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幸せになりたくないアーチャー/Novel by らいおん

幸せになりたくないアーチャー

4,846 character(s)9 mins

必読!!

幸せになりたいくせになることを拒むアーチャーの話です。
ランサーが他の女と遊んでる表現があります。
性行為をしたことがあると臭わせる表現があります。
現パロです。

当方、これが槍弓の処女作です。
fate初心者でもあります。
口調やキャラなどまだまだ不完全なところがあるかもしれません。
許せる方だけ自己責任でお読みください。


・前置き
槍弓は両片想いです。(ランサーはアーチャーの気持ちに気付いてる)
けれどアーチャーは自分の片想いだと思ってて、ランサーは遊び人だから気まぐれで自分を抱いていると思ってます。
ランサーはほかの女とも遊んでるけど、半分は素直にならないアーチャーへの当てつけ。

fateをやり始めてパッションが高まって書きたいところだけを殴り書きしたものです。

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軋む心臓を押さえつける。
服に皺ができるとか、あまりにも乱暴に掴みすぎて左胸に痣ができるとか、そんなものは構っていられなかった。
まるで宇宙空間に放り投げられたかのように息ができない。
酸素を求めて口を開けて大きく息を吸う。


家の玄関に着いた途端、コンビニの袋が手から滑り落ちた。
仕事終わりに飲もうと思っていた缶ビールが転がり出た。
落ちた衝撃もまともに受けた缶は大きくへこんでいて、いびつに回転して壁に当たって止まった。
数メートル先のつまみも完全に袋から飛び出している。
この状況から見るに、手から袋が滑り落ちたのではなく、オレが袋を投げ捨てたらしい。
そんな直近の記憶も抜け落ちるほどオレは動揺しているようだ。


心臓が軋む。
痛い痛い。
こんなに痛いのならいっそ取り出してくれ。


意外と柔らかい青い髪。
つりあがった挑発するような赤い目。
揺れる銀のピアス。
ニヒルな笑いを浮かべる薄い唇。
たまに見せる無邪気な笑顔。
脳髄まで溶かすハスキーな声。
オレに触れる大きく武骨な手。


すべて、すべて覚えている。
だって、それらはついこの間もオレに向けられていたものだ。

そう、

そうだ。


「オレ、の――――」


胸に食い込む爪による痛みにハッと気づかされる。

今、オレは一体……。
何を言おうとした?

オレのモノ?


「っ、は……」

嘲笑が漏れる。

ワックスで固めた前髪をむしる様に握った。
はらはらと掴み損ねた前髪が目まで下りてくる。


馬鹿を言え。
あいつはオレのモノじゃない。
オレなんかのモノになんてなるわけない。

何を過ぎたことを。

この頃が幸せすぎたのだ。
最近が異常だったのだ。

そう、この痛みこそが正常で、俺を戒めてくれるモノだ。

欲を持たないと、あれだけ心に決めていたのに。
どうして人は『もっと』なぞ、望むのだ。

この『もっと』は際限を知らない。
手に入れれば入れるほど欲は増す。
その欲は身に余るものだと知っていても止まることを知らない。


「身の程を弁えろッ……!」

視界に入るだけでよかった。
たまに憎まれ口だけでも交わせるだけで満足だった。

ただ、そんな日常がずっと続けばもう何も望まないと、心に決めていた。


想いは蓋をすると。
この汚くて浅ましい想いは、決して、おくびにも出さないと。

幸い、隠すことも我慢することも得意だ。
一生隠し通せる自信があった。
たとえ、あいつが他の奴と夫婦になろうとも。目の前で婚儀を交わされようとも。
平然としていられる自信があった。
それは別に最悪の状況じゃない。

オレにとって最悪の状況は、あいつとの日常を奪い取られることだ。
それさえ残っていれば、オレは何も望まない。
痛む心臓も、滲む視界も、気づかないふりすることなど造作もない。


そう、こんな卑しいオレには不幸くらいがちょうどいいのだ。
心の底からそう思っていたし、不満もなかった。


……以前までは。


一度手に入れてしまえば、幸せに慣れてしまえば、今までの受け入れてた不幸が突如得体のしれない化け物のように感じてしまう。
怖くなるのだ。
今まで普通だと思っていた不幸が。

だから、だからオレは、幸せなんぞ、欠片も望んでいなかったのに――――!


「っく……っ」


壁に肩を預けながらズルズルと重力に逆らわずに座り込む。
冷えた玄関のタイルが心地よかった。


酔った勢いか、そんなものは知らない。
どうせあいつの気まぐれだ。
気なんて微塵もないんだ。
それは断定できるし、そこまで俺も自惚れてはいない。


けれど、あいつを知ってしまった。
あいつの声も吐息も指も舌も、すべて一秒前のように思い出せる。


目も耳も塞ぎたくなる。
やめてくれ。
忘れたい。忘れたいんだ、あんな気まぐれは。


目や耳を塞いでも頭の深いところに根を張ってしまったこの記憶が薄れることはない。
いっそ鈍器で頭を砕いてくれ。
そうすればこんな夢のような幸せな出来事も、忘れられる。


あんな間違いがなければ。
そう、あんな間違えがなければ、さっきのだって何とも思わなかったんだ。
あの時、何もなければ、今、頬が濡らされることもなかった。
こんな、玄関のタイルにシミを作ることもなかった。


あの時の間違いさえなければ、オレは今も平然としていられたのに。


こんな不幸、軽々と受け止められたのに。
本来ならこの今の状況がスタンダードだ。
心を乱す必要すらなかったんだ。


けど、けれど、あの華奢な肩に回されていた腕は、ついこの間まで俺を抱いていた腕だ。
そう抗議をあげる心臓とは裏腹に、目の前の風景はあまりにも眩しすぎた。
あまりにも似合っていたのだ。

長く絹のような髪に華奢で壊れてしまいそうなのに柔らかそうな身体。
あいつに笑いかける笑みは妖艶で、男ならくらくらしてしまうものだ。
それをニヒルな笑みで返し、華奢な肩を抱く逞しい男は、あまりに絵になりすぎた。

ホテルに消えていくその絵は、オレの心を壊すには十分だった。


「はっ、くっ、は……」


こびり付いて取れない記憶がオレの心臓を握りつぶそうとする。
この間まで、あんな光景見ても何ともなかったのに。


馬鹿が。と自分で自分を侮蔑する。
情けない。
身の程を弁えずに、幸せになろうとするからこんなことになったんだ。
不幸の暖かい沼にいれば、こんなに苦しむことはないのに。

そうだ。
一時期でも幸せになんてなるから、こんな無様な結果になるんだ。
オレには不幸がちょうどいいなんて分かりきったことだ。
この痛みや苦しみは、光に手を伸ばしてしまった代償だ。

耐えろ、直に慣れる。
これは戒めだ。
これに懲りたらもう二度と光に手を伸ばそうとするな。
オレには、手に余る。


「――――っ、はあ」


深呼吸をして心を落ち着ける。



すると、背後の玄関のドアノブが回った。


「っ!?」


突然の出来事に肩が跳ねる。
家に帰って鍵を閉めた記憶がない。
そうだ、帰ってきたときはいっぱいいっぱいでもうそんなことに頭が回らなかった。


まずい。
誰だか知らないが、こんな体たらくを見られるわけにはいかない。


ドアノブを引っ張り返して、開くことを阻止しようと手を伸ばすが、その手は空を切った。
オレがドアノブに手を添える前にドアが開いた。


「よお。……やっぱり、見てたのはお前か」
「っ、な、んで」

少し額に汗を浮かべたランサーがドアの縁に凭れながらオレを見下げる。
その表情は安堵と、どこか楽しんでいるように見えた。


どうして。
なんでここに。
あの女は。


浮かぶ言葉がいっぱいあるけれど言葉にできなかった。

だって、あの光景を目にして、まだ一時間も経っていないはずだ。
なのに、ここにこいつがいるなんておかしいじゃないか。


「一旦は気のせいだと思ったんだよ。白髪頭がコンビニ袋下げて走り去って行くのが見えたのは」
「っは……?」
「けどよ、妙に気になってな。ホテルの部屋に入ったはずなのに気づいたらこんなとこまで来ちまってた」


まいったぜ、と全く参った様子のないランサー。


ぐるぐるといろいろな考えが巡る頭で必死に状況を整理する。

こいつが言ってるのは、本当のことなのか?
なんで、そんな……。


だって、ランサーは、オレが見えた"気がした"だけだろう?
そんな不確かな情報で、あの女を……。


「今頃ブチ切れてるだろうなあ……。さすがに部屋に着いた瞬間置いてけぼりはやべえよな」


頭をガシガシと乱暴にかきながらしゃがみこんだ。
押さえる身体がなくなったドアはバタンと閉まる。

しゃがんだことで物理的なランサーとの距離が縮まる。
恐ろしいほど整ってるその顔に喉が引き攣った。
思わず後ずさる。

そんな俺の動揺に気をよくしているのか、ニヤニヤと嫌な笑みを向けてくる目の前の男。


「あり、えない……だって、あの女は、とても綺麗で……」


ずっと見てきたからわかる。
あの、ランサーに肩を抱かれた女は、色気があって美しいあの女は、どう考えてもランサーの好みだ。
そんな女をこの男が見逃すわけがない。

しかも、確信のない、ただの予感だけで。


「おう。めちゃめちゃドストライクだ。で、お前が見えた気がしただけで、そんな女を放って来たんだ。意味わかるか、アーチャー?」


首を振る。


わからない。わかりたくもない。
いや、本当は理解しているんだ。
オレは、嫌な時に聡くなってしまう。

けれど、この先の言葉をオレは決して聞いてはいけない。

不幸の沼にいる方が心地いいのだ。
馬鹿みたいに身に余る幸せを掴むだなんて、してはいけない。


身体が震える。
どっちの感情からくる震えかなんてわからない。


持ち得る力で必死に後退する。
土足で家に上がっているとか、そんなことは考える余地もなかった。

ただ、この目の前の男から逃げたかった。


「やめろ、やめてくれ……!」
「嫌だね。いい加減認めろよ。幸せになりたいって」


丁寧に靴を脱いでランサーは俺を追いかけてくる。
一歩一歩オレに近づいてくるこいつに恐怖心が沸く。


「そんなもの求めてなんかいない! おれは、おれは」

不幸でいたいのだ。
不幸が普通だと、そう思っていられる方がいい。

一度幸せになれば、手に入れてしまえば、失うのが怖い。
お前を失ってしまったらもうオレは生きていけない。

失いたくなければ初めから何も望まず求めず拒み続ければいい。
そうしたら何も失わなくて済む。


「何をそんなに拒む? そのくせ、期待に満ちた目を向けやがって」
「っ! そんな目なんぞしていない!」

オレが否定するのと同時にランサーの手がオレの腕をつかんだ。
そのまま肩が外れそうなほどの強い力で引き寄せられる。

手を振り払う隙もなく、一瞬のうちにオレはランサーの腕の中に移動していた。

これも、本来は身に余ることだ。
拒まなければいけない。
抱きしめられるだなんて、オレの日常にあってはならない。


「うんざりするほど愛してやるよ」


自信満々に耳元で呟かれたその言葉は、オレの脳を停止させるには十分すぎた。


やめてくれ。
もう、この状況だけで胸が張り裂けそうなほどの幸福を感じているのに。

拒まないと。
後から苦しいのは自分自身だ。
拒め、嫌がれ、拒絶しろ。
もう傷つくのはいやだ。

そんな警鐘も虚しく、行動に移すことはできない。
まるで石になったかのように指一本動かせない。


「しあわせになんて、なりたく、ない……」

負け惜しみに、唯一動く唇で否定する。


「やなこった」


唯一動かせる唇でさえも封じるようにランサーのそれが重ねられた。

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