【Fate】人魚姫にブレイドを【まどマギ】
ストレスを感じると人間色んな現実逃避をし始めるものです。
過去のストックから、身内にだけ見せた、Fate/stay nightとまどか☆マギカのクロスオーバーです。
一応まどマギ本編ネタバレ?のような感じがしますので、ご了承の上ご覧くださいませー。
あ、今回も私の贔屓によりアーチャーとランサーはセット扱いです。
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恋情の境目に心が、そして魂の境目に扉がある。
「あたしって、ほんと、バカ……」
呟きながら意識が遠のくのを感じる。
どうにかしたいと思った。だって、こんなことのために魔法少女になったんじゃない。
こんなことのために、願ったわけじゃない。
二人で一緒に聞いた歌では、幸せになるために生まれてきたのと、女も男も謳っていたのに。
奈落へ落ちるのは一人だけ。私だけが人間ですらなくなって消えていく。
恭介を治して、見返りが欲しかったわけじゃない。ただ、私を見て欲しかっただけ。
それが見返りだというのなら、私の祈りはなんだったのだろう。
献身か、あるいは声なき脅迫だったとでもいうのか。
ソウルジェムが砕ける。曝け出されるのは汚らしい私の本性。
恋慕のあまりに選択を誤り続ける、独善的な女が魔を孕んだ、その証。
「さやか――――!」
私より少し賢かった魔法少女の声がする。
あんたには届くかな。私がこうなりたくてなったわけじゃないってこと。
本当は、本当は……死にたくなんて、なかった。
奈落にもうすぐ届くだろう。思考をまわせるのもあと少し。
ああ、恭介。まどか。最後にあんたたちの顔が見たかった。でも、これから汚らわしい姿になるのを、見られなくてよかった。
好きな人には、綺麗な顔だけ見てもらいたいじゃない。
だからできれば、私が魔女になっても、できれば誰にも見られずに。
綺麗な顔で、死ねたらいいな。
……………………。
死にたくない。魔女になりたくなんてない。こんなことになるなんて知ってたら。
魔法少女になんて、なるんじゃなかった。
ねえ恭介。奇跡なんて、なかったね。
「奇跡の代わりに、運命は如何かな。お嬢さん?」
今まさに弾け飛ばんとしたグリーフシードを、無骨な手のひらが包み込んだ。
不思議なことにたったそれだけのことで、魔女への進化は止まった。
力の入らない視界の中で、己の手をとった相手が微かに見える。
大きな手のひら。黒い肌。白い髪に……顔のパーツなんか細かいところはわからないのに、笑ったことだけは何故かわかった。
「宇宙規模の話など、それこそ今進出している輩が片付ければ良い話。一介の中学生が背負うものではない」
冷たくも暖かくもない手のひらは、孵化しかけたグリーフシードを、どこからともなく取り出した赤い布でぐるりと巻いた。
そして地面へ転がっていた体を抱き上げて、柔らかく抱きしめた。……今まさに魔女になろうとしていた、私の体を。
「君にも家があるだろう。家族もいるだろう? 友達だって、いるだろう。たとえ恋が破れたとしても、人は生きていけるんだ。君を愛す人がいる限り」
だから、と抱き上げられた高い視点に首を傾げる私の耳元で、その男の人は囁いた。
「こういう戦いはな。後のない人間に、そうだな、私みたいな馬鹿な男に任せておくものだ」
私の名を呼びながら、吹き飛ばされかけた杏子が駆け寄ってくる。
その細い腕に赤い布でくるまれた私を抱き取らせて、大きな手の持ち主は遠ざかっていく。
背中に感じていた体温は、いつか病院で触れた恭介の手よりも暖かかったような気がして、失うことが惜しかった。
「アンタ……何者だい?」
魔法の恩恵を受けて軽々と私の体を抱き上げた杏子が、胡乱気な眼差しで私の背後を睨み上げている。
困ったような、疲れたようなため息の篭った笑い声が、ほろりと耳に届いた。
「さて……なんと名乗ったものか。今更正義の味方も白々しいし」
そのとき、男の背後でごとりと音がした。ぞわっと背筋を冷やす感覚。これは、いつもの。
「退きな、アンタ!」
咄嗟に杏子が私を抱きかかえたまま多節槍を取り出した。だが男は動かない。
私も、動かない体をどうにかしようと腕を動かした。だが、その腕を固定するかのように巻かれた赤い布が邪魔をする。
グリーフシードの気配が強くなる。ぞくぞくと怖気が走る、何の力も持たなかったころは逃げ出したかったその気配。
だけど、男は動かない。まさか、気づいていない――――?
「ふむ。これが魔女の気配か。しかし……」
微かに後ろを振り返る男の上に影が差す。いや、その前に私たちの頭上を飛び越えて行った何かがいる。
「オレたちが倒しちまっても、いいんだろ?」
男の背中を守るように、こっちへ背を向けて降り立った人間がいる。
杏子のように槍を持った、いや、杏子のものとは比べ物にならないほど異質な存在感を放つ槍を持った男。
「インキュベーターなどを看板にしているような輩に星上を好き勝手されてはたまらんのでな。そろそろ始末しようということだよ」
笑いかける男の顔が、やっとはっきり見えてきた。
白とも灰色ともつかない、不思議な色合いの目がぎらぎらと光っている。唇には笑みを刻んでいるのに、友好的な印象なんて欠片もない。
昔、まどかと一緒に読んだ小説にあったっけ。笑顔は威嚇の表情だって。
「惑星はインキュベーター側を異物と判断し、排除するための機構を動かし始めた。私たちはその尖兵だ」
「まずは魔女を片付けてから、ってことだがな。ああ、もちろん必要ならグリーフシードは嬢ちゃん達のために獲ってきてやるよ」
振り返った槍の男の目は鮮やかな赤。杏子のソウルジェムよりも赤いその輝きに、不吉な威圧感を覚えてやまない。
そういえば、私を包むのも、最初に抱き上げた男の服も、多少色合いの差はあれど全て赤だった。
「さあ、ここからは少女ではなく大人の時間だ。すまないが、演目を変えるよ」
「悪く思うなよお嬢ちゃん達。魔法使いの戦いに、魔法少女はちと厳しい」
音を立てて広がる結界に飲み込まれながら、男達は笑った。
警戒し防衛を考える杏子をよそに、意識しているのは背後の魔女の気配だけ。
「君たちの事は、後から来る面子に任せておこう。一番槍を逃すわけにはいかないからな」
「じゃあな。良い子で待ってろよ」
「アンタ達は何なんだ!」
立ち去りかけた男達に、たまらず杏子が叫ぶ。
険しい表情を隠さない杏子と、何事かまだわからなくて呆然としたままの私に、男達はどこか悪戯っぽく笑って。
「言ったろ。魔法使いだって」
そして結界の奥へ、飛び込んでいった。