Takahashi, H. (2026) A new species of spined loach from the southern Shikoku Island, Japan (Cypriniformes: Cobitidae). Zootaxa, 5768: 381–391.
長らく未記載種であったトサシマドジョウが新種記載されました。Cobitis tosaensis Takahashi, 2026となります。タイプ産地は高知県須崎市、種小名の由来はもちろん「土佐」です。高知県固有の純淡水魚ということになります。
既知のシマドジョウ属とは、オス胸鰭骨質盤が包丁状であること、眼下棘に3つの刺があること、体側斑紋Z2(=L3)の幅が太く眼径程度であること、などで区別可能としています。この眼下棘というのはスジシマドジョウ類ではあまり違いがなくて、分類のキーになるのかなと思っていたのですが、これほど違うものがいるとは驚きました。
ということでこちらがその御姿になります。模様や骨質盤の特徴もさることながら、生きた姿を見たその時の感想は「白い!」でした。そうです、地色の白色が強く、パールホワイトのような輝きをもっているのです。
本種は現在、高知県希少野生動植物保護条例に基づく指定種となっており、無許可での採捕は禁止されています。しかし幸いなことに生息地である高知県の川の透明度は高いので、その気になれば潜水して観察することが可能です。
さて、以後分類の話を。本種はかつて”シマドジョウ”に含まれていましたが、Kitagawa et al. (2003)によりミトコンドリアDNAcytb領域の特徴が他と異なることから高知集団として発見されたのが初めです。次いで中島ほか(2012)により模様の特徴により定義され学名未決定のまま新標準和名トサシマドジョウが提唱されました。その後に高橋(2015)によりオオシマドジョウとの形態的な違いが詳細に示され、中島・内山(2017)において既知の情報を整理した上で検索表が示されています。したがって今回、2003年の発見から23年たってようやく学名がついたということになります。
なにゆえこれほど時間がかかってしまったのか?というと、これはひとえにシーボルトコレクションに基づいて1846年に長崎周辺産標本をタイプとして記載されたCobitis japonicaの存在があります。ここからややこしい話になります。実はCobitis japonicaという種は1782年に記載されており、しかもこの種はドジョウではなくおそらくエソの仲間であることが判明したので(つまりドジョウとしてのjaponicaは無効)、Jordan & Snyder(1901)により置換名としてCobitis biwaeが提唱されています。しかしここではタイプ標本の指定はなされませんでした。その後、Boeseman(1947)はシーボルトコレクションの精査を行い、Cobitis japonica=Cobitis biwaeのタイプには複数の標本が含まれていたことから、そのうち原記載の絵に最も近いと思われる1個体を選んでCobitis biwaeのレクトタイプ(後模式標本)を指定しました。
さてそうするとこの長崎周辺産個体に基づいて記載されたCobitis japonica=Cobitis biwaeのタイプ標本は何シマドジョウなのか?ということが気になるわけです。この点について澤田・相澤(1983)はシーボルトコレクションのシマドジョウの形態について精査を行い、レクトタイプとして指定された個体がいわゆる”シマドジョウ”であることを確定しました。ところがそもそも長崎周辺には”シマドジョウ”は分布しません。これはどういうことでしょうか?実はシーボルトコレクションはすべて長崎周辺産とされてきたものの、実際は九州に産しない琵琶湖淀川水系の種が複数含まれていることが知られています(アユモドキやゲンゴロウブナなど)。そしてシーボルトコレクションの”シマドジョウ”のタイプシリーズにはスジシマドジョウ類やヤマトシマドジョウ類(※当時はタイリクシマドジョウと呼ばれていた種)が含まれていることが澤田・相澤(1983)の研究により同時に明らかになりました。すなわちそもそもこの産地名称は信用できない(つまり長崎周辺の標本と琵琶湖淀川周辺の標本が混ざっている)、Cobitis japonica=Cobitis biwaeのタイプ産地はおそらく長崎周辺ではない(おそらく琵琶湖淀川水系)、ということまでが明らかになりました。
次いで前述のとおり”シマドジョウ”には4集団が含まれることがKitagawa et al. (2003)により明らかとなり、これらは中島ほか(2012)によりヒガシシマドジョウ、オオシマドジョウ、ニシシマドジョウ、トサシマドジョウの4種として定義されます。ここまで来るともうお分かりかと思いますが、トサシマドジョウを新種記載するには、Cobitis biwaeがこの4種のうちのどれにあたるのか、を明らかにしないといけないということになります。状況証拠として高知県産のトサシマドジョウ(および東日本のヒガシシマドジョウ)がシーボルトコレクションに含まれる可能性はほぼゼロであり、Cobitis biwaeが得られたと考えられる琵琶湖淀川水系に分布するニシシマドジョウとオオシマドジョウとの区別がつけばよい、ということになります。そしてこの点について川瀬(2019)はタイプ標本の特徴とシーボルトの標本採集地点の精査から、Cobitis biwaeは淀川で採集されたオオシマドジョウの可能性が高いことを指摘しています。したがって本論文、Takahashi(2026)ではオオシマドジョウとの違いを特に入念に調べて、その違いを明確にすることにより、Cobitis biwaeとは違う、という形で論を進めて本種を新種として記載することに成功したということになります。ここまでお読みいただきありがとうございました。
さて、Cobitis biwaeがオオシマドジョウである、というところは実はきちんとしなくてはいけません。この点については現在研究を進めているのでそのうちに論文化できるものと思います。その先、ヒガシシマドジョウとニシシマドジョウがまた難解な集団構造を有しているのですが、これらについても分類学的な定義、はなんとしても行わなくてはいけません。今後も考えていきたいところです。