにされかねないことを知っているエミヤは、それこそ気が気ではなかった。己の趣味が常人から見れば常軌を逸していることは百も承知なのだ。
クーの表情はいつも気さくな男とは思えないほど硬いもので、真剣な話がこの後来るだろうことは感じ取っていた。だからこそ、エミヤの心臓は悪い意味でどくどくと高鳴っていた。

「お前さんさ、最近俺のこと、見てるよな…?」
「え?」
「最初は気のせいかと思ってたんだがよ…、こう、熱い視線を感じたときは、いつだって、その先にはお前がいた…。一度や二度じゃねえ、何度も、何度もお前はそこにいたんだ」

 あまりに真剣な声、真剣な眼差しで告げられた言葉に、エミヤは焦りが顔に出ないようにすることで必死だった。なにせ、見ていたことがばれている。それも、何度となく見つめていたことが、完全に本人に伝わっている。その視線の意味を見抜かれていたとしたら、この先に来るのは侮蔑だろう。
 気持ち悪い、やめろと、きっとそう言われるに違いない。
 浴びせられる罵倒に耐えられるかと瞳を揺らし、エミヤはクーから視線を逸らした。

「その顔、やっぱそうだったのかよ…」
「気持ち、悪いだろう…?」
「初めは、確かに悩んだぜ?でも、お前なら、いいって、ちょっと思えたんだ」
「は?君は、何を言っているのか自分で分かっているのか?」

 しかし、向けられたのは侮蔑ではなく、まさかの承認。本人からの承諾を得るということは、公式から認められたに相違ない。そんなことがこの世界にあるものなのか。確かに公式が黙認していることも、まして公式が腐った者たちを狙って爆弾を投下してくることも特別珍しいものではない。だが、大っぴらにボーイズラブ大歓迎!などと旗を掲げる公式が未だかつてあっただろうか。いや、エミヤの知る限りでは、NOだ。ありえない話なのだ。そのありえない話がそう簡単に転がってていいはずがない。きっと気の迷いか、腐への理解が不十分かのどちらかでしかないはずだ。

「分かってるに決まってんだろ。でねえと、こんなこと、言えるわけない…」
「そ、そうか…。それは、その…、ありがとう…」

 今まで男性がボーイズラブを好むなんてことはなかなかになく、某呟きの場で同じく腐を名乗る男子と話たことはあれど、リアルで分かってくれる相手が現れるとは思ってもいなかったエミヤは自然と礼を口にしていた。それが何に対する言葉なのかは分からないにしろ、何よりも気持ち悪がらないでいてくれたことには、感謝を言わずにはいられなかったのだ。

「えっと、つまり、それは、いいってことか?」
「は?何が…」

 いい、という言葉の意味を理解するよりも早く、クーがエミヤの腕を掴んでいた。
 何の話を、と呆気にとられる間もなく、急に引き寄せられたことに、エミヤは抵抗できぬまま、クーの傍に寄っていた。そして、燃えるような赤い瞳の中に自分の顔が見えた、と思ったその時には、唇に柔らかな、それでいて温かな感触が伝わっていた。
 キスをされている、と気づくよりも前に、やはり整った顔をしていて、それでいて、まつげも長い、などと考えてしまったのは、現実逃避ゆえだろうか。

「なっ!なにをっ…!」
「あ?だって、俺の告白、今受けただろ?」
「こ、告白!?いったい何の話だ!」

 気が付いたその時には慌ててクーの胸板を押して距離を取っていた。まさか、自分が男に口づけられる日が来ようなどと、エミヤは考えてもみなかったからだ。けれど、口づけた張本人のクー・フーリンは、拒まれたことが不思議でならないとばかりに目を瞬かせた。それどころか、告白などと言い出す始末。腐っていることを告白したのはエミヤの方であって、クーの方ではないはずだ。
 条件反射的に唇を拭うと、辛辣と言わんばかりの表情をしたクーと目が合った。

「だから、お前さん、俺に気が合ってみてたんだろ?」
「はあ?」
「いつも熱い視線、向けてただろ?俺も、お前となら、いいかな、と思ってだな…」

 気が合った、と言えば気はあった。しかし、それは好きという好意に違いなくとも、クー・フーリン本人を、ではなく、クーとギルガメッシュの二人そろってをみて、ボーイズラブを妄想するのが好きだっただけだ。エミヤは自分自身が男性に好かれたいだなどと思ったことは一度もない。

「いや、しかし、君にはギルガメッシュが…」
「なんでそこで金ぴか野郎の名前が出てくんだ?あいつとはただの腐れ縁、まして男同士…、って、俺とお前も男同士か…」

 焦っていたに違いはないが、エミヤはクー・フーリンとギルガメッシュが付き合っている前提でしか見ていなかったために、そこに横恋慕するような自分の存在への疑問しか浮かばない。そもそも、エミヤの中でクーは右側、つまり言い方は違えど彼女的な側にいると思っている。そして、エミヤの妄想の中で、クーが浮気などあり得ないのだ。
 そんなことを混乱する中で考えているなどとクーは知るわけもなく、困ったように頭をガシガシと乱暴に掻いていた。

「お前さんなら、いいと思ったんだよ」
「なっ…」
「だからよ、俺と、付き合わねえか?」

 罰が悪そうにしながらも、照れているのか耳まで赤く染まっている。恥ずかしさから視線が方々を向いているのが、混乱するエミヤからでもわかった。
 こういう男性同士の告白のシーンを今まで一度でいいからリアルに見てみたいと、エミヤはそう願っていた。確かにそう願っていたのだが…。

(自分がされることを望んだんじゃあない!)

 思わず叫びそうになるのをこらえて混乱する頭の中で言葉に詰まりながらも大きく息を吸い込んだ。
 そして、言葉を発するなり、エミヤは弓道場へと走り出してしまったのだった。


*******


『で、結局どうすんの?』
「あぁぁあああああ、何故、何故私は、あそこで断らなかったんだぁぁ…」
『むしろそれでいいです、この先が楽しみですね!』
「楽しくない!明日どんな顔をして彼に会えばいいというのだ!」

 クー・フーリンは呆気にとられたのか、弓道場へと走り去るエミヤを追いかけてくることはなかった。そして、帰り際に待ち伏せているということもなく恐る恐るながら帰宅したエミヤは今日あったことを赤裸々に腐ループの会話へと投下すると夜に通話をすることを求められてしまった。
『kwsk!』
と書かれた返信を見たときには、これは確実に楽しんでいるなと思ったが、案の定二人は嬉々とした様子で、声だけだというのにニヤついていることが手に取るようにわかった。反面エミヤは自室のベッドの上で頭を抱えながらも、断ることをしなかった自分を悔いていた。
 あの時、告白の返事を迫られたエミヤは、思わず

『お友だちからで!』

などという決まり文句を吐き捨ててその場を後にしてしまったのだ。しかも断りの決まり文句ではなく、少しばかり相手に期待を持たせるような捨て台詞を言ってしまった。無理だと、ダメだと言えばよかったというのに、腐っていなくとも、告白のセオリーなど妄想の世界しか知らないエミヤは、断るセリフが簡単に思い浮かばず、その時言える精一杯の拒絶台詞を吐いたつもりだった。
 しかし、思い返してみるとそれではいけないことに気がついて、頭を抱える始末。しかも、腐った仲間には楽しまれ、エミヤの味方はだれ一人としていない。改めて断る言葉を考えてほしかったのだが、凛と桜に期待したところで、面白そうだからもう少しこのままで、と言われるに決まっていることは目に見えていた。

「あぁぁ…、明日、休みたい…」
『『駄目よ(です)』』

 エミヤの心境を知ってか知らずか、少なくとも現状を楽しむ気満々な二人からの、明日学校に来ないとどうなるか分かってるだろうなという威圧感の漂う雰囲気に、エミヤは痛む胃を押さえながらがっくりと項垂れるのだった。



 翌日、ため息交じりにも何かしていないと気が済まないエミヤはいつものごとく家事に勤しみ、肩を落としながらも学校へと登校しようと家を出た時だった。

「よう、おはようさん」
「クー・フーリン…?何故ここが…」
「あー…、坊主に、えっと、士郎、だっけ?あいつに教えてもらった」
「どういう繋がりだ…」

 門の前には見慣れた青い髪の男が、エミヤの姿を見るなり、それはそれは眩しい笑顔でこちらへと話しかけてきた。その姿にエミヤは目を見開く。確かにクラスメイトではあるものの、今時は個人情報がどうと言われ、住所などは簡単に分かるわけがない。何故、という疑問は、弟の名前が出たことで解消されるが、クーから何故その名が出るのかと睨むような視線を送ってしまう。

「いや、色々とな。気になるか?」
「別に…。それで、何の用だ?」
「なにって、一緒に登校しようかと思って?あ、それ弁当か?お前さんが作ってるんだってな?」
「それも聞いたのか」
「ご名答」

 弟の交流関係をすべて把握などしているわけもないため、同じ学校に通っている以上交流はあってもさして不思議がることではない。お人よしを地で行く士郎が何をかを言われてクーに住所を教えたであろうことは想像に易かった。それを改めて聞くほどエミヤの神経も図太くはない。できれば会いたくないと思っていた相手に朝一からあって、どんな顔をすればいいか分からず、返答もどうしてもぶっきらぼうになってしまうのは、距離感が図れない。
だが、それと同時に、好きになった相手の家に朝から一緒に登校したい、などとアプローチしてくるなんて、何処の二次創作だ!萌のツボ押さえすぎだろう!と思わず叫びそうになるオタク心を必死に押し殺して、にやけないように必死になっていることをクーに諭されないようにするのに、エミヤは必死だった。
 だが、クーは持ち前の気さくさを持って先を行くエミヤの後ろを当然のようについてきて、声をかけてくる。エミヤが手にしている通学用のカバンとは別のそれを目ざとく見つけると楽しげに覗き込んできた。

「なあ、俺にも作ってくれよ、弁当」
「何故…」
「いつもパンとか、コンビニ飯ばっかりでさ、たまには手料理ってやつが食ってみたいの」

 思いもよらぬ提案に通学鞄を握る手に力が入ってしまう。もちろん、怒りではなく、萌え故に。好きな相手に手料理作ってほしいと頼むわんこ系男子、可愛すぎか!と叫びだしたくなる気持ちを必死にこらえてのことだ。そわそわと窺うような様子のクーの背中に尻尾が見えてしまうのはきっと幻に違いないと必死に自分を諫めながら、エミヤは足を進めていく。

「栄養が偏るだろう…」
「そ、だから、な?一回でいいから…」
「なんだ、一度でいいのか?」
「へ?それどういう…」

 どうにか会話を成り立たせねばと聞こえた単語から連想した言葉をエミヤは必死に紡いでいく。それは返答としては正解だったようで、安堵しながらも、一度だけでいいなら考えてもいいかと考えてしまった。これが推しの攻めキャラから受けキャラへのアプローチだと思えばなかなかにいいシチュエーションだと思ってしまったのが間違いだったのだろう。

「まあ、考えといてやろう…」
「やりい!楽しみにしてる!あ、それよりさ…」

 嬉しそうに笑う、自分好みの整った顔の男が目の前にいて、何故邪険にできると思ったのだろうか。
 あれよあれよという間に、エミヤは学校にたどり着くまでの時間の間に、弁当を作ってくる約束をさせられたうえ、連絡先の交換までしてしまっていたのだった。
 わんこ系男子、恐るべし…。
 自分の席へと付いてやっとクーから離れたエミヤは、ただそれだけを呟いて大きな溜め息と共にどっと疲れた体を机に預けるのだった。



「どうしたら断れると思う?」
「もう腐ってることカミングアウトして、正直に言うしかないんじゃない?」

 その後、今朝一緒に登校してきたところを桜に見られていたために、昼には凛に呼び出され、朝の出来事を根掘り葉掘り聞かれる羽目になり、ただでさえ休み時間にはクーにまとわりつかれて大変だったというのに、気の休まる場もなく、エミヤは大きく溜め息をついた。
 さすがの様子に、あまり面白がってもと思ったのだろうか、メモ帳にネタとして書くだけ書かれたのち、凛は肩を竦ませて正論を突き付けてきた。

「熱視線向けてたことがそもそもの誤解の始まりなんでしょ?それは嘘じゃないけど、そういう意味じゃなかったって言うしかないでしょ」
「貴方でBL妄想してました、と?本人に直接?言えるわけない…」
「でも、他に方法ありますか?」

 同じ男であるから余計に分かる。自分が他の男と愛し合っている妄想に使っていました、などとカミングアウトされたら、それこそ気味が悪い。けれど、それを言わなければ、熱を持った視線を向けていたことへの説明がつかないということも分かる。気味悪がられるかもしれないし、距離を置かれるかもしれない。下手をすると自分が腐っていることを言いふらされるかもしれないことを思うと、乗り気にはなれなかった。

「せめて、言いふらされないようにお願いしましょう」
「聞いてもらえると思うか?」
「向こうだって男に告白した、なんて弱み持たれてるんだから大丈夫でしょ」
「確かに、そう、だな…」

 このまま好意を持たれて話しかけられるのもとても申し訳がない。なにより、休み時間の度にエミヤを構ってクーが今日はギルガメッシュと話していないという事実が、エミヤには辛くてたまらなかった。自分に向かってこられたところで何も美味しくはない。むしろ自分は傍観者だ、言うならば壁でいい、空気でいい、恋愛当事者になりたいわけではないのだ。
 言いふらされる恐れはお互い様であるなら、誤解を解いてもいいかもしれないと、凛と桜の後押しに、クーに構われることへの居心地の悪さ、今日の萌え供給の少なさも後押しして、エミヤは真実を打ち明けることを決意するのであった。


*******


「んで、話って?」
「君に、言わなければならないことがあるんだ…」

 善は急げとその昼のうちに交換したばかりの連絡先に、放課後に話があると送れば、ほんの数分で返事がきた。あまりの早さに、これが自分でなければ好きな相手に必死になるクー、萌える!と思えるのにと口惜しく思いながらも、約束を取り付けて緊張に押しつぶされそうになるのを深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
 さすがに立ち合いがばれるとと、凛と桜は隣の教室で事が済むまで待機してもらっている。何かがあれば来てくれることになっている、はずだ。

「実は、私は…、私がずっと君を見ていたのは…、」
「恋愛的な意味じゃねえってんだろ?なんとなく分かってぜ?」
「え?」
「それも承知で話してんだよ。ただ、真剣に考えてほしいんだよ。お前が、エミヤ自身が、俺と付き合うのはありなのか、なしなのかってのをさ」

 思い切って口を開いたその時、それを止めるようにクーはエミヤに近寄り、その唇に指を立ててその先を口にすることを押しとどめた。思ってもいなかった言葉に、エミヤはただ目を見開くほかなかった。
 夕陽の差し込む誰もない教室の中で、赤い日の光に照らされたクーの青い髪が鈍く光る。夕陽の色は赤だと思っていたが、その実、オレンジ色なんだなと、クーの宝玉のような赤い瞳を見て現実から考えを逸らすようにエミヤは思った。迫ってくるクーの顔がそこまで瞳が見つめられる位置にまで来ていることを現実として受け止めた頃には、エミヤは黒板にまで迫られ、所謂壁ドンというものをクーにされている状態だった。

「君と、私、が…?」

 考えたことはなかった。いつも誰かの恋愛を応援したり、妄想したりしてばかりで、自分が恋愛するということなど。まして、自分が迫られる側になろうことなんて。可愛らしい女性と付き合うことすら考えたことはないのに、まして男相手でなど、現実で考えるはずもなかった。

「あー…、とりあえずよ、嫌悪感はあるか?」

 いきなりすぎる質問だったとクー自身も思ったのだろう。エミヤからの距離を離すことはなかったが、答えにくいという自覚はあったようで、視線を彷徨わせると、呟くように尋ねてくる。その答えならばある、クーと付き合えるか、とは考えたことはないが、男同士の恋愛に対する嫌悪感などあるはずもなく、むしろ大好物だ。そこまでは言えるはずもなく、エミヤはただ静かに首を横に振った。

「そうか…、なら、まだ俺にもチャンスはあるな。なら、お前からの話ってのは待った、だ。もう少し俺に時間をくれよ、そんで、絶対お前に好きって言わせてやるから」

 耳に届く言葉の意味がよく分からなかったが、断ろうとしたことを封じられたことと、昨日に引き続き、唇を奪われてしまったことだけは、エミヤにははっきりとわかった。
 誰もいない教室に、くちゅりと唇が離された音が響き、そして、満面の笑みを浮かべたクー・フーリンが夕日を浴びて笑っているのが見えた。

「弁当、楽しみにしてる。じゃあ、また明日な」

 言うなり、クーはエミヤから身を離し黒板についていた手も退けてそのまま教室の扉を出ていってしまった。バクバクと心臓の音が鳴り、夕陽ではなく、赤く染まったエミヤをそこに置いて。クーが出ていった後、エミヤは壁沿いにそのまま床に座り込み、薄い自分の唇を指先でなぞる。
 未だかつて、どんなに萌える話を読んだ時でさえこんなにも胸が高鳴ったことはなかった。ならば、この痛いくらいの心臓の音は何なのか。エミヤには分からないまま、扉を開ける音を聞いて隣の教室から凛と桜がやってきても、うるさいくらいの音を立てる心臓を抑え込むように服を握りしめた。
 どうしたいのか分からぬまま、エミヤは次の日、クーに弁当を作っていき、なおさら惚れられるのだと知るのは、もう少し先のお話。



 腐男子が本当のボーイズラブに出会うまで、
あと  日。


終わり

Comments

  • 桃瀬
    Mar 18th
  • Mar 16th
  • クラモト
    Mar 16th
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