【腐】犬猿の仲という間柄につき【Fate】
某友人の誕プレ用に書いていたもの。ずっと渡せず仕舞いだったので。 ■遅くなって本当に申し訳ない。すみません。反省してます。(´;ω;`) こんなものでよければ貰ってやって下さいまし。 ■一応気休め程度に解説。五次槍→→←←五次弓で現パロ槍弓。1話から2話です。おそらく全3話なので気が向いたら再会編も書くかも。たぶん。Maybe。Perhaps。
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冷たい。
まず頭に浮かんだのは、そんな言葉だった。
春立ちぬ、とは言うが寒さまだ去りやらぬ季節である。いつまでもこんなところに寝転がっていては風邪をひくだろう事は容易に想像できた。
痛む身体を無理矢理起こして息を付く。
まだ、春は遠い。
1.この儚いものの名を
彼への思いに気付いたのは、まだ高校に入学したての頃。今よりずっと暖かくなって桜の散り始めた季節だった。
きっかけが何だったのかは覚えていない。おそらく“その程度の事”はどうでも良かったのだろう。彼への思いを自覚したというその事実が、あまりに残酷だったから。ここまで希望の無い話は他にあるのだろうか、と思えるほどに。
「また喧嘩か。全く、飽きもせずよくやるな」
冷たいアスファルトの地面に座り込んだまま声の主を見上げた。
白い髪に褐色の肌。憎たらしいほど生真面目な表情を貼りつけた男は、侮蔑の目を隠そうともせずこちらを睨みつけている。
「クー・フーリン、貴様の辞書に自重の文字はないのか」
「るっせーな。オマエには関係ねーだろ」
一体、誰が信じると言うのか。
このオレが犬猿の仲であるこの男に、なんて。
高校三年の二月末。受験という名の大きな壁を超えて、もう後は卒業するだけという季節柄。まぁ、“そういう輩”が湧く訳で。
「大体、アイツらの方から売ってきたんだぜ?」
わざわざ人通りの少ない住宅街を選んで下校している辺り、トラブルに巻き込んでくれと言っているようなものではあるのだが。
クーは別段、喧嘩が好きという訳ではない。売られた喧嘩は買うが自分から売ったりはしないと決めている。目の前の男はそこのところを勘違いしているようなのだ。
(ま、訂正する気はさらさらねェけど)
どちらにせよ、他人から見れば自分はただの喧嘩馬鹿で、所謂“不良”という奴だ。そこは否定しない。
ただ、弁解させて貰えるならば。クー・フーリンが喧嘩馬鹿になったのは他でもない、“エミヤシロウ”という人間が原因なのだという事をご承知頂きたい…………なんて。言い訳がましい事はわかっているつもりだ。
「安々と買うなと言っているんだ。馬鹿か貴様は」
差し出された濡れタオルを素直に受け取って腫れ上がった頬に当てる。
エミヤの眉間には相変わらずしわが深く刻み込まれたままだ。たまには笑えばいいのに。
(けど、喧嘩の後だけ妙に優しい)
本当に甘い奴だと思う。
同時に、自分を酷く醜くも思うのだが。
「いつもそうやって馬鹿正直に喧嘩を買って、それで一体何の特があるというんだ。大体貴様は…………――――」
よくそんなにスラスラ言葉が出てくるなと思いつつ、いつもの説教を始めたエミヤの横顔を眺める。
この時を、一瞬足りとも無駄にするつもりはない。こうして彼と二人きりで静かに過ごせるのはこの時間だけなのだから。
――――偉そうに言葉を並べるエミヤだが、実際“彼は喧嘩を買わないのか”と問われれば答えは“NO”である。ぶっちゃけた話、自分と彼の思い出と言えるものは“説教”と“喧嘩”の二つに尽きるくらいなのだから。
そりも合わない。気も合わない。考え方も生き方も違う、典型的な“犬猿の仲”。それが周囲から見た自分達であり、当人たちも異議は無い。
ただ、一つ間違いがあるとすれば。それは自分が彼を“そうは見ていない”という点のみである。
「聞いているのか、クー・フーリン」
ずい、と眉根を寄せた顔を近付けられ、不覚にも心臓が鳴る。
どうしてこんな男を、と思わないでもない。いや、むしろ今も昔もそう思い続けていた。
それでも、この思いだけは振り払えないのだから厄介である。
「へいへい、聞いてますよー」
「貴様…………」
喧嘩の後だけお前が優しくしてくれるから。だから喧嘩を止められないのだ。
と、そう言ったら、彼はどんな顔をするのだろうか。
――――この儚いものの名を、人は恋と呼ぶ。