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【Fate】学ばぬ鈴【槍弓】/Novel by 戚

【Fate】学ばぬ鈴【槍弓】

4,493 character(s)8 mins

現代パロです。別にできてもなんでもありませんが、野郎二人がメインなので槍弓ってしておきます。
肩に手が触れたらヤオイですよっていう時代基準で動く、そんなカエルでございますよ私は。
最初のコンセプトは槍と弓の生きた年代を古代現代交換したらどうなのかしら、と考えてたはずが、途中で猛烈なる尿意と睡魔に襲われたため膀胱様の啓示により、こういう流れと相成りました。携帯メール機能で打ったため、多少前後の繋がりが雑です。ご了承ください。

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 ここに、命を知らぬ塊がいる。


 彼がそれを譲り受けたのは、所謂義理人情というしがらみからだった。
 なんでも、曰くつきの古い鈴だそうで、譲ってくれた(正しくは押し付けてきた、だろうが)バイト先の先輩も、なんだか夢見が良くないから預かってくれと言っていた。
 幸か不幸かそういうオカルト的なものを今に至るまで一度として遭遇したことのないランサーは、半分馬鹿馬鹿しいと思いながらもその鈴を受け取ったのだ。
 鈴自体はやや無骨な外見ながらも涼やかなチリチリという音を聞かせるもので、なかなか悪くはないと思って財布につけることにした。
 これで財布を落とすこともなくなるだろうと考えたランサーだが、実は落としたのではなく家主に財布ごと家賃を徴収されている。
 意識的にかそれとも無意識にか家主の関与を気づかなかったことにしている彼だが、暫くの間は何も起こらなかった。
 強いて言えば夜のバイトに行く途中で事故にあいかけたが運良く巻き込まれずに済んだとか、痴漢に間違われかけた時に他の乗客に人違いだと助けてもらったくらいだ。
 そのいずれも、鈴を落としたとか、鈴の音が気になって見ていたからだとか、鈴が関与していたことに気づいたのは暫く経ってからのこと。
 はっきりと鈴が不可思議なものであると認識し出したのは、ある夢を見てからである。


 その奇妙な夢の中では、ひとりの男が出てきた。
  老人のように白い髪をした黒い肌の男は、夢に見る限りいつも歩いていた。
 殆ど立ち止まることもなく、時には走り出すことすらある。
 どう見ても体力的にはとっくに限界を迎えていて、肩どころか全身で呼吸するような状態がいつも続いているのに、男は歩き続けていた。
 そのうちランサーはたまには立ち止まればいいのにと考えるようになり、男と行き交うたくさんの人たちも、言葉を尽くして男に説いた。
 そんな風に生きていては疲れて死んでしまうだろう。たまには立ち止まって、時々は後ろを振り返りなさいと。
 だが男は聞こえない振りをして、時には言い返した。
「私が立ち止まって後ろを振り返っている間に誰かが死んだら、きっと私は私を赦せない」
 反論されたうちの何人かは、それは君のせいで死んだわけではないだろうと宥め、また別の何人かは神にでもなったつもりかと憤怒した。
 そのいずれも平等に、男の頭には届かない。
 やがて行き交う人も減っていき、同じ方向を目指していく人もいなくなる。
 それでも男は歩き続けていた。
 そして気がつくと、反対側から歩いてくる人間が出てくるようになった。
 中には駆けてくる人間もいるその方向は、須く男に手を伸ばす人間ばかりが来るようだった。
 手を伸ばし顔を張る人間もいれば、凶器を手に襲ってくる人間もいた。
 その全てをかわし、時には返り討ちにしながら、男は歩き続ける。
 目は据わり、頬はこけ、身体も傷だらけのボロボロになりながら、男は覚束ない足取りで歩いていく。
 そこまでして男が目指しているのは何なのか、何日も何日も夢に見ながら、やがてランサーはそれを見たいと思うようになった。
 命懸けで一体なにがそんなに焦がれているのか、男の行く末が見たいと純粋に気になった。
 しかし夢が終わったのだとわかったのは、ある女が男の反対側から歩いてきた日のことだった。
 女はかつて男と同じ方向に歩き、男を諭し、やがて離れていったそのうちの一人だった。
「ねえ。まだ歩くの?」
 ああ、と男は息を吐き出した。もう声を出す余力もないのだ。
 そのくせ、前に進むことだけは忘れずにどんどん女に近づいていく。
 女は長い黒髪で顔を覆うように一度俯くと、ゆっくりポケットから手を引き抜いた。
 その白い指先で、チリチリと小さな鈴が揺れている。
「本当に、止まれないの?」
 女がもう一度聞いたが、男はもう答えなかった。無言で距離だけが狭まっていく。
 女は諦めたように手を握り込むと、すれ違い様に男の胸をその細腕で貫いた。
 出来の悪いホラームービーのように呆気なく貫かれた男は、だらだらと唾液混じりの血を口から垂れ流して立ち止まった。
「貴方の願いだけ、持ってってあげるわ」
 だからもうおやすみなさい、と言った女が手を引き抜くと、木偶人形のような男は地面に落ちた。
 打ち捨てられた残骸を見下ろしながら女が真っ赤に染まった拳を開くと、白い手のひらの中でチリチリと鈴が鳴いていた。


「なんだこれ」
 夢から目を覚ました彼の第一声はそんな言葉だった。
 布団の横には携帯と財布と鈴が転がり、チリチリと朝を告げている。
 特に冷や汗をかいたわけでもなく、ただ変な夢を見たなという実感だけが現実に残る。
 曰くつきだなんて聞かされたものだから、無意識にそういうものだと夢を捏造してしまったのだろうか。
 しかし全てが単なる夢だと笑い飛ばすには、長々連続して見過ぎた。
 既にランサーは男の顔も声も名前もはっきり覚えてしまっているし、男がどんなことをして殺されたのかもわかっていた。
 男はただ、目の前にいる不特定多数の誰かを助けたかっただけなのだ。
 ただ後先も考えず、より善良でより多くの人間を助けたかっただけなのだ。
 それが何を生むかも知らず、救いを膿ませることに気付かない男には、命というものがわからなくて、ただ生きていればそれだけでも素晴らしいという最低水準に縋ることしかできなかった。
 そして命を知らない男は、当たり前のように自分の中にも命があることを理解できなくて。
 多くを助け、多くと歩み、多くと別れ、多くに追われ、そして最後の最後まで多くを失った人生だった。
 夢の中の女の言葉を信じるならば、その欠片がこの鈴だということになる。
 平々凡々な現代社会を生きるランサーにとって、夢の中の男と女は文字通り夢物語のような存在だ。
 オカルトなんて信じてないし、家主が信望する世界宗教の神も今のところ信じられない。
 それでも夢の中身が中身だっただけに、傍らにある鈴が何となく異様なものに感じられて、そっと手を伸ばして財布から取り外した。
「別に怖くなんてねーし」
 単に夢見が悪かったから気分転換だ、と自分に言い訳をしながら家を出た。今日も朝からバイトがある。
 そういえば鈴をくれた先輩も同じシフトに入っていたはずだ。
 夢について、もしかしたら何か知っているかもしれないと、心密かに考えながら横断歩道で信号待ちをしていた時だ。

 足元で、チリチリと有り得ない筈の音が聞こえた。

「え」
 咄嗟に数歩後ずさり、音の正体を確かめようとした時だった。
 乗用車が、凄いスピードで目の前を通過していった。数瞬遅れて、重たいもの同士がぶつかり合う破砕音が耳に届いた。
「おいアンタ、大丈夫か!?」
 たまたま後ろに並んでいた同じ信号待ちの人間に肩を掴まれて、ようやく自分が牽かれる寸前だったことに気付き血の気が引いた。
 しどろもどろになりながら駆けつけた警官に状況を説明したりしながら、どうしても鈴の行方が気になって尋ねた。
 しかし聞かれた警官は首を傾げながら、
「そんなもの、現場に残ってたって報告はなかった」
 と答えた。
 それ以上聞くことも何となくはばかられて、事情聴取が終わるとそのままランサーはバイト先に顔を出した。
 仔細を報告していた上司はランサーの顔色を見るやいなや帰宅するように促したし、先輩も気まずそうな顔でそれを後押しした。
 職場全体から帰れコールを出された以上、従うしかなかったランサーは、自分の部屋へと舞い戻った。
 部屋は出て行った時のまま、鈴も枕元に残っていた。
 きっと夢見が悪くて寝不足だったから、幻聴なんかが聞こえたのだろう。
 そんなことを呟きながらランサーはベッドにダイブした。もう今日は何もしたくない。
 たった今死にかけたのだということを頭が理解してたまらなくなる前に寝て忘れようと、無理やり目を閉じた。


 そしてまた、夢を見た。
 赤い髪に金色の目のガキが、しゃがみ込んでランサーを見ている。
 その視線が煩わしくて寝返りを打ったが、ガキはじっとただ見ている。
「……もう死にたくなんかならないか?」
 ぽつりとガキが落としたのは、物騒極まりない問いかけだった。
「……最初っから死にたくなんかねえよ」
 思わず憮然として反応してしまい、ランサーはしまったと思った。
 夢や寝言に反応すると良くないというのは、果たして迷信だったか否か。
「うん、アンタは強いからね」
 だから俺が守らなくても良さそうだったんだけど一応、と言いながらガキが立ち上がる。
「どこ行く」
 何故か咄嗟に聞いていた自分に、ランサーは顔をしかめた。
 見も知らぬ不躾なガキに向けるにしては、やたら未練がましい声を出してしまったからだ。
「次の人に行くんだよ」
 立ち上がったガキはなんだか背が伸びたのか大きく、そして逆光のせいか、髪が褪せて見えた。
「死にたいだとか、生きる意味がないだとか、そういうことを抱える人に会いに」
「どうして」
「そうすれば私が何か学ぶだろうと、魔女が言ったから」
 ガキは大人になり髪は白く褪せ、肌はすっかりくすんで黒くなっていた。まるで夢で死んだ男のように。
「死にたいと祈る願望と生きたいと叫ぶ本能の境目に、私が学ぶべきものがあると魔女が定義づけたから」
 行かねばならぬと男が言った。もう顔は見えない。背中だけが寝転がり起き上がれないランサーに向けられて。
「生きていることは、素晴らしいだろう?」
「……ああ」
「なら良かった。私の存在も無駄ではない」
 ではさようなら、と歩き出した男の足首を咄嗟に掴んで引き留めた。
「……お前は」
 怪訝そうな顔で振り返る男に、言葉を探しながらランサーは聞いた。
「お前は、何をしたいんだ?」
 問いかけに驚いた男は、しかし仄かに笑うとあっさり答えた。
「ひとを、たすけにいく」
 そこに含まれているはずの自分自身にまだ気付かない、愚かな鈴がチリチリ鳴く。
 掴んでいた足首を離すと、男は再び歩き出した。首にチリチリ喚く魔女の願いを括り付けて。
「さあ急いで次へ向かわねば。生きたいと願うようになるように――」
「バカな奴だな」
 果たしてランサーの声が届いたかどうかわからなかったが、男は立ち去った。
 そしてランサーが目を覚ました傍らには、タイヤに踏まれたような跡がくっきりついた鈴がひしゃげて転がり。


  鈴はそれきり、一度もチリチリと鳴ることはなかった。



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