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束の間の世界で**は幸せな夢をみる/Novel by 上総

束の間の世界で**は幸せな夢をみる

85,728 character(s)2 hrs 51 mins

 18世紀のフランスに微小な特異点が観測されてレイシフトしてみると、そこは昔話『美女と野獣』の世界だった。何故かエミヤはその世界でベルという娘の役を担わされており、姿形が女性化していた。本のページを捲るように進んでゆく物語の中で、やがてエミヤは血のように赤い毛並みの野獣と出会う──。

という感じの話

※1.5部のネタバレを含みます
※槍弓は既にお付き合いをしている
※女マスター(名前は藤丸立香)
※弓が後天的に女体化

 以上、ご注意ください。

 素敵な表紙はこちら(illust/48121236)からお借りしました。

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 それは、**の見た夢。


   ◇


 人理継続保障機関フィニス・カルデアにおいて、トラブルはもはや日常である。
 その中心にある地球環境モデル『カルデアス』の特殊な磁場の影響か、それともそこで生活するサーヴァントと呼ばれる英霊達の存在が何かを惹き付けるのか、いやそもそも彼等こそが原因なのか、解決しても解決しても、またすぐに新たなトラブルが発生する。

 その日のトラブルは、シュミレーターの故障だった。

 カルデア唯一のマスターである少女、藤丸立香は管制室で所長代行のレオナルド・ダ・ヴィンチから調査内容の報告を聞きながら肩を落とした。

「また、ぐだぐだ粒子なの」
「どうもそのようなんだ」

 これまで何度もトラブルを起こしてきたお馴染みのアレである。どうやら洗浄しきれていなかった粒子が倉庫の隅でいつの間にか増殖していたようで、ダ・ヴィンチは珍しく疲れた様な表情を浮かべていた。

「今から緊急で施設内の洗浄とシュミレーションルームのメンテナンスを行うよ。それらが終わるまで、サーヴァント達はなるべく自室で過ごすように……そう館内放送で呼びかけても良いかな?」
「うん、そうだね。お願い、ダ・ヴィンチちゃん」

 また彼等がぐだぐだになっては一大事だ。ダ・ヴィンチは館内放送でたった今立香に話した内容を掻い摘んで説明し、それから手元のパネルで電気系統を操作し始めた。後はもう彼女に任せるしか、立香に出来ることは無い。

「種火周回に行く予定だったんだけどな」

 着々と増えていくカルデアのサーヴァントだが、育成はまったく追い付いていない。未だ低レベルのまま燻っている者達の為に、ここ最近はシュミレーションルームでひたすら種火を集めるばかりの日々だった。

「今の放送で分かったとは思うけど、周回メンバーには一応個別に連絡しておこうかな」

 立香はタブレットを取り出して、本日の種火集めが中止になった旨のメールを一斉送信済する。ディスプレイに指を滑らせながら、シュミレーターの不具合だけで済めばよいんだけどなぁ、と嫌なことを思った。なんせあのお騒がせなぐだぐだ粒子に、ここはトラブルを呼び込むことには定評のある、人理継続保障機関フィニス・カルデアなのだから。


   ◇


 シュミレーションルームに向かっていたランサーのクー・フーリンは、ダ・ヴィンチの放送を聞いてすぐに踵を返した。
 本日の種火集めのメンバーに選ばれていたが、あの放送を聞く限りはそれも中止だろう。言われた通りに大人しく部屋に戻ろうと廊下を歩いていたら、目の前を赤いシルエットが横切った。

「よう、アーチャー」

 アーチャークラスのエミヤ。現界する度に奇跡的な確率で顔を合わせている、クー・フーリンとは因縁浅からぬ相手。
 彼はクー・フーリンに気付くと「君か」と無愛想に答えて、それでも足を止めてくれた。

「部屋に戻るところか?」
「ああ。君もあの放送を聞いただろ。まったく、昼食の準備があるというのに」
「そりゃ大事だ。俺だって久々に暴れられるところだったのによぉ」
「そういえば君は今日の種火集めのメンバーだったか」

 二人は自然と並んで歩き始める。カルデアの広い廊下でも、体格の良い男二人が横並びになるとそれなりに幅を取る。自室へ戻ろうとする他の多くのサーヴァント達と道を譲り合いながら、先にクー・フーリンの部屋の前に辿り着いた。
 ではな、と去ろうとするエミヤの腕を、クー・フーリンが掴む。

「おいおい、寄ってけよ」
「サーヴァントは各自の部屋に戻るよう言われた筈だが」
「だからってクソ真面目に一人で部屋に籠るつもりか?」
「ああ、そのつもりだ」

 エミヤの眉間に深いシワが刻まれて、目尻がきりりと持ち上がる。あーやだやだ、とクー・フーリンはこれ見よがしに首を横に振った。

「どうせ部屋に一人で居たってすることもないだろ。だったら一緒に仲良くしてた方がよっぽど建設的だ」

 エミヤの腰にするりと白い手が回る。

「……まだ昼間だぞ」
「いいじゃねえか。昼間に睦み合っちゃいけねえ道理はねえだろ?」
「いや、しかし」

 口では難色を示すエミヤだったが、クー・フーリンが腰に回した手で軽く彼の身体を押すと、案外あっさりとそれに倣った。クー・フーリンはそれに機嫌を良くして、そのまま自室にエミヤを連れ込む。

 クー・フーリンとエミヤ。
 二人は最近お付き合いを始めたばかりの、謂わば恋人同士であった。

 これまで、現界先で巡り会う度に殺し合い、ここカルデアで同じ陣営の仲間となってからも、性格のソリが合わずに喧嘩ばかりしていた二人が、どのような心境の変化でお付き合いするに至ったのか。その経緯は割愛するが、とにかく二人はお互いの気持ちを確かめ合ったその日のうちに初夜を済ませ、それ以来、毎夜お互いの部屋で抱き合うという熟れた生活を送っていた。

「それ、何持ってんだ?」

 廊下で会った時からエミヤが手にしていたハードカバーの本を指すと、エミヤはそれを抱えたまま勝手知ったる恋人の部屋のベッドに腰掛ける。クー・フーリンがすぐ隣に座って肩を顎を置くと、逆立った髪が首筋に触れてくすぐったいのか僅かに身を捩った。恋人同士になってから、クー・フーリンは隙さえあればこうしてエミヤに触れようとする。神代の英雄は愛情表現もストレートらしい。
 エミヤは本を膝に置いて、パラパラと数頁めくってみせた。文字だらけの頁の合間に耽美な挿絵が覗く。

「地下の図書館から借りてきたんだ。『美女と野獣』、君もタイトルくらいは聞いたことがあるだろう?」
「あー……まあ知識としてはな」

 サーヴァントは現界した際に、聖杯より自動的にその時代の知識を授けられる。クー・フーリンも実際に読んだことは無いが、現代の知識としてそういった物語があることだけは知っていた。
 エミヤが口にしたタイトルの通り、表紙には抽象的な絵柄の美しい女性と貴族の服を身に付けた頭部だけ猪のような男が描かれている。

「一七〇〇年代にフランスで書かれた異類婚の物語だ」
「ほう」
「美しい心を持つ美女が、魔法で醜い野獣の姿に変えられた男と出会い、恋に落ちる」
「よく聞く話だな。カエルにされた王子の話なんかもなかったか?」
「あるな。『カエルの王様』……グリム童話だ」

 童話としては人気のある定番の設定なのだろう。

「で、その『美女と野獣』ってのがどうしたって?」

 クー・フーリンに問われて、エミヤの顔に穏やかな笑みが浮かぶ。

「ナーサリーが今夜の読み聞かせにはこの本を読んでほしいと」
「ああ、いつものアレか」

 時にオカンと称されるエミヤは、カルデアでの炊事の他に、子供のサーヴァント達に寝る前の絵本の読み聞かせを行うことがある。それはクー・フーリンと今のような関係になる前からの習慣で、ジャックやナーサリーにおねだりされれば、クー・フーリンとの約束よりも優先されてしまう。

「どうも最近、マスターと一緒に『美女と野獣』のアニメ映画を観たんだそうだ。アメリカの大手アニメーション会社が制作した映画だが、その中に主人公の娘と野獣が二人きりの舞踏会でダンスをする有名なシーンがあってな」
「へえ」

 クー・フーリンにはあまりピンとこない話だったが、マスターや子供達の話をする時のエミヤの柔らかな声は気に入っている。聞き心地の良いその声を堪能する為に、あと少しだけ話に付き合うことにした。

「かなり印象的な美しいシーンで、お陰でナーサリーも『美女と野獣』がすっかり気に入ったようなんだが……どうやらあれは原作には無い、アニメのオリジナルシーンのようなんだ」

 エミヤの眉が僅かに八の字に下がった。ナーサリーにお願いされて図書館から原作の本を借りてきたは良いものの、念の為に内容を確認したところ、アニメにおける舞踏会のシーンが一向に訪れることはなかった、と。そういうことらしい。エミヤの脳裏には、残念そうに項垂れるナーサリーの姿が浮かんでしまったのだろう。

「いや、これはこれで素晴らしい物語であることに違いはないのだが」
「俺相手にフォロー入れられてもな」
「……一応、本を借りては来たんだが」
「なるほど。それで悩んでいたら件の放送が掛かったと。母親役は大変だな」
「別にそのような役を演じている覚えはない」

 オカン扱いは、エミヤとしては不服らしい。近所の気の良いお兄さん、というのが目下のところの彼の密かな目標だったりする。
 難しい表情を浮かべる恋人に、クー・フーリンは暫し思案する。

「……要は、あの童話の嬢ちゃんは舞踏会ってのに憧れてるんだろ?」
「まあ、そうだな」

 エミヤは、とても素敵なシーンなのよ、と説明をしながらジャックと手を繋いで踊っていたナーサリーの姿を思い出す。

「だったらいつもシュミレーションルームを使ってティーパーティしてるみたいに、舞踏会をやってやりゃ良いじゃねえか。本格的なもんじゃなくて、ちょっとしたお遊びの延長みたいなやつをよ」
「うむ、なるほどな」
「なんなら俺が嬢ちゃんの相手をしてやってもいいぜ」
「君が?」

 相手、というのは、つまりダンスのパートナーということだろう。エミヤは自分にべたりと身を寄せたままの槍兵をじとりと睨み付けた。

「君、ワルツなんて踊れるのかね」
「お? バカにしたな?」
 
 なんせ彼は、神代に生きていた英雄である。
 エミヤの疑いの視線を受けてクー・フーリンは急に立ち上がると、エミヤの前に立って恭しく右手を差し出した。容姿端麗な彼がやると、悔しいが様になる。エミヤが膝にあった本を横に置いて「お手並み拝見だな」とその右手に自分の右手を重ねると、クー・フーリンは満足そうに破顔して乱暴に重なった手を握り締める。
 エミヤを立ち上がらせて左手を脇から差し込み、背中に当てると、確かにそれらしい形にはなった。

「君の時代にワルツなど無かったと記憶しているが」
「多分、いつかのマスターからの受け売りだろうな。あんまり覚えてねえけど」

 クー・フーリンが妙な鼻歌を歌いながら踊り出す。エミヤがそれに半歩遅れつつ合わせて動くと、軽薄そうなウインクが飛んできた。ところどころでエミヤをフォローするようなクー・フーリンの動きは、まさに相手のレディをリードするジェントルマンで、その意外性にエミヤは面喰ってしまう。
 確かに、これならナーサリーのダンスパートナーとしては申し分ない。
 リノリウムの床の上を二組の足が左右に動き回る度に、ふわりふわりとエミヤの腰回りの外套がドレスのように揺れた。

「………………っ、ふふ」

 むくつけき男が二人、身体をピタリと密着させたままクルクルと踊っている。そのことに先に耐えきれなくなったエミヤが吹き出した。

「なんだよ、悪くねぇだろ?」
「ああ、意外と上手いじゃないか。それに、ふふっ、君の調子ハズレの鼻歌も悪くない」
「って笑ってんのそこかよ! 悪かったな、音痴って言いてえのか」
「そんなことはない。私は好きだぞ、君の声」
「あー……そうかよ」

 珍しく素直なエミヤに、クー・フーリンは頬を赤らめる。急に堪らなくなって、密着した姿勢のまま、クー・フーリンは目の前の小さな口に己の唇を押し当てた。ちゅ、ちゅ、とわざとやらしく水音を立てながら舌を差し込んで、歯列を撫でる。

「ん……」

 鼻から抜けるようなエミヤの甘い声に、クー・フーリンの心にも火が付く。分厚い身体をベッドの端まで追い詰めて、そのまま柔らかなマットの上に押し倒した。

「ワルツの後は、こっちでも踊ってもらおうか」
「フン、それは君の腕次第だな」

 そう言ってエミヤの腕がクー・フーリンの首に回る。向こうもその気であることに興奮しつつ、クー・フーリンは片手でエミヤの胸を弄り、もう片方の手でベッドの上に置きっぱなしだった『美女と野獣』の本を背後に放り投げた。
 ハードカバーの本は見事な放物線を描いてストロー製の大きなバスケット籠の中に落ちる。物を散らかしがちなクー・フーリンの為に、エミヤが投影した通称『何でも入れ』だ。便利ではあるのだが、時にガラクタの培養場となってしまいがちな籠の中身は定期的にエミヤが整理してくれている。
 クー・フーリンからの愛撫を受けながら粗雑な本の扱いを横目で見ていたエミヤは、怒ったようにクー・フーリンの長い後ろ髪を引っ張った。

「いてっ、何だよ」
「図書館の本を乱暴に扱うな!」
「あー、悪かったよ」

 謝りながらも、クー・フーリンはエミヤの胸を嬲ることは止めない。礼装の上からまだ柔らかな尖りを探り当てて親指の腹で撫でると、エミヤは甘やかな声を漏らしつつ、悔しそうに唇を噛んだ。

「君は……少しキャスターの君を見習った方が良いんじゃないか」
「あん? 杖持ちの俺が何だって?」
「同じ君とは思えない程、行儀作法を弁えているぞ。少なくとも向こうの君は『何でも入れ』なんて必要ないようだしな」

 キャスターのクー・フーリンの部屋、というより工房は、部屋の壁一面に棚が増設され、そこに様々な薬品や薬草、宝石等がきちんと種類や用途毎に分類されて並んでいる。夜食を持って行く度に、これが元は同じ男かとエミヤが感心してしまう程に整っているのだ。
 エミヤの胸を揉みながら、ランサーのクー・フーリンは唇を尖らせた。部屋の温度が一気に下がる。

「ケッ、そりゃ弁えてんのは行儀作法じゃなくて外面の使い分けだろ。ありゃ間違いなく俺だっつーの」
「そうか? よっぽど落ち着きがあって紳士的だと思うが」
「はいはい、そっちこそ褥で他の男の話はマナー違反じゃねえか?」
「他の男ではない。彼は間違いなく君なのだろう?」
「口の減らねえ奴だな」 
「生憎、睦言は苦手でね。そういった甘い雰囲気がご希望なら、私以外と、っ!」

 クー・フーリンの紅玉の瞳が鋭い光を放った。強い力で肩を押されて、エミヤは抵抗する間も無くベッドに押し倒される。

「それ以上はよしな。後悔するのはお前さんだぜ」

 サーヴァントとしてのステータス差のせいで、エミヤはどうしても筋力ではクー・フーリンに敵わない。いつの間にかクー・フーリンの手には彼の相棒であるゲイ・ボルクが握られており、穂先はエミヤの右胸、心臓の真上に当てられていた。 

「……そういうプレイがお好みか?」
「いんや? ただあんまり可愛くねえことばっか言うもんだから、もう一度ここを穿って俺との縁をより深くしてやりゃあ、ちっとは殊勝になるかと思ってよ」

 かつて衛宮士郎を貫いた朱槍。
 限界する度に二人が顔を合わせてしまうのは間違いなく、ゲイ・ボルクで心臓を刺し穿たれ、だというのにその傷を残したまま蘇り守護者となったことで、縁が生まれてしまったからだ。
 エミヤは禍々しい程に真紅に輝くゲイ・ボルクに指を伸ばす。指先が穂先に触れると、ぷつりと指の腹を真一文字に切り裂いた。
 エミヤの磨耗した、衛宮士郎であった頃の記憶の中で、この朱槍に貫かれた夜のことは決して『忘れ得ぬ記憶』という訳では無かった。だがサーヴァントとして召喚される度にこれを手にしたクー・フーリンと対峙したことは覚えている。
 切れた傷口から血が玉のように浮かぶ。クー・フーリンはゲイ・ボルクを何処かへ仕舞うと、褐色の指を掬って自分の口元に持っていった。赤い舌で舐められると、ピリリと傷口が痛んでエミヤは僅かに眉根を寄せる。

「触りゃ切れる。子供でも分かるぞ」
「ああ、よく知っているとも」
「舐められたかったか?」
「たわけ」

 ぴちゃ、とキスとも違う水音が響いた。クー・フーリンの神性の高い魔力のお陰か、すぐに傷口は塞がってしまう。

「本、悪かったよ」

 叱られた子供みたいな頼りない表情で、クー・フーリンはもう一度、素直に頭を下げた。エミヤがそれに弱いことをクー・フーリンはよく知っているし、クー・フーリンが知っていてわざとやっていることをエミヤも知っている。

「私の私物ならいざ知らず、あれは図書館の所蔵物なのだから以後気を付けるように」
「へいへい」
「返事は一回」
「はーい」

 教師のような物言いの後、エミヤは仕方のない男だ、と困ったように笑ってクー・フーリンの頬を撫でる。OKの合図だ。クー・フーリンはもう一度エミヤに口付けて、胸の突起を撫でる手を再開させる。今度はエミヤも素直に唇を震わせて、甘い吐息を吐いた。
 昨夜も、その前夜も、その前の夜だって、二人は身体を重ねている。それなのに何度抱き合っても足りなかった。
 恋人同士になる前に散々いがみ合ってきた反動なのか、それとも……このような関係が許されるのも此度の現界限りだとどこかで理解しているせいなのか。
 息が上がる度に礼装が解けてゆく。
 エミヤが湧き上がる衝動をやり過ごそうと無意識に滑らかな青い髪を掴む度に、クー・フーリンは「いてて」と声を漏らしながら少し顔を上げて、愛おしそうに不器用な恋人を眺めた。


   ◇

Comments

  • Yellink
    November 20, 2025
  • yucco
    January 15, 2023
  • 発想も文章も最高です!!!

    August 21, 2022
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