「彼1人に刑事責任を負わせるべきか」
被害患者は手術後、足の麻痺のほか、膀胱直腸障害の影響により生涯おむつを強いられることとなった。神経切断の影響により、下半身に突然の痛みやしびれが起きるのだという。そんなとき被害患者は、顔を歪め「こんな身体になるんやったら殺されたほうがましやったわ」とか「安楽死できる方法ないかなあ」と訴えるのだ……と、長女は声を詰まらせながら陳述した。
弁護人からの質問で松井医師は、被害患者の親族による漫画『脳外科医 竹田くん』がインターネット上で話題になったことから自身がモデルだと特定され、転職先の病院では「クレームの電話がきたり、患者数が減少したり……」といった影響が及んでいたことについて言及していた。
しかし、その後X上に「脳外科医 竹田くんのモデル」というアカウントを立ち上げ、閲覧者に対してアンケートを取るなどしていたことを検察官に追及されている。このアカウントでの発信も、家族を苦しめているようだ。前出・被害者の長女はこう語る。
「“『脳外科医 竹田くん』がバズって起訴された”と投稿し、まるで被害者家族が描いた漫画が原因で起訴されたという主張をしたり、A医師や家族に対して、侮辱的攻撃的な投稿を繰り返しています。そればかりか被害者側を一方的に責めたて誹謗中傷を繰り返すアカウントの投稿に感謝の気持ちを綴るなどの行為を1年以上にわたって続けています」
論告弁論において、検察官が禁錮1年6月を求刑したのち、弁論が行なわれた。弁護人は法廷大型モニターに、事故が起こる15秒前からの動画を複数回上映しながら、被告ではなくA医師の責任を繰り返し主張した。
「ドリルが上方に滑走し、神経を巻き込んだ。それが直接の原因。目視が困難というのは事故の直接の原因ではない。原因はスチールドリルを使用し続け、滑走させたこと。この状態でスチールドリルを使用するように指示したのはA医師です」
「本件は松井さんの過失が原因で重大な被害が発生した。それは紛れもない事実です。しかし彼1人にその刑事責任を負わせるべきか? 決してそうではありません」(弁論より)
判決は3月12日に言い渡される。また松井被告は、被害患者の長女や『脳外科医 竹田くん』作者である被害患者親族、そしてA医師を名誉毀損で刑事告訴していた。漫画で名誉を毀損されたというのである。しかしこれは、2月20日付で不起訴処分となっている。
【了。前編から読む】
◆取材・文/高橋ユキ(ノンフィクションライター)