大きな犬を拾った。
「少しじっとしていてくれ」
タオルをかぶせて水気を拭う。
学校からの帰り道だった。
雨で視界がはっきりしない中、暗がりでうずくまったそれは濡れそぼった布団と見間違える有様で、最初は生きものだとは思えなかった。
口の長い、ハスキー犬のような体格は、両腕で抱えあげても尾が地面についてしまう立派なものだ。
連れ帰ってまず風呂に入れた。
水を嫌がることはなくおとなしく洗われて、汚れの落ちた毛色は鮮やかな青だった。
「うつくしい色だな」
ドライヤーをあてながら、思わずそう感想を漏らす。
するとそれまでじっとしていた青い犬は、居心地が悪そうに体を揺すって離れようとした。
「犬を拾ったそうだな」
横に立ち、座るこちらを不遜な態度で見下ろした男は開口一番にそうのたまった。
授業がはじまる前の休み時間。
クラスの違うギルガメッシュが何をしに現れたのかと思えば、用があるのは自分へ、らしい。
珍しいこともある。
「誰かに聞いたのか」
「小汚い雑種を背負ってよたよた歩く姿を晒していれば、注目しろと言っているようなものだ」
「…………」
犬を連れ帰ろうと歩いていた姿を、誰かに見られていたらしい。
大型犬は、小さい犬のように胸に抱いて、というわけにはいかない。犬を背負い濡れ鼠で歩く学生は、確かに注目を集めるだろうと想像できた。
人通りはあまりない道だと思っていたが、どこにでも目はある。
「犬はどうした」
「さてね。今朝になったら姿を消していた。元の飼い主のところにでも、帰ったんじゃないか」
肩をすくめる。
風呂に入れて、共に夕食を食べて。
寝るときまでは確かに一緒だった青い犬は、目が覚めたら消えていた。
まるで一夜の夢のように。
だからこうしてギルガメッシュに聞かれるまで、あれは夢だったのではないかと疑っていた。
「飼い主か……。貴様は、その犬が飼い主のもとから逃げてきたとは考えんのか」
「犬と話したわけではないからな」
脱走した犬だとしたら、自分もその飼い主と同じような、逃げたくなるような人間だと思われたのか。
――だとしたら、少し、かなしい。
風呂がいけなかったのか、食事がまずかったのか。
思考に沈みかけたところで、ギルガメッシュがふんと鼻を鳴らして背を向けた。
帰るつもりらしい。
「待て、ギルガメッシュ。あの犬は、……あの犬のことを、何か知っているのか」
飼い主か、と聞こうとしてやめた。違うと直感した。
しかし、何かを知っているには違いない。
ギルガメッシュは肩越しに視線を寄越すと、
「狗に聞くがいい」
人を食った返事を投げた。
「君は、……」
家に帰ったら、門の前に犬がいた。
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- しののJune 29, 2015